氏作。Part31スレより。





昔々、ある国のお話。
ここの王には長い間子供がいませんでしたが、ある年、とうとう王妃が懐妊しました。
王はそれを喜び、王妃もまた喜びました。
そして月が満ちると、王妃はかわいらしい女の子を出産しました。
それから数年が経ち、白雪姫と言われた女の子は、美しく成長していきます。
そんな頃のお話。


「…何で僕が白雪姫なの?アルマとかオヴェリア様とかいるじゃない…。」
少し文句を言っていますが、この方こそラム…白雪姫です。
思いっきりパラレルワールドですが、筆者は細かい事は目に入らない性格。大目に見てください。
「白雪姫、白雪姫」
王妃、メリアドールの登場です。もうこの際本名で行きましょう。疲れるし。
「何でしょうか?母上」
流石に真面目。劇には付き合います。いくらか棒読みな気がしますが…。
色々な経験をしたせいか、人生に多少達観した節もあるようです。
「父上がお呼びよ、いってらっしゃい。」
「はい。」
てくてくと歩いていく白雪姫を横目に見ながら、王妃は今日も鏡に問いかけます。
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは?」
「もちろん姉さんです」
鏡が誰かは言わずともわかるでしょう。
それはいいとして、今日も鏡の返答にご満悦の王妃。
小躍りしながら、やっぱり私は美しいと去っていきました。


ですが、そんなナルシーにとっては当たり前のイエスマン政治も突如終わりを告げます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは?」
「…ごめんなさい姉さん。私は、姉さんより白雪姫のほうが美しいと思います。
摂理に反した、人しか知らない愛です…ですが愛に国境や境目は無いんです!姉さん。」
……………。
………。
……。
いろいろな意味で泣きそうになる王妃。
しばらく自問自答した結果…。
このまま白雪姫を置いておいては鏡の為にならないと判断し、断腸の思いで白雪姫を追い出しました。
さらに、迷える子羊をこれ以上出さない為に刺客を遣わしました。


「…まぁ、ストーリー上ここは狙われるよね」
台本はすでに暗記している白雪姫。
刺客を返り討ちにするため、さらにはこんな役を押し付けられた鬱憤を晴らすため、
非常にイイ笑顔になりながら、剣を研いでいました。
追いかけてきた刺客は、言わずと知れたアンラッキースター、ムスタディオ。
「白雪姫ー、どこだー?普段の抑圧、今ここで解き放つ!」
うおー、と息巻いている刺客。白雪姫は油断とバカ丸出しの背中に向けて本気で一撃。
鍛えが足りない刺客は一発で昏倒しましたが、腹の虫が収まりません。
歩けば不幸に当たる刺客が、緊急脱出用として常に持っている鉤縄を使って手近な木に吊るし、
いい仕事したなー、と後ろも見ずに去っていきました。


さてはて、日が暮れるまで歩いた白雪姫が野宿の準備を始めると、どこからともなく人の声が。
ちょっと泊めてもらおうか、とその声の方角へ向かうと一軒の家があり、中から談笑している声が聞こえてきました。
これ幸いとばかりに戸を叩く白雪姫。
こんこん。
………反応無し。
コンコン。
………強めに叩いても反応無し。
ガンガン。
………呪文を唱える声が聞こえますが、扉は開きません。
しびれを切らした白雪姫がファイガで扉を焼き尽くそうとした瞬間、扉が開きました。
「どなたでしょう?」
出てきたのは子供…かと思いきや、顔は大人です。
つまりは小人。なんだか服が大きすぎる気がしますが…。
「えーっと…かくかくしかじか…とまぁ、こんな事情なので、泊めてもらえませんか?」
「はぁ…それは大変な事ですね。
でも、タダで泊めるわけにはいかないので、少しばかり家事を手伝ってもらいますが、よろしいですか?」
「あ、その位なら構いませんよ。居候は心苦しいですし。」
と、いうわけで、七人の小人との共同生活が始まったのでした。


小人の手伝いの一日は、まず朝食を作り、掃除、洗濯、お茶の用意、昼食、
午後のお茶の用意、洗濯物を取り込み、夕食を作った後にベッドメイキングをして終わります。
物凄いハードワークです。家事手伝いなんてレベルじゃありません。
人がいい白雪姫は耐えていますが、段々と瞳が剣呑になっていきました。


一方その頃、お城では…。
「ムスタディオ、しくじったらしいわね?」
「申し訳ありません…王妃様…。」
丸一日吊るされたままで、たまたま通りかかった猟師に発見された刺客。
発見されたときはもう人生を完全に諦めていた様子でしたが、へこたれない性格が幸いして
お城に戻ってくることができました。
もう猟師になろうかと十五回は本気で思ったらしいですが…。
「まぁいいわ。あなたが成功する予感は何故かなかったし…。」
「………(もう俺は疲れたよ…田舎に帰りたい…。)」
「でも、何にも処罰がないのも示しがつかないから、独房で三日ばかし頭を冷しといて。
後、もちろん報酬は無いから。前払いのお金も半分返してね」
「………(涙も出ない…。)」
衛兵に独房と連れて行かれるムスタディオ。
その背中にはくたびれた男の哀愁が漂っていました。


