氏作。Part27スレより。
とある街のとある宿。
アグリアス・オークスはラヴィアンとアリシアの勧めで酒を飲み、いい感じにほろ酔い気分を楽しんだ。
「どうせなら、ラムザさんもお酒飲めるようになればいいのに」
「ですよねぇ。やっぱり殿方と一緒に飲むというのも、また……」
などと言われて、からかい出されてからアグリアスはその場を退散した。
酔い覚ましに風呂でも入ろうとアグリアスは思い、この宿が露天風呂だった事を思い出す。
「楽しみだな……うふふ」
ほろ酔い気分のアグリアス、浮かれて脱衣所見つけたら、そのままとっとと入っちゃう。
のれんには大きな文字で『男』と書かれていたが、異国の文字なので読めませんでした。
横にちゃんとどっちが男湯でどっちが女湯か書かれていたけど、
ほろ酔い気分のアグリアス、そんな細かい事は気づけません。
ってな感じで脱衣所でとっとと服を脱ぎ、全裸で露天風呂に突入するアグリアスさん。
お風呂は白く濁っていて、腰痛とかに効能がある天然の温泉だそうだ。
しかも美容にもいいとあっては、女としては入らずにはいられまい。
軽く身体を流してから、さっそくアグリアスは湯船に浸かった。
普段は鎧の下に押し隠されている乳房も、今は少し湯に浮いて、その上半分を夜空に晒していた。
夜空。そう、見事な夜空であるとアグリアスは見上げる。
星々が煌く中、見事な満月が浮かんでいる。
「ふー。いい気持ちだ」
とアグリアスが呟いた直後、脱衣所の方で人の気配。
ラヴィアンとアリシアもやって来たのかと思い、特に気にせずお月見を続けるアグリアス。
そして、アグリアスが入ってるとは知らず普通に入ってくるラムザ。もちろん全裸で。
タオルを腰に巻いて隠すだなんて事はベオルブの名誉にかけてできません。ええ、できませんとも。
「おや、先客が……」
ラムザは人の気配に気づいたが、特に気にせず、まず身体を湯で流し、湯船にそっと入る。
チャプチャプと鳴る水音はアグリアスの耳にも届いていた。
ラムザは腰まで湯船に浸かり、先客の背中に向けて声をかける。
「こんばんは。今日は満月が綺麗ですね」
「うむ。実に素晴らしい満月だ」
何気ない会話の後、おや? と二人は首をかしげた。
何か聞き覚えのある声。そして、ここでその声が返ってくるのはおかしいぞ、と気づく。
アグリアスが振り返る。ラムザが身を乗り出す。
はい、ご対面。
アグリアスは見た! 腰まで浸かったラムザが、身を乗り出したためわずかに身体を上げたために見える、
金に輝く下の毛を! そして、白く濁った湯船の中わずかにかすれて見えるそれの輪郭を!
ラムザは見た! 二の腕あたりまで浸かったアグリアスが、振り返ったためにあらわになった、
見事なまん丸いお月様二つを! それ等は白く濁った湯船に隠れ、半月となってラムザの目に飛び込んだ!
「らららららら、ラムザ!? き、貴公、何故ここに!?」
「そそそそれはこちらのセリフです! ここは男湯ですよ!?」
「何と!?」
言われて、男湯か女湯か確認せず脱衣所に入った己の過ちを思い出すアグリアス。非は我に有り。
が、その間にも事態は刻々と変化しつつあった。
唐突にあらわれたアグリアスの裸体を前に、湯船に沈んでいたラムザのアレの輪郭が、
ムクムクと競り上がり夜空にそびえ勃とうとしている事実!
それがラムザを慌てさせ、股間を抑えて湯船に肩まで身を沈めた。
「と、とにかく、早く上がってください! ここ、男湯なんですから、その……」
「ば、馬鹿者! ここで上がったら、貴公に、その、見られてしまうではないか!」
言って、アグリアスも肩まで、いや、あごが触れるまでに身を湯に沈めた。
もしお湯が透明だったなら、これ以上の惨劇が起きていた事だろう。よかった白く濁ってて!
「ぼ、ぼ、僕は脱衣所と反対の方向向いてますから、その間に――」
「わ、解った。その間に退散させていただ――」
事態の解決のため動く二人をはばむように脱衣所の方で野郎共の騒がしい声が上がる。
「風呂だー! 露天風呂だー! 温ッ泉ッだぁぁぁっ!!」
「イェーイ! 一番風呂は俺のものぉぉぉっ!」
「させるかー! だがしかし風呂に入る前には必ず身体を流してからだぞルール守れよぉ〜」
明らかに酔っ払ってる声が三つ。
間違いない。ラッド、ムスタディオ、マラークだ。彼等が男湯へやって来た!
