氏作。Part29スレより。




ネルベスカ神殿での戦いで聖石「キャンサー」を手に入れたラムザ一行。
ベイオウーフの悲願であったレーゼの呪いも解け、機工都市ゴーグへと帰還した。
天球儀を前に緊張の趣を隠せないムスタディオ。
労働八号起動の際の事件を思い出して身震いをする。
「まさか、これが“変形”するなんてことはないよな……?」
「試してみれば解るよ?」」
そんなムスタディオにお構いなくラムザは機械に聖石キャンサーをはめ込んだ。
「キャンサーか……さて、いったい何が起こるやら」
瞳を輝かせるのはアグリアスオークス
「そういえばアグリアスさんは巨蟹宮でしたね」
「きっと労働八号よりすごい戦力を得られるに違いない」
「だといいですけどね」
歓談のかたわら、天球儀が震え出した。
「きた、きたーっ!!」
叫ぶムスタディオ。
天球儀から光が放たれたかと思うと、轟音とともに一人の男が現れる。
「ここは……? 俺はいったい……?
 ラダマンティスに……黄泉比良坂へ落とされて……それから……?」
現れたのは濃い紫の全身鎧を着た悪党顔の男だった。
それを見て静観をしていたベスロディオが口を開く。
「むむ……。昔読んだ書物にあったな……おそらくこれが転送機だろう……」
「転送機?」
スタディオが問う。父は静かに答えた。
「ああ、次元を超えて異世界を旅するための機械……、転送機だ」
それを聞いてラムザが驚愕に目を見開く。アグリアスも同様だ。
「では、彼は次元を超えてこの世界に?」
「キャンサーにそれほどの力があるとは……さすがキャンサーだな、次元すら操るとは」
二人の言葉を聞きベスロディオはうなずく。
「おそらくそうだろう。……その証拠にあんな鎧、見たこともないぞ」
言われて現れた男を見る。全身に紫の鎧にまとい、
頭部には蟹の足を思わせる突起が生え揃ったサークレットのようなものを装着している。
それにしても悪そうな顔だ。
「俺は……、俺の名はデスマスク……、そう……デスマスクだ」
名前まで悪そうだ。
しかし見かけで人を判断してはいけないとラムザは気を持ち直した。
「僕はラムザ、そっちは仲間のアグリアス巨蟹宮生まれの……」
「お前達の名前なんて興味ないぜ。俺に必要なのは、アテナの首だ。
 そう……そうだ。俺は聖闘士……キャンサーの黄金聖闘士(ゴールドセイント)だ」
「なんだよ、いけすかないヤツだな!」
デスマスクの態度に眉をしかめるムスタディオ。
同様にアグリアスもこれがキャンサーの名を持つ戦士かと思うと頭が痛い思いがした。
「まったくだ。鎧は立派だが顔も中身も悪い、これが巨蟹宮の戦士なのか。
 ゴールドとか名乗ってるくせに紫色だし」
「何だと貴様!?」
デスマスクが怒鳴りアグリアスを指差す。
黄金聖闘士相手にいい度胸だ。女! 俺の力を見せてやるっぴ!」
……やるっぴ? 全員が失笑した。
「な、何を笑っている。ふふ、俺様の力が解らんとはマンモス哀れな奴!
 一瞬にして冥土に送ってやろう、積尸気冥界波!」
デスマスクの指から光速で放たれる紫色の閃光。
それがアグリアスを貫き――何事も無く消え去る。アグリアスの髪を結ぶそれが少し揺れた。
「……? 今、何かしたか?」


積尸気冥界波――相手を死の国『黄泉比良坂』へ送り込む即死攻撃。
リボン――無効:戦闘不能。他様々なステータス異常。


「……な、ならば今度はそっちの男だ! 喰らえ、積尸気冥界波ー!」
今度はラムザに向かって放たれる光速の小宇宙。だが彼の右手薬指の指輪が光を吸収する。


天使の指輪――リレイズ。無効:戦闘不能・暗闇。


「……えーっと、もしかしてデス系のアビリティ?」
「そうらしいな」
必殺技が二度も封じられヤケになるデスマスク
「舐めるな! 黄金聖闘士の拳は光速拳! 一秒間に地球を七週半する拳を受けてみろ!」
「え、俺!?」
デスマスクの拳がムスタディオの腹部を打ち抜く。ダメージ999の超威力! だが!


MPすり替え――HPの代わりにMPが減る。


「MPが全部吹っ飛ばされた、すげぇ威力だ」
「そんな馬鹿なー!? 黄金聖闘士である俺の攻撃がひとつも通用しないなんて!」
ショックのあまり後ずさりするデスマスク。その身体が窓から射し込む太陽光に触れ――。
「ぐぴっ! か、身体に力が……しまった、太陽の光が……!」
どうやら吸血鬼よろしく太陽の光が弱点らしい。


「……これがキャンサーの戦士なのか……」
期待が大きかっただけに膝を折るアグリアス
だって、ねえ? 労働八号とかすごかったですもの。いきなりムスタディオを戦闘不能ですよ。
その後も近接戦闘では圧倒的パワーで活躍し、高台に上るための台にもなり、
遠距離だって『処理する』の使い勝手のよさで即戦力でしたもの。
それなのに出てきたのがこんな変な男じゃ悔しいったらありゃしない。
しかしデスマスクの苦しみっぷりがあまりにも哀れなので、アグリアスはカーテンを閉めてやる。
「……し、死ぬかと思った」
「大丈夫か?」
「な、何とか……というか、ここはどこだ。冥界じゃないみたいだが、地上か?」
「地上と言えば地上だが……イヴァリースという国だ」
「何だと? ではサンクチュアリにはどうやって戻ればいいんだ! 俺はアテナの首を捕りに行かねば……」
「えーと、何か物騒な事を言ってるけど、突然襲ってきた事も踏まえ、貴公は悪者という事でいいのか?」
「そ、そうだ。俺は冥界の神ハーデス様に忠誠を誓ってアテナの首を……」
バサッ、カーテンを開けるアグリアス
あじゃぱァーッ!」
「悪党に用は無い」
「ま、待て……俺はあくまでハーデスに忠誠を誓ったフリをして、アテナに聖衣を……」
「命乞いとは情けない。巨蟹宮同士、私自ら引導を渡してやろう。北斗骨砕打!」
「うぎゃぴい〜っ!」
戦闘不能が発動して倒れるデスマスク。その身体は光の粒子となって消えた……。
「……何だったんだあいつは」
「何だったんでしょうねぇ……」
デスマスクの最期を看取るアグリアスラムザ
結局天球儀は粗大ゴミとしてベスロディオ宅の倉庫に放り込まれる事になったとさ。



   おしまい。



「おーいムスタディオ、また天球儀を発見したぞ。今度は双魚宮の印が――」



   おしまいったらおしまい! 終わり! 終了!