氏作。Part27スレより。




アグリアスさん……」
 一糸纏わぬラムザが、アグリアスの上から覗き込んでいる。
 その瞳は、情熱的に潤んでいた。
 ラムザの女のように滑らかな肌は、興奮からか朱に染まっており、しなやかながらも
意外に逞しいその身体から、アグリアスのやはり一糸纏わぬ肌へと、微熱が伝わってくる。
(よ、よせ、ラムザ――)
 アグリアスは叫んだ――つもりであった。
 何故か声が出ない。
 己もラムザも、まったくの裸で横たわっている。その自分に、ラムザがのし掛かって
いる。そこまでは分かる。だが、何故そうなったのか、そもそもここはどこなのか、
今がいつなのか、それさえも分からない。
 確かなのは、全裸の愛する男――そう、アグリアスの愛する男である――と、やはり
全裸の彼女とが、これから一線を越えようと――
(な、何故だ!)
 相変わらず声が出ない。
「貴女がいけないんですよ……さんざん思わせぶりなことを言うから……」
 ラムザは泣き笑いのような表情を浮かべた。
 アグリアスは抵抗を試みようとした。だが、体が思うように動かない。
 のみならず、彼女の中で、得体の知れぬ衝動が彼女を揺り動かした。体が疼く。
それが『快感』だと気付くのに、長い時間は要さなかった。
(ああ――!)
 全身の力が抜けてゆく。
 その彼女に、愛しい男が覆いかぶさって――




「うわぁぁぁぁぁッ!!!」
 鳥の声が聞こえる。
 明るい日差しが降り注ぐ。
 汗みどろで起き上がったアグリアスは、昨夜彼女が寝付いたベッドに、昨夜彼女が着た
寝間着のまま、朝を迎えていることを発見した。
(夢――?)
 で、あったらしい。
(な、な、なんという――!)
 彼女は自分で自分に憤慨した。
(な、なな、なんという、はは破廉恥な夢を!)
 異端者の一行であるとはいえ、彼女の出自は名門貴族である。当然、淑女としての教育を
ほどこされた。性的な知識に関しては、ごく形式的に、言い換えればかなり婉曲に、彼女も
学んではいたが、要するに「貞節であれ」という鹿つめらしい耳学問にすぎない。
 その上生来馬鹿がつくほど生真面目な彼女は、同姓同士のそうした「猥談」さえ忌避
していたし、ようするに性に関しては歳の割りにすこぶる奥手であった。
 にもかかわらず、今見た夢は不気味なくらいリアルだった。その上明らかな「快感」
さえともなっていた。
(私が! この私が! ――ラムザと……ら、ら、ラムザと――その……)
 確かにアグリアスラムザに懸想している。しかし彼女にすれば「段階」というものが
あるはずであった。まずは健全なお付き合い、肌を重ねるなどというのは最後の最後――
のはずだった。――それなのに。
(ひょ、ひょっとして私は――えらく――い、淫蕩なのでは――)
 そんな不安が頭を過ぎる。
(それとも……いわゆる――よ、欲求不満――というやつなのか……私は?)
 そうも考える。しかし、男の手を握ったことさえないアグリアスの頭でいくら考えても、
答えの出るものでもなかった。
 彼女は大きくかぶりを振った。


