氏作。Part29スレより。




「天駆ける風、力の根源へと我を導き、そを与えたまえ! エスナ!」
石化したラヴィアンとアリシアを治療するアグリアス
ラヴィアンとアリシアは、アグリアスの勝利を信じていたため、勝利は当然と胸を張った。
そして未だ眠り続ける弓使いの暗殺者の手を腰の後ろで縛り、足首も同様に縄で縛る。
それから彼女のかぶる黒ずきんを脱がせた。亜麻色の髪がサラリとこぼれ落ちる。
「わお、なかなかの美人さん」
アグリアス様、如何いたします?」
アグリアスはしばし黙考し、命じた。
「訊きたい事がある。念のため力を奪ってから起こせ」
ナイトの真骨頂、ブレイク技で眠り続ける彼女の手足を力強く打ち据えるラヴィアンとアリシア
残酷な行為にも見えるが、相手が暗殺者である以上油断は禁物。
命を断つまで何をしてくるのが解らないのが暗殺者だからだ。
「よし、起こせ」
言われて、ラヴィアンが手のひらで弓使いの頬を何度もはたいた。
「はいはい起きなさい起きなさい。起ーきるのっ。私だって朝早くて眠いんだからね」
「うぐっ……んっ……」
「はい、おはよーございます」
「…………私の仲間は?」
「ご臨終。腕が立つもんだから、こっちも手加減できなくてね、ごめん」
「ふふっ……じゃあ、生かされて捕らえられてる私は、手加減できるくらい弱かった訳ね」
「うちの大将があんたに訊きたい事あるのよ。正直に答えてくれたら命の保障はして上げる」
「……信用できないわ」
言いながら、弓使いはひっそりと縄の縛り具合を見ようとしたが、手足に力が入らない事に気づいた。
眠ってる間にパワーブレイクとスピードブレイクを食らったらしい、このダメージは当分抜けない。


「んー、まあ、こっちもそちらさん殺しちゃってるしねぇ。でも殺らなきゃ殺られる状況だったし。
 でも今は違うわ。無力化したあんたが、私達に何かできるとは思えないし、
 喋る事素直に喋ってお家に帰りなさいな」
「ハッ、冗談。黙れば殺される、話しても殺されるかもしれない、話して帰ったら上司に殺される。
 八方塞じゃない。どうせ殺されるなら、プライド守って殺されたいもんだわ」
「んー、そう言わずにさぁ」
困り果てたラヴィアンをどかし、アグリアスが弓使いの眼前に立った。
「話して、生きて帰らなければいい」
「えっ……?」
カミュジャに帰れば、お前は抹殺されるだろう。だが帰らず、これから来る平和な畏国で、
 暗殺者ではない生き方をしてみる気はないか?」
「ん……」
口ごもるのを見てアグリアスはホッとする。
先の忍者は性根からの暗殺者だったが、この者は違うようだ。
「お前の仲間の武器を回収し、そこらの武器屋に売り込めば、当面の資金にはなろう。
 その金を持って出直してみてはどうだ? 戦乱後だ、人手不足で困る職場は多い」
「…………」
迷っている、この女は迷っている。
もう殺されるしか道は無いと思っていたのに、新たな道を示されて、その可能性に揺れている。
「私を殺すよう依頼してきたのは誰だ」
「……オークス家のご当主様」
「……父上、か…………」
言って、アグリアスは天を仰いだ。親子の情を断たれた事が悲しかった。
「理由は?」
「知らない。ただ、痕跡をひとかけらも残さず消せと。殺害現場を誰かに見られるのも無しとかって注文」
「……なるほど、オークス家の名誉のためか」


