氏作。Part30スレより。
とある街とある宿、ラムザの部屋にアグリアスが訪れた。
「ラムザ。部隊の装備品の件で話が……ラムザ?」
机の上で何かを布巾で磨いていたラムザは、アグリアスの呼びかけに気づき振り向いた。
「あ、アグリアスさん。何か御用ですか?」
「ああ。装備品の件なのだが、真言を使えるラファとマラークの武器は後回しにして、
今は儲け話を円滑に進められるようラッド、アリシア、ラヴィアンの装備を優先――。
さっきから気になっていたのだが、それは何だ?」
ラムザが手放さず持っている人型のそれをそれを見てアグリアスは言った。
するとラムザは少し照れながらそれにバンザイのポーズを取らせた。
「お人形ですよ。久し振りに手入れしようと思って、綺麗に拭いていたところです」
それは木彫りの人形だったが、人の形を成しているだけでずいぶんとお粗末な出来だった。
胴体に丸い頭が乗っかり、手足は一応の関節をつけてはいるが、どうにも荒削りだ、
これといった装飾も無く、顔もどっちが前でどっちが後ろか解らない有様。
「少年が騎士の人形で遊んでいる姿を見た事はあるが、何だかずいぶん適当な作りだな」
「はは……仕方ありませんよ。士官学校に入る前のディリータが作った物ですから」
「む……あの男がか?」
アグリアスにとってはオヴェリアをさらおうとした印象の悪い男だったが、
ラムザからわずかに漏れ聞いた話で妹を亡くした可哀想な男らしいと知っていた。
そして、ラムザの幼馴染みだという事も。
「誕生日プレゼントを贈るお金が無いからって、一生懸命作ってくれて……。
兄上や父上からもらった衣装や雅な剣より、この人形の方がずっと嬉しかったです」
「……そうか…………」
懐かしさに浸るラムザを見て、自分では立ち入れない世界をアグリアスは感じた。
ラムザは人形をそっと机に置いて、アグリアスと向き直った。
「それで、ええと、ラッド達の装備でしたっけ。そうですね、検討してみます。
でもアグリアスさんに新しい強い剣を用意したいですし、
それとそろそろエクスポーションとフェニックスの尾の補給も必要ですから」
「そうか……解った。それと私の武器なら、できれば……」
「ラムザ、ラッド、いるか?」
アグリアスの言葉をさえぎって、部屋の戸が開きムスタディオが飛び込んできた。
ラムザは視線をムスタディオへと向けて「何だい?」と微笑む。
「ラムザだけか。悪いんだけど、ちょっと来てくれないか?」
「何かあったのか?」
「ボコの具合が悪いんだ。今、ラヴィアンがなだめてるんだけど……。
こういうのはラムザの方が知識あるだろ? ちょっと診てやってくれないかな」
「解った、すぐ行くよ。アグリアスさんはここで待ってて、話の続きを聞くから」
「ああ、解った」
うなずくアグリアスを見て、ラムザはムスタディオと一緒に部屋を出て行った。
一人残されたアグリアスは、ふと机の上に置いてある人形に視線を向ける。
「あの男の手作りか……ふむ、どれ」
持ち上げてじっくり観察してみる。士官学校に入る前のプレゼントという事は、
その時の年齢も推察でき、年齢を考えればそれほど悪くない出来に見えてくる。
「ふむ……手足も一応動くのか。首も回るのだな……」
カシャカシャともてあそんでるうちに、何ともいえない感情が込み上げてきた。
アグリアスは人形にお辞儀をさせて声を裏返して言う。
「コンニチハ、僕ラムザクン」
そうやると何とも愛嬌たっぷりに見えてくるから不思議だ。
そしてふと、思い出す。こないだ鉄巨人労働八号が動き出した姿を。
「どれ……鉄球変形ー! なぁんて……」
ボキン。
コト。
コロコロコロ……。
「…………はぁぁぁっ!? く、首がぁぁぁっ!」
テーブルの上に転がった首を慌てて拾い上げ、アグリアスは元の場所に押し込んだ。
「だ、大丈夫だ。こんな物、こうして押し込めば……!」
コロリ。
「押し込めば……」
コロリンコ。
「…………」
――誕生日プレゼントを贈るお金が無いからって、一生懸命作ってくれて……。
――この人形の方がずっと嬉しかったです。
人形を抱えて青ざめるアグリアス。
「いかん……いかんぞこれは……何とかして元に戻さねば……」
ラムザが戻ってくる前に。と、慌ててアグリアスは部屋を駆け出し、自室に戻った。
「のり、のりはどこだ。確かここに……あった。接着合体ー!」
ガシーン!
