氏作。Part32スレより。






【 はだかの王様 】



 アグリアスさんとラムザさんは村一番のおしどり夫婦。
 その日は二人そろってふもとの街へでかけました。
 久しぶりのお出かけにご機嫌のアグリアスさん。
 夫の腕に抱きついて、あっちこっちへ引っ張り回します。
 やがて遠くの方から聴こえてくるざわめき。
「あれはなんの騒ぎですか?」
 ラムザさんは通りがかりの男を捕まえて尋ねてみました。
「向こうのお城の王様が、新しい衣装のお披露目にいらっしゃってるって話だよ。
 あんたら、こいつを見に行かない手はないぜ?」
 口早に答えると、さっさと走って行ってしまう男。
 それは面白いとばかり、二人も男に続いて歩き出しました。


 まもなく二人は大きな通りに辿り着き、集まった人混みをかきわけてゆくと、それはみごとな
パレードが始まっておりました。
 豪華なラッパの音色。たくましい兵隊たちの隊列。
 しかし、どういうわけか人々の盛り上がりは嘘くさいものに見えました。
 二人は首をかしげましたが、やがて現れた王様の姿を見てそのわけがわかりました。
 王様はどう見ても全裸だったのです。




「なんだ、王様ははだかじゃないか!」
 思わずアグリアスさんが声をあげると、途端にあたりは静まり返ってしまいました。
 そして、すぐさま兵隊たちが怒鳴りつけてきました。
「無礼者!」
「はだかとは何たる言い草!」
「王様は、馬鹿には見えぬ服をお召しになっておられるのだ!」
 額の広い栗毛の王様はぶぜんとしております。
 アグリアスさんもいぶかしげな顔つきをしていましたが、しばらく考え込んだ後に大きくうな
ずきました。
「なるほど。王様は私たちの誰よりも豊かだ。それなのにそのお姿は私たちの誰よりも貧しい。
それはすべて私たち民の心に近づくため。私たちを愛するゆえの振る舞いなのでしょう。
 そのような博愛のご精神、気高いお心こそが、王様の纏われている至高の衣服なのですね!」


 たちまちあたりから喝采が浴びせられました。
 詰め寄っていた兵隊たちも、納得した様子で王様へ敬礼をしだしました。
 そうしてパレードはそれまでの何倍ものにぎわいに包まれたのです。




 以来、王様は四六時中はだかでいる羽目になったということです。














【 蛙の王様 】


 ある朝のこと。 
 井戸の水を汲んでいたアグリアスさんは、うっかりして指輪を井戸に落としてしまいました。
 慌てて手を伸ばすも、指輪は既に深い水の中。
 アグリアスさんは真っ青になって頭を抱えました。
 夫のラムザさんが貧しい生活の中で一生懸命お金を貯めて贈ってくれた、大切な指輪です。
 このまま家に帰っては、ラムザさんに会わせる顔がありません。
 アグリアスさんは泣き出しそうになりながら、おろおろと井戸の回りを歩きだしました。
 すると、なんと井戸の水面から大きな汚いイボ蛙が顔を出しました。
 そうして蛙は井戸端をぐるぐる回っているアグリアスさんに話しかけてきました。
「娘さん娘さん、いったいどうしたというのですか?」
 アグリアスさんは、この井戸の水は二度と飲むまい、と思いつつ指輪のことを話しました。
 すると、蛙は得意げにうなずきました。
「それならば私があなたの指輪をとって来て差し上げましょう。
 そのかわり、指輪をとってきたら、一つだけ私の願いごとを聞いていただきますよ」
 アグリアスさんは目にもとまらぬ早さで蛙を捕まえました。
「一分以内に指輪を取ってこい。命だけは助けてやる」
「はい」
 手を離してやると、蛙はすぐさま水に飛び込み、ものの数秒で指輪を抱えて戻ってきました。
 アグリアスさんは指輪を受け取り、足取りも軽く家路についたのでした。


 めでたしめでたし。


















【 マラゼルとラファテル 】


 とある木こりの家に、二人の子供たちがおりました。
 兄の名前はマラゼル。妹の名前はラファテル。
 とってつけたような名前の二人でありました。
 それでも二人は強く生きていました。


 そんなある日のこと、父親のバリンテンがいいました。
「マラゼル出てけ」
「俺だけ!?」
 抵抗の余地もなく、マラゼルは家を失いました。
 途方に暮れて森を彷徨うマラゼル。
 それでも妹のラファテルが黙ってついて来てくれたので、彼の心は幾分救われました。
 といってもラファテルは父親を嫌って飛び出しただけで、それは偽りの救済でした。 
 ともあれ、二人は連れ立って森を進んで行きました。
 はぐれぬように手を繋ぎ、お腹がすけば、兄妹で一つのパンを半分ずつわけ合いました。
「兄さん、食べ方が汚いわ。パンくずがぽろぽろ落ちてるわよ」
「違うよ。こうやって、ホラ、家までの目印をつけているんだよ」
 家にはもう帰れないのに、可哀想な見栄を張っている兄を見てラファテルは内心でためいきを
つきました。
 やがて日が陰りだすと、森の中は見る見るうちに暗くなってゆきました。
 マラゼルは妹にしがみついたままがたがたと震えだし、ラファテルはこの兄について来た事を
本気で後悔し始めていました。



