氏作。Part29スレより。




「なあ、ホントに今日出発でいいんだよな?」
「ん」
新年を過ごしたガルテナーハ一族の村から船旅で戻って日も浅いまま、
荷を解かずそのままわたしたちは新しい旅支度をする。
「あのさ、リリが確信してるのはいいとして、
 その日じゃなかったらどうするんだ?
 他の連中にも色々準備してもらってるんだろ」
はは、そうだね。
気がかりなのはわかるけど。でも、大丈夫だから。
スタディオはわたしに背を向けたままだ。
そのまま外套まであっという間に着込んでいく。
「女のカンを信じなさい」
「おまえ、そういうこと口にするようなオンナじゃないだろ」
そうだねムスタ。
わたしはあんまりこういうことは言わない。
自分が女だってことを強調することは苦手だ。
彼女ほどではないけれど。
でも、わたしなりに心配してるんだよね、あの二人のこと。
スタディオって恋より友情ってほうだし、
わたしもそうだし、ラムザもそうだし。
なにより彼女が一番そういう人間だと思う。
わたしも遅れじと手早く防寒用ケープまで一気に身に着ける。
チョコボでも何日かかけないと着けないでしょ。
 今日出発で、10日に着くようにして、それで大丈夫」
年が明けて磨蝎の月がはじまった。ラムザの誕生日まであと数日だ。
ラムザの誕生日に合わせて目的地に着く予定にしてある。





わたしたちは人外のものと戦い、生き残った。
おしまいに大爆発に巻き込まれたときには誰もが死を覚悟したけれど。
決戦前夜にラムザが部隊の解散を申し出たけれど誰も受け付けなかった。
もともと全員で生きて帰るつもりだったから。
だけど、彼女ただ一人が未だ、姿を現さない。





最初に「戻ってきた」のはラムザとアルマ、それに労働八号らしい。
オーボンヌの近くにチョコボたちを留守番につけて物資を隠していた場所、
その森の中を気付いたらさまよっていたそうだ。
第一集合地点であるそこで打ち合わせどおりに三日をすごし、
誰も来ないことに気をもみながら第二集合地点のゴーグへ。
ベスロディオおじさまにことづけしたのち、ふたたびオーボンヌ周辺へ。
さらには姿を消して「アルマ・ベオルブの葬儀」に参列者がいないか確認、
「アルマの墓」を訪れるものがいないか定期的に足を運んだ。
占星術師オーラン・デュライとバルマウフラ・ラナンドゥのふたりや、
以前に隊を離れたネネット・アルネット、マティアス・フンケとも再会。
最後の戦いに同行したわたしたちに関しては、彼らの協力もあったというのに、
ルグリア兄妹の足ではなーんにも手がかりひとつ見つからなかったけれど。
ラムザとアルマは最初に戻ってきただけに一番気苦労も多かったろう。
おまけに、全力で駆けずり回る、回らないにあまり関係ない形でばかり、
次々わたしたちが現れだしたのだから。
彼女の誕生日を迎えて少ししてからオーボンヌに出向いた。
だからあの戦いは五年前と少しの巨蟹の月というわけだ。
ところがわたしたちときたら、何の因果か場所も時期もばらばらに戻ってきたのだ。



ラッドは故郷にいた。
育ての親でもあったガフガリオンと出合った場所、
出合った季節にラッドはそこにいた。
ラヴィアンとアリシアはオーボンヌでオヴェリア王女の近衛に任命された日に。
マラークとラファも故郷だった。秋口だった。
ガルテナーハ一族のかろうじて生き残った人々が集い、
ようやく村らしい形がととのって初めてむかえる収穫祭の日だった。
いまや村長の片腕になって忙しいマラークとラファのガルテナーハ兄妹いわく、
わたしたちは、一番いい時期に一番の思い出の場所に戻ってきたのではないか。
ラムザたちを除けばだいたい的を得た推測だ。
ふたりが戻っていらい養蚕業と香料の製造で村は急速に復興していった。
今年の新年はみんなで村に招待された。
みんな、どこかラムザに気を遣って存分にはしゃいだりはしなかったけれど。
いまや三児の親のベイオウーフとレーゼのカドモス夫妻はもちろんのこと、
相手のいる人間はだいたいが結婚していた。
ラムザはいまでも彼女を待ち続けている。




あの大爆発からだいたい半年以内にはたいがいが帰ってきていた。
いないのは、ムスタディオ・ブナンザ、わたし、リリベット・カスタフィオーレ、
それに彼女だけとなっていた。
ベスロディオおじさまも一人息子がいつまでも戻らず心労を重ねたにちがいない。
そんな親心をあっさり無碍にしたんじゃないかってくらい、
スタディオの帰還は傑作だったと今でも語り草になっている。
もしかしてウケ狙いでわざわざこうして還ってきたんじゃないかってくらいに。
あの戦いからちょうど一年後に、ここ、ゴーグのブナンザ家にみんなが集合していた。
跡取り息子のいない工房でみんなが一晩呑み明かした朝、
その跡取り息子が一年前のままの姿で、「親父〜、朝飯まだかな〜」なんて
寝ぼけて背中やおなかをボリボリかきながら仮眠用のロフトベッドから降りてきたとか。
わたしは色んな意味で彼より遅くに還ってきて丁度よかったのだけれど、
それはそれでちょっと、見たかったかも・・・。