氏作。Part29スレより。




汚いくさいは当たり前。ついでに言やぁ、むさ苦しい。
ただ面倒くさいという理由だけで風呂もずいぶんさぼってるし
最後に洗濯したのはいつなのかもあやしい服を適当に着てる。
徒弟奉公がきつくて逃げ出したやつ、地元で面倒おこして帰れなくなったやつ、
騎士団からの脱走兵、修道院の生活がイヤになったやつ、
ここに流れ着いて仲間に加わった理由は人それぞれだ。
男ばっかの暑苦しい共同生活しているうちにだんだん、
んながみんな筋肉たっぷりおつむはちょっぴり、
顔も汚れて似たり寄ったりになってきちまった。
いまやどいつがどいつなのかすら見分けがつきにくくなっている。
そりゃそうだ、男ばっかで拳術修行に山篭りなんてしてりゃ、
優雅な生活しているほうがおかしいってもんだ。
時々オネエちゃん見たさ触りたさに人里に繰り出したりもするけど、
基本は禁欲生活でこもりっきりの毎日だ。
武道のためってすっばらしい理由も一応あるけど
外での面倒事から逃げたいてぇ俗な理由もあって俺らはここにいる。
だから自制心なんて高尚なもん持ち合わせちゃいない。




そんな俺たちの根城にうっかり若い女のお客さんが迷い込もうもんなら、
だいたいどうなるかわかるだろ?
なんだか色々オマケの男共もくっついてるのが気に入らないが、
とにかく俺らはいま、極上のお客さんをお迎えしている。
黄金に輝く長い髪、透き通るような白い肌にまつ毛長くてでっかい目、
いままで生きてて見たこともないようなべっぴんさんの女騎士だ。
後ろにも小娘が何人かいるけどまちがいなくこの女が最上等だ。
青い服と鎧ですっぽり身を包んで露出度は低めだが、
俺らを警戒して剣を構えたその動きだけでわかるんだよな。
出ているとこと引っ込んでるとこの差が激しい、
顔も体も極上、上玉も上玉だってな。



なんだか味方どうしゴチャゴチャ相談してやがる。
殺るか殺らないか、か?ムダなことだな。
女にゃ飢えたやつばっかなんでね。悪く思うな。
女騎士がこっちを向いて堂々とした態度で話しかけてきた。


「このあたりが貴殿らの修練の場とは知らず、失礼した。
 私たちは貴殿らの邪魔をする気はない。
 急ぎの用があるのでどうかここを通らせてはいただけないか」




話に応じるフリもなにも、うっかりフラフラ近づいたら、
ああ、なんだかとってもいいにおいまでしやがる。
こっち風下だからなー。
香水か?違うな。
上玉はそんなのつけなくても肌と髪そのものが香り立つってのは
ホントらしいな。
それにあの物言い。
まるで男みてえなのに俺らとは無縁の気品とかそういうやつまで漂ってて
ただでさえよく通るいい声が色々刺激しやがる。
普段は「上腕二等筋」だの
「股関節脱臼まいっちんぐ」くらいしかものが言えない
アホのヴァンサンまでが舌なめずりしながら何やらつぶやいている。
「今日は佳き日かな・・・」
おいおまえ、
いつの間にそんなむつかしい言葉が言えるようになっちゃったんだ?
まあいい。お楽しみの始まりだ。





  



  *


  ー舞姫戦場艶姿


わたくしは日がな一日丘の上でひとり思いをめぐらせることが多い。
そうでなくとも話しかけられた際にろくな返事を返したためしがないので
周囲の人間はわたくしを阿呆扱いするがそれもよろしかろう。
モンクの修行は激しいものばかりなのは認めるが、
どんな些細なものであれとんちんかんな応答をすればすわ、
「ありゃー、お前、殴られすぎてそうなっちまったんだな、かわいそうに」
などと実にどうでもよく的外れな慰めの言葉をかけられてしまう。
過去の詮索はしないのが礼儀である訳ありのはぐれ者同士なら
一切がっさい何も言わない、とまではいかないが、
少なくともこの言葉を言われないだけでもありがたい。
ただ、わざわざ言葉を使って表現するほどのなにものかを得る機会がないだけである。
何の大義も無き獅子戦争なぞに仕官として参加しておれば、
人間をやめただけの醜いけだもの同士が口から発する音に興味などなくなる。
会話の真似事はそろそろやめる時分かもしれぬ。
楽しく飲み食いだけに使っておけばよいのにとつくづく思う。
赤子と修道女が他人の血で国土を染めながら本気で王位を争うものか。
摂政の地位を手に入れたものが事実上の王なのだからそれは建前だというが、
どちらにしろわたくしにとってはまったくもってどうでもよい、
それだけを学んでわたくしは浮世とともに言葉への関心も失った。


