氏作。Part30スレより。




磨羯二日、クリスマス・イブ。誰もが聖誕祭の前祝いを楽しむ中、騎士の一団が武器を手に街を回る。
「探せー! 異端者ラムザ一味がこの街に潜伏しているはずだ!
 あらゆる宿や飲食店はもちろん、一般家屋までも徹底的に調査、見つけ出すのだ!」
ライオネル城城下町。神殿騎士団が駆け回っていた。
そんな中、街の中心部近くにある古びた屋敷にラムザ達は逃げ込んでいた。


   聖夜―HOLY NIGHT―
   前編 クリスマスに迫る危機


「くっ……せっかくのイブだっていうのに」
ラムザの呟きに、全員が心の中で同意する。
本当ならこの無人の屋敷でひっそりとご馳走を用意し、慎ましい前夜祭をしようとしていた。
だがもうそんな余裕は無い。全員荷物をまとめて、逃亡の準備を整えている。
「さて、どうするラムザ
ラムザ一味一番の古株、ラッドが訊ねる。ラムザはしばし考え、地図を広げた。
「この人数、とてもじゃないがこの包囲網を逃げ切れるとは思えない。
 一度分散し、囮を使って敵をかく乱。その隙にみんなはツィゴリス湿原を抜けて、
 ゴーグのムスタディオの家に潜伏してくれ。あそこなら安全だ。
 囮は二組に分かれ、それぞれ北のバリアスの丘、東のバリアスの谷に敵を引きつける」
「囮なら俺に任せろ。バリアスの丘まで引きつけてやる」
忍者にジョブチェンジしているラッドが申し出た。
「一人じゃ危険よ、私も――」
「足手まといは不必要だ、アリシアはみんなと一緒にツィゴリス湿原を抜けろ。
 これは正面切っての戦いじゃない、こういう仕事は俺みたいな人種に任せた方がいいんだ。
 なあ、あんたもそう思うだろう? オルランドゥ
話を振られ、オルランドゥは静かにうなずいた。
「その通りだ。しかし一人では危険というアリシアの言葉にも一理ある。
 マラーク。君ならラッドの足手まといにならず、敵を引きつけられるのではないかな?」
暗殺者としての経歴が、マラークとラッドをうなずかせた。
「解った、ラッドのサポートは俺に任せろ」
「まず俺達が神殿騎士団を暗殺して……いや、気絶させて回ろう。
 その内奴等は俺達の存在に気づき、追いかけてくる。
 そのままバリアスの丘まで旅行としゃれ込もう。
 その後は街道を通らずツィゴリス湿原まで山を突っ切ってゴーグを目指す」
北の囮は決まった。危険な任務だ、再会は無いかもしれない。
不安に怯えるラファを、マラークが抱きしめた。
「大丈夫だ。クリスマスは一緒にすごせないけど、ラムザの誕生日までにはゴーグに行くよ」
「兄さん……気をつけて。ラッドさん、兄さんをお願いします」
短い別れの挨拶をすます兄妹。ラファの頼みを、ラッドは力強くうなずいて応えた。
「さて、北に戦力が分散した後、さらに西を空けるため……東にも敵を呼び寄せたいところだな」
オルランドゥが冷静に戦況を分析する。
街を包囲する神殿騎士団の数、三分割ほどせねば本隊の突破は至難。
「僕が東に回ります。ラッド達が引きつけてから、本命である異端者ラムザが東に現れる。
 これで西はだいぶ手薄になるでしょう。そこをオルランドゥ伯率いる本隊が突破。
 囮として逃げ回る僕達と違い、神殿騎士団と戦わざるえない本隊にはそれ相応の戦力が必要です。
 頼めますね? オルランドゥ伯」
「無論だ」
「相手が神殿騎士団ならメリアドールさんの剛剣が有効です。伯のサポートを頼めますね?」
「解ったわ。同胞に手を上げるのは心が痛むけれど……人間相手なら私の出番よ」
メリアドールはセイブザクィーンの柄に手をかけ、任せなさいとばかりに微笑んだ。
そこにもう一人、ルーンブレイドをたずさえた騎士が名乗り出る。
「力技ばかりでは敵の物量に押されてしまうでしょう。私の魔法剣で援護しよう」
「ベイオウーフさん……解りました。
 先陣はオルランドゥ伯、殿はメリアドールとベイオウーフさんのコンビで。
