氏作。Part31スレより。




 廊下の、曲がり角の陰に身を隠しながら、アグリアスは嘆息した。
(わたしは、なにをしているのだ……?)
 胸中で、自らに問うが、思いつく答えは、くだらないものばかりだった。
 要するに、自分は、くだらないことをしているのだと、アグリアスは渋々と認めた。
 アグリアスの様子に気づいた、同じく、曲がり角の陰に身を隠しているラヴィアンが、
屈んだまま顔を上げ、訊いてくる。
アグリアスさま、ノれないのは分かりますが、ラムザのこと、知りたくないんですか?」
「方法に因る」
「なら、どんな方法ならいいんです?」
「わたしは、交換日記が――」
 アグリアスが答える途中で、ラヴィアンは、呆れた顔で首を横に振って否定してくる。
「交換日記で、ラムザが愛欲をそそられる人を確かめるなんてことが、アグリアスさまにできるとは思えません」
「いや。わたしは、きちんと文章を書いてみせる」
「どうせ、旅団の報告書じみた内容になってしまいますよ」
「…………」
 自分でも、あり得ると思ってしまうことを告げられ、アグリアスは黙った。
「あたしは、あの本を使って確かめるのが、最適だと判断します」


 曲がり角の向こう側にある、ラムザの部屋の前、
こちらから覗ける所に置かれた、一冊の本に視線を移し、ラヴィアンが言ってきた。
 アリシアが提供してきた『女騎士と少年見習い戦士の秘め事』という官能小説が、
ラムザの性的な嗜好に合うか合わないかを確かめる為、アグリアスとラヴィアンは、
ひたすらに張り込みを続けていた。
「やはり、あからさまに怪しいと思うのだが」
「まあ、ラムザが、引っ掛かっても引っ掛からなくても、あたしにとっては、おもしろいことになりそうですし」
「はっきりと言ってくれるな」
「物事の理由が明確に分かっている方が、信頼できますよ」
「だが――」
 あっさりと言い放ってきたラヴィアンは、アグリアスが論じかけるのを、気配で制止してくる。
「来たか……」
 アグリアスは呟いた。
 曲がり角の向こう側に、ラムザの姿が見える。
 ラムザが、自分の部屋の前に置かれた本に気づき、それを拾う。
 アグリアスとラヴィアンは、息を詰め、ラムザの様子を窺う。
 本の題名に驚いたらしいラムザが、きょろきょろと辺りを見回したので、
アグリアスとラヴィアンは、より深く身を隠した。


 ラムザの姿は見えなくなったが、扉が開閉する音が聞こえた。ラムザが部屋へ入ったのだろう。
 ラヴィアンが、立ち上がって伸びをすると、告げてくる。
「さて、明日になったら、ラムザの部屋に、留守の間に侵入し、自慰に使われた塵紙を見つけます」
「じ、自慰に……」
 ラムザのそれを想像してしまい、よろめくアグリアスに構わず、ラヴィアンが訊いてくる。
「扉の錠はどうしますか? ラファをけしかけます?」
「あ、ああ、ラムザの部屋の鍵は、わたしが預かっている」
 持っていた、ラムザの部屋の鍵を示すと、なぜか、ラヴィアンは唖然とした。