五感を失い、漠然とだが、肉体だけがそこに在るとアグリアスは感じていた。 肉体を見下ろす精神。肉体と精神が一致しない違和感。 次第に精神が肉体という器に引っ張られ、中に引きずり込まれる。 精神と肉体が完全に一致した瞬間、アグリアスは覚醒した。 …
「オノレ……一度ナラズ……二度マデモッ!」 聖大天使アルテマの巨躯から、光が放たれる。爆散の前触れである。圧倒的な 魔力を誇る大天使も、ラムザと仲間達の猛攻にさらされ、ついに力尽きようとして いた。しかし―― 「コノママデハ終ワラヌ! 貴様ラモ、道連…
王妃オヴェリア死去。 そのニュースは瞬く間に畏国中へと広がった。 耳をふさがずとも畏国に住まう者なら必ず耳にした。 素性を隠し国を流浪する旅人にも。 リターン1 嘆き 貿易都市ザーギドスの古宿にアグリアス達は泊まっていた。 二日前から降り出した雨…
強くて綺麗で自分の考えがあって、誰にも頼らなくても生きていける。 そういう女だと周囲の誰もが思っていたし、アグリアス自身もそう生きてきた。 修道院の礼拝堂に控えていた女騎士は、海千山千のガフガリオン相手にも退かなかった。 カネを出すのはこちら…
「今さら疑うものか! 私はおまえを信じる!!」 戦場で土埃と返り血にまみれてなお、彼女は美しかった。 いまは土に還ってしまったひと。永遠に失ってしまったひと。 彼女に笑みを返したかった。駆け寄って抱きしめたかった。 初めて出会ったときから愛して…
「ラヴィアン、確か午後から買い物に出ると言っていたな?」 革鎧のつくろいをする女騎士ラヴィアンの背後から、声をかけてくる者がいた。 振り向くまでもなく、声で誰かはわかっている。ちょうど手首の合わせのむずかしいところに かかっていたので、ラヴィ…
・ ・ ラム「明けましておめでとうございます、アグリアスさん」 アグ「フンフーン♪フフフンフーン♪フルルンフンルンルルルルルルン♪ …ハッ!!」 ラム「年の初めからまた、わかりやすいぐらいの浮かれっぷりですね」 アグ「おやっ、これはこれはラムザじゃないか!あけましておめでとう!」…
白銀の光を剣に宿し、闇夜ごと魔物を斬り裂く。 魔物の断末魔の悲鳴は、傷口に染み、アグリアスは顔を顰めた。 癒しの呪文を唱えようとしたが、頭痛にふらつくはめになった。 剣を鞘に収め、髪を掻き上げ、重い息を吐く。 味方も苦戦していたものの、負けは…
一人遊ぶは誰が為? 我がためか、彼が為か、あるいはそれに意味など無いか。 死より恐れるものはある。それは…。 夜は好きだった。 目を開ければ、懐かしい顔が見える。笑顔が見える。泣き顔も見える。 かけがえの無い日々が、目の前に浮かぶ。だから、夜と…
風に髪を靡かせ、アグリアスは曇天を見上げていた。 空を覆う雲は、決意を蝕んでくる。 剣では斬り払えない惑いは、身に纏った武装よりも重かった。 オヴェリアを政争の具から解放すること。闇に蠢く邪なものたちの企てを破ること。 自らに課した責務は、遅…
篭絡するのは簡単だった。 権力欲なし、金銭欲なし、酒も美食も無関心、 女もさっぱりの朴念仁とのお噂だ。 そうくれば、こういう環境に好んで身をおく人物は、 知識欲の奴隷ではなかろうか。 一見穏やかで子供好きな好々爺の老僧は、 オーボンヌ修道院長と…
今日もラムザとアグリアスさんは笑顔だった。 寒い夜だというのに、揃いの踊り子の衣装ではしゃいでいる。 ラムザはまぁいつも通りだから良いとしても、 問題は酔っ払い客たちの前で腹踊りを極めんとしている聖騎士殿の方だ。 ベルベニアにほど近い、とある…
自身の胸を寝床とするアグリアスが小さな寝返りを打った事で、ラムザは目を覚ました。 土で汚れた髪の下、白い肌が見えた。 「朝まで……眠ってしまっていたのか?」 ラムザが上半身を起こすと、アグリアスも目を覚まし同じように半身を起こした。 「あ……お、…
雨音が強まる中、遭遇した神殿騎士団の小隊と交戦するラムザとアグリアス。 「命脈は無常にして惜しむるべからず……葬る! 不動無明剣!」 「青き水の牙、青き鎧打ち鳴らして汚れ清めたまえ! リバイアサン!」 五人ほどの手段がリバイアサンのダイダルウェイ…
磨羯二日、クリスマス・イブ。誰もが聖誕祭の前祝いを楽しむ中、騎士の一団が武器を手に街を回る。 「探せー! 異端者ラムザ一味がこの街に潜伏しているはずだ! あらゆる宿や飲食店はもちろん、一般家屋までも徹底的に調査、見つけ出すのだ!」 ライオネル…
