氏作。Part30スレより。




「今さら疑うものか! 私はサンタを信じる!!」


アグリアス様がそんなことを言い出したのは、聖アジョラの聖誕祭の日のことだった。
私は今でもその時のアグリアス様の、めったに無いほど上気した顔を覚えている。
そのころの私たちは異端者の一味として追われる立場ではあったし、決して軽々しく騒げる立場では無かったのだが、
その日が近づくにつれて街角に溢れていく喧騒や、道行く人のどこか幸せそうな顔、木枯らしに舞う木の葉でさえも慎ましげに聖誕祭を祝っているようで、
前日から町から少し離れた場所にキャンプを張り、最低限の警備は維持しながらも、ささやかながらその日を祝うことにしたのだった。


かくしてささやかながらも楽しいパーティは始まった。
そう余裕があるわけでもないので、食事の内容も普段と特に変わらないし、煌びやかな装飾も、素敵なプレゼントもなかったけれど、
夕食のあとに焚き火を囲んで、町で買ってきた少しだけ特別なワインと、甘い干しフルーツ、それだけでとても幸せな気持ちになれたのだ。
まぁ、そんなロマンティックな雰囲気も長持ちはしなくて、今日はもう見張りの無いムスタディオあたりがエールに酔っ払って、
調子はずれの歌を数人で歌い始めてからは、いつもは厳しいお顔のオルランドゥ伯まで巻き込む大合唱が起こったり、
マラークが蛙を使ったかくし芸を披露したら、ラッドが対抗して傭兵隊仕込みの一発芸を始めたりと、まぁ、これはこれで楽しいのだけれど。



そして私、アリシアはといえば、ラヴィアンや数人の仲間、歌い疲れたムスタディオたちと、「サンタクロースの存在」について激論していた。
勿論皆、本気で信じているわけでは無いのだけど、なかなかの白熱した議論になり、熱血漢のガストンに至っては
「何も解っちゃいないんだ!サンタが居ないなんていうやつには『俺がサンタだ!』だって言ってやるンだよッ!」とばかりに吼えるほどだった。


そして議論の盛り上がりも最高潮になったときのこと
「―サンタクロースは確かに居るさ。少なくとも私はそう信じているよ。」
アグリアス様が静かに呟いた。
「意外だなぁ、姐さんって結構ロマンティストなんスねぇ。」
と、ムスタディオが本気で感心した様に言う。



何気に失礼な発言にも思えるのだけど、アグリアス様は気にした様子もなく、それどころかだんだんと顔を火照らせながら
「そうかもしれん。だがなムスタディオ、我々は今までルガウィなどという伝説の怪物さえもこの目で見、戦いすらした。
 御伽噺の怪物が居て、同じ御伽噺のサンタクロースが居ないなどということはあるまい?
 それに、だ。考えても見ろ。ルガウィは悪しき心に聖石が反応して生まれるが、また聖石は、清き願いに呼応して奇跡も起こす。
 つまりだ、強い願いや意思というものには不思議な力があるのかもしれんぞ?
 それならば、少なくとも今日のこの日、国中の子供が実在を強く願い、また、信じているサンタクロースが存在しないなどと何故言える?
―それにな、ここだけの話だが、私だってもう二十年もサンタクロースを信じているし、願ってもいる。私のような人間も一人や二人じゃあないだろう。
 ならばもう疑う余地は無いさ、そう『今さら疑うものか! 私はサンタを信じる!!』」


アグリアス様はそう言って笑っていた。
アグリアス様の部下としてチームを組んでから長いけれど、そんな風に笑うアグリアス様の顔は同性の私から見てもとても綺麗だったし、
そんなアグリアス様の横顔に見とれているラムザ隊長が微笑ましくもあって。
こんなに幸せな気分になれたのはのはきっと。
サンタクロースがくれた贈り物なのかもしれない。と思ったのだ。