 足の遅いメンバーが逃げ切るまで、おつらいでしょうが……やってもらいます」
「了解」
「任せたまえ」
二人は力強くうなずいた。
「よし。じゃあラッドとマラーク、出てくれ。
 僕も東の方に身を潜め、騒ぎが起き出したら姿を見せて敵を引きつけ――」
ラムザ。東の囮だが、貴公一人で行う気か?」
計画を語るラムザに、アグリアスが口を挟む。
ラムザは静かにうなずいた。
「ガフガリオンの下で色々学びましたからね。ラッドには及びませんが、何とかやれます」
「貴公は我が隊のリーダーだ。それを一人でなどと……」
「しかしこれ以上戦力を割く訳にはいきません。
 西口を突破するにはアグリアスさんの火力も必要です。ラファ達を守ってやってください」
「だが、ラムザ一人というのは酷だ。オルランドゥ伯、同意願えますか?」
あごヒゲをさすりながら、オルランドゥ伯は小さくうなずいた。
「うむ……だがしかし、囮を務められる者となると必然的に限られてくる。
 本隊の守護に私の存在は必要だろう。となると、残るはラッド、マラーク……そしてラムザ
 この三人しか囮をやってのけられる人材はおるまい。……マラークをラムザにつけるか?」
「俺は構わないぜ、元々一人でやるつもりだった」
ラッドは自信たっぷりに笑って見せた。だがアグリアスが食い下がる。
ラムザ。東へ逃げるという事は……バリアスの谷を通るのだな?」
「ええ。バリアスの谷からウォージリスへ行き、ゴーグ行きの船に乗ってみんなと合流する予定です」
「バリアスの谷ならば、私は単身あの場所でライオネル軍の追っ手と戦った経験がある。
 時に木立に隠れ、谷の影にかがみ、川に身を潜め、ラムザ達が来てくれるまで持ちこたえた経験が。
 どうでしょうオルランドゥ伯。バリアスの谷ならば、地の利は私にあります。
 ラムザ達の知らない裏道を探し当てた事があります。東の囮、私も適任かと」
「いけません、アグリアスさんは本隊を守ってください」
「貴公一人を行かせられん。伯、ご意見をお聞かせ下さい」
オルランドゥに視線が集まる。
隊のリーダーはラムザだが、オルランドゥ伯が入隊してからは彼が意見を決める事も多くなった。
オルランドゥアグリアスの眼差しを見極め、ゆっくりとうなずいた。
「確かに……そのような経験があるのなら、足手まといにはなるまい。
 付け焼刃といえどラムザのよき力となろう。ラムザ、東の囮はそなたとアグリアスだ」
オルランドゥ伯!」
ラムザ、本隊はアグリアス抜きでも何とかなる。
 私が先陣を務め、メリアドールとベイオウーフが殿をするのだからな。
 本隊のガードはレーゼとムスタディオに一任しよう。
 ムスタディオなら隊のどこからでも援護ができるし、レーゼのドラグナーとしての力は脅威だ。
 ラムザ、そなた一人では無茶をしかねん。お目付け役としてもアグリアスは適任だ」
「それは……はい、解りました」
さすがのラムザも、オルランドゥ伯には頭が上がらない。
こうして作戦が決まり、囮となるラムザアグリアス、ラッド、マラークは、
必要最低限の持ち物を鞄にしまい準備を整えると、ラッドが明るい口調で言った。
「磨羯十日までには、ゴーグに行く。
 そしたらクリスマスを楽しめなかった分、ラムザの誕生日を盛大に祝おうや。
 ムスタディオ! お前の家がパーティー会場だ。俺達が着くまでにしっかり準備しとけよ」
「ああ、任せろ。ラムザ、ラッド、アグリアス、マラーク……待ってるからな」
こうして囮班は二つに分かれ、街に消えた。
それからしばらくして神殿騎士団の動きが慌しくなるのを、オルランドゥが確かめる。
「ラッド、マラークの存在に気づいたようだ。
 ラムザ達が動いた後、十分に戦力が分散されてから城下町西口を突破する」
古びた屋敷の中、十数名の人影はじっと身を潜め――機を待っていた。
その間に少しずつ空模様が悪くなる。暗雲が空を包み、風が冷たさを増した。


