氏作。Part29スレより。





――闇があった。その中に、また、闇が居た。
「名前は」
アグリアスオークス。女だ。仲間が二人、詳細は不明」
オークス? 聞いた名前ね」
「アレだ、異端者ラムザ一味の奴。でも死んだんだろ? 教会がそう発表した」
「暗殺の依頼が来たって事は、生きてたって事だろう。ラムザ一味には借りがある、いい機会だ」
「バリンテン大公の仇討ちとでも? 冗談、ガラじゃないわ」
「しかし我々"カミュジャ"の顔に泥を塗った事実は変わらん」
アグリアスが生きてるって事は、異端者ラムザはもちろん、ラファとマラークも生きてるって事につながる」
「もし一緒にいたら、ついでに片づけてやりましょうよ。
 秘術だか何だか知らないけど、たいした実力も無いのに大公のお気に入りになってさ。嫌いなんだ」
「私情を挟むな。依頼は、アグリアスとその仲間の暗殺だ。
 もしラムザも一緒ならラムザも殺す。マラーク達も一緒ならマラーク達も殺す。
 そして誰よりも確実にアグリアスオークスを殺す。
 死体は四肢を絶ち首をはねた上で焼却処分し、人気の無い山中に深く埋葬する。
 "ひとかけらの痕跡も残さず"……それが俺達に与えられた命令だ」
「バリンテン大公という後ろ盾を失い、新たなクライアントを得た今、
 あのラムザ一味の女を殺せという大きな仕事が舞い込んできた。
 新しいクライアントに我々の実力を示すいい機会って事だ」
「殺して、暗殺集団"カミュジャ"再興……成すわ、絶対に」
「地図を見ろ、襲撃場所はこのバツ印の所。先回りして罠を仕掛け待ち伏せる。
 街中は駄目だからな……襲撃も死体も、誰にも見られる事なく処分せよとのオーダーだ。
 宿屋の料理に無味無臭の毒薬入れてはいおしまい、とはいかない。
 この場所なら幸い死体を埋める場所にも困らん。少々街道から出れば、あるのは鬱蒼と茂る木々ばかり」
アグリアスオークスは落ち葉の如く土に返り、木々の肥料となって消える」
「向こうは三人、こちらも三人。人員不足はお互い様だけど、まあ、何とかなりそうね。
 それいじゃあ、まあ、さくっと殺しに行きますか」
闇の中で、闇が、揺らいだ。





朝靄の中、貿易都市ドーターの宿から旅立つ人影が三つ。
「ふぁ……む……」
最後尾を歩く女性があくびを噛み殺した。
「ラヴィアン。まだ、眠い?」
「昨日寝たの何時だと思ってんのよ」
「仕方ないじゃない。安全な宿を探すのに手間がかかっちゃったんだから」
アリシアは眠くないの?」
「眠いです。でも、我慢しないと。私達、死人とはいえ、追われる者なんだもの」
「その通り」
アリシアとラヴィアンを率いる女性が振り返った。
朝靄が晴れ、朝日が彼女の金糸の髪を輝かせる。
「教会とて我々の遺体を発見した訳ではない、オーボンヌ修道院の崩壊から推測にすぎん。
 ヴォルマルフは倒したが、まだ我々の生を疑う者もいる。
 アルマ様の葬儀が行われたそうだが、一人か二人はその死に疑問を持っているだろう」
アグリアス様は真面目なこって」
「そこが頼れるところでもあるんですけどね」
「行くぞ。皆が無事だったとしたら、目指す場所はおのずとひとつ。
 どんな身の振り方をするにしろ、仲間に無事を知らせるため赴く所があるとしたら、
 ムスタディオの家しかあるまい。帰る場所の無い者が多いし、あそこには色々あるからな」
「ありましたねぇ……クラウドさんとか出てきてビックリしました」
「彼もまだイヴァリースにいるんでしょうか……」
「ふっ……案外元の世界に帰ってしまったのかもしれんな」
冗談のつもりで言ったが、事実そうだったら彼にとってよい事だろうとアグリアスは思った。
異邦人クラウド。この世界とは無関係にも関わらず、共に戦ってくれた力強いソルジャー。
彼と初めて出会ったのもムスタディオの家だった。
もし彼がまだこの世界にいるのなら、やはりムスタディオの家に行くだろう。
他にもラファやマラーク、メリア、ベイオ、レーゼ、労働八号、ラッド、オルランドゥ伯。
スタディオに、ラムザとアルマ様。再会の予感にアグリアスは胸を躍らせていた。