「い、いかん、今出たら……奴等に見られてしまう!」
「ど、どうしましょう? どこか隠れる場所は……」
見回して、気づく。無い、何も無い。
熱い源泉の流れ落ちる小さな滝や、積まれた風呂桶を除けば、あるのは男湯を囲む塀のみ。
隠れる場所などどこにも無いと、二人は思い知らされた。
そこに駆け込んでくる酔っ払い三人。
「うらぁっ! 身体流すなんざ、頭から桶一杯かぶりゃあ十分よぉ!」
「待てこら、ちゃんと息子も綺麗に流しやがれ!」
「後ろの方も忘れるな! ここテストに出るぞ!」
出ない。絶対に出ないとラムザは心の中でツッコミを入れる。
入れながら、ラムザは事態解決に向けて唯一ともいえる策を取る。
「アグリアスさん、とりあえず僕の後ろに」
「む……し、仕方ないな」
背中合わせになる二人。脱衣所側にラムザ、反対側にアグリアス。
背中越しに胸の鼓動が伝わる。双方、共に小動物の如き早さ。
「よぉーし俺が一番風呂……って、くそっ、先客がいたか」
「おー、ラムザ、お前だけ先に入ってるなんてズリィぞ」
「一番風呂はラムザか畜生メェ」
酔っ払い三人がぞろぞろとやって来て風呂に入ってきた。
男しかいない男のための男の領域であるため、無論、前など隠しはしない。
それが正しき男と男のつき合い方である!
その醜悪(かもしれない)光景を、アグリアスは後ろを向いていたがために見ずにすんだ。
「や、やあ……いい湯だね」
言いながら、ラムザは三人の様子を見た。どいつもこいつも見事に酔っ払っている。
どうこいつ等を追い払い、アグリアスを脱出させる?
隙を見てアグリアスを逃がす? それとも長湯をしてやり過ごす?
個人的には、長湯をしてやり過ごしたい気もするラムザだった。
だってそうすればもうしばらく、アグリアスとこうして一緒にいられるのだから。
湯船に入ってくる酔っ払い三人から離れるように後ずさるラムザ。
アグリアスもそれに従いちょこちょこと前進する。
「どーしたラムザ、縮こまって。もっと堂々としろ」
「そうそう、ベオルブの名刀を俺達にも見せやがれいっ」
「まさか鞘をかぶったままか? アヒャヒャヒャヒャ」
(鞘どころかすでに抜き身で臨戦態勢だよ……)
これではラムザも湯船から出る事ができない。
酔っ払い三人が己に近づかない事を祈るしかなかった。
近寄ってきた。祈り、届かず――。
「ほぉーれ、こうしてブンブン振り回して歩くのが男の花道ってもんよぉ」
「おおっ、さすがラッドの旦那。だが俺の大砲も負けちゃいないぜぇ」
「黒光りする俺のモノを忘れてもらっちゃ困るぜ。ほら、ラムザも見せろ見せろ〜」
(ああ、なんて最悪な展開……)
ラムザは湯船の熱以外の理由で汗が出るのを感じた。
――とその時、ラムザの背中をアグリアスの頭がすべり落ちる。
すでにほろ酔い状態だったアグリアスに、首まで浸かっての長湯は危険だったのだ。
そのすべり方に異常を感じたラムザは、咄嗟に振り向いてアグリアスを抱き支える。
むにゅっ、むにゅっ。
やぁーらかい感触が手のひらに広がる。これは、まさしく、アグリアスさんの、お、お……。
ラムザは思わず腰を引いた。今の自分のやんちゃ坊主が、アグリアスさんの背中に触れでもしたら一大事だ。
アグリアスはというと、湯に当てられたのか目を回してしまい、
ラムザに抱き支えられているという事にさえ気づいていなかった。
「よぉどーしたよラムザ、背中なんか向けて」
「もしやラムちゃんのはそんなにお粗末な物なのかな〜?」
「見せろ見せろーヒャッホ〜イ!」
(ああ! 少なくとも今の君達より倍は大きいよ!)