しかしそれも昨日までのこと。
わたくしたちの根城を通り抜けようとした旅の一行、
そのなかに一人りん、とした佇まいの女性騎士がいた。
傭兵らしい青年たちやほかのご婦人がたもいたが、
何よりも彼女が人目を引いた。
彼女に目配せひとつ、亜麻色の髪で前髪がひと房飛び出した青年がまず、
わたくしたちを騒がせてすまないと詫びてきた。
ものを盗ったり血をながしたりという意図も無いので立ち去らせてほしいと、
枯れ草色の髪で傭兵や騎士というよりはなんだか職人のような格好の青年が頼む。
もう一人オレンジがかった薄茶色の髪で傭兵らしい格好の青年が
急いで通り過ぎたいだけなのだとダメ押ししてくる。
男衆のなかではひとり、褐色の肌の青年のみが妹らしい少女をかばうように立っている。
話をするために進み出てきたかれらより、やや後ろに幾人かのご婦人がたが控えている。
仲間たちが口から出す言葉について全幅の信頼を置いているのであろう、
彼女も、黒チョコボに隠れるようにこちらを伺う異国人風の少女も、
騎士装束に身を包んだふたりの娘たちも一言として発しない。
ただ、彼女の理知的で黒目がちな瞳はじっと、
わたくしたちを射るようなまなざしで油断なく輝く。
剣のつかに手をかけいつでも動けるよう構える所作が、
気高く危険で美しい野生の生き物を思わせた。
抜刀の機をうかがいながら深い呼吸を繰り返し、
形よく淡く紅をひいた唇からかぐわしい吐息が漏れ出している。
わたしの友は守り抜く、と、全身が語っていた。


わたくしたちが何も応えずにいると、
ついに彼女が口をひらいた。


「このあたりが貴殿らの修練の場とは知らず、失礼した。
私たちは貴殿らの邪魔をする気はない。
急ぎの用があるのでどうかここを通らせてはいただけないか。」


佳人はただそこに存在するだけで見るものすべてを魅了する。
いつまでも眺めていたい情景である。


「今日は佳き日かな。」


自然と言葉がこぼれ出た。
しかし、悲しいかなわたくしたちの仲間内では常に欲求不満の輩もおり、
厳しい克己心によって己を律するモンク僧とは少々具合が異なるといってよいだろう。
ご婦人がたの多いこの一行を黙って通す気などさらさらないようである。
さて、どうしたものかな。
わたくしとしては、
彼女と何かしら「会話」をしてみたいという気分だ。
久々に、「発音」ではなく「発語」する場面が様になる稀有な女性だ。
そんなふうだから奇人扱いされるのやもしれぬ。
こんな山奥で武術のわざを磨きながらもどこへも仕官せず、
傭兵団をつくるでもなくの奇人集団にありながら何をいうのか、
わたくしとしては朋友たちにそう返してみたくもなるが。


