氏作。Part28スレより。




「デュライ白書」第11章 「ゾディアック・ソルジャーズ」との対照


 −−−−−−「河の流れは支流が集まって海でひとつとなるが、真実の流れはその逆である。」−−−−−−ウイユヴェール訳注より



 現在のイヴァリースでは余り知られていないが、オルダリーア(以下鴎国)には
370年前から「ゾディアック・ソルジャーズ」という口承長編伝奇物語が存在する。
正確な年代が分かっているのは、ベオウルフという吟遊詩人が語り始めてから数年の間に
爆発的な人気が出たからで、鴎国宮廷でも人気が高かったため詳しい記録が残っているのである。
同じ理由で初期に語られた物語が文字資料として残されており、
その後百年間吟遊詩人達に謡われ続けたため原型を留めなくなった
現在の「ゾディアック・ソルジャーズ」によらずにデュライ白書との比較検討ができる。
 

 ゾディアック・ソルジャーズ(以下ソルジャーズ)はイヴァリース
ゾディアック・ブレイブ伝説をベースに作られているためゾディアック・ブレイブ伝説の
亜流であるとされ、またグレバドス教会を悪玉としているため教会が禁書としたこともあり
畏国ではほとんど研究されてこなかった。しかしデュライ白書をお読みになった
賢明なる読者諸氏ならばこの物語の重要性にお気づきになるであろう。


 ここに女性に人気の高い双児宮の戦士アグリア・ホークスが、
エンジェルナイトを初めて召喚してディスダルクが魔人化した
憤怒の霊帝アドラメレクとアイグロス城で戦う場面を掲載しよう。


 この記録はベオウルフ本人の公演を大陸巡業中の旅芸人マメコウ氏が
自分用の覚え書きとして書き付けたものであるが、臨場感あふれる会場の描写も含めて
資料的価値の高いものである。マメコウ直筆であることから極初期の「ソルジャーズ」
であることは間違いない。


 なお、この叙事詩の旋律は現在失われているが朗々と歌い上げたことは疑いなく、
一連(八句を一連と数える)を歌うのに前奏間奏を含めて五分以上はかかったようで、
一章を終えるだけで数日かかったとも言われる。のんびりとした時代であった。


巨蟹の月10日
オルダリーア王宮晩餐会にて。ホールに即席のスタジアムが出来ると老吟遊詩人が入場。
国王夫妻に拝礼し用意された絨毯に座り込むと、竪琴「血の十二弦」を取り出し静かに歌い出した。


今となっては昔なり
激しき戦(いくさ)があったとて
誰も知らぬが我は知る
彼の地 彼の時 人知れず
この世を救いし戦士こそ
十二宮の英雄なれ
今こそ歌わんゾディアクの
ソルジャー達の物語!(マメコウメモ:吟遊詩人は全編のテーマとなる旋律を鳴らす)


【中略】


がっくと膝付くディスダルク
致命の傷を腹に受け
城の白亜の敷石に
倒れ伏すやのその刹那
広間に満ちしかの気配
闇より深き漆黒の
衣まといて邪悪なる
魔のルガヴィのものなりし!(低音の不協和音を掻き鳴らす)


息も絶え絶えディスダルク (悪の旋律)
その裾(すそ)内よりまろび出る
拳大なる宝玉は
真に球なる完璧の
クリスタルなるのみならず
妖しき光明滅(めいめつ)し
魔羯(まかつ)が紋の聖石の
ゾディアクストーンに他ならぬ!


そこに居合わす老剣士             (シダックの旋律)
気骨矍鑠(かくしゃく)白髭(しらひげ)の
剣聖シダック・オーランド
異変を感じて見る腕に
浮かび上がるは魔羯紋
そは十二宮に選ばれし
戦士と石との共鳴の
妙(たえ)なる絆の証なり!


子細を知りたるラムダァの          (ラムダの旋律)
兄者いかぬと叫ぶ声
妄念(もうねん)篤く命を惜しむ
ディスダルクには届くまじ
遂に輝くパイシーズ
頭上遥かに浮き上がり
螺光赫奕(らこうかくやく)場に渦巻き
妖魅の魔声満ちるなり!