 アグリアスは興奮と自己嫌悪と眠気の覚めやらぬ、妙な心持ちで宿の食堂に下りて
いった。
「――あら、珍しくお寝坊? ホーリーナイトともあろうお方が」
 トゲのある言い方で挨拶するのは、メリアドールと相場が決まっている。
「……いや、ちょっと、な……」
 普段のアグリアスであったら条件反射的に激昂し、何か言い返そうとするところだが、
さすがにこの朝は、気のない返事をするだけだった。さしも相性の悪いメリアドールも
これには怪訝な顔をした。
「どうかしたの?」
「――どうかって?」
 アグリアスは胡乱そうに返答した。メリアドールは首を傾げる。
「なんというか……変よ。あなた」
「変……?」
 アグリアスはオウム返しに言う。
「変……なのかも、しれんな。私は」
 ますますもって普段のアグリアスらしくない返答に、メリアドールは眉をひそめる。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ。熱でもあるの、あんた?」
「熱……ではないが……」
 アグリアスは宿の女中が持ってきてくれた水を一気に飲み干すと、嘆息した。
「……ただ、考えていたんだ。……私は……一体何なんだろうと」
「は、はぁ?」
「……今まで考えていたのと、まったく違う面を自分が内包していたとしたら……
そんなことを考えたら……急にやり切れなくなってな……」
 メリアドールは今度こそ、得体の知れないものを見るような目でアグリアスを見た。
 形而上的なことを理路整然と説明するのは、アグリアスは得手ではない。まして、
彼女自身にもよく分からぬ内的葛藤を、メリアドールにうまく伝えられようはずも
なかった。
「何を言ってるわけ? ――あんた?」
 メリアドールは顔をしかめた。
 ちょうどそこへ、食事を終え、トレーを片付けたオルランドゥが通りかかった。
「――あ、伯、ちょっとアグリアスが……」
「放っておきたまえ」
 オルランドゥは言下に言った。
「放ってって……」
「若いうちには色々悩みがある。相談されたならともかく、そうでもないのにあれこれ
聞きほじることもあるまい――たいていのことは時間が解決するよ」
 オルランドゥは苦笑して言う。
「……はぁ」
 メリアドールは大人しくそう答えた。
 メリアドールにしても、根本的にそりが合わない上、ラムザをめぐる鞘当てを繰り
広げる――彼女もラムザに思いを寄せていた――アグリアスの悩みを聞いてやる義理が
あるわけでもない。
 胡散臭そうにアグリアスのほうを一瞥すると、メリアドールはその場を離れた。
 それにも気付かず、アグリアスは眉間に皺を寄せて己の想念の中に沈みこんでいた。
「――若いと言うのは、いいものだな」
 オルランドゥはひとりごちた。
「ま、悩むのも青春の特権か。――善哉、善哉」
 オルランドゥは大儀そうに、考え込むアグリアスを眺めていた。




 ちょうど何人かの仲間が、物資調達だの儲け話だので隊を離れていた。本隊に残って
いる者にとっては、リフレッシュ休暇のようなものである。
 要するに暇であった。他に考えることもないだけに、アグリアスは今朝の夢、そして
己の性欲について一人悶々と考え込んでいた。
(――なぜ、あのような夢を――)
 アグリアスとて女性である。女性であればいずれ嫁ぎ、良人となる男性に操を捧げるで
あろうことはなんとなく理解できる。しかし、アグリアスにとって「それ」は遥かな先の
ことであったはずだし、それをさまで具体的に想像してみたこともない。
 にもかかわらず、今朝はああまでリアルな夢を見た。
(や、やはり――よ、よよ欲求不満――なのか、私は)
 行き着く結論はそれしかない。しかし、単なる欲求不満であったら、彼女はそこまで
悩まなかった。それだけなら、剣の素振りでもして発散させればよいことである。
 彼女が悩んだのは、夢の中で明らかな快感を感じたことだった。それは、彼女が始めて
感じた性的陶酔であったのだ。
(――もし私が、その――い、いい、淫乱――だったりしたら――)
 人間なら、まして多感多情な年齢なら、性的な夢を見ることもあろう。しかし、ああ
まで明らかな興奮を伴う夢を見るなど、けだし大変な大淫婦ではないのか。
(ら、ラムザは……あまりに淫蕩な女には……あ、愛想を……尽かすのでは……)
 正確に言えば、アグリアスは自分が淫奔であることよりも、仮にそうだったとした場合、
ラムザに失望されるのが怖かったのである。
 アグリアスは清廉な騎士としての自分を誇りに思っていたし、これまで己の性的節度を
疑ったこともない。ラムザも、アグリアスをそういうふうに見ているはずである。
 ところがそれは嘘の皮、一皮むけばとてつもない色情狂だ、などと知れたとき、やはり
生真面目なラムザがどのような眼差しをアグリアスに向けるか……
 それを考えただけで、アグリアスは愛しい男の心が離れていく恐怖に駆られるのだ。


