氏作。Part28スレより。



アグリアスオークスは堅物だ。
どれくらい堅物かっていうとド田舎の深夜の赤信号でもちゃんと待つくらい堅物だ。
(赤信号なんてありませんよリアルやサイエンスじゃないんですから)
そんなアグリアスだから、アウトローの仲間と、なかなかそりが合わない。
特にラッドとムスタディオは何かにつけてアグリアスと衝突している。
毎回それをなだめるのがアリシアの役目で、観戦して楽しむのがラヴィアンの役目だ。
そしてそんなラムザ一行にアルマ・ベオルブが一時的に加入する。
「へえ。アグリアスさんってあまり社交的じゃないのね」
「社交性というか、ラッドとムスタディオにも問題はあるんですけどね。
 アグリアス様は潔癖すぎるんですよ。ラムザさんみたくうまくやれればいいんですけど」
「兄さんみたいにねぇ……」
オヴェリアの友人であるアルマなら何か力添えを、と思ったアリシアが相談を持ちかけていた。
アルマは「うーん」とうめき、ピンッと人差し指を立てた。
「それじゃ、アグリアスさんにプリティでキュートなあだ名でもつけてフレンドリー作戦いきましょうか」
「あだ名ですか……」
「そうねぇ、オヴェリア様と二人きりの時は『オヴェりん』『アルるん』と呼び合ってたから……」
「ずいぶんとプリティでキュートなあだ名ですね……」
「今日からアグリアスさんの事は『アグりん』と呼びましょう!」
「……うわぁ…………」
「何よその顔。何か文句でもあるの?」
「いや、何というか、怒られそうで……」
「大丈夫よ。オヴェりんの友達の私には頭なんて上がらないんだから!
 それじゃさっそく兄さんの所に行って進言してくるわ」
「認めますかね、ラムザさん」
「兄さんの昔のあだ名をバラすって脅せば了解を取るのは簡単よ」
「何ですかラムザさんの昔のあだ名って。『ラムむん』とかですか?」
「うふふふっ、それはね? ひ・み・つ」





 *





「これより隊長権限を持って絶対命令を発令する!」
ラムザにより緊急収集をかけられた面々の趣は厳しい。
あの温和なラムザがこれほど真摯な態度を見せるとはいったい何事か!?
北天騎士団が動いたか、それとも南天騎士団か、いやいやルカヴィか!?
それともオヴェリア様に何かあったとでもいうのか!?
ゴクリ。アグリアスは緊張し息を呑んだ。
ラッド、ムスタディオ、そしてラヴィアンも今日はオチャラケ無しだ。
ただアルマは満面の笑みを浮かべ、アリシアはなぜかチラチラとアグリアスを見ている。
「アルマ様……マジでラムザさんを口説き落としたんですね。どんなあだ名だったんですか、彼」
「それは秘密だってば。それにしても、うふふっ、脅された時の兄さんの表情ったら。
 知ってるのは私とディリータティータだけ……あのあだ名は私達だけの秘密なの。
 今思い出しても笑えるわ、というか思い出しちゃいけない、今爆笑したら計画に支障をきたしちゃう。
 ……くっくっくっ、駄目、堪えるのよアルるん。私は強い子でしょう? ……くくっ、くふふっ」
「……始まるようですよ、ラムザ様の絶対命令とやらが」
ラムザは拳を掲げ、手のひらを払い、面々を見回し、胸を張り、
全力でパフォーマンスを見せながら演説をした。


「諸君。我々の現在の状況は厳しい。オヴェリア様暗殺を企む北天騎士団、
 同様にオヴェリア様を利用して畏国の覇権を握らんとする南天騎士団。
 さらに我々の記憶にも新しい異端審問官をはじめとする神殿騎士団
 すべてが敵。我々は孤立無援の状況下にさらされている!
 そしてルカヴィの実在! 奴等こそ畏国に混沌をもたらす元凶である!!
 しかし諸君! 我々がルカヴィの存在を信じているのは、
 ドラクロワ卿がルカヴィに変化する姿を目の当たりにしたからにすぎない!
 故に我々の味方と成りえるのはルカヴィを見た者! 真なる正義によりルカヴィを倒さんとする者のみ!
 この事実を国に公表しても我々は異端者、聞く耳を持つ者など一人としていないだろう!
 結束せねばならない! 聖石をルカヴィから取り戻し、国中の人間から石を投げられようと、
 我々名畏国を護るため、歴史の裏側で日の当たらない苦闘を続けねばならない!!
 だというのに! 今の我々には不足している。まったくもって不足している。
 人員、武器、防具、食料、資金……今すぐ補えるものは少ない。少ないんだ!
 しかし今! 今すぐ補えるあるものが存在する事に僕は気づいた!!
 そう、結束力である。団結力である。共に闘い共に生きんとする我々仲間の信頼である!!
 日頃衝突が絶えない我が隊をよりフレンドリーにすべく、今日から全員、
 ニックネームで呼び合う事をここに命ずる! ラムザ・ベオルブの名によって!!
 その誉れ高き尖兵となりえる人材、適任な人物はアグリアスオークス、あなただ。
 今日この日この瞬間より、我々はアグリアスオークスを『アグりん』と呼ぶ事に決定する!!」
ラムザの演説が終わる。最初は真面目だった面々だが、途中から拍子抜けする者、失笑する者、反応様々。
アグリアスは、否、アグりんは呆然とし「何故そうなるのだ」と言いたげにラムザを見た。目をそらされた。





