氏作。Part30スレより。







某月某日 天気/悪く無い 隊の士気/ゼッコーチョー 俺の調子/まあまあ
 リボンが手に入った。貴重な装備品に、隊の士気も上がっている。
「これで混乱したアグ姐の一撃を喰らわなくて済むのか」
と言ったムスタディオはアリシアに殴られて半泣き顔だし、
「わ、私よりもお前の方が似合いそうだな」
と照れくさそうなアグリアスに言われたラムザは、硬直してるけど。
ま、とりあえず、みんな浮かれてるってとこだな。
 特に女性陣は喜んで、お互いの髪型ならどこにつけるのが一番可愛いかと話し合っている。
……メリアドールを除いて。彼女が何故未だにあのフードを脱がないのか、俺にはわからない。
頭部の装備を身につける時に邪魔にはならないんだろうか。
 アリシア曰く「ラムザ隊の七不思議のひとつ」だから、その謎を解く必要はないらしい……が。
他の六つは知らない。知らないってことをこうして記録するのもばからしいが、約束だしな。
 大体ラヴィアンもアリシアもテキトーすぎだ。ラムザ隊の行動録をつけておいてね、あんたの
日記兼ねて構わないから〜とか、衣装の管理よろしくねとか。好き放題だ。
 もともとはアグリアスの世話とこういうことを交代でする約束だったはずなのに。
 さすがにアグリアスの面倒はちゃんとみてるけど。あれはどっちかというと、趣味だとしか
思えないんだが。
 旅が長くなるにつれて、特殊技能を持った仲間が増えたし、普通のジョブにしかつけない
俺やラヴィアンたちの戦場での役目が無くなって来て、それでも人間が多ければ事務仕事は
増える一方だから、裏方に回ると決めたはずなのに。なんで、僕がひとりで受け持つことに
なっちゃったんだったか。はじめは回り持ちで役割分担だったはずだよなあ。
 でもあのふたりに頼まれると断れないんだよなあ。俺って女に弱いタイプだったみたいだ。




某月某日 天気/虫干し日和 隊の士気/フツー 俺の調子/それなり
 裏方に回ると決めてこの隊に残ってるのは、俺とラヴィアンとアリシアくらいで、
大所帯になって来た隊の雑事ってのは、やってもやってもキリが無かったりする。だから
買い出しなんかは前のように隊の全員で回り持ちなんだけど。アグリアスの当番の時は、
必ずラヴィアンかアリシアが同行している気がする。あいつら、順番決め表に細工でも
してるのかな。別にいいけど。
 そんなわけで、宿の裏で鼻歌まじりに鎧類の虫干しをしていたら、アリシアが来た。
「今日はアグリアス様とクラウドさんと、私の三人で買い出しなのよ。貸して、あれ」
「あれ?」
「リ・ボ・ン」
……こういう時のアリシアが何を考えているのか、聞かなくてもわかるようになってしまった。
「ついでに踊り子の衣装も、じゃないのか?」
「さっすがラッドくん、良くおわかりねー。よろぴく」
 よろぴくって、ムスタディオじゃないんだからアリシア……とつぶやきながら、俺は衣装を
確認しに行った。買い出し用の荷物入れと一緒にひとまとめにして渡してやったら、ご機嫌な
笑顔になってたけど。俺は後の事は知らないよ? 関係ないからな?
 やがて、どっかで素振りでもしていたんだろうアグリアスが、アリシアに引きずられるような
状態で戻って来た。部屋に戻って着替えろと言われているらしい。
「何故着替えなくてはならないのだ? 戦場でも無いのに」
「戦場じゃないから、ですよ! どうもあの衣装が苦手で、だから戦場での動きが悪くなる気が
するっておっしゃってたでしょう? 慣れておかなくちゃ命に関わりますよ!」
「しかし、町の中で踊り子の衣装を着るのは恥知らずに見えないか?」
 アグリアスが、相当嫌そうなんですけど。俺が準備したのは、頼まれたからだぞ? 
俺のせいじゃないぞと、心の中で強く念じたが、アグリアスに届くわきゃないんだよな。
「恥ずかしいことなんてありません。幸い、今日一緒なのはクラウドですから。
きっとすぐに忘れてくれます。問題ないです」
「いや、クラウドは別に忘れっぽいわけではないのでは」
「いいからいいから! 一緒に着替えましょう」
……相変わらず強引だなあ。
 アリシアが隊に残っていることを、アグリアスが迷惑だと思っていても俺は不思議には思わないね。




