氏作。Part29スレより。
ラヴィアンは対峙していた、弓使いの女と。
近づこうとすれば逃げられる。ジャンプすると回避に融通が利かず的になりかねない。
(とはいえ、このままジリ貧だと、弓で援護射撃される。イチかバチか!)
一足飛びに肉薄するラヴィアン。その直線的な機動に狙いを定める弓使い。
自動弓の矢を撃つ。狙いは、ヘッドブレイクで剥き出しになった頭部が狙い。
わずかに首を捻るも、やはり突進が強引だったため回避しきれず、
矢はラヴィアンの頭蓋を滑り額を横に鋭く裂いた。
「女の顔にィッ!」
言いながらクリスタルの盾を持った手を振り上げるラヴィアン。
直後、弓使いの足元の草がぶわっと伸び、彼女の足に絡みつく。
(風水術!? ナイト、ジャンプ、一度に多数のアビリティは……風水返しか!)
即座に分析して、弓使いは己の敗北を悟った。蔦地獄で足を絡め取られた今、攻撃をかわす術は無い。
ラヴィアンの眠りの剣が弓使いの肩を貫く。
痛みと同時に強烈な眠気、意識がふっと消えた。
やった、と思ったラヴィアンもまた異変を感じ取る。心臓が酷く脈打つ、血が熱い。
「うぐっ……ポイズンボウ? やられた……」
毒の苦しみに膝をつくラヴィアン。それを視界の端でとらえ、アグリアスは駆けた。
「忍者を任せた!」
「了解です」
返答と同時にアイスブランド二本を振るうアリシア、一撃目は見切られ回避されるも、ニ撃目が命中する。
「ブリザラのオマケです」
切り裂かれた胸、傷口を冷気で侵食され内蔵が凍てつく。
「ぐ、ああ……!」
「トドメ!」
再び二連撃を繰り出そうとするアリシアだが、剣を振りかぶった刹那、忍者の姿が煙のように消える。
「潜伏です! 忍者が消えました、ご注意を!」
フェザーマントと二本のアイスブランドを振り回して自分の近くに忍者がいないと確認するアリシア。
だがあの忍者は手裏剣以外にも拳術地烈斬を習得している。常に全方向を注意。
先手を取れないなら自分は防御に専念、近くの木に背中を預け、マントで身を覆う。
(どこ? いつ来る? 狙いは私? アグリアス様? ダメッ、止まってたら的だ!)
見えない恐怖を前にじっとしている事ができず、アリシアはアグリアスを追った。
「天駆ける風、力の根源へと我を導き、そを与えたまえ! エスナ!」
白魔法を唱える。毒で苦しむラヴィアンの身体を柔らかい光が包んだ。
「っく……ありがとうございます。弓使いは眠らせました」
「忍者は潜伏、陰陽士はテレポで移動、黒魔法も使う。どこから何が来るか解らん」
「それってヤバくないですか?」
「三対ニだ、そう考えろ」
「ラヴィアン、大丈夫!?」
ラヴィアンが毒で苦しんでいた姿を見たアリシアは気遣って二人に近寄る。
「エスナで治療し――固まるな!」
アリシアが、アグリアスとラヴィアンに駆け寄って、その間に空間の歪み。テレポで現れる陰陽士。
ショートチャージによる高速詠唱。虚を突かれたが故の反応の遅れ。
「全てが神の作りたもうたありのままであることを祈る……」
唯一アグリアスは危険を察知し後ろに飛んで逃げた。
「信祈仰祷!」
光が三人を包む。ラヴィアン、アリシア、陰陽士。
信祈仰祷、効果はフェイス状態。魔法の威力が自他共に最大限に発揮される。
敵は黒魔法も使える陰陽士、形勢は一気に不利に傾いた。
信祈仰祷の光に困惑したラヴィアンとアリシアの動きが止まる。
その隙にテレポで陰陽士はラヴィアンの背後に移動。
「肉体の棺に宿りし病める魂を永劫の闇へ還したまえ……碑封印!」
「しまっ……」
背後に現れたため姿を確認できず回避行動を取れなかったラヴィアンは、足元から石化を開始した。
事実上の戦闘不能。陰陽士の唇が弧を描きかけ、すぐ引き締まる。
巻き込まれたもう一人の女は、アリシアはフェザーマントで回避していた!
そしてアイスブランドを握ったままの手で、陰陽士を指差す。
様々な騎士団や異形の物との戦闘経験は伊達ではない。
アリシアはテレポで逃げ居場所を掴ませない陰陽士を確実に仕留めるべくターゲット、ロック。
「風、光の波動の静寂に消える時」
未だ無傷の陰陽士をアイスブランドで仕留めきれるかどうか疑問、フェイス状態を逆手に取る一手。
慌てた陰陽士はテレポで逃げる、が、一度セットされた魔法から逃げる術は無い。
「我が力とならん……シヴァ!」
アリシアの眼前に陰陽士とシヴァが現れ、二人の身体を冷気が覆う。
無論、召喚魔法ゆえアリシア被害は無い。だがその前にテレポ移動した陰陽士は別だ。
(逃げるなら、何でこんな所に!?)