 すると、そんな二人を慰めるように、どこからともなく甘い香りが漂ってきました。
 匂いを頼りに再び歩き出すと、まもなく視界に民家の灯りが。
 兄妹は喜び勇んで駆け出し、森の中の小さな家の戸を叩きました。
「どなた?」という女性の声。そのとき、ふいにラファテルははっとしました。


「森の奥には恐ろしい魔女が居る。迷い込んで来た者を大鍋に入れて食べてしまうのだ」


 そう何度も父親にいわれていたのを思い出したのです。 
 けれど、やがて家の奥から現れたのはとても優しそうな女性だったので、ラファテルはほっと
胸をなでおろしました。
「私たち家を追い出されてしまったんです!」
「どうか食べるものを恵んでいただけませんか?」
 二人は手を合わせ、口々に懇願しました。
「それは可哀相に。ちょっとそこで待っていなさい」
 金髪の女性はそういうと、食べ物を取りに奥へと引き返して行きました。
 二人は顔を見合わせ、にっと微笑みあいます。
 やがて、女性が戻ってきました。
「ちょうどお菓子を作っていたの、さあおなかいっぱい食べてね」
 そうして彼女は、兄妹にむかってそれを差し出しました。




 ラファテルは戦慄に震えました。
 かたち、色、におい。
 差し出されたその物体は、どれをとって見ても人の食する物ではありませんでした。
 並の人間にこのような所業ができるはずがありません。


(やっぱり魔女だったんだ!)
 いまさらそう思ってもあとのまつり。
 彼女の顔に向かって、刻一刻と魔女の手が伸びて来ました。
「遠慮しなくて良いのよ、好きなだけ食べなさい?」
 魔女は笑顔でしたが、ラファテルはそこに有無を言わさぬ圧力を感じていました。
 だんだんと近づいてくる物体の匂いに気が遠くなり、彼女は諦めて目を閉じようとしました。
 そのとき、ふいに横から手が伸びて来て、その物体をひったくりました。


「お、俺が食べるよ!」
 そういったのは兄のマラゼルでした。
(あの気の小さい兄さんがわたしのために……)
 ラファテルははじめて見る兄の勇姿に、感動を覚えました。
 しかしそれも束の間のこと。
 ひとくち物体をかじったマラゼルは、たちまち白目をむいて倒れてしまいました。
「兄さん!」
「坊や!? 大変、すぐに介抱しないと!」
 慌ててマラゼルを抱き上げ、家の中に運ぼうとする魔女。
 そのときラファテルの目に、グツグツと煮え立つ大鍋がうつりました。
 それはちょうどマラゼルがすっぽり入ってしまいそうな大きさでした。



「兄さんを放して!」
 泣き叫びながらラファテルは飛びかかり、兄を取り返すと一目散に森へ逃げ込みました。
「まちなさい!」
 背後から聞こえてくる魔女の声に、ラファテルは夢中で走りました。
 兄の身体を引きずりながら、走る、走る、走る。
 ようやく振り返ったときには魔女の姿はなく、マラゼルもじきに気がつきました。


 お腹は満たされなかったけれど、もっと大切な物を手に入れることが出来た。
 ラファテルはそう思いました。



 その後マラゼルとラファテルは森を抜けて小さな村に住みつきました。
 貧しいながらも幸せな暮らし。
 けれどあの日の恐怖は決して忘れられません。


 そうして二人はいつか魔女を退治するために修行を重ね、妖しげな魔術を使うようになったと
いうことです。



 おしまい。
















「なんて足の速い……」


 二人を見失った魔女は、仕方なくとぼとぼと家路につきました。
 ようやく家に帰ると、テーブルに男が一人腰掛けていました。
「こんな夜更けにどこにいっていたんですか、アグリアスさん?」
 男はどこかからかうような調子で話しかけてきました。
「道に迷った子供たちが来ていたんだ。でも逃げてしまった」
 髪をかきあげながら答えると、男は笑いました。
「どうせまた男言葉で話したんでしょう?」
「馬鹿言え、せいいっぱい優しく話しかけたんだぞ」
「それだけですか?」
「それに私の作ったチョコも食べさせてあげたのに」
「……なんてひどいことを」
「どういう意味だラムザ
 