ああ、彼らの頼みをわたくしたちは受け入れないことに決めたようである。
わたくしとしても最後の居場所を失うわけにもいかないので仕方あるまい。
ため息ついでにすべての空気を吐ききり、丹田に力をこめる。
ラムザ、ムスタディオ、覚悟はいいな?」
限界まではりつめた彼女の声を皮切りに、
枯れ草頭が奇妙な飛び道具を素早く抜き出し達郎、
じゃなかったタトゥーローの肩を撃ちぬく。
亜麻色跳ね毛がエディに向かって突っ込んでゆく。
忍者刀をぎらりふたふり輝かせ、ときのこえをあげる。
後方に控えていた小柄な少女は黒チョコボにまたがり、
兄に守られながら褐色の細い腕を天にかざして何やら詠唱している。
他の面々も抜かりなくわたくしたちに刃を向けてかかってくる。
そして彼女は、鞘から騎士剣を滑らかに解放した、
が、勢い良くこちらに突撃もせず、何も斬らない。
女性騎士としては別段長身の部類に入らないたおやかな女性が、
無骨な騎士剣を軽々と振り回しながら世にも艶やかな舞いをはじめた。



抜き身のまま幅広の剣を軽やかに空へと放り投げ、
なんでもないような涼やかな顔をして白羽取りで受け取る。
体をなまめかしく極限まで反らし、
なんともいえない潤んだまなざしで空を仰ぐ。
つかを握りなおしては切っ先でぐるりと弧を描く。
しなやかな手と手首に吸い付いた騎士剣は、
その重量とは裏腹に軽やかに翻される。
激しい舞いに頬が紅潮してゆき、
塗れた唇から荒いながらも甘い吐息が放たれる。
澄んだまなこが閉じられるや否や
まばたきの音さえしそうな長いまつ毛がその存在を高らかに主張する。
聞こえないはずの、彼女が身をまかせる調べすら聞こえてくる。



わたくしたちはすっかり魅了されていたといってよいだろう。
高台に陣取って人数も優勢だったはずのわたくしたちは、
楽しみながら自ら彼らのもとまで徐々に引き寄せられていった。
もっとも、エディなぞは最初から彼女ににじり寄っていたが。
われらが麗しの舞姫のもとに。
薄茶頭の青年におなじモンクの技を叩き込まれようが、
騎士装束の娘たちに矢の雨を頂戴しようが、だ。
わたくしたちは舞姫にすっかり魅了されていた。
いつの間にやら己の体がカエルになったり腕がしびれたり、
ずいぶんと面白いことになっていることにも気付かぬまま、
女神をあがめるようにぐるりを取り囲もうとじわじわ近づいてゆく。
ああわが朋友たちよ、そこにおれば少女の黒魔法で丸焼きになるぞ。
わかっているのか?
その前にニコルが、少女の兄に杖で吹っ飛ばされる。



舞姫のもとにはせ参じる間もなく打ち倒された連中を踏み越え、
亜麻色跳ね毛が腹の底から声を絞り出す。
アグリアスさん、伏せて!」
そうか、佳人の名はアグリアスであるか。
礼を述べるぞ青年よ。
重厚な剣がが銀色の矢となって空を切り、
アグリアスの髪を束ねた紐を断ち切りついでにわたくしの肩に収まる。
至高の輝きをもつ金糸がアグリアスを覆う。
わたくしたちは、息をのむ。
阿呆のように立ちすくむ。
儚げな表情で舞っていたアグリアスは再度剣を握りなおす。
その熱く気高い魂そのものをあらわした力強い笑みを浮かべる。
「天の願いを胸に刻んで 心頭滅却! 聖光爆裂破!」





  

 *


「がははははは!アンタら強ぇなぁっ!
 特にアンタ、サイコーだ!」


俺らのなかで一番女好きのヤツが
しっかりアグリアスさんの横を陣取ってる。
それとなくアグリアスさんの肩を抱いてみようとしたら、
「あはは、お褒めにあずかり光栄です!」
さりげなくアホ毛の坊主にブロックされた。
いくら坊主が男にしとくにゃもったいないきれいな顔でも、
忍者刀二本を涼しい顔でぶん回すだけあるガッチリした体だ。
期待していたやわらかい肩と違うのを抱いて、
がっくりしたのが顔に出たまま
「・・・・・・わはははは!うん!アンタが大将!」
「ええ、まあ、そうなんですけどねー。一応僕が隊長やってます」
ってことはオイ、アグリアスさん、マジメそうだし、
坊主の命令ならリチギになんでも聞いちゃってるのかーっ!!
あーんなことやこーんなことも坊主のいいなりやりたい放題かーっ!!
違うと信じたい。
うん。
アグリアスさんはマジメな女性だ。
そんなことは、たぶん、ないはずだ。
「私達はラムザに身を預けています」
なーんて言ってるけどさッ!
・・・頼む、文字通りの「身柄を預けた」っつー意味であってくれ。
アホ毛の大将も大将でいまみたいに、
アグリアスさんにそれとなーく好意は示してるけど。


