氏作。Part31スレより。




アグリアスさまは、やまびこ草の花言葉を知っていますか?」
 アリシアが、アグリアスにやまびこ草を渡しながら訊いてきた。
 沈黙の呪詛を受け、喋ることのできないアグリアスは、首を横に振り、否定を表す。
「なあに、空想家の、甘ったるい講釈?」
 からかうように口を挟むラヴィアンを、アリシアが諭そうとする。
「花卉に想いを込めることの、楽しさや切なさは、心を豊かにしてくれるわ」
「あら、そう? なら、尚更、心の貧しいあたしには、関係ないわね」
「そんなことは、言わないで」
 当て擦るラヴィアンに、アリシアは眉を顰めるが、深く息を吐くと、めげずに説明してくる。
「世界を言葉で満たす、沈黙と相反する力を秘めた、やまびこ草には、疎通という意味が宛てがわれました」
 うっとりとした様子で、アリシアは続けてくる。
「やまびこ草の花言葉は、共鳴。響きあう、言葉と意志、素敵ですね……」
「こら。帰ってきなさいよ」
 ラヴィアンが、白昼夢に浸るアリシアの顔の前で片手を振った。
「はっ!? ご、ごめんなさい! いつもの発作が起きてしまって」
「あんたねえ……」


 アグリアスは、うろたえるアリシアと嘆息するラヴィアンに微笑み、やまびこ草を噛み締める。
 強い苦味と清涼な霊気を感じ、咳払いをして告げる。
「休憩は終わりだ。敵を側面から攻撃し、味方の進撃を援護する」
ラムザを、ね」
「ええ。そうよね」
 態々、言い直してくるラヴィアンと、それに賛同するアリシア。こんな時だけは、言動が揃う。
(普段は、ぎくしゃくとした関係なのに、な)
 これは、心のどこかでは繋がっているということなのだろう。
 少しの羨望を抱き、言う。
「やまびこ草の花言葉は、おまえたちに相応しい」
「は?」
「えっ?」
 アグリアスは、面食らう、ラヴィアンとアリシアに目配せし、駆けだした。