携帯八号短編型

氏作。Part36スレより。

緩やかな白銀の軌跡を描く剣が、闇夜を彩る。 「ふ……」 舞踏を終え、アグリアスは軽く息を吐いた。 「踊ることでさえ剣に頼るわたしは滑稽だろう?」 アグリアスが苦笑して告げると、広葉樹の陰から、ラムザが拍手をしながら現れた。 「いいえ。綺麗です」 …

氏作。Part32スレより。

右手に持っていたオークスタッフを、右手首を返した勢いで、縦に回転させながら、呪文を唱える。 「聖石キャンサーの力を、マジカル・ホーリー・ナイトの意志に依って行使する! 光よ、貫け! 蟹・ホーリー!」 回転させていたオークスタッフを右手に持ち直…

氏作。Part32スレより。

広葉樹の根元、アグリアスは、ラムザを庇いながら地面に座っていた。 「痛っ……!?」 アグリアスの腿の上に頭を乗せているラムザが呻いた。 「じっとしていろ」 アグリアスは、ラムザが失っていた意識を回復したことに安堵しつつ、なるべく冷静に告げる。 「ぼ…

氏作。Part32スレより。

「いっそ、聖石の力を行使しますか?」 「……む?」 ラヴィアンに問われ、アグリアスは首を傾げた。 午後の間食の最中だが、迂濶にも転た寝をしていたので、話を理解できなかった。 (わたしは堕落している……) 小さく嘆息するアグリアスに、ラヴィアンは、苦…

氏作。Part31スレより。

廊下の、曲がり角の陰に身を隠しながら、アグリアスは嘆息した。 (わたしは、なにをしているのだ……?) 胸中で、自らに問うが、思いつく答えは、くだらないものばかりだった。 要するに、自分は、くだらないことをしているのだと、アグリアスは渋々と認めた…

氏作。Part31スレより。

アグリアスの部屋の中央、アリシアが入れた茶と菓子が置かれた卓を囲み、 アグリアスは俯き、ラヴィアンは卓に両腕で頬杖を突き、アリシアは姿勢を正し、椅子に座っていた。 「おまえたちに、相談したいことがある」 アグリアスが切りだすと、ラヴィアンが、…

氏作。Part31スレより。

「アグリアスさまは、やまびこ草の花言葉を知っていますか?」 アリシアが、アグリアスにやまびこ草を渡しながら訊いてきた。 沈黙の呪詛を受け、喋ることのできないアグリアスは、首を横に振り、否定を表す。 「なあに、空想家の、甘ったるい講釈?」 から…

氏作。Part31スレより。

放棄された要塞は、表立つ進軍のできない旅団が、嵐を凌ぐのには適していた。 自分以外は誰もいない、明かりの消えた会議室で、アグリアスは、腕を組み、壁に凭れていた。 既に失われた責を務める、古びた要塞を、強い風雨が叩いている。 嵐の中を無理矢理に…

氏作。Part31スレより。

扉を開けて部屋に入ると、ラムザが、なにやら面妖な工作をしている。 「なんですか、アグリアスさん?」 椅子に座ったまま上半身を捻ってこちらを向き、ラムザが訊いてきた。 「茶を入れた」 持っている盆の上の、湯気を立てる茶碗を、顎で示す。 「ありがと…

氏作。Part31スレより。

その祠は、人の干渉から逃れるように、森の深くにあった。 「取り敢えず、内部へ入ってみましょう」 「ああ」 ラムザの案に賛成し、アグリアスは、祠の扉を慎重に開けた。 石の擦れる重々しい音が終わると、封じられていた過去の空気と、現在の空気が、混じ…

氏作。Part31スレより。

暗い部屋は、外の喧騒から隔絶され、闇の優しさを与えてくれていた。 寝台の感触は心地の好いものであったが、澱む思惟が、呼吸音と耳鳴りさえ苛立ちに換え、眠ることを妨げた。 仲間たちは、それぞれ、思うままの休日を過ごしているのだろう。 だが、アグリ…

氏作。Part30スレより。

白銀の光を剣に宿し、闇夜ごと魔物を斬り裂く。 魔物の断末魔の悲鳴は、傷口に染み、アグリアスは顔を顰めた。 癒しの呪文を唱えようとしたが、頭痛にふらつくはめになった。 剣を鞘に収め、髪を掻き上げ、重い息を吐く。 味方も苦戦していたものの、負けは…

氏作。Part30スレより。

風に髪を靡かせ、アグリアスは曇天を見上げていた。 空を覆う雲は、決意を蝕んでくる。 剣では斬り払えない惑いは、身に纏った武装よりも重かった。 オヴェリアを政争の具から解放すること。闇に蠢く邪なものたちの企てを破ること。 自らに課した責務は、遅…