とどのつまりがこうだ。
いわゆる、武人同士でおたがいの力を認め合ったってヤツか。
俺らのほうがお下品度は勝っちゃってるけどなー。
あ、嬉しくないか。
あっさり返り討ちにされた挙句にしっかり手当てもしてもらい、
アグリアスさんとそのオマケどもといまや酒を酌み交わしている。
「どうしたの?まだ調子は悪い?」
がっくりしたまんまのアホに向かって、
アグリアスさんがすごーくやさしい言葉をかけてくれる。
しかも、女言葉。
うわー。女言葉も、いい。
あー、あー、そんなやさしくしたって勿体ないっつーの!
どうせ俺たちゃみんな丈夫がとりえの脳味噌キンニクばっかだし、
チャクラやってツバつけときゃ治るっつーの!
・・・・・・・アグリアスさんのかけてくれたケアルガ、
すっごいあったかかったなぁ・・・。


しかしそれにしても、野郎ばかりの酒盛りでも気後れもしない、
それでいてべっぴんさんなんて初めてだよ。
なんていうか、酒を飲むしぐさもいちいち品があるってーのか、
下品な話題でもいやーな顔ひとつしないでいてくれるし、
笑い方も上品なのにさっぱりしててイヤミもないし、
あー、俺、あんま本とか読まないで育ったから上手く言えねぇ。
アグリアスさんは特別な人だってのだけがわかる。
アグリアスさんと一緒に旅をできるうらやましい連中も、
みんながアグリアスさんに憧れてるってすぐわかる。
アグリアスさんはアグリアスさんで、
誰にも差別しないで平等に酒やつまみをすすめたり、
一人酒を飲めない年の外国人っぽい嬢ちゃんのことも気ぃつかってる。


さっきアグリアスさんが肩抱かれるのを阻止した坊主も、
ヘンテコな飛び道具使った兄ちゃんも、
みんながみんな、アグリアスさんにぞっこんなんだ。
目ですぐわかる。
アグリアスさんの後ろでくつろいでるチョコボも、
時々「なでてくれ」と言わんばかりにアグリアスさんを覗き込む。
女衆といやさっきから、
おぐしがみだれています〜」
「あたしのリボン使ってください!」
なんて甘えた声だして櫛だして、
要はまあ、アグリアスさんのきれーいな長い髪がいじりたくて、
とかしたり編んだりまとめたり、飽きもせずにずっとやっている。
あ、また髪の毛が抜けた。
「とっておこう」って顔に書いてある奴、全員。
ああ、乱れ髪もいいけれど、
やっぱりアグリアスさんはキリリと髪をまとめた姿が似合う。


翌朝、急いでいたのに足止め食らわしちまったお礼に
ここらのうまい酒とどうせ使わない重装備アイテムを渡した。
うんにゃ、貢いだ。もちろんアグリアスさんに。
なんだか色々敵が多くってあっちにこっちに国中駆け回ってるらしい。
これでアグリアスさんも見納めかー。


「あ、こんなに戴くなんて、できません」
いいのいいの、俺ら、みんなアグリアスさんの下僕ですから。
「それにしてもアグリアスさん、
 一度にみっつも攻撃手段を使えるなんてすごいなー」
「え?私はあのとき聖剣技と踊りしか使わなかったけど?」
「だってみんな、カエルになったりなんだりの時、
 ついでにあんたにハートを盗まれまくってたぜ?」


さっぱり訳がわからないって顔してるな。
アホ毛の大将ならわかってくれるよな。
「なあ、あんたらのお姫さんは最高だな」
大将がうんうんと熱をこめてうなずく。
「姫?彼らは・・・・・・・・・・様のことを知っているの?」
ハトが豆鉄砲くらったような顔してきょとんとしたアグリアスさんも、
最高だった。