ムスタディオは、きっちり一年分の記憶と歴史がなかった。 身に着けていたものは武器を含めてぜんぶあの日のままだった。 まさに、あの爆発の直後に工房の仮眠ベッドに姿を現したことになる。 そして、わたしが戻ってきたのがその二年後ちょっと過ぎ。 おか…
「なあ、ホントに今日出発でいいんだよな?」 「ん」 新年を過ごしたガルテナーハ一族の村から船旅で戻って日も浅いまま、 荷を解かずそのままわたしたちは新しい旅支度をする。 「あのさ、リリが確信してるのはいいとして、 その日じゃなかったらどうするん…
ラムザのアホ毛がピョコンと跳ねた。こういう時は、彼の視線を追うと大抵……居た。 育ちの良さそうな町娘、貿易都市ウォージリスらしく、彼女の髪飾りにはどこかしら異国情緒を感じ、 そしてそれがまた似合っている。 線の細い、けれど良く通る、綺麗な声を出…
「アグリアス!」 「私の名前をもう呼ばな・・・!」 今にも崩れ落ちてしまいそうなかすれた声は、 声の主ごと男の胸に抱きとめられて尻切れに終わる。 「ラムザ!」 ようやく男は自分の名前を呼んでもらえるものの、 渾身の力で突き放される。 「貴方はずるい…
「おじいちゃん!!」 突如として飛びついてきた娘の声は、 あまりにも彼の妹の若いころの声と似ていた。 そしてこの子の瞳は、彼女とまったく同じ、 ちょっとだけ緑がまじった南国の空のようないろ。 まさか、と思いながらもかすかな期待を否定できない自分…
養母が教えてくれた、 美しい彼女にとって生涯ただ一度の恋のおはなし。 きのう、おなじ女である自分に、 はにかむような表情で聞かせてくれた物語。 唯一のひと、身も心も赦し愛した男性は最期の戦いから帰ってこなかったこと。 せめて季節が一巡するくらい…
ちょっと緑がまじった深い青い南方の空は、 わたしとおかあさんの目の色と同じいろ。 どこまでも続く背が高いひまわりの花は、 わたしが大好きなおかあさんの髪の毛と同じいろ。 わたしとおかあさんはおそろいの帽子を被ってどこまでも歩いていくの。 木陰で…
異端者ラムザ・ベオルブには多額の懸賞金が掛けられている。当然、その首を狙う輩も多い。 今日も今日とて、彼等のキャンプには賞金稼ぎがやってくる。その命、直ぐに散らす事になるとも知らずに。 シドルファス・オルランドゥ、雷神シドと恐れられたのは過…
轟々と降る雨の中、金色のきらめきが雨水を垂らして駆けていた。 それを発見したラムザ一行。 「あ! あれはライオネル城で別れたアグリアスさんだ。敵に追われている!? みんな、アグリアスさんを守るんだ! 行くぞッ!」 銀色のミスリル装備をしたラムザ…
「ラムザ、いるか? 入るぞ」 とある街のとある宿のとある夜、アグリアス・オークスがラムザの泊まる部屋を訪れた。 無用心にも鍵が開いていたので、勝手に入らせてもらう事にする。 「すまない、今日の戦闘で借りたカオスブレイドを返し忘れた。 明日は見習…
ネルベスカ神殿での戦いで聖石「キャンサー」を手に入れたラムザ一行。 ベイオウーフの悲願であったレーゼの呪いも解け、機工都市ゴーグへと帰還した。 天球儀を前に緊張の趣を隠せないムスタディオ。 労働八号起動の際の事件を思い出して身震いをする。 「…
汚いくさいは当たり前。ついでに言やぁ、むさ苦しい。 ただ面倒くさいという理由だけで風呂もずいぶんさぼってるし 最後に洗濯したのはいつなのかもあやしい服を適当に着てる。 徒弟奉公がきつくて逃げ出したやつ、地元で面倒おこして帰れなくなったやつ、 …
「おかあさま、りんごたべたい」 やわらかくてあたたかい手のひらが あたしのおでこと頬をさわって熱をたしかめる。 まだ頭がクラクラしてる。目をあけたくない。 足音がいちどとおざかり、しばらくしてまた近づいてきた。 「ほら、口をあけて」 甘くやさし…
ラムザです。 今、貿易都市ウォージリスにいます。貿易都市だけあって色々な品が目に止まります。 いつも戦いばかりなので今日はみんな自由行動って事にしてみました。 朝食の席で僕はラッドと一緒でした。 隣の席にはアグリアスさんがアリシアとラヴィアン…
陽射しは高く、けれど鮮烈で、地上にあるすべてのものを映し出す。 真っ青な空の下で真っ青な海が波打ち、その上を大きな帆船が駆けていた。 帆は強い風を受け、船を前へ前へと追いやる。 同様に風を受けて、彼女の日に焼けた金髪が腰の辺りで揺れていた。 …