 *







「何なのだあの命令は!」
ラムザの演説が終了し、解散となった直後、アグりんはラムザに直訴した。
ラムザは冷淡に答える。
「解りませんか? フレンドリー作戦ですよ。我が隊は個性豊かな面々を抱えています。
 故に衝突が絶えません。それを打破すべく立案されたのがフレンドリー作戦です。
 まず我が部隊で一番生真面目な人物にプリティキュートなニックネームをつける事により、
 親しみやすさが当社比20倍界王拳です。フリーザも『痛かったぞー』と怒るほどです。
 そんな素晴らしい計画を思いついたのなら実行あるのみ。我が隊の結束の力はより強固なものに――」
「だ、だからといって『アグりん』などと戯けたあだ名をつけられるいわれは無い!
 もっと、こう、他に適切なものがあるのではないか? 騎士らしい立派な!
 かの英雄、雷神や銀髪鬼みたいな、そういった聞く者を怯え竦ませるような、そういうあだ名が!」
「怯えさせてどうするんですか、これは我が隊の内部で行われるあだ名ですよアグりん」
「あ、あっ、あああ、アグりん言うなー!」
顔を真っ赤にして怒鳴るアグりん。
「だいたい、こんな計画、貴公らしくもない! いったい何があったのだ!?」
「イイエ、ナニモ、アリマセンヨ?」
「なぜ片言になる!?」
「アハハ、ヤダナァ。僕ハドウイウアダ名ニシヨウカナ? アハハハハハハハハ」
顔をそらし人形のように答えるラムザ。その瞳は虚ろだった。
「こっちを向けラムザぁあぁあぁっ!!」
窮地に陥るラムザ、そこに颯爽と現れる救世主!
「お待ちなさいアグりん!」
「あ、あなた様は……アルマ様!」
ドンッ! と効果音を立てて登場するアルマ。
後ろで『ドンッ!』と書かれた巨大フリップを持ち上げている黒子の中の人はアリシア。隣には太鼓もあった。
「兄さんが壊れそうだから庇護するわ。今回の作戦を考えたのは私よ!
 オヴェリア様の唯一無二の超親友のアルマ様の命令が聞けないというのなら腹かっさばいて死になさい」
絶対零度の凍気を漂わせながら善意0%のエンジェル(小悪魔)スマイルをするアルマ。
アグりんは戦わずして悟る、この方にはかなわない……と。








 *







『フレンドリー作戦』をおおいに盛り上げたのは、当然普段からアグりんと衝突してる男二人。
ラッドとムスタディオである。
「アグり〜ん。武器の新調の件で話があるんだが。ニヤニヤ」
「う、うむ。そろそろ買い替え時ではあるが、今は資金不足でな……」
「アグりんアグりん、ジョブチェンジするなら狙撃を生かせる弓使いになりたいんだ。ニヤニヤ」
「いや、まずはナイトになって戦技を会得するのだ。そうすれば狙撃と戦技を組み合わせただな……」
何かにつけてアグりんに話しかけてくる。しかも必ず「アグりん」とあだ名を呼んで。
しかも表面的にはフレンドリーに接してくる分、タチが悪い。
いっそ堂々と嘲ってくれれば「この作戦は失敗だ、中止しろ!」とラムザに進言できるものを!
それを承知なのかラッドとムスタディオはとってもフレンドリー。作戦大成功である。


「あっはっはっ、どう? 私の考えた計画は」
「アルマ……正直驚いてるよ。表面的とはいえこうもうまく事が進むとは」
「ノン、ノン。兄さん。私の事は今日からアルるんと呼ぶのよ!
 こんなに面白効果的な作戦なんですもの、いっそ全員に素敵に愉快なあだ名をつけて上げましょう!」
「賛成だ!」
怒鳴り込んでくるアグりん。彼女はてっきり反対派だと思っていたからラムザもびっくり仰天。
「ぜひ、ぜひにラッドとムスタディオに相応しきあだ名をつけてくれ。このままでは精神が擦り切れる!」
「は、はあ……考えておきます」