 終

氏作。Part32スレより。




 右手に持っていたオークスタッフを、右手首を返した勢いで、縦に回転させながら、呪文を唱える。
「聖石キャンサーの力を、マジカル・ホーリー・ナイトの意志に依って行使する! 光よ、貫け! 蟹・ホーリー!」
 回転させていたオークスタッフを右手に持ち直し、卓の上に置かれている、果汁飲料の空き瓶を示す。
 オークスタッフの先端から放たれた、白銀の光線が、空き瓶にぶつかり、鋭い音を立て、互いに消滅する。
 消滅した空き瓶以外の、卓の上に置かれている物は、無傷である。
「ふうん」
「まあ!」
 気のない拍手をしてくるラヴィアンと感じ入った声をあげるアリシアに、アグリアスは、左手を軽く振って応えた。
 アリシアが両手で持っているキャンサーに、アグリアスは告げる。
「発動した魔力を、極めて精緻に制御できるのは、流石は聖石だな」
《ふふん。まあ、呪文が不完全であるが》
「なに?」
《蟹・ホーリーの呪文は『マジカル☆アグアグ☆蟹☆ホーリー☆アグアグーン』が正しい》
「断じて拒否する」
 キャンサーの教えを、アグリアスは、即座に否定した。
《なぜだ!?》
 愕然として訊いてくるキャンサーに、アグリアスは、嘆息し、声に刺を込めて答える。
「わたしの羞恥心が、妖しい呪文を唱えることを許さん」
「マジカル・ホーリー・ナイトの姿で拒否されても、説得力がありませんが」
「変身する為の呪文を唱えたのですからね」
「そもそも、わたしがマジカル・ホーリー・ナイトに変身することがおかしいのではないか?」
 アグリアスが口にした疑問を、アリシアが、強い口調と大きな手振りで否定してくる。
「いいえ! アグリアスさまが変身しなくてはならないのです!」
「変身することで、わたしの願いが叶うとは、とても思えない」
《躊躇うな! きみは、もう、マジカル・ホーリー・ナイトだ!》
 アリシアの右手に握られたままである為、激しく振られながら、キャンサーが叫んできた。
「おお」
 ラヴィアンの適当な相槌を受け、キャンサーが続けてくる。
《第一話から第十三話まで、きみは一人で戦う! 第十三話で現れる、キャンサー・ルガヴィ・四天王!
第十四話でマジカル・ナイト・ラヴィアンが、第二十話でマジカル・ナイト・アリシアが、きみの仲間となる!》


「って、ちょっと、蟹、あたしはやあよ!」
「わたしがマジカル・ナイト……!」
《第二十七話から第三十九話までの戦いで、キャンサー・ルガヴィ・四天王を倒す!
だが、光速の異名を持ち、重力を自在に操る、高貴なるキャンサー・ルガヴィ・見習い戦士の正体は、ラムザだった!
敵同士となった、アグリアスラムザ! なぜ、二人が戦わなければならないのか!?
軈て、二人は気づく! これは、愛の試練だと! 第五十二話で、相討ちとなる二人だったが、聖石が奇跡を起こす!
本当に、ありがとうございました!》
 アグリアスは黙ってアリシアからキャンサーを取りあげると、床に叩きつけた。
《ぐおっ!?》
 床の上で転がるキャンサーを、ラヴィアンが右足で押さえて止め、踏み躙った。
《ぐおおおおっ!? な、なにをするだああぁぁぁぁ!?》
 凄絶な声音で訊いてくるキャンサーに、アグリアスは、冷たく答える。
「わたしの願いは、そんなものではない」
《し、終曲では、きみとラムザの娘が産まれる! そして、きみの姓を冠した、伝説の杖、オークスタッフが――》
「わたしの持っている、これは、市販の杖だろうがぁぁぁぁ!」
アグリアスさーん」


 アグリアスが叫ぶのと同時に、部屋の扉が開かれた。
 聞こえてきたのは、ラムザの声だった。
 振り返ると、ラムザ、ラファ、メリアドールがいた。
アグリアスさん、その姿は……!?」
「うああああああああ……」
 遠くへ旅立つ友人を見送るかのようなラファの表情と未知の魔物を発見したかのようなメリアドールの表情、
そして、なぜか、嬉しそうなラムザの表情に、アグリアスは呻いた。

