氏作。Part32スレより。




ラムザ! 一緒に『共同戦線』やろうではないか!」
「えー、もう1時ですよ? それに明日も早――
 あ、あぐりあす、さん?」
「……そうだな。貴公は私なんかと遊んでていい男ではないよな。
 うん、そうだよな。一人で舞い上がって、私は馬鹿みたいだ…」
「い、いえ、そうではなくてッ!」
「――――――」
「わ、わかりました! 一緒に『共同戦線』やりましょう!」
「わーい、さすがはラムザだ! 信じていたぞ!
 ラムザ。今夜は寝かさないからな……」
「――っ! ぼ、ぼくも頑張ります!」


「ん? なんだァ、ありゃー?」
 暇だからメリアドールでもからかいに行こう、
 などと思ったほろ酔いムスタディオくん。
 アグリアスさんの部屋の前に置かれたナニモノかが気になったようです。


 ムスタディオくんがそのナニモノかを手にとって広げてみると―――


「なんだ、ただのシャツじゃねー……か…。
 ―――――ッ!!」


 それ自体はただの白いシャツでした。
 そう、それ自体は。


 しかし、精神統一とアイテム発見移動を着けていたムスタディオくん。
 そのシャツを広げた瞬間に落ちた、糸屑の様なモノを
 決して見落としたりはしませんでした。


「こ、これは……ッ!」
 金色の、縮れた毛。
 金色の髪を持ったアグリアスの部屋の前で。
 シャツから落ちた、金色の縮れた毛。


 その状況が示す事実に気が付いた時。
 メリアドールさんをからかおうと言った気だけでなく、
 酔いすらもすっかり覚めたムスタディオくんが居ました。


 辺りを見回し、誰も近くに居ないことを確認すると。
 ムスタディオくんは震える手で、硝子細工を扱うかのように
 大事そうな手つきでその毛を拾い上げました。


 すっかり上機嫌のムスタディオくん。
 拾ったその毛を抱きしめたり、頬擦りしたり。
 挙句の果てには口に含んだりしていると―――


「あー! こんな所にあったのか!」
 すっかり安堵した様なラムザくんの声が聞こえてきました。


「ら、ラムザッ!? どど、どうしたんだ、こんな時間に?」
 自分の髪の毛なんかより、もっと大切になったその毛の事が
 ラムザくんにバレたかと思ったムスタディオくん。
 万引きがバレた小学生の様に慌てはじめました。


「お風呂に行ってきたは良いんだけど、それまで着てたシャツを落としちゃって。
 ムスタディオが見つけてくれてたんだ。ありがとう!」
「えぁ!? こ、こここ、これ。お、お前の、なの、か?」
「うん。お気に入りだから、無くしたかと思って困ってたんだ。
 でも、ムスタディオ。どうしてそんなに慌ててるんだ?」


 もうムスタディオくんの耳には、ラムザくんの声の半分以上も届いていませんでした。




 金の髪を持ったアグリアスさんの部屋の前で拾ったシャツ。
 そしてそれに付着していた金色の縮れ毛。
 

 ―――しかしそれは。


 金の髪を持ったアグリアスさんの部屋の前で拾った、
 金の髪を持ったラムザくんのシャツ。
 そしてそれに付着していた金色の縮れ毛だったのでした。


 確かに、それはよく見るとアグリアスさんの毛の様に透き通った金色ではなく
 ラムザくんのそれの様な、どちらかといえば亜麻色の毛でした。


ラムザの馬鹿あああァアァァァァ!!」
 急に泣きながら走り出したムスタディオくん。
 ラムザくんはただ呆然と棒立ちするしか出来なかったとか。


 ……そもそも、無い物は落としようがないのですが。
 それは本人とラムザくんだけの大切な秘密なので
 知らないムスタディオくんが勘違いしたのも、仕方ないことなのもしれません。