アグリアス、ラヴィアン、アリシアの三人はドーターから東に向かい、
アラグアイの森へと入った。
ボコと初めて出会った場所がここだったなと、アグリアスは懐かしさに頬を緩める。
風でざわめく木々の音、どこかから聞こえる鳥の鳴き声。静かな森だ。
周囲にも不審な気配は無い。モンスターの襲撃に備えていたが、どうやら必要無さそうだ。
人気が無い事で逆に緊張感を緩めるラヴィアンとアリシア
だがアグリアスは眼差しを鋭くして立ち止まった。
「どうかしましたか、アグリアス様」
「ん……いや、気のせいだとは思うが……少し地形に違和感が……」
「そうですか? 森なんてだいたいこんなもんでしょ」
言いながらラヴィアンはアグリアスを追い越して数歩踏み出した。
ガサッ。どこか不自然さを感じる落ち葉をラヴィアンが踏んだ刹那、アグリアスが飛び出した。
「敵襲ッ!」
アリシアが腰に下げられた二本のアイスブランドを抜いて身構える。
ラヴィアンは剣を抜こうとしたところをアグリアスに突き飛ばされた。
そして、アグリアスの足元――ついさっきまでラヴィアンが立っていた場所から、
紫色の煙が吹き出す。長い旅の中で何度か見た経験があり、ラヴィアンとアリシアは気づいた。
眠りガスだ!
アリシアより一拍遅れて眠りの剣を引き抜いたラヴィアンは、
咄嗟に風切り音目掛けてクリスタルの盾を突き出した。カンッと甲高い音を立てて矢が弾かれる。
そこに敵がいると判断してラヴィアンは駆け出す。
一方アリシアはアイスブランドを十字に重ねて頭上に向けた、刹那忍者ロングの刀身が振り下ろされる。
木の上から飛び降りてくる忍者。黒ずきんで顔を隠している、腰に巻いているのは力だすきだ!
(押される!)


純粋な腕力の差を瞬時に読み取ってアリシアは技での勝負に切り替える。
忍者ロングの一撃をいなし、フェザーマントをはためかせて回転し、
遠心力の乗った氷撃剣を叩き込む。相手は一本を小太刀で受け止め、もう一本が来る前にバックステップで退避。
刹那懐から手裏剣を三枚投げる。フェザーマントを掴んで身体の前面に振り出し、手裏剣をマントで払う。
一拍呼吸を置いて忍者に踏み込もうとしたしたが、
相手が忍者ロングを握った拳を地面に叩きつけようとするのを見て即座にサイドステップ。
「地烈斬!」
回避! 直後詠唱。この距離、敵の攻撃後に生まれた隙、間に合うと即断した結果。
「風、光の波動の静寂に消える時、我が力とならん……シヴァ!」
氷河の結晶が忍者を包む。やった、と思った刹那、背後に空間の揺れる音。
(テレポ!?)
即座に首を捻る、鉄扇がアリシアの肩を叩いた。首を捻らなければ頭蓋を砕かれていた。
「心無となり、うつろう風の真相、不変なる律を聞け……」
攻撃を加えたさらなる敵が詠唱を始める。詠唱速度が早い!
背後の男は明らかにショートチャージをセットしていた。
「不変不動!」
不動の光がアリシアに向かって放たれ、パンッと弾かれる。
(魔法を無効化された!? 頭のアレか!)
アリシアの額のカチューシャが、木々の隙間から射し込む光に触れた。
挟み撃ちになったアリシアだが表情に焦りは無い。
来る、と信じていたから。
振り向いて、背後にいた人物――陰陽士と向き合うアリシア
つまり、先ほどシヴァに攻撃させた人物、物理攻撃に特化した忍者に背を向けた事になる。
(馬鹿が! 隙だらけだぜ!)
地烈斬では陰陽士を巻き込む、波動撃は射程外、忍者は手裏剣を投げようと懐に手を差し込み――。
「不動無明剣!」
聖氷岩が降り注ぎ忍者の動きを止める。眠りガスの中からアグリアスが飛び出した。
「ガスが効いてない! 気をつけろ!」
忍者が叫んで仲間に伝えた。


(リボンのおかげで助かったな)
アグリアスは忍者に狙いを定め再び剣を振り上げる、そこに矢が放たれた。
アグリアス様!」
ラヴィアンの叫びと同時に剣で矢を切り落とす。
全身クリスタル装備のラヴィアンは機動力に欠け、弓使いの女までまだ距離を残していた。
頭上を見る、邪魔な木々は、有る、が、突き破れる。ジャンプ!
アグリアスを狙うため姿を現したは弓使い目掛けてラヴィアンが飛翔する。
弓使いの女は黒ずきんで顔を隠し、大地の衣を着ていた。
ラヴィアンの行動に気づいた弓使いは、咄嗟にラヴィアンへと射撃角度を修正する。
そして撃つ。全身クリスタル装備では、弓で貫くのは至難と判断し、額を狙った。
空中では回避困難と判断したラヴィアンは、相討ち覚悟で飛びかかった。
矢がクリスタルヘルムを破壊する。
(ブレイク技か! やるじゃない)
相手を無駄に殺すまいと選んだ眠りの剣が弓使いに突きつけられる。
だが、彼女の羽織う黒いマントが舞い上がり、弓使いの姿を隠した。
黒いマント――ドラキュラマントを貫通する眠りの剣。手ごたえはあった。
ドラキュラマントを裂いて後ろに下がる弓使い。声高らかに仲間に号令をかける。
「じっくり一人ずつ、倒していくのよ。援護して!」
弓使いの腕から出血。軽い眠気に襲われながらの言葉だった、眠りの剣の効果だ。だが致命的ではない。
「疾風、地烈斬!」
忍者がラヴィアンと弓使いが一直線に並んだ瞬間を狙って地烈斬を放つ。
「ギャウッ!」
悲鳴を上げるラヴィアンだが、同様に地烈斬を食らった弓使いからは腕の出血が止まった。
(カァーッ! 大地の衣の効果って訳ね、計算してチーム組んでるわこいつ等)


