氏作。Part30スレより。





酒場。酒場である。情報収集や儲け話のために寄る事もあるが、基本的に酒場である。


   飲め! 酒!!


酒場なんだから当然飲むべきである。未成年でないのなら注文すべきである。
それなのにこの青年、とっくに二十歳すぎてるくせに何を言いのたまいますか。
「僕はミルクで」
赤ん坊かお前は。乳飲み子かお前は。ここは酒場だってーの!
という訳でラムザに酌を勧めてみるラヴィアン。
「ささっ、ラムザさんも一杯、一杯でいいからグイっといってみましょうよ」
「ううっ、でもなぁ……」
「飲まず嫌いは駄目ですよ。さあさあ」
それを止めるのはアグリアス
「まあ待て、あまり無理強いするのもよくないだろう。飲む飲まんは本人の自由だ」
「でもここは酒場ですよー? 隊長だけ飲まないなんて感じ悪ーい。
 ほらぁ、みんな日頃の疲れをお酒で洗い流してるじゃないですか」
ラヴィアンが指差す方向を見て、ラムザの頬が引きつった。
スタディオが腹に顔を描いて腹踊りしながら歌っている。
吟遊詩人と踊り子同時マスターですか。効果は周囲のユニットを笑わせるのか。
「ほ〜れほれほれ、腹踊りじゃぁ〜! ちょっとそこのお姉さん、一目見てご覧あそばせ!
 もうね、こうね、腹踊りで満足できないなら象さんダンスもご披露するよ。
 すごいからもう、俺の象さん。パオーンっていきり立ったらもう銃を通り越して大砲ですよ」
下品――下品であった。
しかし日頃の鬱憤を見事に晴らしている。


そしてラッドは酒を飲んで泣いている。大泣きしてアリシアに絡んでいる。
「俺だってなぁ、俺だってなぁ、ガフガリオンから暗黒剣教わろーと必死にね、
 もう、過酷な特訓やりまくったのよ! なのに何で見習い戦士のままなのオレ?
 これ、悲しくね? 俺も固有ジョブ持ちたい訳よ。こんな俺が活躍できる訳ねーべ?
 よっぽど贔屓されなきゃ俺達みたいな汎用ユニットが活躍する出番ある訳ねぇだろ?
 アリシアなら解るよな。ナイトだもんな。固有ジョブ無いもんな? おろろーん」
「ら、ラッド落ち着いて……とりあえず水でも飲んで、酔いを醒まし……」
「どうせ俺は儲け話要員さぁーあーっはっはっはぁっ! 覚えてるか?
 ゴーグの炭鉱で足の無いスカート姿の機械の化物がいたよなぁ。ありゃ強敵だった。
 なんせ首チョンパしても首だけで空飛んで口から光を出すんだもん。
 あーいうのとやりあえるのに、何でレギュラーになれないん自分等?
 なぜなら固有ジョブが無いからだー! ギブ・ミー・暗黒剣ー!」
「私も聖剣技とか習得したいから気持ちは解るけど、とりあえず落ち着いて」
普段は装備品の整理や軍資金の管理などを上手にやってのけるラッドがあのていたらく。
裏方の仕事しか回されない事がそんなに悲しいのか。
アリシアはとにかくラッドに水を飲ませて酔いを醒まさせようと必死だ。


続いてマラーク。否、カエル。
カエルがなみなみと酒に満たされた大きなグラスの中に浸かっている。
「酒風呂だぁ〜! あひゃひゃ、口で味わい肌で味わうこの感触最高じゃぁ〜!」
「兄さん! 汚いからそういう事はしないでよ、もう!」
ラファが必死にカエルを説得している。ちなみにラファはオレンジジュースを飲んでいた。
「俺の〜裏真言はぁ〜超・強力〜♪ だけども色々条件がそろってないと〜ダメなんだぁ〜♪
 そぉんの条件そろえておくんなラムザの旦那♪
 そしたらオイラもレギュラーになって大活躍さぁ〜♪」
「音痴なのに歌わないで! お店の人が迷惑がってるじゃない!」
「カエル〜は酒風呂に〜♪ あーよいよい♪ あっそれそれ♪」