氏作。Part32スレより。




 広葉樹の根元、アグリアスは、ラムザを庇いながら地面に座っていた。
「痛っ……!?」
 アグリアスの腿の上に頭を乗せているラムザが呻いた。
「じっとしていろ」
 アグリアスは、ラムザが失っていた意識を回復したことに安堵しつつ、なるべく冷静に告げる。
「ぼくは……ああ……ごめんなさい……」
 ラムザが、嗄れた声で詫びてきた。
「なぜ、無茶をした?」
 厳しい口調になるのを抑えずに訊く。
 戦場で、力を誤って行使すれば、記憶を刻んだ剣と技を託した石を残して朽ちるのが、戦士の定めである。
 それは、戦士ならば誰もが理解していることだ。
「ぼくは……ぼくは……焦っていた……焦っていたんです……」
 悪夢に魘されるようにたどたどしく答えてきた、ラムザの目が潤んでいる。
 アグリアスは、自らのしくじりを悟った。アグリアスが思っていたよりも、ラムザは、傷つき、疲れていた。
 右手で顔を覆い、ラムザは続けてくる。
「最も愚かなのは、ぼくだったんです。ぼくさえ強ければ、ぼくだけ戦えば、みんなは死なないって考えていた」
「もう、いい。もう、いいんだ」
「それは、傲慢でしかないのに――」
「もう、よせ……」
 ラムザの悲痛な告白を、アグリアスは遮った。
「おまえが強さを求めたことは、間違いではない」
「でも――」
「だが、おまえは独りではない。おまえに惹かれ、共に戦う者たちがいる」
「…………」
「わたしを……わたしたちを……信じてくれ」
 アグリアスの懇願に、ラムザが喘いだ。
 雨の降る音が、やけにはっきりと聞こえる。
「おまえが目を覚ますまで、わたしはここにいる。今は、眠れ」
 右手でラムザの髪を撫でながらアグリアスは言いつけた。
「母さ……ん……」
 リジェネの仄かな光に包まれて眠りに落ちる、ラムザの呟きは、なぜか、アグリアスの心を甘く擽った。

氏作。Part32スレより。




ラムザ! 一緒に『共同戦線』やろうではないか!」
「えー、もう1時ですよ? それに明日も早――
 あ、あぐりあす、さん?」
「……そうだな。貴公は私なんかと遊んでていい男ではないよな。
 うん、そうだよな。一人で舞い上がって、私は馬鹿みたいだ…」
「い、いえ、そうではなくてッ!」
「――――――」
「わ、わかりました! 一緒に『共同戦線』やりましょう!」
「わーい、さすがはラムザだ! 信じていたぞ!
 ラムザ。今夜は寝かさないからな……」
「――っ! ぼ、ぼくも頑張ります!」


「ん? なんだァ、ありゃー?」
 暇だからメリアドールでもからかいに行こう、
 などと思ったほろ酔いムスタディオくん。
 アグリアスさんの部屋の前に置かれたナニモノかが気になったようです。


 ムスタディオくんがそのナニモノかを手にとって広げてみると―――


「なんだ、ただのシャツじゃねー……か…。
 ―――――ッ!!」


 それ自体はただの白いシャツでした。
 そう、それ自体は。


 しかし、精神統一とアイテム発見移動を着けていたムスタディオくん。
 そのシャツを広げた瞬間に落ちた、糸屑の様なモノを
 決して見落としたりはしませんでした。


「こ、これは……ッ!」
 金色の、縮れた毛。
 金色の髪を持ったアグリアスの部屋の前で。
 シャツから落ちた、金色の縮れた毛。


 その状況が示す事実に気が付いた時。
 メリアドールさんをからかおうと言った気だけでなく、
 酔いすらもすっかり覚めたムスタディオくんが居ました。


 辺りを見回し、誰も近くに居ないことを確認すると。
 ムスタディオくんは震える手で、硝子細工を扱うかのように
 大事そうな手つきでその毛を拾い上げました。


 すっかり上機嫌のムスタディオくん。
 拾ったその毛を抱きしめたり、頬擦りしたり。
 挙句の果てには口に含んだりしていると―――


「あー! こんな所にあったのか!」
 すっかり安堵した様なラムザくんの声が聞こえてきました。


「ら、ラムザッ!? どど、どうしたんだ、こんな時間に?」
 自分の髪の毛なんかより、もっと大切になったその毛の事が
 ラムザくんにバレたかと思ったムスタディオくん。
 万引きがバレた小学生の様に慌てはじめました。


「お風呂に行ってきたは良いんだけど、それまで着てたシャツを落としちゃって。
 ムスタディオが見つけてくれてたんだ。ありがとう!」
「えぁ!? こ、こここ、これ。お、お前の、なの、か?」
「うん。お気に入りだから、無くしたかと思って困ってたんだ。
 でも、ムスタディオ。どうしてそんなに慌ててるんだ?」