「――で、私のところへ来たと?」
 オルランドゥは、いつになく神妙な面持ちのアグリアスを、面白そうに眺めながら
言った。
「……しかし、私はもう若くはない。色恋なんぞとはとうの昔に無縁になっとるが……
むしろレーゼなり、いままさに恋を謳歌している人間にでも聞くべきではないかね」
「そ、それも考えたのですが、レーゼ殿も結局は女……だ、男性が『こういうこと』を
どのように受け止めるかは……やはり男性にお聞きしないと……そうかと言って、若い
連中には聞けませんし……これはもう人生の先達であられる伯にしか……」
 オルランドゥに宛がわれたこざっぱりした宿の一室を訪ったアグリアスは、まるで
面接試験の受験者のような必死の表情で訴えた。
「人生の先達とは、これはまた持ち上げてくれるな」
 オルランドゥは髭をしごきながら――面白がるときの彼の癖である――微笑した。
(大げさなことだな――アグリアスらしいと言えばらしいが……)
 言葉に出して言えば、オルランドゥの感想はそれである。彼にすれば、アグリアス
心理を忖度するのは難しくはなかった。
 アグリアスの困惑は、初めて生々しい「性」を意識した女性が誰でも行き当たる羞恥で
あり当惑に過ぎない。健康な若い女性が、性的な意識をまったく持たないほうがどうか
している。露出狂であるとか、男をとっかえひっかえするとでもいうのなら問題だが、
アグリアスの思いはきわめて真摯であり一途であり、しかもその想う相手との濡れ場を
夢に見たのだから、本来騒ぐほどのものでもないのである。
(――が、さて、思い込みの激しい彼女にどう納得させるか……)
 オルランドゥはこころもち真剣な表情になって考えを巡らせた。
 アグリアスは見かけによらずナイーヴなところがある。その上頭が固く、必要以上に
自分に厳しい彼女に、いい加減な説明をしてはかえって無用に悩ませてしまうだろう。
(ふむ――しかし、これは逆に、いい機会かもしれんな……)
 オルランドゥには実子がない。オーランという愛息はいるが養子である。そのため、
旧友の忘れ形見であるラムザには実子同然の親しみを感じていた。そして、彼の見こみ
に間違いがなければ、ラムザのほうもアグリアスを憎からず想っているようである。


(バルバネスの倅のためならば、恋の橋渡しをしてやるのも吝かではないか……)
 そんなふうにオルランドゥは考えた。それに、アグリアスをこのまま悩ませておけば、
彼女の性格からして自壊してしまう危険性もある。
(――ふむ、ひとつお節介をやくとするかな……)
 オルランドゥは心を決めた。
「……一つ聞くが、今までにそのような夢――淫夢と言うのかな――を見たことは?」
 彼はまずそんなふうに切り込んだ。アグリアスはぶんぶんと頭を振る。
「めめ、滅相な! そ、そのような破廉恥な夢、後にも先にも――」
「……すると当然、ラムザ以外の男性をそのように意識したこともないわけだね」
「そ、それは――。……いえその、そのような夢を見たからといって、私がその、特別、
なんといいますか、ラムザのことを意識しているだとか、そのような――」 
 この期に及んでも、ラムザへの思いを否定しようとするアグリアスに、オルランドゥ
少々呆れた。彼はいささか語気を強めた。
「――はっきりしたまえ。ラムザが好きなのだろう?」
「!……」
 ずばりと指摘され、アグリアスは絶句した。
 が、ここでこれ以上格好をつけても先に進まぬと覚悟を決めたか、大いに赤面して俯き
ながらも微かに首を縦に振った。
「――ふむ、素直でよろしい」
 オルランドゥは大きく頷いた。彼は慎重に言葉を選びながら続けた。
「……そうだな。私なら……私を想ってくれる女性がそのような夢を見たとしたら……」
 アグリアスは食い入るようにオルランドゥを見つめる。
「……嬉しいだろうな」
「――え?」
 アグリアスは呆気に取られ――それから何ともいえない声を出した。
「う――嬉しい? ど、どうして?」
「なぜって、そうだろう」
 オルランドゥは口の端をゆがめながら説明を加えた。
「それだけ想われている、と言う証左だろう。その男のかいなに抱かれたい、と想われる
のであれば、それは男冥利に尽きると言うものさ」
「……」 
 それは、アグリアスにしてみれば予想もしない返答であった。
「……そ、その、汚らわしい――とか、い、淫乱め、とか――そういうふうに思ったりは
……されないのですか。殿方的には」
「誰彼かまわずそのように欲情するのであれば問題だろうがね」
 オルランドゥは苦笑して答えた。
「だが君の場合は、ラムザに恋焦がれるあまり、と言うことなのだろう。であれば、それ
ほど嫌悪する男はいないと思うがね」
「そ、そういうものなのですか……」
「そういうものさ」
 深みのある笑いを見せ、そしてオルランドゥは最後の一手を積んだ。
「――なんなら、ラムザに直接聞いたらどうだね?」
「な、な――!!」
 アグリアスは再び絶句した。
「そそそ、そのようなこと、い、いくらなんでも、わ、わわ私の口から――」
「しかし、そうでもせんことにはラムザがそのことをどう思うか――もっと言えばラムザ
君をどう思っているのか、も知れやせんよ。――思い切って、ぶつかってみてはどうかな」
「で、ですが――」
 なおも二の足を踏むアグリアスに、オルランドゥは射るような眼差しをくれた。
「ではそうしていつまでも逃げているのかね。それでは何も前進しない。――いいのかね、
大切なものを失っても?」
 オルランドゥの厳しい言葉に、アグリアスは言い知れぬ危機感を覚えた。






