氏作。Part31スレより。




 扉を開けて部屋に入ると、ラムザが、なにやら面妖な工作をしている。
「なんですか、アグリアスさん?」
 椅子に座ったまま上半身を捻ってこちらを向き、ラムザが訊いてきた。
「茶を入れた」
 持っている盆の上の、湯気を立てる茶碗を、顎で示す。
「ありがとうございます。いただきます」
 ラムザは、礼を述べると、工具やら書き付けやらが散らばる机の上を、雑に整理していく。
 アグリアスは、机の上の、空いた所に茶碗を移し、盆を脇に抱えた。
「この茶は、アグリアスさんが入れてくれたんですよね?」
「ああ。だから、おいしくはないだろうな」
「……それでもいいんです」
 なぜか相好を崩したラムザは、茶碗を口元に持っていき、茶を冷ます為に、息を吹きかける。
「なにを作っているのだ?」
 机の上の、歪な形の、クリスタルとミスリルの細工に、視線を移して問う。
どうやら、ラムザは、これを作ることに、数時間を掛けていたようだ。
「浮遊装置です」
 茶で喉を湿らせ、ラムザが答えてきた。


「浮遊装置とは、なんだ?」
 理解できず、再び問うと、ラムザが、楽しそうに説明してくる。
「レビテトの効力を付与したクリスタルを、擬似的な浮遊石とします。
ミスリルが、魔力を増大する回路として機能し、多くの負荷に耐えられる魔導の活力を生じさせます。
これに、外部から魔力を送ることで、任意に浮遊できるんです」
「それが、現在の技術で、実際に可能であるとは思い難いのだが」
 眉を顰めて告げると、ラムザがにっこりと笑い、言ってくる。
「試してみましょう」
 ラムザは、茶碗を机の上に戻し、替わりに浮遊装置を手に取り、椅子から立ち上がる。
アグリアスさん、ぼくに掴まってください」
「あ、ああ」
 取り敢えず、逆らう気はなかったので、言われた通りにする。
「いきますよ」
 ラムザが、目を閉じて浮遊装置を握ると、浮遊装置が小さな音をたてる。
「うっ……」
 ラムザと共に宙に浮いたのを感じ、アグリアスは声を呑んだ。
床に落とした盆が、縁で転がって倒れた。
浮遊装置は、確かに、アグリアスラムザを、宙に浮かせることはできた。
だが、それは、あまりに不安定だった。


 それほど高く浮いてはいないが、周囲に魔力の流れが展開している為、迂濶な判断はできない。
「どうするのだ、ラムザ!?」
「うーん。やっぱり、ムスタディオに手伝ってもらうべきだったかな」
「呑気なことを言っている場合か!」
 声を荒らげると、ラムザは苦笑した。
「ちょっと失敗しちゃいました。でも、起動に使った魔力は少しだから、すぐに治まるでしょう」
 ラムザの釈明を聞き、アグリアスは思わず嘆息し、その拍子に体勢を崩してしまった。
「く……あっ……!?」
 ラムザの頭を、胸に抱く格好になってしまい、羞恥を覚える。
「す、すまない」
「いえ。気持ちいいですし」
「なっ……!?」
 アグリアスの乳房に顔を埋めた、ラムザに言われ、絶句する。
「んうー」
「うあっ! よせ、こらっ!」
「浮遊装置が停止するまでは、やめられないです」
 乳房に顔を擦りつけてくるラムザを叱るが、撥ねつけられる。
「おまえは……ん……あふっ!」
 アグリアスは、ラムザの行為と甘い声を漏らしてしまう自分に、頬を染めた。