ランダムエンカウント発生。
盗賊とおぼしき連中が現れた。
ナイトになったムスタディオが狙撃と戦技で敵一人を極限まで弱体化させて、言った。
見ろ、人がゴミのようだ!」
スタディオのあだ名が『ムスカ』に決定した。
「やーいムスカムスカ。目は大丈夫か?」
「う、うるへー! アグりん! アグりん!」


「ねっ? フレンドリー作戦は大成功でしょ? 次は誰のあだ名を考えようかしら。うふふっ」
「アルるん……ほどほどにな」






 *







「アグりんが尖兵を務めたように、隊長のお前も模範を示すべきだろう、ラムザ!」
ムスカラムザに進言した。自分までとばっちりを受けた腹いせからの言葉だったが、正論でもある。
「わ、解ったよ。それじゃ、そうだなぁ……ラム=羊肉で、ザ=座→星座って事で、
 アリエスというのはどうだろう? 十二宮を守護する最初の男だ」
「一人だけ洒落たあだ名にしてんじゃねぇえぇえぇっ! この磨羯宮生まれッ!!」
「磨羯宮を舐めるな、聖剣(エクスカリバー)の餌食になりたいか!」
「持ってねぇだろそんなレアアイテム! つか読者の世代を考えろこのアンポンタン!!」
「そうだそうだ! 星座を元にあだ名なんぞアグりんより屈辱!」
巨蟹宮アグリアス参戦。全国の蟹座の少年よ、嘆きの壁に屈するな。あの時代はもはや過去!
「ラ〜ム〜ザ〜。貴公にも相応しいあだ名をつけさせてもらうぞ」
「そうねぇ、兄さんにもプリティでキュートなあだ名をつけたいわぁ」
アルるん参戦。小悪魔的な笑顔で実兄に迫る。
「うーん、ここはストレートにラムたんはどうだろう?」
「あ、アルマ……」
「アルるんよ! 兄さん、今日から兄さんはラムたんに決定!」
「そ、それはちょっと……隊長としての威厳が……」
「あら、そう? それじゃ昔のあだ名の――」
「OK僕ラムたん」
ラムたんは嘆きの壁に屈しました。合唱。
「って訳で次の生贄じゃ、生贄じゃぁ!」
ムスカが悪魔的笑いを浮かべる。
「ラーッド! 俺達は親友だよな? マブダチだよな!? だからお前に似合うベスト・ニックネームを……」
ムスカがラッドに大声で呼びかける。
するとラッドが大声で返事をした。
ラムザー。ラムたんってあだ名が不服なら、傭兵時代の最初の頃ガフガリオンにつけられたあだ名はどうだ?」
「OKラッドはラッドのままで」
ラムたんは再び嘆きの壁に屈しました。南無阿弥陀仏







 *







「アリつながりでアリンコね」
事態を面白がっていたラヴィアンは積極的にあだ名合戦に参加してきた。
アリンコ呼ばわりされたアリシアもといアリンコは、怒りを通り越して呆れ返った。
「もう何とでも呼んでください……でも解ってる? ラヴィアンも変なあだ名をつけられかねないのよ?」
「ゲッ」
ああ、この子は馬鹿だとアリンコは思った。
一方ラヴィアンは変なあだ名をつけられまいと先手を打つ!
「わ、私のあだ名なんですけどね、その、いいのがあるんですよ。それはですね、えっと、その」
明らかに今考え中なラヴィアンだった。
「ラヴィアンだから……ラヴィ……ラヴィ……ラビ! ラビット! うさぎちゃんはどうでしょう?」
シンプルで可愛いあだ名を閃いたとラヴィアンは思った。
「うさぎちゃんか……」
いまいち納得のいかないアグりん。助かったと胸を撫で下ろすうさぎちゃん。
そこにやって来るラッド。
「おーい、食料調達してきたぞ。野うさぎがいたから掴まえた」
「え」
「さっそく皮を引ん剥いておいしく調理してやるぜ。怯えるなようさぎちゃん、苦しまないよう絞めてやる」
偶然なのか故意なのか、ラッドはうさぎうさぎと連呼して野うさぎを調理した。
いつもはおかわりするラヴィアンもうさぎ料理にだけは抵抗を持つようになった。
なぜかその日から狩りで得られる獲物のうさぎ率が増えた。
ラヴィアンもというさぎちゃんの体重が少し減ったそうな。