「天駆ける風、力の根源へと我を導き、そを与えたまえ! エスナ!」 石化したラヴィアンとアリシアを治療するアグリアス。 ラヴィアンとアリシアは、アグリアスの勝利を信じていたため、勝利は当然と胸を張った。 そして未だ眠り続ける弓使いの暗殺者の手を…
ラヴィアンは対峙していた、弓使いの女と。 近づこうとすれば逃げられる。ジャンプすると回避に融通が利かず的になりかねない。 (とはいえ、このままジリ貧だと、弓で援護射撃される。イチかバチか!) 一足飛びに肉薄するラヴィアン。その直線的な機動に狙…
――闇があった。その中に、また、闇が居た。 「名前は」 「アグリアス・オークス。女だ。仲間が二人、詳細は不明」 「オークス? 聞いた名前ね」 「アレだ、異端者ラムザ一味の奴。でも死んだんだろ? 教会がそう発表した」 「暗殺の依頼が来たって事は、生き…
料理当番。人数抱えて旅をする一行に料理を得意とする者がいない場合、それは変わり続ける。 ラムザとラッドはガフガリオンの下働きをしたおかげで料理はそれなりに上手だ。 ムスタディオも独り者らしくそれなりに自炊はできる。 この前ラヴィアンが料理当番…
ゼルテニア城の教会跡。思い出の場所、悲しい場所。 行く義理はない。けれど未だ残るこの痛みを少しでも癒してくれるなら。 でも、この傷は癒えない。決して癒えない。 これからもずっと彼を苦しめ続ける、それが彼が彼女を愛していた証だから。 同様に彼女…
私の名はアグリアス・オークス。正義のために私は今日も戦う。 南天騎士団の男(名をディリータというらしい)にオヴェリア様が誘拐されたため、 私達は後を追うべく貿易都市ドーダーへ赴こうとした。 敵が待ち構えている可能性を考え、武器の手入れもしっか…
アグリアス・オークスは堅物だ。 どれくらい堅物かっていうとド田舎の深夜の赤信号でもちゃんと待つくらい堅物だ。 (赤信号なんてありませんよリアルやサイエンスじゃないんですから) そんなアグリアスだから、アウトローの仲間と、なかなかそりが合わない…
仲間を墓に葬るのは、これが初めてでもなく、また最後でも無いはずだった。 まばゆい夏の日差しとは対照的に冷え切った心で、私と彼は墓地を後にした。遠く、肩 を落としたような旅装の面々が見える。我々は隊列の最後尾にいた。 墓石には、何ひとつ刻まれて…
刹那の隙を見逃さず (闘いの旋律) 両者秘剣を突き撃ちぬ 直後四間(しけん)に駆け違い 互いに肩より血潮吹く アグリア残心気を抜かず ラヴィエル霊帝牽制す 回復呪文はアリシエル 三位(さんみ)一体の連携ぞ! (戦闘開始からここまで、散発的に客席から…
「デュライ白書」第11章 「ゾディアック・ソルジャーズ」との対照 −−−−−−「河の流れは支流が集まって海でひとつとなるが、真実の流れはその逆である。」−−−−−−ウイユヴェール訳注より 現在のイヴァリースでは余り知られていないが、オルダリーア(以下鴎国…
『それは、私の若き日のとびきりに素晴らしい思ひ出の一つである。私と友人の ヘツケナアとはその日、オオヴエルニユの女子修道院の客となつてゐた。 もちろん、この修道院の当時の評判から想像されるやうに、尼僧相手に やましひ事を働く為にそこに行つたの…
「…魔の手の者?全てを滅する天使?気が触れたか」 「…それで教権に背き、神聖なる教理を捨てたのか?」 「素直に降っていれば人の裁きだけで済んだものを…教会に背くとは…度し難い」 みんな、今、どうしているのだろう?捕らえられたのは僕だけなのか? 『…
「アグリアスさん……」 一糸纏わぬラムザが、アグリアスの上から覗き込んでいる。 その瞳は、情熱的に潤んでいた。 ラムザの女のように滑らかな肌は、興奮からか朱に染まっており、しなやかながらも 意外に逞しいその身体から、アグリアスのやはり一糸纏わぬ…
とある街のとある宿。 アグリアス・オークスはラヴィアンとアリシアの勧めで酒を飲み、いい感じにほろ酔い気分を楽しんだ。 「どうせなら、ラムザさんもお酒飲めるようになればいいのに」 「ですよねぇ。やっぱり殿方と一緒に飲むというのも、また……」 など…
前奏 昼食休みの終わりを告げるサイレンの音は、生徒達のしばしの休息に幕を下ろし その強く照りつける午後の日差しに、奮起するもの、辟易とするものを 隔てることなくグラウンドへ駆り立てた。 「ねぇ」 広いグラウンドで唯一、強烈な陽光を避けるのを許さ…