 もうムスタディオくんの耳には、ラムザくんの声の半分以上も届いていませんでした。




 金の髪を持ったアグリアスさんの部屋の前で拾ったシャツ。
 そしてそれに付着していた金色の縮れ毛。
 

 ―――しかしそれは。


 金の髪を持ったアグリアスさんの部屋の前で拾った、
 金の髪を持ったラムザくんのシャツ。
 そしてそれに付着していた金色の縮れ毛だったのでした。


 確かに、それはよく見るとアグリアスさんの毛の様に透き通った金色ではなく
 ラムザくんのそれの様な、どちらかといえば亜麻色の毛でした。


ラムザの馬鹿あああァアァァァァ!!」
 急に泣きながら走り出したムスタディオくん。
 ラムザくんはただ呆然と棒立ちするしか出来なかったとか。


 ……そもそも、無い物は落としようがないのですが。
 それは本人とラムザくんだけの大切な秘密なので
 知らないムスタディオくんが勘違いしたのも、仕方ないことなのもしれません。

氏作。Part32スレより。




「いっそ、聖石の力を行使しますか?」
「……む?」
 ラヴィアンに問われ、アグリアスは首を傾げた。
 午後の間食の最中だが、迂濶にも転た寝をしていたので、話を理解できなかった。
(わたしは堕落している……)
 小さく嘆息するアグリアスに、ラヴィアンは、苦笑し、再び問うてくる。
ラムザの心も体もアグリアスさまのものにする為、いっそ、聖石の力を行使しますか?」
「たかが恋煩いに聖石の力を行使するなど、愚かなことだ」
 ラヴィアンのくだらない提案を、アグリアスは否定した。
「たかが恋煩い、ね。そう言う割りには、随分と重症に思えますが」
「…………」
 ラヴィアンに、ずばりと告げられ、アグリアスは黙るしかなかった。
「でも、素敵ですよ。愛の願いを叶える聖石って」
《うむ。悪くないな》
 アリシアの述べる感懐を肯定したのは、アグリアスでもラヴィアンでもなかった。
 卓の上に視線を移す。
 そこには、茶と菓子の他に、ラヴィアンが置いたのであろう、聖石、キャンサーがあった。
 椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、抜刀しかけるアグリアスを、キャンサーが制してくる。


《ああ、待て。早まるな。わたしは、きみたちと戦うつもりはない》
「なら、なぜ、あたしたちがあんたを入手した日から今日まで、ずっと沈黙してきたのに、いきなり喋りだすのよ?」
 アグリアスと同じく立ち上がって身構えたラヴィアンが、キャンサーに訊ねた。
《ふっふっふっふ。泡沫の歴史に美しく咲く花に、とこしえの伝説に力を謳われる石が、
大いなる加護を授けようと――》
「てい」
《ぐおっ!?》
 勿体ぶって答えかけるキャンサーを、ラヴィアンが、左手に持っていたフォークで突き刺した。
《な、なにをするのか、おまえは!?》
「うっさいわね。あんたはあたしたちの物なんだから、フォークでぶっ刺そうがハンマーで
ぶっ叩こうが勝手だわ」
《いや。わたしは聖石だぞ!? それを分かっているのか、貧乳騎士!?》
「うっあ。あたしの心は、すっごく傷ついたわ。聖石をひとつ、うっかり砕きそうなくらい」
「よさないか!」
 アグリアスは、ラヴィアンとキャンサーを一喝し、喧嘩を制止する。
「キャンサーさん、要点を掻い摘んで話していただけると、ありがたいのですけれど」


 まだ、椅子に座ったままのアリシアが、のんびりとした口調で、キャンサーに簡明な回答を求めた。
 それを受けて、キャンサーは、幾分、軽快に答えてくる。
《まあ、あれだ。アグリアス、だったか? きみの情愛の力になろうということだ》
「最初っから、そう言いなさいよ」
《ふふん。わたしたち、由緒ある聖石が、その素晴らしさを語ってなにがいけないのだ、貧乳騎士?》
「戦技で砕くわよ?」
 ラヴィアンとキャンサーの間の険悪な雰囲気に、うんざりしながら、アグリアスは告げる。
「聖石がわたしの情愛の力になるということを、容易く信じられはしない」
《わたしは、枯れた爺や気障な男の力になるくらいなら、清らかな乙女の願いを叶えてやりたいのだよ》
 悪びれずに言ってきたキャンサーに、アグリアスは眉を顰めた。
 だが、キャンサーは構わずに続けてくる。
《わたしがきみの力になる時に、訝しい点があれば、わたしを砕いてもいい》
「……いいだろう」
 アグリアスはゆっくりと頷き、キャンサーを手に取った。
(恋に狂ったか……)
 胸中で自嘲する。
 キャンサーが、誇らしげに説明してくる。