某月某日 天気/星月夜 隊の士気/ホドホド 俺の調子/それなり
 野営中、夜の見張りに立った僕のところにお茶を持って来てくれたのはクラウドだった。
普段あまり他の人間と会話しようとしない彼にしては珍しい。
「お、すまね。ありがとさん」
 俺の挨拶に対して返って来たのは、真顔だった。
「質問があるんだが」
「答えられる質問にしといてくれよ?」
 何しろクラウドイヴァリースの人間じゃないらしいからな。何を聞いて来るかわからん。
「俺は、男だし、お前も男だと思うが、どう思う?」
「はあ? どうって……」
 質問の意図がわからずに聞き返したが、クラウドは黙ってしまった。
 何について聞きたいんだ? クラウドとは一緒に風呂に入ったこともあるし、男だって
ことは良く知ってるが、それを答えればいいのか?
 しばらく混乱したが、シンプルに答えてやることにした。
「お前も俺も男だと思うけど」
「俺もそう思う」
「………で?」
「……どう思う?」
 最初に戻っちゃったよ、おい………と思ったところで、突然閃いた。
「もしかして、まさか、スキキライとか、そういう話か?」
頷いたヤツは、やはり真顔のままだ。おいおい。
「別に嫌いじゃねーよ」
おっと、まだ言葉が足りなかったらしい。あの顔は続きが聞きたいんだろう。
「男に対して積極的に好きとかって思うタイプじゃないんで、これ以上何もねーが」
もしかして、俺に惚れてたりするんだろうかとちょっと身構えたが、そうじゃなかった。
「そういうタイプに好かれるタイプだろうか」
また何を言ってるかよくわかんねーな……と思いながら、言いたいらしいことを考えてやる。
 自分が男に好かれるタイプかどうかを聞いているんだと気づくまでに、もらったお茶は
ぬるくなってた。
「俺にはそういう趣味が無いからわかんねえな。役に立たなくてすまん」
「いや、謝ってもらわなくても」
「だけど、なんで急にそんなことを?」


クラウドの説明によれば。
 この間の買い出しの時に、アリシアがこんなことを言ったそうだ。
アグリアスさまと私は女同士の買い物があるから、ちょっとそこの角で立って待ってて。
そうだ、これは貴重だから、預かっててくれる? 髪に結んでみたりしてみれば?」
……アリシアの奴、なんてことしやがる。あいつが知らなかったわけはないんだが。
 リボンをつけた男が街角に所在なげに立っているのを、俺も見た事がある。
それは大抵の場合、男娼だ。流し目をもらった経験があるからわかる。 
 案の定、男が言いよって来たらしい。
 そして、その男を追っ払ってくれる男が来たと思ったら、今度はその男に口説かれた、と。
結局、アグリアスが血相を変えて戻ってくるまでの半時ほど、場所を移動するわけにも行かず、
男たちにどう話せば良いのかわからず、かなり困ったのだそうだ。
「それは、運が悪かったな。街角に立ってる男がリボンを身につけていたら、そういう商売だと
思われるんだ。男たちが来たのは、商売だと思ったからさ。それ以上でも以下でもねえと思う」
「あ……ああ、そうなのか。良かった……んだろうか」
「良かったんじゃねえか……? 男に好かれるかどうかで悩むってことは、
 女の方が好きなんだろうよ」
「そうか?」
「そうだよ」
「そうか」
「そうだよ」
 俺はクラウドが飽きるまで「そうだよ」と言ってやった。




