氏作。Part36スレより。




 緩やかな白銀の軌跡を描く剣が、闇夜を彩る。
「ふ……」
 舞踏を終え、アグリアスは軽く息を吐いた。
「踊ることでさえ剣に頼るわたしは滑稽だろう?」
 アグリアスが苦笑して告げると、広葉樹の陰から、ラムザが拍手をしながら現れた。
「いいえ。綺麗です」
「ふん。世辞はいい」
「本当に、綺麗ですよ」
 微笑んで言ってくるラムザに、アグリアスは頬を染めた。
 右手に持っている剣で虚空を薙ぎ、訊く。
「なぜ、わたしが踊らなければならない?」
「んー」
 悪戯を見つかった子供のような表情をするラムザに、アグリアスは小さく嘆息した。
「わたしは、おまえの母ではないのだぞ……」
「えっ?」
 アグリアスの呟きに、ラムザが首を傾げる。
「わ、わたしが踊らなければならない理由を教えろ!」
 思わず口にした想いを誤魔化す為、アグリアスラムザに詰め寄った。
 アグリアスの剣幕に押され、ラムザが答えてくる。


「ぼくが、アグリアスさんが踊っているのを見たかったんです!」
「なっ……!?」
 絶句するアグリアスに、ラムザは堰を切ったように捲したててくる。
「だってだってアグリアスさんが踊る姿はきっと素敵だし素敵だったし
 剣舞っていうのがアグリアスさんらしくて感じ入りました
 みんな見惚れるだろうけれど有体に言えばぼくだけの為に踊って欲しいんです!」
「こ、こら!?」
 呆気に取られている所をラムザに抱き締められ、混乱したアグリアスは、剣を落として声をあげた。
「…………」
「…………」
 数十秒、静寂が訪れ、互いの息遣いを聞こえた。
「ごめんなさい。でも――」
 ばつが悪そうにするラムザを、アグリアスは、できるだけ優しく諭す。
「おまえの我儘は、冗談では済まないことがある。自重しろ」
「はい……」
「だが――」
 アグリアスは、俯いたラムザの頬を、そっと撫でながら囁く。
「おまえが、わたしに甘えてくれるのは、不思議と嬉しい……」