「これでよし!」
「何がよろしいんですか? アグリアス様」
と、部屋に入ってくるアリシア。
「ぬはーっ!? いいい、いや、何でもない」
人形を背中に隠し、アグリアスは冷や汗を思いっきりかいた。
「そうですか? 何だか様子が変ですけど……」
「変じゃないっ」
「何かあったんですか?」
「何もないっ」
「はぁ……」
アグリアスに押し切られ、アリシアは眉根を寄せてしまう。
何とかこの場から脱出せねばならない。アグリアスの脳は現在フル回転だ。
「あ、そうそうアグリアス様。私達の装備の件、どうなりました?
儲け話部隊とはいえ、やっぱりちゃんとした装備がないとつらいんですよ。
この前だって刃の通じない巨大な白虎と戦って……。
ラッドがリヴァイアサンで押し流したら、幸い逃げていってくれましたけど」
「あ、ああ。結局退治できなかったという例の儲け話か。難儀だったな。
様々な状況に対処できるよう柔軟な装備を整えるよう私からラムザに言っておく」
「さっき言いに行ったんじゃないですか?」
「も、もう一度言いに行くのだ!」
アリシアに背中を隠したまま、アグリアスは部屋から飛び出して行った。
そしてラムザの部屋に戻り、ドアを閉めるのも忘れ机に一直線に向かい、人形をそっと置く。
「よし、完璧だ!」
「何がだよ」
ラッドがベッドに腰かけていた。
「は、はうあー!? ららら、ラッド、いつからそこに!?」
「いつって……ついさっきだよ。ラムザの奴どこ行ったんだ?
それに今お前が持ってきたのは何だよ。……あん? 人形かそりゃ?」
ベッドから起き上がり、机までやって来たラッドは乱暴な手つきで人形を持ち上げる。
「はわっ!? らら、ラッド、もう少し丁寧に……」
「騎士様がお人形遊びか? 女の子らしいところもあるもんだな。
……ん、こりゃ素人の手作りだな。懐かしい、俺も作った事があるぜ。
間接のところで苦労したんだよなぁ、例えば首なんか、こう……」
「ただいまー。ボコは足に棘が刺さってただけでし……」
ミシッ。
コト。
コロコロ…………。
開けっ放しにされていたドアから部屋に笑顔で入ってくるラムザ。
それとほぼ同時に首が転げ落ちる人形。
全身を凍りつかせるアグリアス。
転げ落ちた人形の首を見るラッド。
「何だ、取れたぞ……」
「あ、あ、ああ〜……」
人形の惨状を見てラムザがうめき声を出し、瞳を潤ませた。
それを見てラッドは人形の持ち主が誰だか気づく。
「これラムザのか? いい歳こいてこんな人形後生大事に持ってんじゃ……」
「疾風! 地烈斬!」
ドンッ、とラッドの足元が弾け飛んだ。
「あわびゅ!?」
ラッドの手から人形がテーブルに落ちる。
ラムザは闘気をみなぎらせながらラッドへと歩み寄った。
「波動撃!」
「ぐぼげ!?」
腹部に強烈な気の一撃を喰らい悶絶するラッド。
「連続拳!」
「ぎゃぶほあっ!?」
顔に、胸に、腹に、手に、足に、ラムザの鉄拳が乱舞する。
「ららら、ラムザ。そ、それくらいにしてやった方が……」
「裏回し拳!」
今度は遠心力を乗せた一撃をラッドのテンプルに打ち込み、ぶち倒すラムザ。
倒れたラッドに馬乗りになると、胸倉を掴んで引っ張り上げ、顔面にパンチパンチエルボー。
「虚栄の闇を払い、真実なる姿現せ、あるがままに!」
「ら、ラムザー! それはやめ……」
「アルテマ!」
「ぐげあぁっ!!」
悲鳴を上げて破滅の光の中に消えるラッドとラムザ。
距離が近すぎてラムサも巻き添えを受ける大惨事となったのだった。
そして事件のすべてを知るアグリアスは、今さら言うに言い出せずひたすら二人にケアルガを唱えた。
――後日。とある街とある宿、ラッドがアグリアスの部屋を訪れた。
「アグリアス、ちょっと来い」
「……はい」
ラッドの言葉に従順に従うアグリアスを見て、アリシアとラヴィアンは目を丸くした。
そしてアグリアスはラッドに宿の裏口まで連れてこられる。
「さて、俺が何を言いたいか解ってるな?」
「……うむ」
「首の取れ方が不自然だった。何かのりでくっつけてあったような感じでよぉ」
「…………うむ」
「……お前だろ、壊したの」
「……………………そうです」
ガクリとうなだれるアグリアス、降参のサインだ。それを見てラッドはため息をついた。
「俺の装備に呪縛刀二本とシーフの帽子とブレイサーを回せ」
「そ、そんな高価な品は、ちょっと……」
「回せ」
「……はい」
こうして事件はラッドが泥をかぶる形で解決したのだった。
お し ま い