ラムザ――いるか。私だ、アグリアスだ」
 アグリアスラムザの部屋をノックしたのはそれからしばらく後のことだった。
「――アグリアスさんですか。どうぞ」
 アグリアスはなるべく誰にも見咎められぬように、と最大限の注意を払いつつ、
ラムザの部屋にすべり込んだ。
「どうしました。鎧かなにかの補充ですか」
 と、ラムザはいたって事務的な応対をした。
(もう少し色気のある出迎え方をしてくれてもいいじゃないか)
 などとアグリアスは少々むかっ腹を立てたが、そんなことで怒ってみても仕方がない。
「あ、あー、いや、その……今、ちょっと……時間あるか?」
 我ながら気のない切り出し方だと思ったが、こんな時に気の利いた挨拶のできる
アグリアスではなかった。
「時間? ええ、まぁ、今日は暇ですけど――なにか、ご相談でも?」
「相談……というか……聞きたいことが、あるのだが……」
「聞きたいこと?」
 ただ事ならざるアグリアスの調子に、さすがのラムザも真剣な表情になった。
「……なんだか深刻そうだけど、どうしたんですか。体の調子でも――?」
「体……あるいは体のことかもしれんが……」
 アグリアスは言いよどんだが、いつまでも蒟蒻問答を続けても何にもならぬと腹を
くくった。彼女は決然と頭を上げ、ラムザの目を真正面から見据えて、言った。
「……なぁ、ラムザ。仮に――仮にだぞ。私がその……とてもその……べ、べべベッドで
みみ、み、乱れるというか……も、もちろん好きな男との場合に、だけだが――その……
す、『好きモノ』――と言うのか? ――だったりしたらその……ど、どう、思う?」
 アグリアスは、決心が揺るがぬうちに一気にまくし立てた。
「……え……?」
 当然ながら、と言うか、ラムザは言葉を失っていた。
「なん……ですって?」


 ラムザは信じられないものを見るような目つきになった。無理もない。よりにもよって
清純派の最右翼のようなアグリアスから「私が好きモノだったら」などと聞かれたのである。
「――だ、だから!」
 アグリアスは耳まで真っ赤にし、大げさな身振り手振りも交えて言い募った。
「仮にだ。仮に、その、好きな男と――ベッドの上で大いに乱れるような……だからその!」
 アグリアスの説明は支離滅裂になった。このときすでに、ラムザの判断力は腰砕けになって
いた。しかしそれだけに、ラムザは極めてストレートにアグリアスの訴えの核心だけを本能で
察知してしまったのである。
「あの――それって――その、告白……ですか……?」
 まったく非論理的に、かつまったく希望的観測にもとづいて、それでいてまったく正確に、
ラムザアグリアスが求める答えの先回りをしてしまったのである。
「いッ――!」
 アグリアスは言葉に詰まった。
「だ――から――その……そ、そそそ、そういうことを言ってるんでなくて! わた、私が
――だからその……淫乱――というかその……ああもう!」
「……その……何と言うか……」
 ラムザは頬を赤らめながら、アグリアスに一歩近づいた。
「それってだからその……僕を……性的に意識してくれた……ってことですよね……?」
「――あ、うう、いや、だからその――」
 アグリアスはなおも無益な抵抗を試みた。
「ち、違――私は――そんな……確かに、あんないやらしい夢は見たけど……あ、ああ――」
 ラムザがまた一歩近づいてくる。
「私は――違う! そんな……好きだ……確かにラムザのことは好きだけど! ……そんな
……淫乱だとか……乱れ……るとか……」
アグリアスさん――!」
 二人の距離が狭まる。互いの顔が紅潮し、息づかいが荒くなり――
「――!?」
 次の瞬間、アグリアスはベッドに押し倒されていた。




