氏作。Part18スレより。


〜遠吠えは満月に響く編〜


深夜。宿の一室に集う三人の男がいた。

ムスタ「アグリアスに動物の格好をさせたら何が一番似合うか談義しようと思う」
ラッド「異議無し」
ムスタ「アニマルコスプレといったらやはり耳は外せないと思う。という訳で今日のお題は犬耳」
ラク「待て、俺は猫耳で語りたい」
ムスタ「それはまた今度な」
ラッド「世間では猫耳ばかり目立っているが、犬耳ナメンナ」
ムスタ「ではまずアグリアスに犬耳を着けに行こう」

スタディオが鞄から取り出した物を見て、ラッドは目を細める。

ラッド「待て、何だそれは」
ムスタ「犬耳だが?」
ラッド「それは立ち耳じゃないか。俺はタレ耳派だ!」
ラク「マニアックだな。つか俺は立ち耳の方がいいな」
ラッド「立ち耳だと猫耳に似ているからか? 殺すぞ」
ムスタ「落ち着け。一応タレ耳も持ってきてるからタレ耳にしよう。俺はぶっちゃけどっちでもいいし」
ラッド「首輪も忘れるなよ」
ラク「首輪? お前、そういう趣味かよ」
ラッド「犬耳に首輪は必須だろ!? 首輪を着けてしおらしくなったアグリアスが上目遣いで『ご主人様ぁ』を想像しろ!」
ラク「……グフッ! まさか猫耳派の俺が鼻血を噴くとは……」


ムスタ「さすが犬耳萌えの男だな。じゃあ行くぞ、準備はいいか?」
ラッド「おう」
ムスタ「ジョブは忍者になってるか?」
ラク「もちろん」
ムスタ「緊急脱出用テレポはセットしてあるな?」
ラッド「抜かりは無い」
ムスタ「アグリアスが起きた時のための陰陽術・夢邪睡符は?」
ラク「MPも満タン、いつでも唱えられるぜ」
ムスタ「ではミッションスタート。テレポでアグリアスのいる隣室へ侵入する!」

三人の男は音も無く部屋を出、アグリアスの寝室へ向かった。さらにテレポでドアをすり抜け侵入する。

アグリアスの寝室
勝利条件 アグリアスに犬耳セットを装着せよ!

アグ 「スヤスヤ」
ムスタ「ターゲット確認、熟睡している模様」
ラッド「よし、では犬耳カチューシャをターゲットの頭部にパイルダーオンする」
ラク「寝相がいいな、これならやりやすそうだ」
ラッド「いくぞ……犬耳装着!」

金糸のような髪に埋もれていくカチューシャ。その上部分からは一対のタレ耳がタレていた。
タレ耳はアグリアスが生来持つ人間の耳に覆いかぶさり、まるで耳はこの犬耳しか無いような錯覚を与える。


ムスタ「ブラボーだ、ラッド」
ラッド「慌てるな、まだ終わっていない。次は首輪だ」
ラク「首を触らないと着けられないな……念のため夢邪睡符をかけておこう。夢邪睡符!」
ムスタ「重ねがけの効果は高いからな。定期的に頼むぞ、マラーク」
ラク「任せろ」
ラッド「ではいくぞ。首輪をアグリアスの首の下に回して……」

順調に動いていたラッドの手が突然止まり「うっ」と戸惑いの声が上がる。
何かミスをしてしまったのかと、ムスタディオとマラークの顔が青ざめた。

ムスタ「ラッド、どうした!?」
ラッド「うなじ……滑々して気持ちいい。髪もサラサラだぁ」
ラク「ラッド、俺に代われ」
ラッド「断る。だいたい今代わったりしたらヤバいだろ、首輪着けてる最中だぞ?」
ムスタ「ラッドの言う通りだ、猫耳の時はお前に任せるから」
ラク「ムム……仕方ないな」
ラッド「……よし、後は留め金を…………………………成功だ」

騎士としての修行を重ねているアグリアスの引き締まった白い首に、黒い無骨な首輪が巻かれていた。
それはアグリアスのような強気な人間には似合わない……と考えるのは浅はかである。
強気だからこそ、こういう従順さを強調するアイテムが映えるのだ。


ムスタ「ああ……今のアグリアスにご主人様と言ってもらいたい」
ラッド「ご主人様ご主人様ご主人様……」
ラク「ラッド、何をしている」
ラッド「耳元で囁いてる。上手くいけば寝言でご主人様と……」
ラク「そう都合よく」
アグ 「むにゃ……ご主人、様ぁ……」
ムスタ「ラッドさん! ラッドさん!」
ラク「マジか!? マジ!? マジか!?」
ラッド「アグリアス可愛いよ、可愛いよアグリアス