閃光塞ぎし両の目が
再び開き見渡すと
城主棟梁ディスダルク
その屍があるはずの
所に立てるは異形なる
一巨の魔人ばかりなり
これぞまさしくルガヴィの
憤怒霊帝アドラメレク!           (悪役の登場をあらわす旋律)


慌てふためく部下達を            (悪の旋律)
アドラメレクは一睨み
抗うすべ無き騎士たちは
哀れ魔獣と成り果てる
驚躯瞠目(きょうくどうもく)ザーバック
その動揺の隙を突き
光の柱が包み込み
彼を魔界へかどわかす!


悪の真理の悟り以て             (悪の旋律)
善心果つる霊帝
遂に実弟ラムダへと
穢れし爪牙を向くるなり
悌心(ていしん)篤きラムダでは
兄に刃(やいば)は向け難く
迷いに満ちた切っ先は
宙を彷徨う(さまよう)ばかりなり!


義理と人情に悩む様             (正義の旋律)
わろしと見たる仲間いて
「ここは拙者に任せよ」と
ラムダの前に進み出づ
「拙者がきゃつを引き付けん
その間に雑魚を切り伏せよ」
ラムダの懸念を受け流し
「試したき義が有る」と言ふ!


 (ここで観客席より「待ってました!」「キャー!」などの声が上がる。)


この勇士こそ誰あろう            (アグリアの旋律)
ホーリーナイトの騎士にして
昔勤むは聖ルザリアの
王女の近衛(このえ)隊長で
今はラムダの右腕ぞ
白く輝く聖剣技
異名は鷹の戦女神
アグリア・ホークスその人ぞ!


(観客は大喜び。アグリアの名が登場するや大喝采。あまりの興奮にレディが二三人失神。
隣の席に座る太った男は「アグたん凛々しいよ!凛々しいよアグたん!」
と繰り返しうなって少々気味が悪い。とてもやんごとなき貴族とは思われない。)


戦の風に引き締まる             (アグリアの旋律)
凛々しきかんばせ照り映えて
月と見まごう美貌さえ
価値を認めぬアグリアの
頼りとするは剣と腕
誇りとするも剣と腕
切るは敵(かたき)と悪魔ばら
守るは主君と忠義なり!


喝采


アグリア 隊の前に立ち           (アグリアの旋律)
剣聖手づから賜った
その誇りたる聖剣の
エクスカリバー抜き払い
切っ先ピタリと敵に向け
豊かな胸を高く張り
紅き唇震わせて
大音声(だいおんじょう)に呼ばわった!


「我はアグリア・ホークスなり!       (アグリアの旋律)
汝ら悪魔ルガヴィが
人より上と誇るなら
まずは名乗りを上げられよ!
そしてか弱き人間の
我が聖石使う間を
待って見せるかそれだけの
度量が有りや答うべし!」


(再び客席はやんやの大喝采)


アドラメレクはすぐさまに          (悪の旋律)
せせら笑って応じたり
「されば聞かせん我が名をば
古人(いにしえびと)の小賢しき(こざかしき)
封ずる技に憤(いきどお)り
虚(うつ)ろな神の信者らが
我らを忘るに怒れるは
憤怒霊帝アドラメレク


よくぞ名乗った小娘が            (悪の旋律)
その細腕にその鉄棒
かように哀れな出で立ちで
我にあっぱれ刃向かうか
さらば待とうぞ使うがよいぞ
うぬらひ弱なヒトどもは
石もてルガヴィと変ずより
我にあだなす術(すべ)もなし!」


にやりと笑うアドラメレク          (悪の旋律)
猶予承知の魂胆は
一度(ひとたび)魔人に変ずれば
いかな聖人君子でも
剛毅不変の石魂(いしだま)と
己が闇とに潰されて
欲の化身となり果てる
ヒトの末路を知ればなり!


されば勇躍アグリアが            (アグリアの旋律)
そろり聖剣納(おさ)めては
懐(ふところ)内より取りい出し
右手で天に掲げるは
銀髪鬼ことエルズムア
彼より奪ったクリスタル
ジェミニの紋章浮き上がる
ゾディアクストーンそれなりや!