 それからどれだけ時間が経ったのか。
アグリアスは着衣を脱がされ、そしてラムザも脱ぎ、全裸の二人はベッドの上にいた。
「――アグリアスさん」
一糸纏わぬラムザが、アグリアスの上から覗き込んでいる。
 その瞳は、情熱的に潤んでいた。
 ラムザの女のように滑らかな肌は、興奮からか朱に染まっており、しなやかながらも
意外に逞しいその身体から、アグリアスのやはり一糸纏わぬ肌へと、微熱が伝わってくる。
(よ、よせ、ラムザ!) 
 アグリアスは抵抗を試みようと、小さくいやいやをした。もちろん本心からのそれでは
ない。いや、少しは本心なのかもしれないが、それより遥かに、愛する男に征服されたい
という未知の誘惑のほうが勝っていたのだ。
 アグリアスの小さな抵抗は、ラムザの征服欲に火をつけた。
「貴女がいけないんですよ……さんざん思わせぶりなことを言うから……」
 ラムザは泣き笑いのような表情を浮かべた。
 アグリアスは、ぼんやりと今朝の夢を思い出していた。
 それでは、あれは正夢だったのか――。
 夢と違うのは、己の気持ちに気付き、抵抗らしい抵抗もせず、オトコを受け入れようと
している自分がいるという現実である。
 アグリアスはオンナのさがに目覚めたのだ。
 (ああ――!)
 全身の力が抜けてゆく。
 その彼女に、愛しい男が覆いかぶさって――


 その後、アグリアスは今まで知らずにいた小さな痛みと、これまで何故知らずにいたの
だろうと歯噛みしたくなるような大きな快楽を味わうことになった。







「……正直、えげつないやり方だと思うんですけどね」
 不満そうに口を尖らせたのはラファである。
「いいのよ、それくらいのほうが」
 満足そうに酒を呷り、ラヴィアンはほくそえんだ。
「――大体、見ててイライラするったらないじゃない。あれだけアカラサマに想いあってる
くせに、ウジウジウダウダ……こっちがキレちゃうってのよ」
「せっかくラファちゃんが身を引いてくれたと思ったら、今度はメリアドールさんという
ライバルがあらわれたんだもの」
 アリシアも肩をすくめる。
「強硬手段の一つも取らなきゃ。――メリアドールさんには悪いけど、私達だってルザリア
以来の上司である隊長に、ラムザさんと結ばれて欲しいものね」
「そりゃ、私だって譲ったからには、ラムザアグリアスに射止めて欲しいですけど」
 ラファはなんとなく釈然としない顔で言った。
「だからって、ガルテナーハに伝わる禁術――『崔齎淫夢』を使うだなんて……大体コレ、
対象を性の快楽に溺れさせて堕落させる、っていう術ですよ」
 ラファの説明に、ラヴィアンは鼻息荒く答えた。
「堕落結構。隊長、ちょっと固すぎるからね。少し落ちてくれるくらいがちょうどいいわ。
うまく一線を越えたようだし、これであの石頭も少しは人間が柔軟になるんじゃない?」 
「そうかしら……」
「そうよ。ま、見ててごらんなさい。少しは女らしくなるでしょうから……」



 
 だが、ラヴィアンの期待は予想だにしない方向に裏切られてしまった。一線を越えた
アグリアスは、ラヴィアンたちの想像を超えて大胆になってしまい、毎夜毎夜、ラムザとの
秘め事の様子を微に入り細に入り話して聞かせるようになったのである。
 それまで上司の石頭に悩まされてきたラヴィアンとアリシアは、今度は上司の自慢話と
それによる興奮によって、いねがてな夜を過ごすようになってしまったのだった。