氏作。Part29スレより。



ラムザ、いるか? 入るぞ」
とある街のとある宿のとある夜、アグリアスオークスラムザの泊まる部屋を訪れた。
無用心にも鍵が開いていたので、勝手に入らせてもらう事にする。
「すまない、今日の戦闘で借りたカオスブレイドを返し忘れた。
 明日は見習い戦士に戻って使うと言っていただろう、ちゃんと磨いて――」
暗闇の中、アグリアスは言いながらランプに火を灯した。
(いないな……ん?)
ベッドにある枕の下からエナビア記がはみ出ていた。
どうやらエナビア記の青春物語を夢で見てみたいらしい。
「可愛いコトをする……」
あまりに微笑ましくて、ついアグリアスは唇をゆるませた。
――と、そこに。
バタン。ドアを勢いよく開けて、鼻の下を伸ばしたムスタディオが飛び込んでくる。
「おーいラムザいるかぁ! いい物ゲットしたぜ!
 お前の好きなお姉さん系の……――って、アグリアス!?」
「ん?」
見せびらかすようにして持っているムスタディオのそれ、
『Hでキレイなお姉さん』という題名の下で下着姿をさらす巨乳のお姉さんの絵の本を見て、
アグリアスはこれでもかというほど赤面した。
「そそそ、そうか。ラムザはこういうのがスキなのか。
 と言うか何だ、ムスタ。えええ、エロスはほどほどにせんか」
声を震わせてムスタディオから『Hでキレイなお姉さん』を奪い取ると、
アグリアスはカオスブレイドを近くのテーブルに置いてとっとと部屋から立ち去った。
「あぁ〜……え、エロス……」
男の子の恥ずかしい姿を見られたムスタディオは一目散にその場から逃げ出し、しばし泣いた。


さて『Hでキレイなお姉さん』を取り上げたアグリアスさん。
さっそく部屋に戻ってベッドに潜り込み、一人でこっそり本を開いてみる。
「らら、ラムザはお姉さん系が、すすす、スキ、なのか……ふ、ふむ。なるほど」
本の中で致されている行為を見て、アグリアスは顔をトマトのように赤くした。
アグリアスとて大人の女。そういう知識は貴族のたしなみとして習得している。
ででで、でも、この本に書いてある内容はですね、実にけしからんのですよ。
例えば、おおお、おっ…………ゴニョゴニョで、その、殿方のモノを、ゴニョゴニョ……なんて。
知りませんよそんなコト。性教育の授業で習いませんでしたよそんなコト。
こういう本がスキなラムザは当然、こういう行為とか、妄想したり、して、るの、だろうか?
その相手を想像して、アグリアスは枕に顔をうずめてしばらく身悶えた。
だだだだって、自分で、そのね、想像しちゃいましたもの。その光景。
破廉恥すぎて、実にけしからんとですよ。こんな不健全な本、らら、ラムザには、不要ですよ。
でも、ハラリ。ページをめくってみるアグリアス
「…………うわぁ……」
今度はバックときたもんだ。
バックアタックの恐ろしさは戦場で重々承知しておりますアグリアスさんですが、
まさかベッドの上でのバックアタックもこんなに強烈だとはちーっとも知りませんでした。
しなやかな背中のラインが扇情的で、自分もこんな背中なのだろうかとか、
筋肉がついていて『Hでキレイ』とは少しズレちゃうんじゃないかとか、
アグリアスは再び枕に顔をうずめて身悶えして悩んだ。全力で悩んだ。
それからしばらくして、ハラリ。ページをめくってみるアグリアス
「…………な、何と……」
そんな感じで夜更かししちゃうアグリアスさんでした。



翌朝。
アグリアスさんがお寝坊さんとは珍しいですね」
「ええ。どうやら昨夜、相当夜更かししたらしくて、もうしばらく寝かせて上げてください」
朝の談笑を交わすラムザアリシア
二人が食堂に行くとムスタディオが朝っぱらから酒を飲んで騒いでいた。
「どーせ俺はエロスだちくしょう!」
それを見たラムザが、何事かとラッドに訊ねてみる。
「ああ、アレか。アレは――」


スタディオ『Hでキレイなお姉さん』入手→ラムザの部屋に行く→アグリアスと遭遇→エロス没収


「――という訳だ」
「!!」
その意味を理解してラムザは頭を抱えて身悶えをした。
し、知られてしまった。アグリアスさんに知られてしまいましたよ。自分の趣味嗜好が。
それでですね、見事にジャストミートなんですよ、その対象にアグリアスさんが。
つまりですね、自分がアグリアスさんをそういう目で見てるんじゃないかとか思われたらたまらんのですよ。
だってですね、自分達別段恋人でも何でもないんですから。そんな破廉恥なコトあってはならないんですよ。
「愛が、愛が痛いぃぃぃっ!!」
ラムザは泣き崩れた。それを見てアリシア、ラッドに問う。
ラムザ様、何があったんですか?」
「ああ、実は――――――という訳なんだ」
「はあ。つまりアグリアス様が夜更かしした理由ってそれですか」
「何だ、アグリアスの奴珍しく寝坊なんかしたと思ったら……」
「全力ですれ違ってるというか、いい加減ハッキリして欲しいですねぇ」
「そうか? 俺はあの青臭い恋愛ごっこをもう少し見物していたいけどな」
「趣味が悪いわよラッド」
朝の談笑を続けながら食堂にて朝食を摂るラッドとアリシア
ラムザは、アグリアスが起きてくるまでずっと悶えていた。


「ふあぁ……みんな、おは……」
朝の挨拶をしようとして、ラムザを見て、ボンッ。顔が真っ赤に染まるアグリアス
朝の挨拶を聞いて、振り返ってアグリアスを見て、ボンッ。顔が真っ赤に染まるラムザ
「おおお、おは、おはよ、ございます」
「おっ、おお、おはよう」
「きょ、今日はいいお天気ですね」
「う、うむそうだな実にいい天気だ」


「うわぁ……何て白々しい会話」
アリシア。見物は趣味が悪いんじゃなかったか?」
「そうですけどー。うー、実際楽しいなぁ見物するの」
「だろ? あ、そこのサラダ取ってくれ」
「はい、どうぞ」
どこまでも平和なラッドとアリシアの朝だった。


「あーッ! ムスタったら朝っぱらからお酒飲んで……私にも飲ませろー!」
「おおう、ラヴィアンか。飲め! 飲んで俺をさげすめ! わたくしムスタ君はエロスですよー!」
「何公然の事実を公言してんのあんた。とりあえず私もお酒お酒。
 アグリアス様は何だか様子が変だったし、少しくらい飲んでもバレないわよねー」
スタディオは合流したラヴィアンと酒盛りを加速して、その日の戦力にはならなかったそうな。


ラムザアグリアスが『Hでキレイなお姉さん』の内容を実践する日は通そうである。



 終わるー。