聖アジョラ聖誕祭前夜。 子供達はサンタクロースからのプレゼントを楽しみに夜を向かえ、 けれど夜更かしする子にはサンタさんは来ないよと親に言われ、 期待に胸膨らませながら床に着くのだった。 サンタクロース。 純真無垢な子供の所にだけやって来る。 …
とある街とある宿。 アグリアス・オークスは宿にある庭で剣の鍛錬をしていた。 当然消耗する。体力とか消耗する。するとお腹が空く。 「むっ……小腹が空いたな。何か食べる物はないか……」 今日泊まっている宿はまさに『泊まる事』のみに特化した宿であり、 食…
とある街とある宿、ラムザの部屋にアグリアスが訪れた。 「ラムザ。部隊の装備品の件で話が……ラムザ?」 机の上で何かを布巾で磨いていたラムザは、アグリアスの呼びかけに気づき振り向いた。 「あ、アグリアスさん。何か御用ですか?」 「ああ。装備品の件…
某月某日 天気/悪く無い 隊の士気/ゼッコーチョー 俺の調子/まあまあ リボンが手に入った。貴重な装備品に、隊の士気も上がっている。 「これで混乱したアグ姐の一撃を喰らわなくて済むのか」 と言ったムスタディオはアリシアに殴られて半泣き顔だし、 「…
酒場。酒場である。情報収集や儲け話のために寄る事もあるが、基本的に酒場である。 飲め! 酒!! 酒場なんだから当然飲むべきである。未成年でないのなら注文すべきである。 それなのにこの青年、とっくに二十歳すぎてるくせに何を言いのたまいますか。 「…
「私はおまえを信じる!」 …あの言葉は本心だった。 そう、ほんの少し前まで、私の中に存在した確固たる本心だった。 「どうしたんですか? アグリアスさん?」 その男の声は、いつものように穏やかで、まるでそこが戦場であることを忘れさせるような、 とて…
いきなりだがまず状況説明をすませとこうか。 ラムザとアルマはボコを連れて鴎国に渡った。たまに手紙を出してくる。 メリアドールは神殿騎士団の内部改革をしている。たまに手紙を出してくる。 ベイオウーフはレーゼを連れてハンター稼業に戻った。たまに手…
疲れきった体でドグーラ峠をようよう越えた矢先にキングベヒーモスに出くわしたのは 災難だったが、オルランドゥ伯のおかげで何とか撃退できた。 「ザーギドスでの楽しみができたぜ。いやいや、角はもっと根元から切るんだ。 太さで値段が決まるんだから」 …
視線を感じる。それも非常に熱いものを。 悪意や下心は感じないのでほうっておいたが、 やはりどうにも気になって仕様がない。 憧れの目線は知っている。同性、異性をとわずアグリアスに憧れる者は多い。 値踏みする目にさらされた経験もある。 小娘のくせに…
嬉しかった。 王家直属のルザリア聖近衛騎士団に入隊できた事が。 嬉しかった。 名誉ある王女オヴェリア護衛の任務を受けた事が。 嬉しかった。 憧れのホーリーナイト、アグリアス・オークスの部下になれた事が。 嬉しかった。 ラムザ・ベオルブと共に歴史の…
「今さら疑うものか! 私はサンタを信じる!!」 アグリアス様がそんなことを言い出したのは、聖アジョラの聖誕祭の日のことだった。 私は今でもその時のアグリアス様の、めったに無いほど上気した顔を覚えている。 そのころの私たちは異端者の一味として追…
秋から冬へと変わる季節、ただでさえ風邪を引きやすい時期。 王女オヴェリアの窓の鍵がふとしたきっかけで壊れ、誰もそれに気づかず、 夜になってオヴェリアが寝静まってから夜風が強まり、 窓がキィと音を立てて開き寒風を室内に呼び込んでしまった。 結果…
ぎゅわん、と、重金属の塊がわたしたちめがけて突っ込んでくる。 曇天模様の雲を切り裂き、はるか天上から。 そう、そうくるの。あなたもなかなかガンコですこと。 「はいっ、ラムザ、こうたーい♪」 ラムザのでっかい背中を盾にしてわたしは引っ込む。 「う…
旅とか戦争は非常に長く続くものだ。 特に旅。酒場で仕事を探して財宝ゲットしたり秘境発見したり。 あと養殖。豚をはじめ、ドラゴンとかヒュドラとか、色々繁殖させて密漁して。 そんなこんなで色んな事を長い年月積み重ねて、ラムザ一行はすごいパーティー…
ここは、逃亡生活もかなり長くなってきた異端者ラムザ隊の宿泊する宿である。 このごろはさすがに教会の追っ手も見かけなくなってきたような気がするが、しかし 油断は禁物ということで、ひとつの町に長くとも二日しか逗留しないという暗黙の了解が 守られて…