警備に立っている神殿騎士背後から忍び寄り、首に腕を巻き、絞め落とす。
ラッド達がそれを何度か繰り返している内に、気絶した仲間の存在に気づいた神殿騎士が隊長に連絡を入れる。
そして騎士の大半が異端者討伐のため北へと動く……。


「どうやら始まったようですね……」
「ラッド達がうまくやってくれているのだろう。また一団、北に向かったぞ」
「では、東口に向かいましょう。東口を固めている騎士団が、どれくらい行ってくれたか……」
裏路地から騎士団の動きを観察していた二人は、裏路地を駆使して東口までたどり着いた。
東口にいる騎士団は二十人程。物量では押されるが、突破できぬ数ではない。
「まず僕が顔を見せ、かく乱します。その隙に聖剣技を叩き込みつつ突破してください」
「解った」
黒ずきんを被ったラムザが東口に向かい、騎士達の視線が集まった。
「そこの男、止まれ!」
「これはいったい何の騒ぎで……?」
「異端者がこの城下に潜伏しているとの報告があった。その覆面を取れ」
「…………」
「どうした、脱がないのか。……囲め」
一人の騎士が命令すると、五人の騎士がラムザに歩み寄り、刹那、
ラムザは目の前の騎士ののど笛を呪縛刀の柄で叩き潰した。
「ぐぇ……」
カエルのような声を漏らし、騎士が倒れる。
五人の騎士が抜刀すると同時にラムザは黒ずきんを脱ぎ捨てた。
「き、貴様は……!」
ふいうちした人物がラムザ・ベオルブだという事実に一瞬の虚が生まれる。
そこを突いてラムザは五人の騎士の間をすり抜け、東口を固める騎士十名に槍を向けられる。
その時すでにラムザは詠唱をしていた。
「大地を肉体とする堅牢なる生命よ、我らを守らん! ゴーレム!」
騎士団の槍をことごとくゴーレムに防がせながら門を突破、さらに詠唱。
「風、光の波動の静寂に消える時、我が力とならん。シヴァ!」
凍てつく吹雪が騎士団の動きを止める中、さらに氷の山が降って来る。
「不動無明剣!」
二重の冷凍攻撃に騎士団の動きが止まり、アグリアスは強引に騎士達の間を縫って駆け抜けた。
「伝令! ラムザは東口を突破! 北は囮だと伝えろ!」
「了解しました!」
騎士達が態勢を立て直す隙にラムザ達はバリアスの谷へと走る。
アグリアスさん、急いで!」
「解っている!」
ウォージリスへと続く道を走り、追っ手が来ると近くの森に逃げ込み姿を隠す。
そのまま森を突き抜けバリアスの谷に出たところで、正規の道を渡ってきた騎士団に見つかり、
矢と魔法が降りかかる。だがそれらすべてが弾かれた。
「奴等、ゴーレムの他にカーバンクルまでかけているぞ!
 効果が切れるまで攻めて攻めて攻めまくれ!」
アグリアスさん、地形を利用して囲まれないように移動を!
 追いつかれた時だけ戦いましょう!」
「心得た!」
バリアスの谷の川を、河川敷を利用して飛び越え、
追ってきた敵に召喚魔法と聖剣技の二重攻撃を加え着実に敵兵を減らしながら、
南西に向けて逃亡。ゴルゴラルダ処刑場の方向だ。
「敵兵は残り少ない。ゴルゴラルダ方面で敵を倒し、そちらへ逃亡したと思わせます。
 増援がウォージリス方面へ来ない事を祈りましょう……」
「ああ、解った。……む? ラムザ、雨だ」
頬に雨粒が当たり、アグリアスは空を見上げた。
暗雲から雨がポツポツと降り始める。
「……これは……強まるな。雷雨になるかもしれない」
「身を隠すには好都合だ。奴等の進軍の足も遅くなる」
雨は次第に強まり、二人の姿を隠していった。



   to be continued……