アリシアが二本のアイスブランドで陰陽士を攻撃する。
しかし命中直前、彼はテレポで姿を消した。
「テレポ使いが一人っ! 注意して!」


ラヴィアンと弓使いへの地烈斬で隙を作った忍者に駆け寄るアグリアスの眼前に陰陽士が現れた。
衝突すれば転倒し、そこを忍者に突かれる。咄嗟に斜め前方に軌道修正し回避。
「地の砂に眠りし火の力目覚め」
アリシアがさらに叫ぶ。
「ショートチャージ持ちと推測です!」
「緑なめる赤き舌となれ! ファイラ!」
アリシアの助言に従い、アグリアスはイージスの盾をかざした。
ディフェンダーと装備武器ガードで物理攻撃はたいてい避けられる。
問題は魔法攻撃。そこで魔法回避率の高いイージスの盾の出番、という訳だ。
「イージスの盾がやっかいだ! 頼む!」
陰陽士が叫んで、テレポで再び姿を消す。
「チィッ! だが忍者は逃がさん、アリシアも来い!」
「了解です!」
アグリアスアリシアの二人が忍者に迫る。
「裏回し剣!」
拳術『裏回し拳』を、忍者ロングと小太刀を持ったまま行う忍者。
その射程範囲に引っかかりそうになり、アグリアスアリシアは一時踏み止まった。


ラヴィアンが弓使いに眠りの剣で斬りかかるが、やはりドラキュラマントを使い回避する弓使い。
(近すぎて死角だ! なら、援護!)
弓使いが自動弓を射る。
アグリアス様!」
ラヴィアンの脇を通り抜けた先に、アグリアスの姿。
裏回し剣を回避した体勢から、剣でのガードは難しかった。イージスの盾をかざす!
矢がイージスの盾の中心を射抜き、砕いた。
「シールドブレイクか!」
「砕いた! 魔法!」
「暗雲に迷える光よ、我に集いその力解き放て!」
木の陰から聞こえる高速詠唱。
「サンダラ!」
雷光がアグリアスアリシアに降り注ぐ。


アリシアは咄嗟にフェザーマントで身を覆った。雷がマントの表面を伝って地面に流れる。
直撃を受けたアグリアスは、耐えた。しかしただ耐えただけではない。
雷撃のダメージを無視して忍者に斬りかかる。
忍者はドラキュラマントで回避しようとしたが間に合わず腹部を浅く斬られた。
「チャクラ!」
後ろに逃げながらチャクラの光で即座に傷を癒す忍者。
「想像以上に強い! ターゲットはシェルがかかっているぞ!」
忍者が叫ぶ。陰陽士と弓使いの表情がいっそう引き締まった。
(しかしいつシェルをかけた!? いや、雷撃を受けた時にオークスを包んだ光、黄と緑が混じっていた。
 プロテスとシェル!? ソルティレージュか! いや、香水の匂いは無い! 見慣れぬ服、あれか!?)
超高速でターゲット、アグリアスオークスの装備を分析する忍者。
武器は攻防に優れたディフェンダー。盾は魔法防御に特化したイージスの盾、だが仲間が壊してくれた。
これで魔法に隙ができたと思ったが永久プロテス・シェルがかかっている。恐らくあの服。
彼は知らないが、アグリアスが着ているのはローブオブロードという伝説的な超々レアアイテムだった。
(さらに眠りガスをもろともしない。あっちの女はカチューシャを着けていた、じゃあこいつも?)
分析続行。アグリアスの結った髪の先に愛らしいリボン。
「リボンだ! 陰陽術大半はあきらめろ!」
腰を落として構える忍者。アグリアスアリシアの両方を相手にしようとしているらしい。
そして横から陰陽士が手出しをする算段。弓使いはラヴィアンが抑えてるが、一対一、どうなるか解らない。


ホーリーナイト、アグリアス。ナイト、ラヴィアン。ナイト、アリシア
相対するは暗殺者の忍者、陰陽士、弓使い。戦いはまだ続く。



to be continued……。