某月某日 天気/小雨 隊の士気/ビミョウ? 俺の調子/うんざり気味
 嫌な感じで雨が降ってるもんだから、今日は宿から出ないで、会議日になった。
財政報告とかこれから使うルートの確認とか、ま、そんな感じだ。
 いつも「大して問題はない」ってことで片がつくんだが。
 今日は、ラムザアリシアに残るように頼んだ。クラウドのアレはやっぱ、可哀相だし、
アリシアの真意を聞き出すにゃ、俺ひとりじゃない方がいいと思ってさ。
 俺がクラウドに聞いた事をラムザに説明している間、アリシアはそっぽ向いて椅子に
座っていた。
 やっぱ、悪い事をしたと思ってるってことか?
「それは、クラウドもびっくりしたと思うよ……。可哀想に」
話を聞き終えてため息をついたラムザは、わざわざアリシアのそばまで行って顔を覗き込んだ。
「どうしてそんなことをしたんです? クラウドがこっちの世界に明るくないことは
ご存知でしょう?」
「……お金のためよ」
「ああ?」
 俺はびっくりした顔のラムザと顔を見合わせた。
「あの町には、変態の雑貨商が居るの」
「なんだそりゃ」
「綺麗な男の子が困ってるのを眺めるのが大好きな変態。見てるだけでいいっていうの。
 だから、クラウドが困ってるのを眺めさせてやって、いろいろ安く買ったわけよ。悪い?」
 投げやりな言い方だ。アリシアって……。
「……もしかして、変態なのはその雑貨商だけじゃないんじゃないですか?」
「何のことでしょ?」
「あの日、アグリアスさんも踊り子の格好で出かけていますね? 何の為です?」
「……やだなー、ラムザ隊長って、妙なことに鋭いんだから」
 今度はアリシアがため息をつく番だった。
アグリアス様が踊り子の格好をしてるときの悩殺度の高さは、皆さん良くご存知でしょ。
 買い物の時の割引率が全然違うのでっす」
「なんだそりゃ! ばれたらどうなるか考えてみたりは」
「ばれっこないです。衣装に気を取られておいでですから。もともとあの美貌ですからー、
 アグリアス様と一緒に買い物に行くと、おまけが多かったんですけどねー。
 踊り子衣装のおかげでさらに安上がりになって、うはうは」
「ほほ〜〜う、そういうわけだったのか」
「え?」
 地獄の底からわき上がって来るような声に振り向けば。
 そこには、アグリアスが立っていた。
「明日からの編成について、ラムザに相談があったことを思い出して来てみれば。
 アリシア、歯を食いしばれ。ラッドとラムザはそこをどいた方が良いと思うぞ」
「あ、いえ、是非とも、宿の外に出て行っていただきたいのですが……」
良く言った、ラムザ。俺はアグリアスの勢いが怖すぎて、ちょっとちびりそうで何も
言えなかったのに。さすが隊長……。
「それもそうだな。来い」
「あーーーいやーー、助けてーーラヴィアアアアアンー あんただって同罪でしょうーー!」
「では後でラヴィアンにもおしおきしてやろう。私は部下に対して平等でありたいからな」
アグリアスさまーーーどうかーおちついてえええ」
叫びながら暴れ続けるアリシアのことを右腕一本でずるずる引きずって行くアグリアスの姿を、
俺は一生忘れないと思う。
 アグリアスが買い物番の日には、予算として見積もった額よりも安く上げてくるとは思ってた。
偶然かと思ったら、アリシアとラヴィアンの綿密な計算があったんだな。
 やれやれと思いながら見送る俺は、もうひとりここに居たことを忘れていたんだ。
「ラッド。確か今、隊の記録はラッドの担当だったよね?」
「あ? 記録っても、日記みたいなもんだぜ。毎日適当に書いてるから」
「見せてくれるよね」
「そりゃいいけど……、なんだよ急に」
アリシアさんたちが他にどんなことをやってるのか、知りたい」
「へ?」
……俺は、ラムザの目が怖くて、今までの日記を全て渡した。
 だから、今日の日記は、別の帳面につけてる。
 ラムザが夕食に来なかったのは、たぶん、日記を読み返しているんだろう。
 それにしても、俺、ヤバい事書いてないだろうなあ……?




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