三馬鹿の酒癖の悪さを見てラムザはうつむいた。
「た、隊長としてあんな醜態をさらす訳には……」
ラムザさんがどんな酔い方するかはまだ解らないじゃないですかぁ〜。
 さあさ一献、どうぞどうぞ」
ラヴィアンに勧められ仕方なく一献飲むラムザ
するとラヴィアンが拍手をした。
「いよっ、見事な飲みっぷり。さあさ続けて参りましょうぞ!」
「い、いや、僕は……」
のどが焼けるような感覚がして、やっぱりお酒は苦手だ。
断ろうとするラムザを無視し、グラスに酒を注ぎつつ、自分も酒をあおるラヴィアン
「まったく……ラヴィアンも相当酔ってるようだな」
アグリアスさぁん……」
「まあ男子たるもの酒くらいたしなめねば一人前とは言い難い。
 いい機会だ、今日飲めるだけ飲んでみろ。二日酔いも大人になるためのステップだ」
「あ、アグリアスさんまでそう言う……解りました、飲みますよ。
 でも変な酔い方した時は、アグリアスさんが責任取ってくださいよ?」
「解った解った、ちゃんと介抱してやるから飲むがよい」


人は生きていく、幾度も幾度も過ちを繰り返しながら。
あの日、あの時、あの瞬間に戻れたならと、そう何度も夢想して。
もしこの日、この時、責任を取るだなんて言わなかったら……。
けれどこの世界に『もしも』なんて無くて、あるのはたったひとつの現実。





「や、やめてくださいってばぁ……」
「いいじゃないかぁ、ラヴィアンだって独り身はさみしいって言ってただろぉ?」
「キャンッ!? お、お尻を触らないでください」


はい、ラムザ君見事ーに酔っ払いました。
アグリアスがちょっと目を離してムスタディオをしばいてる間に、
ラムザはぐでんぐでんに酔っ払い申しておりました。
そしてセクハラ魔神誕生の瞬間です。