ムスタ「ミッションコンプリート。それでは犬耳と首輪を回収して撤退……」
ラッド「ゴソゴソ」
ラク「ラッド、何をしている?」
ラッド「尻尾がまだだ」

道具袋を漁るラッド。表情は硬く、強い決意の色を感じ取れる。
まだ萌えを追求しようといのか、この男は。ムスタディオは心の底からラッドという男に感心した。だが……。

ムスタ「ラッド、気持ちは分かるがこれ以上は危険だ」
ラッド「うるさい、恐いならお前達だけ帰れ。俺は一人でも続ける、命を駆けてでも」
ラク「ふざけるな、お前が捕まれば俺達だって……ん? ラッド、その尻尾、どうやって着けるんだ?」
ムスタ「尻尾の付け根がおかしいぞソレ。何と言うか、銀の玉が数珠のように連なったそれは……ま、まさか!」
ラッド「尻尾バ○ブだ」


ラク「ラッドぉぉぉぉぉぉっ! それはヤバイ! ヤバすぎる!」
ムスタ「その通りだ。それを装着するにはアグリアスの下のパジャマと、パンツを脱がさなくてはならない」
ラク「さらに、それを、その、挿れるんだろ? 絶対起きるって」
ムスタ「というか全年齢板のここでそんな事やったら削除されるぞ。つか伏字になっててもその名前だけでギリギリだぁッ!」
ラッド「知ったこっちゃねぇよそんな事。俺は尻尾バ○ブをアグリアスに挿れる!」
ムスタ「ラッド……分かった、もう止めはしない。一緒に死のう」
ラク「その代わり、俺達は最高の光景を見る事が出来るんだな?」
ラッド「ああ、そうだ。俺達はきっとアグリアスに殺される。だが、俺達は世界一素晴らしいアグリアスの淫猥な姿を見れるんだ」
アグ 「お前達は殺すが、そんな痴態を見せる気は無いぞ」

ゆらり、と、アグリアスは起き上がった。タレ耳と首輪を着けたままのアグリアスの眼差しは、まるで狼のよう。

ムスタ「ヤバッ! マラーク!」
ラク「夢邪睡符! 夢邪睡符!」
アグ 「フェイスの低いマラークに陰陽術を使わせるとは、誤ったな。ちっとも効かんわ」
ラッド「くっ……逃げるぞ! テレ」
アグ 「不動無明剣! よし、綺麗に三人固まったな。では……」

翌朝。
犬耳カチューシャだけを身に着けた素っ裸のムスタディオと、犬の首輪だけを首に巻いた素っ裸のマラークと、
尻の穴から犬の尻尾を生やしているラッドが、宿屋の番犬の小屋の前で発見された。
三人は全身を番犬に噛まれ重傷だったそうな。





〜満月は金色の瞳編〜


深夜。森の木陰に集う三人の男がいた。

ムスタ「アグリアスに動物の格好をさせたら何が一番似合うか談義しようと思う」
ラッド 「異議無し」
ムスタ「今日のお題は猫」
ラク「待ってました」
ムスタ「もちろん猫耳と首輪を持ってきた。首輪は鈴つきの可愛いやつだ」
ラッド 「さすがはムスタディオだ。そうそう、俺も持ってきたぞ。尻尾なんだが……」
ムスタ「やめろ」
ラッド 「はいよ」
ラク「ずいぶんあっさり引き下がったな」
ラッド 「だって猫だし」
ラク「お前、猫耳嫌いなのか?」
ラッド 「だって犬耳ってマイナーなイメージあるんだもん、全面的に猫耳のせいで」
ムスタ「(それはさすがに被害妄想じゃね?)はいはい、それくらいにしとけ。今はアグリアス猫耳を着ける事がすべてだ」
ラク「その通りだ。今回はどんな作戦で行く?」
ムスタ「今日は森の中でテント張って野宿。アグリアスは三十分前に見張りを終えてテントに戻った、今頃熟睡中だ」
ラッド 「アグリアスの他にテントにいる奴は?」
ムスタ「レーゼだ。でもアグリアスが眠った後、テントを抜け出して森の中に消えたぞ。ちなみにベイオも行方不明だ」
ラッド 「覗きに行きたい」
ラク「勝手に行け、俺はアグリアス猫耳を堪能する」
ムスタ「そう喧嘩腰になるな。ラッド、あの二人にバレずに覗きが出来ると思うか? あきらめろ」
ラッド 「……そうだな、そうする」


ムスタ「さて、では今日の作戦をおさらいしよう。まず、俺がアグリアスに信祈仰祷をかける」
ラッド 「そして俺がアグリアスにストップをかける。これなら起きる心配は無い」
ラク「俺は二人にチャクラだな、MP切れは無いぜ!」
ムスタ「ではさっそくアグリアスのテントに侵入する。ミッションスタート!」

夜風で木々が揺れる音に紛れながら、三人の、いや、三匹の獣が駆ける。
そして薄茶色の目立たないテントをくぐり、静かな寝息を立てる女騎士を確認する。

アグリアスのテント
勝利条件 アグリアス猫耳セットを装着せよ!