敵への警戒保ちつつ             (アグリアの旋律)
秀麗(うるわ)しき眉目(びもく)凛々(りんりん)と
緊っと虚空を睨み(にらみ)上げ
アグリア天に願い陳ぶ(のぶ)
「天よこの身の至らなさ
哀れとおぼし召さるなら
我に聖なる加護と庇護
助力の徒をばお貸あれ!」


たちまち光の柱 二柱(にちゅう)      (奇跡の旋律)
アグリアの左右(そう)に並び立つ
いずことも無く鳴り響く
祝福の鐘の音(ね)と共に
純白の翼はばたきて
上より現まし(いまし)降り(おり)来たり
頭上に後光(ごこう)煌(きらめか)せ
膝まづきたる乙女有り!


厳か(おごそか)至妙のその声は       (奇跡の旋律)
鈴を鳴らすが如くなり
「「神は純真正義なる
そなたの願いを召し給いき」」
「我が名はラヴィエル」「アリシエル」
「「貴殿が正義の有る限り
エンジェルナイトの我が力
神は汝にお貸し給う!」」


(大喝采


目論み(もくろみ)外れたルガヴィは     (闘いの旋律)
怒りに吠えて突進す
それを合図に魔獣ども
戦士達をぉ押し包む
アグリア聖剣抜刀し
天使騎士も是(これ)に倣う(ならう)
ホーリーナイトの疾駆に並び
白衣(びゃくえ)のエンジェル左右(そう)に跳ぶ


「命脈無常 な惜しみそ!          (闘いの旋律)
葬る!不動無明剣!」
一歩遠間(とおま)の間合いより
瞬時に放つが聖剣技
触れれば縛む(いましむ)氷塊に
怯む(ひる)ルガヴィその隙を
絶妙刹那の機合いにて
宙より天使の二剣突く!


すんでにかわすルガヴィは          (闘いの旋律)
さすがに易くは攻めらぬと
たたらを踏んで止どまりて
次の手わざを思案する
しかしアグリア休み無く
間髪入れず踏み込みて
一人二天使合力(ごうりき)の
囲みでルガヴィ攻め立てぬ!


丁々発止(ちょうちょうはっし) 丁発止   (闘いの旋律)
アグリア振るう騎士剣の
エクスカリバー堂々と
アドラメレクの剛爪と
終始互角に切り結ぶ
脇を固める天使らは
隙が有らばと身構えて
逃げを許さぬ気合いなり!



 今宵はここまで
 なお、冒頭に入れるべき説明文を忘れたのでここに示す


 この物語を語ったベオウルフという老詩人の正体は謎に包まれている。
「ソルジャーズ」を語る以前にどこでどうしていたのか全く不明なのだ。
 しかし「ソルジャーズ」の獅子宮の戦士ベオウルフと宝瓶宮の戦士レーゼの苦難物語が
デュライ白書の記述よりも長大かつ詳細であることからデュライ白書における
ベイオウーフその人と目される。
 「ソルジャーズ」の人名はデュライ白書に出てくる人名と全て微妙に違うが、
これは同時代の政治的エピソードを物語化するときに良く使われる手法であると思われる。
事実を知る者にはすぐそれと分かる違いであるから支障ないのだ。
 ゆえにこの違いをもってデュライ白書が虚構であるとするのは的を得ていない。


 しかし、他にも違っている点(聖石による覚醒・人物の来歴・物語の進行)が
多々あるので、その原因について考察しよう。可能性としては次の4つが考えられる。
(1)物語化するに際して聴衆に受け・記憶し易いように改変した。
(2)語り手が老齢のため記憶があいまいであった。
(3)デュライ白書のほうが「ソルジャーズ」を元に書かれたもので、事実無根つまりデュライ家の捏造白書である。
(4)「ソルジャーズ」の方がデュライ白書を元につくられたもので、事実無根つまりベオウルフの空想の産物である。


 (1)の可能性が一番高いのだが・・・【後全て省略】