何とかバレずにやり過ごしたいラムザは四方八方に視線を向け、ふと、気づいた。
「それより見てください。今宵は見事な満月ですよ」
両手いっぱいに満月を抱えながらラムザは天を見上げる。
釣られて、酔っ払い組も天を見上げる。
「おおっ、そーいやそうだなぁ。しまった、月見酒すりゃよかったよ」
「月見酒とは、これまた渋いですなぁラッドさん! OK、つき合いやしょお!」
「何だ、飲み直すのか?」
所詮は酔っ払い、ラムザの誘導にあっさり引っかかってくれた。
これ幸いとラムザはたたみかける。
「そ、そうですね、月見酒なんていいじゃないですか。行ってらっしゃいな。
僕は、お酒は駄目だから、月見風呂でも堪能してますから。さあさ、おいしいお酒が待ってますよ〜」
「ん〜……いいねぇ、月見じゃ月見、つまみは団子じゃー!」
「団子ならラッドさん! 我々みーんな二つも持ってるじゃないですか! ラッドさん!」
「ゲェロゲロゲロ! そんな団子食いたかねェー!」
笑いながら立ち去っていく酔っ払い三人。
ラムザはホッと胸を撫で下ろし――否、もみしだいた。
「あっ」
「あぐぅ……」
こちらもあの三人ほどではないにしろ酔っ払い、しかもグデングデンに茹でっている。
「だだだっ、大丈夫ですかっ? 今、あの三人が出て行きますから……」
「あぐぅ……」
大丈夫そうじゃなかった。
とりあえずラムザは首だけ振り向いて三人が脱衣所まで去っていった事を確認すると、
アグリアスの身体を持ち上げようとした。脇から手を入れる形で、胸を掴んだまま。
「しまっ……」
このまま持ち上げれば、自分のアレがちょうどあの辺にコレしてソレな事態になってしまうではないか!
全年齢板の名にかけて、ラムザは咄嗟にそれを回避した。
すなわち、アグリアスの満月さんを手放した。
バッシャーン! 湯船に沈むアグリアス。
「わっ、わ、わわわーっ! アグリアスさーん!」
「ブクブク……あぐぁー! ごほっ、ごほっ……うむぅ……気を失いかけたわ……」
(すでに一度失ってたと思います……)
「ら、らむざぁ……あいつ等は、行ったかぁ……?」
「は、はい、行きました。もう大丈夫です」
「で、では私は上がらせてもらうぞ……」
アグリアスが立ち上がり、よろよろと歩き出すのを見て、ラムザは慌ててしゃがみ込み両目を覆った。
(うわっ、うわーっ! 見えた! チラッとだけど、見ちゃった! 見えちゃった!)
わざとではない、つい、の出来事だ。ラムザは自分にそう言い聞かせ、自制に励んだ。
その間にアグリアスはふらふらと脱衣所に向かい、自分の服を着て、そのまま退室して行った。
アグリアスがいなくなってホッと一息。ラムザは愚息が静まるのを待って、湯船から出た。
「うむっ、まさにベオルブの名に恥じぬ一品よ。さすがはバルバネスの子よな」
その声に驚くラムザ。声の方向は、滝となって流れ落ちる源泉の出所から。
「私も昔はバルバネスとよく競い合ったものだが、子宝に恵まれたあやつの勝利といったところか」
「お、オルランドゥ伯……いつからそこに……」
「一時間前からだが?」
常人なら火傷するほどの源泉の熱湯を浴びながら、平然と答えるオルランドゥ。
なぜか座禅を組んで手を合わせている。風呂場でも修行を怠らないようだ。
「一時間前って……つまり、最初っから最後までぜーんぶ見てたんですか……」
「おごるなよラムザ。バルバネスなどもっと面白愉快なハプニングを乗り越えておったわ」
「……………………失礼します……」
もうどうでもいいや。そんな感じでラムザは言い、風呂場から出た。
翌朝、アグリアスは露天風呂での出来事を『うろ覚え』で覚えていた。
幸い胸を鷲掴みにされた事は覚えておらず、ラムザは今度こそ本当に胸を撫で下ろした。自分のを。
ちなみに酔っ払い三人組は、あの後やはり月見酒を楽しんだせいで、見事に全員二日酔いのようだ。
アグリアスは自分をかばってくれたラムザに感謝し、ラムザは何だか申し訳ない気持ちになってしまう。
ラヴィアンやアリシア達との入浴時間も異なっていたおかげで、あの事件は二人っきりの、
否、三人だけの秘密となったのだった。
そして、ラムザは思う。
(父上はどんなハプニングに遭遇したんだろう……)
さらに、ラムザは思う。
(柔らかかったなぁ……)
幸せいっぱいのラムザでしたとさ。ちゃんちゃん。