「さて…私が出なければダメか…。白雪姫…私と鏡の為に、眠っておくれ…。」
ぼそりとつぶやき、愛剣セイブザクイーンを片手に私室へと向かう王妃。
その背後のオーラは非常に黒い…。



「小人達…全員紫雲の上へ行ってもらおうかなぁ…。」
白雪姫はもう耐え切れなくなりつつありました。
真っ黒な笑顔を見せつつ、愛刀正宗を砥いでいます。
砥ぎ終わり、刀に柄をつけ、今まさに羅刹にならんとした瞬間に扉を叩く音がしました。
「はーい。どなたでしょうか?」
先ほどまでの黒いオーラはどこにやら。完璧な笑顔で出迎えます。
そこにいたのは、魔法で姿を変えた王妃。
普段とは全く違うローブをまとい、声も変えているために別人としか思えません。
そして手には大きな篭。リンゴが沢山入っています。
「えーっと…どなたかお尋ねでしょうか?」
「あぁ、いえいえ。たまたま通りかかったんですよ。
リンゴの木を見つけたので、実を採っていたらついつい採りすぎちゃって。
家に持ち帰ろうにも、女の力では重過ぎるのでおすそ分けをと思いまして…。美味しいですから、どうぞ一口。」
などと言いつつ、リンゴを取り出す王妃。
「はぁ。それはまたご丁寧に。………?なんだか、ちょっと変な匂いがしませんか?」
勘が鋭い白雪姫。首を傾げた時、リンゴに一匹の虫が止まりました。
止まった瞬間、絶命して落ちていく虫。
「…え…遠慮します…。」
笑顔が明らかに引きつっています。そんな光景を見れば無理もありませんが。
「食べないのですか…それなら…。」
ローブをはためかせ、一瞬で愛剣を抜く王妃。
あっけに取られた白雪姫に向かい、剛剣を一撃。
白雪姫は昏倒しました。
その時は運悪く小人達は仕事へ行っており、気づくものはいませんでした。



「ん…何だか騒がしいな?」
ばたばたしているのを見つけ、赤チョコボに乗った王子が近寄ってきました。
男装が無茶苦茶似合う人です…。
「ラヴィアン、アリシア。もしかすると荒事かもしれん。いつでも抜けるようにしておけ」
「「わかりました、アグリアス様」」
剣の柄に手をかけながら、ゆっくり進んでいく王子。
その目に入ったのは、血なまぐさい光景ではなく、絶世の美少女が気絶している姿でした。
「……………」
柔和な顔立ち、苦しげな表情、愛らしい金髪。
剛剣を食らったせいかエプロンドレスが所々はだけ、綺麗な肌がちらちら見えます。
「……………」
「ひそひそ…(アグリアス様…どうしちゃったのかな?)」
「(好みのど真ん中に入ったんじゃない…?目が獣になりつつあるよ)」
「(…ちょっと居辛い空気よね…。)」
「(ねぇ…。)」
「ラヴィアン、アリシア
「「はいぃ!」」
急に話しかけられ、声が裏返りながら返事をする二人。
「ちょっと城まで行って来てくれ。手当てをしないわけにはいかない。」


「は、はぁ…ですが私たちは一応、
アグリアス様の従者兼護衛ですのでアグリアス様を残してお城に戻るわけには。………!」
振り返った王子は、目から黄金色の気を発し、後光がさすような勢いで威圧感があります。
二人は神の力でアイコンタクトを取り、馬首を翻して駆け去っていきました。
「………ふふふ。二人きりだな…。」
もう王子の顔は緩みっぱなしです。端正な顔立ちが見事に破顔しています。
「さて…苦しそうだから、服を緩めてあげよう…お医者さんごっこだな…。」
とかなんとかいいながら、白雪姫の服に手を掛ける王子。頬は上気し、目は血走っています。
ですが、そんな凄まじい気は白雪姫を覚醒させました。
「…ん……僕…あれ?アグリアスさん…。」
焦点の定まらない寝ぼけ眼は色っぽく、下手すれば誘っているような瞳です。
そして、ここで我慢できるほど王子は人格者ではありませんでした。
ラムザ…今はいい所なんだ…。さぁ…続きを。」
「え…?つづき…?」


その後の事は、ここでは語れません。
ですが、王子は白雪姫をいたく気に入り、国へ連れて行き結婚しました。
その後は仲むつまじく暮らしたそうです。めでたし、めでたし。