氏作。Part30スレより。
白銀の光を剣に宿し、闇夜ごと魔物を斬り裂く。
魔物の断末魔の悲鳴は、傷口に染み、アグリアスは顔を顰めた。
癒しの呪文を唱えようとしたが、頭痛にふらつくはめになった。
剣を鞘に収め、髪を掻き上げ、重い息を吐く。
味方も苦戦していたものの、負けはしないと思える。
だが、近くで戦っていたラムザの姿を見つけられないことに気づき、ぞっとする。
「ラムザ……!?」
狼狽し、擦れた声で名を呼ぶと、肩を掴まれる。
「ラムザはここだ」
シドだった。肩を掴んでいた手を離し、もう片方の手を示してくる。
そこには一匹の蛙がいた。優しそうな目と跳ねるように反り返った一房の髪とが、誰であるかを分からせた。
アグリアスは片手で顔を覆い、呟く。
「蛙にされたのか……」
「ああ。きみの魔法で治してもらいたかったのだがな」
シドはラムザをアグリアスに渡し、肩を竦めると、歩きだしながら言ってくる。
「他の者を連れてこよう。それまでラムザを預かっていてくれ」
アグリアスは頷き、両方の掌の上に蛙を乗せた。
「蛙にされるとは、滑稽だな」
叱責すると、蛙はすまなそうに鳴いた。一房の髪が、しゅんと垂れた。
「ふん。まあ、いい。おまえらしいといえば、おまえらしいのだろう」
だが、蛙は尚も鳴いてくる。暫くして、アグリアスはひとつのことに思い当たった。
「そういえば、以前、お伽話を教えてくれたな」
蛙は、肯定のつもりか、大きく鳴いた。
「王女……いや……王子だったか……が……魔法で蛙にされて……愛する者の口づけで呪いを解く……」
朧気な記憶を甦らせ、はっとする。
「わたしに……その……く……口づけをしろと!?」
怒鳴るが、掌の上の蛙は、きらきらと瞳を輝かせてくる。
「ぐっ……」
アグリアスは言葉を詰まらせた。
先に一瞬だけでも感じた喪失感が、心を惑わせたのかもしれない。
意を決し、蛙に唇を近づけていく。
蛙が目を閉じたのを見て、自分も目を閉じる。
唇に冷たい感触を覚えた次の瞬間、それが、暖かく、甘いものに変わる。
目を開けると、そこにはラムザの顔があった。
ラムザは、依然として目を閉じたまま、アグリアスの唇を求めてくる。
「ぷはっ! こ、こら! もういいだろう!」
アグリアスはラムザを突き飛ばし、腕でぐいと唇を拭く。
「あははっ。アグリアスさん、ありがとうこざいます」
ラムザは悪戯っぽく笑い、礼を言ってきた。
「わ、わたしをからかったのか!?」
激昂すると、ラムザは真面目な表情になり、切々と答えてくる。
「あなたでなければ、ぼくの呪いは解けなかったでしょう」
「む……」
気を挫かれ、黙るが、ラムザは、またおどけた口調に戻る。
「みんなにはなんて説明しましょうか?」
「それは……どうするのだ……!?」
アグリアスは困り果てた。