氏作。Part30スレより。




聖アジョラ聖誕祭前夜。
子供達はサンタクロースからのプレゼントを楽しみに夜を向かえ、
けれど夜更かしする子にはサンタさんは来ないよと親に言われ、
期待に胸膨らませながら床に着くのだった。


サンタクロース。
純真無垢な子供の所にだけやって来る。
真っ赤なお鼻のトナカイさんの引くソリに乗って。
そんなサンタさんの存在を信じていたのはいつまでだっただろうかとアグリアスは思った。


異端者ラムザ一行はクリスマス・イブをとある丘で野営してすごす事となった。
異端者である彼等が教会のミサに参加する訳にもいかず、
追っ手から逃れるため常に旅を続けねばならない身であったため、
せっかくのイブは丘で野営となってしまったのだ。


その日、アグリアスオークスは夜の警備の当番だった。
みんなが寝静まった後、一人静かに干し肉をかじる。何と惨めなイブだろう。
それでも愚痴ひとつ言わず警備を務めるアグリアスオークスは立派だった。
そんな彼女だから、聖夜の奇跡が起こる。


「むっ!? 何だ、この気配は……」
ルカヴィにも匹敵する強大な力を感じ取ったアグリアスは、即座にアイスブランドを抜いた。
そして仲間を起こそうと思った矢先、それに気づく。
真っ赤な何かを光らせながら、空を駆けてやってくる影に。
それはアグリアスの前までやって来ると、月明かりと焚き火の光に照らされその姿をあらわにした。


山羊である。
ソリである。
……って、山羊って何だ。
真っ赤なお鼻の山羊さんが、ソリを引いてやって来た。
そしてソリに乗っている青年がアグリアスを見て言う。
「磨羯の二日。サンタクロースとしてプレゼントを配りに来たぞ」
「さ、サンタクロースだって?」
「私は『磨羯二日目』と書いて『サンタクロース』と読むシュラ!
 逆賊の汚名を着ながら地上の愛と正義のために戦うお前達に、熱き血潮の兄弟のような共感を抱き、
 こうしてプレゼントを持って現れたのだ!」
サンタクロースを名乗るシュラという男は、ソリから降りてアグリアスに歩み寄った。
そしてアグリアスの装備をジロジロと見回す。
「ふむ、なるほど。攻撃力に勝るルーンブレイドではなくアイスブランドを選んだ理由は、
 黒のローブにより属性強化を目論んでの事か。そしてアクセサリーはブレイサー。
 聖剣技の威力を精いっぱい高めようとする努力が見られる。
 恐らくはお前にセットされたアビリティは攻撃力UP! 実に健気だ」
「ぬうっ! 一目でそこまで見抜くとは、サンタとは恐ろしい男だ」
「しかし不憫! このシュラには解るぞ。剣技持ちの仲間の中、唯一騎士剣を持たぬお前の嘆きが!」
「な、何と……」
まさかそこまで見抜かれるとは。
全剣技を使い、永久ヘイストを持つエクスカリバー一騎当千の活躍をするオルランドゥ伯。
剛剣を使い、永久プロテスを持つセイブザクィーンで獅子奮迅の活躍をするメリアドール。
しかし、だがしかし。
聖剣技を使うアグリアスは騎士剣を持たず、普通に店売りしているアイスブランドで戦っている。
一時期ディフェンダー狙いでタイジュを密漁した事もあったが、
毛皮骨肉店に並ぶのはまもりの指輪ばかり。もうあきらめていた。


「おお……まさか、サンタクロースのシュラよ。貴方は私に武器を授けようとしているのか……」
「その通りだ。黄金聖闘士の中でも最強の威力を誇る我が聖剣、エクスカリバーをな!」
キラーン! 黄金の鎧に包まれた彼の右手が光る。
「え、エクスカリバーだと!? オルランドゥ伯の持つ、永久ヘイストのエクスカリバーか!」
「否! 俺が授けるエクスカリバーは武器にあらず。
 それは心身共に鍛え抜かれた者のみが習得できる必殺の奥義よ!
 さあ、武器を取れ。そして俺と戦い、見事エクスカリバーをラーニングせよ!」
シュラの右手が光速の軌跡を描く。アグリアスはそれをまともに受け、アイスブランドを破壊された。
「な、何という威力とスピードだ……」
「どうした! お前の小宇宙はそんなものか、心を燃やせ! そして見極めるのだ!」
「う……うおおっ!」
ブレイブアップ! アグリアスのブレイブが上昇した!
「もう一度見極めろ! エクスカリバー!」
「むんっ!」
タイミングを見極め、アグリアスエクスカリバーの軌跡を見切る。見切ってかわす。
「そうだ! その呼吸を忘れるな。今一度だ、エクスカリバー!」
「でいっ!」
白羽取り! 見事サンタクロースのシュラ渾身の一撃を両手で受け止めた。
「それでこそ俺の見込んだ騎士!
 次で最後だ、今のお前なら極限まで高めた小宇宙でエクスカリバーをラーニングできる。
 受けよこれぞサンタクロース最後の拳、エクスカリバー!」
「うおおおっ!」
シュラのエクスカリバーアグリアスの腹に突き刺さり、左手で手首を掴まれ止まる。
「お、おお……アグリアス、お前……」
「しかと……見せてもらった!」
肉断骨斬! アグリアスの右手が光速の軌跡を描く。
「サンタクロースのシュラよ! これが、これが私の……エクスカリバーだ!」
シュラの身につける山羊の角を生やしたサークレットが吹っ飛ばされる。
「……見事だ、アグリアスよ……」




………………。
…………。
……。
「はっ!?」
アグリアスは焚き火の前で突如立ち上がった。
いつの間にか眠っていたようだ、いったいどれだけの時間眠っていたのだろう?
周囲を見回す。そこには山羊もソリもサンタもいない。腹部の傷も無い。
「夢……だったのか?」
戸惑いながら、アグリアスは地面に落ちている砕けたアイスブランドを見つけた。
「夢ではないとしたら……私は……」
その時、アグリアスの心に直接誰かが呼びかける。


――アグリアスよ、忘れるな……。
――お前の右腕には俺が授けたエクスカリバーが宿っている事を……。


後日。
「シュラの魂腕に宿して小宇宙燃焼! エクスカリバー!」
なぜかアグリアスの装備欄の右手が素手であるにも関わらず「エクスカリバー」になっていた。
しかも装備変更不能と来ている。
これでは聖剣技が使えないと困っていたラムザだが、アグリアスは自信満々で戦場に出た。
そして放たれる光速の一閃。
オルランドゥの全剣技を凌ぐ威力の一撃が一列に並んだ敵を一網打尽にする。
「す、すごい……アグリアスさんはいつの間にこんなアビリティを習得したんだ……」
驚嘆するラムザとその仲間達。
こうしてラムザ達は逆賊『異端者』の汚名をかぶりながら数多の戦いを潜り抜け、
見事神殿騎士団団長ヴォルマルフとその黒幕の野望を打ち砕いた。
そしてその活躍の中、アグリアスはまさに黄金の山羊の如き活躍を見せたのであった。




   真っ赤なお鼻の山羊さんに乗って THE END