《よし。では、わたしを掲げて『マジカル・アグリアスホーリー・チェンジ』と叫べ》
「…………」
「…………」
「…………」
《…………》
 重い沈黙が、部屋に満ちた。
「……なんだと?」
 アグリアスは、嗄れる声絞った。
《わたしを掲げて『マジカル・アグリアスホーリー・チェンジ』と叫べ》
「いや。なぜ、妖しい呪文を唱えなくてはならないのだ!?」
「キャンサーさん、アグリアスさまが言いたいのは、もっとかわいい呪文にしたいということなのですよ!」
「違うっ!」
《ふむ。なら、わたしを掲げて『マジカル☆アグりん☆ホーリー☆フラッシュ』と叫ぶがいい》
「素敵! とてもかわいらしい呪文ですね!」
「違ぁぁぁぁうぅぅぅぅぅぅぅぅ」
 事態を悪化させていく、アリシアとキャンサーに、アグリアスは呻いた。
「なんか、もう、やるしかないんじゃないでしょうか?」
 既に、どうでもよさげなラヴィアンが、適当に言ってきた。
「ええい!」
 アグリアスは、半ば自棄になりながら、キャンサーを掲げ、叫ぶ。
「『マジカル☆アグりん☆ホーリー☆フラッシュ』!」


 キャンサーが放った白銀の光が、アグリアスの体を包む。昂ぶる心は、狂おしいまでに溢れる力を、
確実に制御する。
 白銀の光は胸に収束して蟹を象ったブローチとなった。
「うあ」
「まあ!」
 ラヴィアンとアリシアが、驚嘆の声をあげた。
《変身、完了だな! マジカル・ホーリー・ナイト・アグリアス!》
「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 少女の空想に現れる英雄のような格好をしたアグリアスは、全身全霊で叫んだ。

氏作。Part31スレより。





昔々、ある国のお話。
ここの王には長い間子供がいませんでしたが、ある年、とうとう王妃が懐妊しました。
王はそれを喜び、王妃もまた喜びました。
そして月が満ちると、王妃はかわいらしい女の子を出産しました。
それから数年が経ち、白雪姫と言われた女の子は、美しく成長していきます。
そんな頃のお話。


「…何で僕が白雪姫なの?アルマとかオヴェリア様とかいるじゃない…。」
少し文句を言っていますが、この方こそラム…白雪姫です。
思いっきりパラレルワールドですが、筆者は細かい事は目に入らない性格。大目に見てください。
「白雪姫、白雪姫」
王妃、メリアドールの登場です。もうこの際本名で行きましょう。疲れるし。
「何でしょうか?母上」
流石に真面目。劇には付き合います。いくらか棒読みな気がしますが…。
色々な経験をしたせいか、人生に多少達観した節もあるようです。
「父上がお呼びよ、いってらっしゃい。」
「はい。」
てくてくと歩いていく白雪姫を横目に見ながら、王妃は今日も鏡に問いかけます。
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは?」
「もちろん姉さんです」
鏡が誰かは言わずともわかるでしょう。
それはいいとして、今日も鏡の返答にご満悦の王妃。
小躍りしながら、やっぱり私は美しいと去っていきました。


ですが、そんなナルシーにとっては当たり前のイエスマン政治も突如終わりを告げます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは?」
「…ごめんなさい姉さん。私は、姉さんより白雪姫のほうが美しいと思います。
摂理に反した、人しか知らない愛です…ですが愛に国境や境目は無いんです!姉さん。」
……………。
………。
……。
いろいろな意味で泣きそうになる王妃。
しばらく自問自答した結果…。
このまま白雪姫を置いておいては鏡の為にならないと判断し、断腸の思いで白雪姫を追い出しました。
さらに、迷える子羊をこれ以上出さない為に刺客を遣わしました。


「…まぁ、ストーリー上ここは狙われるよね」
台本はすでに暗記している白雪姫。
刺客を返り討ちにするため、さらにはこんな役を押し付けられた鬱憤を晴らすため、
非常にイイ笑顔になりながら、剣を研いでいました。
追いかけてきた刺客は、言わずと知れたアンラッキースター、ムスタディオ。
「白雪姫ー、どこだー?普段の抑圧、今ここで解き放つ!」
うおー、と息巻いている刺客。白雪姫は油断とバカ丸出しの背中に向けて本気で一撃。
鍛えが足りない刺客は一発で昏倒しましたが、腹の虫が収まりません。
歩けば不幸に当たる刺客が、緊急脱出用として常に持っている鉤縄を使って手近な木に吊るし、
いい仕事したなー、と後ろも見ずに去っていきました。