「ふーっ。これでラッドさん以外は全員あだ名がついたわね!
 ねえねえラッドさん。傭兵時代の兄さんのあだ名ってなぁに?」
「そいつぁ言えねぇな。だがラムザの幼少期のあだ名を教えてくれるんならいいぜ」
「約束よ? 兄さんの昔のあだ名は……ゴニョゴニョゴニョ……」
「ブハッ。それはすごいな。傭兵時代のあだ名は……ヒソヒソヒソ……」
「ええーっ!? 兄さん何やってんですか、その時ベオルブ名乗ってたら即勘当です、ルグリアでよかった」
小悪魔と悪魔が結託した。


一方その頃。
「アグりん、今月の赤字なんだけど、原因は……」
「……しかしラムたん、これは必要な事なのだ、むしろ、こっちの問題がだな……」
「でも今は戦時中ですし……武器も日々進歩しています。アグりんの聖剣技は強いから優先して……」
「ら、ラムたんは我々のリーダーだ、防具にももっと重点を置いて身の安全をだな……」
アグりんは「ラムたん」と呼ぶ事に抵抗があるのか、いちいち頬を染める。
「アグりんって意外と可愛いところがあるんですね、気づきませんでした」
「なっ、ななな何を言い出すのだラムたんは!?」
「だって、いちいち赤くなって、アグりんも女の子なんだなぁって」
「ば、馬鹿者。もう女の子などという歳ではないわ。らら、ラムたんこそ、過去にいったいどんなあだ名を……」
「アアハ、ナンデモナイヨ?」
「……ラムたん顔をそむけるな」
微妙にいい雰囲気になりかけたりならなかったりする二人であった。




 第一部 完






 *







アグりんと呼ばないで! 第二部ダイジェスト


ラファが仲間になった!
「黒いからララァね」
真言の命中率が100%になった。使用時、ラファの頭からキラリーンと何か出てるけど気にしない。


マラークが仲間になった!
「カエル」
なぜか裏大虚空蔵でのステータス異常がカエルオンリーになった。


オルランドゥが仲間になった!
シド・ミード
ヒゲの形が某∀ガンダム風に変わった。


ムスカがエルムドアに吸血された!
「UREEYYYYYY!!」
ムスカのあだ名は今からDIOに変更ね」
その後もなぜかアクションアビリティ『吸血』がセットされっぱなしになった。


メリアドールが仲間になった!
「緑頭巾」
特に何も起こらなかった!


ベイオウーフが仲間になった!
「テンプルとは神殿、聖堂という意味だ。こめかみという意味もある」
「こめかみナイトに決定」


レーゼが仲間になった!
ドラグナーですか、すごいなぁ」
「ドラゴン相手ならあんな事いいなこんな事いいな、いっぱいできるわよ」
「じゃあレーゼさんはドラえもんで」


労働八号が仲間になった!
「はっちゃん」
ラムザドラゴンボールの単行本を読んでいた。


クラウドが仲間になった!
「ツンツン頭」
ラムザはSFCクロノトリガーをプレイして、クロノがスペッキオに『ツンツン頭』と呼ばれる所まで進めていた。


最終決戦突入!
アルるんが変身した!
「ハイレグ天使、これしかない」
アルりんはハイレグ天使に改名した!
その後、ハイレグ天使(敵側)が骸骨天使に変身した!
「いや……これはさすがに引く。とっとと倒そう」
骸骨天使をやっつけた!


   CONGRATULATIONS!
   THIS GAME IS COMPLETED!





「――という訳で異世界からの無事帰還し、我々の戦いは終わった」
「ええ、みんな見事な活躍でした。畏国の平和は皆の協力あってこそです!」
「そこでだなラムたん」
「何ですかアグりん」
「もう戦いは終わった訳だから、いい加減あだ名で呼び合うのやめないか?」
「ヤです。だって今更戻すのも面倒というか、愛着湧いちゃったし」
「し、しかしラムたん……」
「ほらほら、アグりんだって僕をラムたんって呼んじゃうじゃないですか」
「うう……お願いだから、アグりんと呼ばないで」
「ヤです。アーグーりん☆ 可愛いなぁ、あはははっ」
「とほほ……」


 第二部 完




「ちょっとー。私のあだ名はハイレグ天使のままな訳ぇ? ハイレグになったのはアルテマの方なんですけどー」
「ははは。ハイレグ天使よ、恨むなら『フレンドリー作戦』を考えた自分を恨め」
「ちぇーっ、ラッドさんの意地悪。ラッドさんにもいつか絶対あだ名つけてやるんだからー」