シヴァの攻撃を受け瀕死に陥った陰陽士の身体が光り、
ヘイストがかかったかのように高速で移動する。瀕死クイック、そしてショートチャージ。
「肉体の棺に宿りし病める魂を永劫の闇へ還したまえ」
碑封印が来る、フェイス状態の自分なら命中率は高い。フェザーマントで再び避けられるかは運だ。
やられる前にやる! 即断、腰を落とし腕を引き、アイスブランド二本を一直線に突き出す。
「碑封印!」
アイスブランドが陰陽士の胸部を貫き、氷結させた。剣は貫通し、冷気は直接内臓へと注ぎ込まれる。
同時にアリシアの身体が石化する、剣を突き刺したまま。
これは、死ぬな、と陰陽士は確信した。だから――遺言。
「最後まで、あきらめるな! ターゲットを殺れ!」
これで残るは本来のターゲット、アグリアス・オークスただ一人。
そして仲間の忍者は潜伏しどこにいるか解らないという状況。
アグリアスがいかにプロテスとシェルに守られていようと、これは絶対の不利だ。
氷結が――心臓にまで達し、陰陽士は息絶えた。
「――これで、一対一だな、アグリアス・オークス」
何もない所から声。アグリアスは即座にそこに不動無明剣を放つ。
当たったか? 外したか?
「なぜ狙われているか、解るか?」
「異端者の仲間だ、当然だろう」
余計な口を一切きかず、無音で暗殺をする忍者は、あえて語りかけた。
この女は強い。潜伏状態の今、後ろか、横からか、アグリアスののどへ忍者ロングを突きつけてやれば終わりだ。
首からの出血は激しい。頭部や胸部を傷つけられるより致死率の高い場所だ。
狙いを定める忍者。プロテスの膜を破って攻撃、アグリアスの隙を突いて攻撃。
だが刹那の殺気を感じ取り、回避される恐れがある。
(確実性を得るため心理戦を仕掛けさせてもらう)
忍者は無音で草地や落ち葉の上を歩きながら言葉を続けた。
「お前を恨んでる奴がいるんだよ。異端者かどうかなんて関係ない。個人的な恨みを持った奴がな」
「……戦場で血を流せば、自然とそのような者も生まれよう」
「戦場じゃあない……お前が、アグリアス・オークスであるから、殺されなければならない訳がある」
「貴様等、何者だ」
「カミュジャ」
聞き覚えがある。ラファとマラークがかつて所属していた暗殺集団だ。
「だが、私情は挟まない。恨みも忘れよう。我々はただ任務を遂行するのみ」
「……に…………揺らす……」
「聞いているのか! アグリアス・オークス! 知りたくはないか? 誰がお前を殺せと依頼してきたか」
「……躍動……め…………」
「お前の敬愛する"あのお方"からだ!」
敬愛する"あのお方"と、あえて特定しない事により、アグリアスに思考を走らせる。
(――誰、だ!?)
敬愛する人物。
オヴェリア様、父上、聖近衛騎士団の団長、オムドリア王、ルーヴェリア王妃、ラムザ、オルランドゥ伯――。
刹那の間に浮かぶ幾人かの名前。
その刹那を忍者ロングが突く。さらに刹那の殺気がアグリアスを反射的に動かした。
わずかに首を引く、のどが裂けた。
傷は、浅い? 深い? 致命傷? 出血、吹き出る鮮血。
「……イズ!」
明らかに戦闘不能となるダメージ。プロテスの効果が無ければ死んでいた。
意識を手放す一撃に、わずかな猶予を与えてくれたプロテスの光に感謝しつつ、彼女は言い切った。
仕留めたと確信した忍者の前に柔らかな光が舞い上がる。
すると、傷口はそのままに見る見る出血だけが止まる。
リレイズ。戦闘不能から自動復帰する白魔法。
攻撃の影響で潜伏の効果が解けた忍者をアグリアスは睨んだ。
(仕留めきれていない!)
判断は早かった。忍者ロングの一撃はもう終わっている、次は小太刀でアグリアスの腹を切り裂く。
プロテスの威力により手ごたえがわずかに鈍る。内臓にまでは至らない。
アグリアスが剣を振った。
「無双稲妻突き!」
アグリアスの周囲に轟雷が落ち、その範囲内に忍者がいて、巻き込まれた。
「ぐおおっ!」
「暗殺者か……。戦争が終わった今、その力、他に生かす道は無かったのか?」
「くっ……ははっ。ただただ人を殺す事だけを修練してすごした我等、今さら、
己の力以外、人を殺す技術以外、何を信じて生きればいいんだ?」
言いながら、なおも忍者ロングを振るう忍者、その刃をディフェンダーで弾き返すアグリアス。
(この男は――駄目だ。性根にまで暗殺者こ心構えを植え込まれている。
今見逃しても、人を殺す事でしか生きてゆけぬ哀れな人種……ならば、ここで介錯してやるのが最善……か)
不要な殺人は好まぬところ。だが、この男は殺しておかねばなるまい。
苦しまぬようにと、アグリアスは全力を込めてディフェンダーを薙いだ。
肉と骨を断つ、嫌な感触。何度経験しても慣れない。
忍者の首から鮮血が噴出し、斬り飛ばされた頭が近くの木にぶつかって地面に転げ落ちる。
ディフェンダーを振ってこびりついた血を振り払い、鞘に収める。
決着はついた。残るは、眠りの剣で眠らされた弓使いが一人――。
to be continued……。