さてはて、日が暮れるまで歩いた白雪姫が野宿の準備を始めると、どこからともなく人の声が。
ちょっと泊めてもらおうか、とその声の方角へ向かうと一軒の家があり、中から談笑している声が聞こえてきました。
これ幸いとばかりに戸を叩く白雪姫。
こんこん。
………反応無し。
コンコン。
………強めに叩いても反応無し。
ガンガン。
………呪文を唱える声が聞こえますが、扉は開きません。
しびれを切らした白雪姫がファイガで扉を焼き尽くそうとした瞬間、扉が開きました。
「どなたでしょう?」
出てきたのは子供…かと思いきや、顔は大人です。
つまりは小人。なんだか服が大きすぎる気がしますが…。
「えーっと…かくかくしかじか…とまぁ、こんな事情なので、泊めてもらえませんか?」
「はぁ…それは大変な事ですね。
でも、タダで泊めるわけにはいかないので、少しばかり家事を手伝ってもらいますが、よろしいですか?」
「あ、その位なら構いませんよ。居候は心苦しいですし。」
と、いうわけで、七人の小人との共同生活が始まったのでした。


小人の手伝いの一日は、まず朝食を作り、掃除、洗濯、お茶の用意、昼食、
午後のお茶の用意、洗濯物を取り込み、夕食を作った後にベッドメイキングをして終わります。
物凄いハードワークです。家事手伝いなんてレベルじゃありません。
人がいい白雪姫は耐えていますが、段々と瞳が剣呑になっていきました。


一方その頃、お城では…。
「ムスタディオ、しくじったらしいわね?」
「申し訳ありません…王妃様…。」
丸一日吊るされたままで、たまたま通りかかった猟師に発見された刺客。
発見されたときはもう人生を完全に諦めていた様子でしたが、へこたれない性格が幸いして
お城に戻ってくることができました。
もう猟師になろうかと十五回は本気で思ったらしいですが…。
「まぁいいわ。あなたが成功する予感は何故かなかったし…。」
「………(もう俺は疲れたよ…田舎に帰りたい…。)」
「でも、何にも処罰がないのも示しがつかないから、独房で三日ばかし頭を冷しといて。
後、もちろん報酬は無いから。前払いのお金も半分返してね」
「………(涙も出ない…。)」
衛兵に独房と連れて行かれるムスタディオ。
その背中にはくたびれた男の哀愁が漂っていました。


「さて…私が出なければダメか…。白雪姫…私と鏡の為に、眠っておくれ…。」
ぼそりとつぶやき、愛剣セイブザクイーンを片手に私室へと向かう王妃。
その背後のオーラは非常に黒い…。



「小人達…全員紫雲の上へ行ってもらおうかなぁ…。」
白雪姫はもう耐え切れなくなりつつありました。
真っ黒な笑顔を見せつつ、愛刀正宗を砥いでいます。
砥ぎ終わり、刀に柄をつけ、今まさに羅刹にならんとした瞬間に扉を叩く音がしました。
「はーい。どなたでしょうか?」
先ほどまでの黒いオーラはどこにやら。完璧な笑顔で出迎えます。
そこにいたのは、魔法で姿を変えた王妃。
普段とは全く違うローブをまとい、声も変えているために別人としか思えません。
そして手には大きな篭。リンゴが沢山入っています。
「えーっと…どなたかお尋ねでしょうか?」
「あぁ、いえいえ。たまたま通りかかったんですよ。
リンゴの木を見つけたので、実を採っていたらついつい採りすぎちゃって。
家に持ち帰ろうにも、女の力では重過ぎるのでおすそ分けをと思いまして…。美味しいですから、どうぞ一口。」
などと言いつつ、リンゴを取り出す王妃。
「はぁ。それはまたご丁寧に。………?なんだか、ちょっと変な匂いがしませんか?」
勘が鋭い白雪姫。首を傾げた時、リンゴに一匹の虫が止まりました。
止まった瞬間、絶命して落ちていく虫。
「…え…遠慮します…。」
笑顔が明らかに引きつっています。そんな光景を見れば無理もありませんが。
「食べないのですか…それなら…。」
ローブをはためかせ、一瞬で愛剣を抜く王妃。
あっけに取られた白雪姫に向かい、剛剣を一撃。
白雪姫は昏倒しました。
その時は運悪く小人達は仕事へ行っており、気づくものはいませんでした。



「ん…何だか騒がしいな?」
ばたばたしているのを見つけ、赤チョコボに乗った王子が近寄ってきました。
男装が無茶苦茶似合う人です…。
「ラヴィアン、アリシア。もしかすると荒事かもしれん。いつでも抜けるようにしておけ」
「「わかりました、アグリアス様」」
剣の柄に手をかけながら、ゆっくり進んでいく王子。
その目に入ったのは、血なまぐさい光景ではなく、絶世の美少女が気絶している姿でした。
「……………」
柔和な顔立ち、苦しげな表情、愛らしい金髪。
剛剣を食らったせいかエプロンドレスが所々はだけ、綺麗な肌がちらちら見えます。
「……………」
「ひそひそ…(アグリアス様…どうしちゃったのかな?)」
「(好みのど真ん中に入ったんじゃない…?目が獣になりつつあるよ)」
「(…ちょっと居辛い空気よね…。)」
「(ねぇ…。)」
「ラヴィアン、アリシア
「「はいぃ!」」
急に話しかけられ、声が裏返りながら返事をする二人。
「ちょっと城まで行って来てくれ。手当てをしないわけにはいかない。」