「ららら、ラムザ! 貴公、いったい何をしている!?」
「何って僕はただぁ、ラヴィアンとチュッチュしたいなーって……」
「お尻から手を離してくださいってばぁ〜! アグリアス様、助けて〜!」
ラヴィアンに全力でセクハラするラムザを、アグリアスは羽交い絞めにした。
「この馬鹿者! 自分が何をしてるか解ってるのか!?」
「むにぃ……アグリアスさんのおっぱい気持ちいいですよぉ〜」
背中を全力でアグリアスの胸に預け、肩を動かして器用にアグリアスの胸をもてあそぶラムザ
アグリアスは真っ赤になってラムザと突き飛ばした。
その先には……カエルの入ったグラス。
「げろぉ〜!?」
ラムザに突っ込まれグラスごと宙を舞うグラス。それが逆さまに地面に落下する。
カエル、グラスの中に閉じ込められる。
透明なガラスの向こう、わずかにある空気の場所に頭を出してカエルが悶えていた。
「兄さーん!?」
兄の危機を救おうと立ち上がったラファにラムザが絡む。
「兄さーん! いいっ、いいよラファ。もう一回言って。
 アルマがさらわれてさー、もう、兄さーんって呼んでくれる子、いなくてさみしいんだもん」
「ちょっ、ラムザさん酔っ払ってるんですか?」
「ねえねえ、バリンテン大公に何をされたのかお兄ちゃんにだけこっそり教えてよぉ〜。
 こぉんな事をされたのかなぁ? えいっ、撫で撫で」
未発達なラファの胸を服越しに両手で撫で回すラムザ
そしてそれに抵抗できないようすり込まれているラファは赤面して動けなくなってしまった。
「や、やめてください。そ、そこは弱いんです」
「そこってここかな? ここ? ここがええのか、ええのんか?」
「きゃうぅ……あ、アグリアスさん、助けてぇ……」
再びラムザを羽交い絞めにして動きを封じるアグリアス
「ええい、いい加減にせんかバカモン!」
「わーい、アグリアスさんの大きなおっぱいだぁ」
「あぐっ……」
また突き飛ばしたい衝動に駆られたが、そうしたら今度は誰に絡むか解らない。
仕方なく胸を押しつける形のままアグリアスラムザを酒場の隅の席に運んだ。
ラムザ、今水を持ってきてやるからそれで酔いを醒ませ」
「ヤーですよ。こんないい気分初めてなんですもーん!
 それにぃ、アグリアスさんはぁ、約束してますぅ」
「や、約束?」
「僕が酔っ払ったら責任取るって約束でぇーす! あはははは」
「あぐっ……だからこうして面倒見て……わっ!?」
突如としてラムザアグリアスの胸に顔をうずめて頬擦りをする。
「ふにふに枕ー」
「ままま、枕違うー!」
そのままラムザに押し倒されるアグリアス
抵抗しようと思ったが、自分も少々酔いが回っているようで、身体が思うように動かせない。
ラムザアグリアスの胸に頬擦りを続け、気分は夢心地。
アグリアスアグリアスで性感帯を刺激され、酔いもあって顔を余計に赤らめてしまう。
「こっ、この……こうなったら、酔い潰す!」
アグリアスは必死にラムザを押しのけ、店で一番強力な酒を注文した。
「さあラムザ! 酔っ払って楽しい気分なのだろう? 飲め!」
アグリアスさんも一緒じゃなきゃヤだヤだー」
「よ、よかろう。責任を持ってつき合ってやる」
「わぁーい。それじゃカンパーイ! ゴクッゴクッ、ぷはぁーキくぅ」
「んぐっ、んぐっ……ぷはっ。こ、これはさすがにキツイな……」
「さあさアグリアスさん、どうぞご一献」
「あぐっ……そういうラムザも、ほれ、飲め」
こんな調子で一夜が明けて――。



頭を叩く鈍痛でラムザは目を覚ました。
「痛たたた……何だ、いったい……?」
それが頭痛であると気づき、ラムザは部屋を見回した。
アグリアスが、同じベッドで寝息を立てていた。
着衣に乱れ有り。
「え」
顔面蒼白になるラムザ
ここはアグリアスの部屋かと思い、慌てて部屋を飛び出す。
するとラファに出くわした。
「あ、こ、これは……」
ラファは怯えた様子で後ずさりしつつも、頬を赤らめ熱のこもった視線を向けてきた。
「あ、あの……ラムザさん。私はいつでもOKですから……」
「え、何の話?」
「昨晩はすごかったです。アグリアスさんやラヴィアンさんを、あんな……」
「え、何の話?」
「それに、私にまで……キャッ、恥ずかしい」
「え、何の話?」
「そ、それじゃ私、洗面所に行ってきますから……それじゃ」
「だから、何の話?」
駆け出すラファの背中を見送るラムザ。いったい何事だ今のは。
記憶をたどる。ラヴィアンが酒を勧めてきて……それから……。
「ダメだ、思い出せない。何があったか誰かに聞かないと……」
そうして宿をぶらついていると、マラークに出くわした。
「あ、マラ……」
「このド変態者がぁー!」
いきなり顔面パンチ。え、何で?
ラムザは何が起こったのか理解できぬまま、マラークはその場から立ち去った。
「僕はいったい……酔っ払って……何をしたんだ……」
呆然と突っ立っていると、背後から足音がした。振り返る、アグリアスだ。
「あ、アグリアスさん、あの……」
「ら、ラムザ……私は、その、責任……ちゃんと取るからな」
「え、何の話?」
「ここ、今度は……その……な? 私にも心の準備が……」
「え、何の話?」
「まま、また、一緒に酒を飲もう。今度は二人きりで……ではな」
「あ、アグリアスさん?」
頬を赤らめて立ち去るアグリアス
取り残されたラムザは独り必死に昨晩の記憶を思い出そうとしていた。


   終わり