オークス家は貴族の中でもそれなりの名門だ。
そのオークス家の娘が異端者一味として追われるなど言語道断。
すでに自分が勘当されているだろう事をアグリアスは気づいていた。
だが、まさか暗殺とは。
自分達はオーボンヌ修道院の崩壊で死んだ事になっている、だが遺体を確認した訳ではない。
きっと、ここまでの旅の道中で己の生が何者かに知れ、その何者かがオークス家に知らせた。
事故という形とはいえアグリアスの罪は死んで清算された。
だが、それが生きているとあれば、話は別だ。
終わったはずのやっかい事がまた出てきた、何とかしなくてはならない。
最善なのは闇から闇へ葬る事。
アグリアスオークスの生存を世に知らせず、闇の暗殺者に依頼してアグリアスの存在を抹消する。
それがアグリアスの父が描いた計画だろう。
そしてこの弓使いの女が帰らなければ暗殺失敗を悟られ、新たな刺客がやって来る。
さて、どうしたものか。
「解った、もういい。お前に用は無い。ラヴィアン、解放してやれ」
「はい」
弓使いの縄を解くラヴィアン、自由になった弓使いは、よろよろと立ち上がった。
「血の匂いでモンスターが寄ってくるかもしれん、早々に立ち去るがいい」
「……一応、ありがと。見逃してくれて」
言いながら、弓使いは仲間の遺体に向かい遺品の回収を始めた。
新たな人生を始めるための軍資金にするために。
そんな弓使いを放って、アグリアス達は歩き出した。東へ、ゼイレキレの滝へ。
機工都市ゴーグ……ムスタディオ宅へ。


道中、三人は語り合う。
「どうします、アグリアス様。これからも私達、暗殺者に狙われますよ?」
アリシア。狙われているのは私だけだ、これからは別行動を――」
「何言ってんですか」
ラヴィアンが小さく怒った。
「今さら私達を切り捨てるつもりー? 異界まで一緒に行った仲じゃないですか」
アリシアも続く。
「そうですよ。暗殺者がアグリアス様を狙うというなら、私達も一緒に戦います」
二人の気遣いが嬉しくて、アグリアスは柔らかい微笑を浮かべずにはいられなかった。
「……いいだろう。だがゴーグまでだぞ。その後は皆それぞれ、己の道を行くのだ。
 私は――カミュジャも追ってこないような、そうだな、海を渡って異国へ逃げるとするか」
「そうですか。……まあ、そういう考えの仲間は結構多いかもしれませんね」
ラムザ様も顔が知れてるし、案外、国を出るつもりかもしれませんよ」
「おっ、だったらまたパーティー結成してさ、どこか遠い国でまたみんな一緒に何かやりますか」
「いいわね、それ。私達ももう帰る場所ありませんし、畏国は居心地が悪いもの」
どうやらラヴィアンもアリシアとの縁は、ゴーグまで行っても切れそうにないようだった。
「まあ、それもよかろう。しかし願わくば、もう戦いの無い日々を送りたいものだな」
談笑し合って、三人の道は続く。
今はまだ危うい、けれどいつか安らかな道へとたどり着けると信じて。








――闇があった。その中に、また、闇が居た。
「刺客二名の死体を確認しました」
「もう一人は?」
「ありません」
「逃げたか」
「恐らく。すでに追っ手を放っております」
「そうか」
アグリアスオークスらしき人物を城塞都市ザランダにて確認。続いて刺客を送り込みます」
「バリアスの丘、バリアスの谷、ニ段構えだ。確実に仕留めろ。
 恐らく奴等は貿易都市ウォージリスで海に逃げるだろう。そうなっては止められん」
「最悪、船ごと沈めればよろしいかと思われますが」
「ならぬ。新しいクライアントは、あまり過激な事を好まんのでな。
 たった一人のために船をひとつ沈めたとあっては"カミュジャ"そのものが危うい」
「解りました。倍の戦力を持ってバリアスの丘で叩きます。
 腕利きは先の戦争でずいぶん減っています。質を数で補いましょう」
「そうだな、最低でも十人以上を送り込め。必ず殺せ」
「ハッ」



闇の中で、闇が、揺らいだ。
未来は未だ闇の中。アグリアスオークス達が無事生き残れるか否か、それを知る者はいない。





――FIN

























注訳:暗殺者の弓使い、陰陽士、忍者の名前は
   それぞれアグネス、テイラー、ベルガだそうである。理由はスレ参照。