「は、はぁ…ですが私たちは一応、
アグリアス様の従者兼護衛ですのでアグリアス様を残してお城に戻るわけには。………!」
振り返った王子は、目から黄金色の気を発し、後光がさすような勢いで威圧感があります。
二人は神の力でアイコンタクトを取り、馬首を翻して駆け去っていきました。
「………ふふふ。二人きりだな…。」
もう王子の顔は緩みっぱなしです。端正な顔立ちが見事に破顔しています。
「さて…苦しそうだから、服を緩めてあげよう…お医者さんごっこだな…。」
とかなんとかいいながら、白雪姫の服に手を掛ける王子。頬は上気し、目は血走っています。
ですが、そんな凄まじい気は白雪姫を覚醒させました。
「…ん……僕…あれ?アグリアスさん…。」
焦点の定まらない寝ぼけ眼は色っぽく、下手すれば誘っているような瞳です。
そして、ここで我慢できるほど王子は人格者ではありませんでした。
ラムザ…今はいい所なんだ…。さぁ…続きを。」
「え…?つづき…?」


その後の事は、ここでは語れません。
ですが、王子は白雪姫をいたく気に入り、国へ連れて行き結婚しました。
その後は仲むつまじく暮らしたそうです。めでたし、めでたし。

氏作。Part31スレより。




 廊下の、曲がり角の陰に身を隠しながら、アグリアスは嘆息した。
(わたしは、なにをしているのだ……?)
 胸中で、自らに問うが、思いつく答えは、くだらないものばかりだった。
 要するに、自分は、くだらないことをしているのだと、アグリアスは渋々と認めた。
 アグリアスの様子に気づいた、同じく、曲がり角の陰に身を隠しているラヴィアンが、
屈んだまま顔を上げ、訊いてくる。
アグリアスさま、ノれないのは分かりますが、ラムザのこと、知りたくないんですか?」
「方法に因る」
「なら、どんな方法ならいいんです?」
「わたしは、交換日記が――」
 アグリアスが答える途中で、ラヴィアンは、呆れた顔で首を横に振って否定してくる。
「交換日記で、ラムザが愛欲をそそられる人を確かめるなんてことが、アグリアスさまにできるとは思えません」
「いや。わたしは、きちんと文章を書いてみせる」
「どうせ、旅団の報告書じみた内容になってしまいますよ」
「…………」
 自分でも、あり得ると思ってしまうことを告げられ、アグリアスは黙った。
「あたしは、あの本を使って確かめるのが、最適だと判断します」


 曲がり角の向こう側にある、ラムザの部屋の前、
こちらから覗ける所に置かれた、一冊の本に視線を移し、ラヴィアンが言ってきた。
 アリシアが提供してきた『女騎士と少年見習い戦士の秘め事』という官能小説が、
ラムザの性的な嗜好に合うか合わないかを確かめる為、アグリアスとラヴィアンは、
ひたすらに張り込みを続けていた。
「やはり、あからさまに怪しいと思うのだが」
「まあ、ラムザが、引っ掛かっても引っ掛からなくても、あたしにとっては、おもしろいことになりそうですし」
「はっきりと言ってくれるな」
「物事の理由が明確に分かっている方が、信頼できますよ」
「だが――」
 あっさりと言い放ってきたラヴィアンは、アグリアスが論じかけるのを、気配で制止してくる。
「来たか……」
 アグリアスは呟いた。
 曲がり角の向こう側に、ラムザの姿が見える。
 ラムザが、自分の部屋の前に置かれた本に気づき、それを拾う。
 アグリアスとラヴィアンは、息を詰め、ラムザの様子を窺う。
 本の題名に驚いたらしいラムザが、きょろきょろと辺りを見回したので、
アグリアスとラヴィアンは、より深く身を隠した。


 ラムザの姿は見えなくなったが、扉が開閉する音が聞こえた。ラムザが部屋へ入ったのだろう。
 ラヴィアンが、立ち上がって伸びをすると、告げてくる。
「さて、明日になったら、ラムザの部屋に、留守の間に侵入し、自慰に使われた塵紙を見つけます」
「じ、自慰に……」
 ラムザのそれを想像してしまい、よろめくアグリアスに構わず、ラヴィアンが訊いてくる。
「扉の錠はどうしますか? ラファをけしかけます?」
「あ、ああ、ラムザの部屋の鍵は、わたしが預かっている」
 持っていた、ラムザの部屋の鍵を示すと、なぜか、ラヴィアンは唖然とした。