屋根裏散歩士

氏作。Part33スレより。

彼女はまさしくあの女(ひと)の再来であった。 容貌や声のことをいっているのではない。魂が同質だった。 尤も、あのひとにしろ彼女にしろ、 誰にもよりかからず凛と一人立つ女性ゆえそのような言われ方は好まれまいが。 今にいたるまでオヴェリア様の護衛…

氏作。Part30スレより。

強くて綺麗で自分の考えがあって、誰にも頼らなくても生きていける。 そういう女だと周囲の誰もが思っていたし、アグリアス自身もそう生きてきた。 修道院の礼拝堂に控えていた女騎士は、海千山千のガフガリオン相手にも退かなかった。 カネを出すのはこちら…

氏作。Part30スレ時にSS投稿所へ投稿されたもの。

「今さら疑うものか! 私はおまえを信じる!!」 戦場で土埃と返り血にまみれてなお、彼女は美しかった。 いまは土に還ってしまったひと。永遠に失ってしまったひと。 彼女に笑みを返したかった。駆け寄って抱きしめたかった。 初めて出会ったときから愛して…

氏作。SS投稿所より。

篭絡するのは簡単だった。 権力欲なし、金銭欲なし、酒も美食も無関心、 女もさっぱりの朴念仁とのお噂だ。 そうくれば、こういう環境に好んで身をおく人物は、 知識欲の奴隷ではなかろうか。 一見穏やかで子供好きな好々爺の老僧は、 オーボンヌ修道院長と…

氏作。Part30スレより。

視線を感じる。それも非常に熱いものを。 悪意や下心は感じないのでほうっておいたが、 やはりどうにも気になって仕様がない。 憧れの目線は知っている。同性、異性をとわずアグリアスに憧れる者は多い。 値踏みする目にさらされた経験もある。 小娘のくせに…

氏作。Part30スレより。

ぎゅわん、と、重金属の塊がわたしたちめがけて突っ込んでくる。 曇天模様の雲を切り裂き、はるか天上から。 そう、そうくるの。あなたもなかなかガンコですこと。 「はいっ、ラムザ、こうたーい♪」 ラムザのでっかい背中を盾にしてわたしは引っ込む。 「う…

氏作。Part29スレより。

ムスタディオは、きっちり一年分の記憶と歴史がなかった。 身に着けていたものは武器を含めてぜんぶあの日のままだった。 まさに、あの爆発の直後に工房の仮眠ベッドに姿を現したことになる。 そして、わたしが戻ってきたのがその二年後ちょっと過ぎ。 おか…

氏作。Part29スレより。

「なあ、ホントに今日出発でいいんだよな?」 「ん」 新年を過ごしたガルテナーハ一族の村から船旅で戻って日も浅いまま、 荷を解かずそのままわたしたちは新しい旅支度をする。 「あのさ、リリが確信してるのはいいとして、 その日じゃなかったらどうするん…

氏作。Part29スレより。

「アグリアス!」 「私の名前をもう呼ばな・・・!」 今にも崩れ落ちてしまいそうなかすれた声は、 声の主ごと男の胸に抱きとめられて尻切れに終わる。 「ラムザ!」 ようやく男は自分の名前を呼んでもらえるものの、 渾身の力で突き放される。 「貴方はずるい…

氏作。part29スレより。

「おじいちゃん!!」 突如として飛びついてきた娘の声は、 あまりにも彼の妹の若いころの声と似ていた。 そしてこの子の瞳は、彼女とまったく同じ、 ちょっとだけ緑がまじった南国の空のようないろ。 まさか、と思いながらもかすかな期待を否定できない自分…

氏作。Part29スレより。

養母が教えてくれた、 美しい彼女にとって生涯ただ一度の恋のおはなし。 きのう、おなじ女である自分に、 はにかむような表情で聞かせてくれた物語。 唯一のひと、身も心も赦し愛した男性は最期の戦いから帰ってこなかったこと。 せめて季節が一巡するくらい…

氏作。Part29スレより。

ちょっと緑がまじった深い青い南方の空は、 わたしとおかあさんの目の色と同じいろ。 どこまでも続く背が高いひまわりの花は、 わたしが大好きなおかあさんの髪の毛と同じいろ。 わたしとおかあさんはおそろいの帽子を被ってどこまでも歩いていくの。 木陰で…

氏作。Part29スレより。

汚いくさいは当たり前。ついでに言やぁ、むさ苦しい。 ただ面倒くさいという理由だけで風呂もずいぶんさぼってるし 最後に洗濯したのはいつなのかもあやしい服を適当に着てる。 徒弟奉公がきつくて逃げ出したやつ、地元で面倒おこして帰れなくなったやつ、 …

氏作。Part29スレより。

「おかあさま、りんごたべたい」 やわらかくてあたたかい手のひらが あたしのおでこと頬をさわって熱をたしかめる。 まだ頭がクラクラしてる。目をあけたくない。 足音がいちどとおざかり、しばらくしてまた近づいてきた。 「ほら、口をあけて」 甘くやさし…