アグ「スヤスヤ」
ムスタ「寝てる寝てる。ではさっそく、信祈仰祷!」
ラッド 「よし、フェイス状態になったぞ。成功率100%ストップを食らえぃ! ザ・ワールド!」
ラク「俺はチャクラで二人のMPを回復するぜ! うりゃ!」
ムスタ「フェイスが切れないよう信祈仰祷!」
ラッド 「100%ストップだ! 時よ止まれ!」
ラク「MP回復! チャクラ!」
ムスタ「フェイスさえ切れなければストップも失敗しない、完璧だ! 信祈仰祷!」
ラッド 「止まれい時よ! ストーップ!」
ラク「チャクラチャクラ〜!」

小一時間経過。


ムスタ「し……信祈仰祷!」
ラッド 「ストップ〜……」
ラク「ちゃ……チャクラ」
ムスタ「しまった……このままでは肝心の猫耳を着けられん」
ラッド 「もう帰っていいか?」
ラク「ええい、こうなったらもう猫耳と首輪を今すぐ着けてやる! 起きたら起きただ!」
ムスタ「ああ、もう、やっちまえ! 止めねぇよ!」
ラッド 「いけいけマラーク」
ラク猫耳セット! 首輪セット! よし、完璧だ!」

フサフサの髪からピョコンと飛び出しているピンとした耳もまたフサフサで、元気で明るいイメージを見る者に与える。
さらに白い首にフィットする赤い首輪の真ん中に、金色の鈴がキラリとアクセントを効かせている。
想像してみよう、彼女が四つん這いになって歩き、鈴が鳴る様を。
想像してみよう、彼女が猫のように背伸びをして、「うにゃ〜」と鳴くのを。

ムスタ「マラーク、よくやった……!」
ラク猫耳じゃあ! 猫耳じゃー!」
ラッド 「むぅ〜、やっぱアグリアスには犬耳のが似合うって。犬耳派か猫耳派か関係無しに」
アグ 「むっ……何の騒ぎだ?」
ムスタ「やーばーいー! 今から詠唱する余裕は無い、逃げるぞ!」
ラッド 「応!」
ラク「承知!」


テントから飛び出し、夜の森を駆ける三馬鹿達。
テントが見えなくなった頃、ようやく一息つく。

ムスタ「いやぁ、ええモン見させていただいたわ」
ラッド 「あー、まあ、それなりに楽しめたよ」
ラク「にゃんにゃん最高ー!」
???「にゃ〜」
ムスタ「……うん?」

謎の鳴き声を不振に思い、ムスタディオが見回せば、周囲に金色の光が無数にあった。
光の正体は、目。闇夜で光る目の持ち主といへば、そう、奴らである。

レッドパンサー「フニャー!」
クアール「フギャー!」
バンパイア「グニャー!」


翌朝。
森の片隅で半死半生になっているムスタディオ達が発見された。
恐らくレッドパンサー等に襲われたのだろう。
しかし彼等は敗北を喫したにも関わらず、仲間からは褒められた。

ラムザ「これだけのEXPとJOBポイントを一晩で稼ぐだなんて、よっぽどすごい戦いだったんですね!」
ムスタ「あはは、まあな」
ラッド 「そりゃあれだけ魔法連発すりゃぁな……」
ラク「チャクラしか覚えてなかったのにモンクマスターしちまったよ」

しかし、アグリアスだけは彼等に不気味な笑みを向けるだけだった。
夜に目を覚ましたら猫耳と首輪。まあ、バレてる訳で。
今度はいったいどんな仕返しをされるのか?
それはまだ決まってないけど、とりあえずアグリアスの頭の中には二十個くらい仕返し方法が考えてあった。

さらにその晩、ムスタディオ達のテントに大量の蚤が入ったビンが投げ込まれた。
ビンは床にぶつかると割れ、三人は全身を蚤に噛まれて発狂せんばかりの痒みに数日間悩まされる事になる。





〜兎は満月で餅をつくのか編〜


夕刻。とある酒場に集う三人の男がいた。

ムスタ「今日はバニーな」
ラッド 「いきなり何だよ」
ラク「俺、ああいう色気全開ってやつ好きじゃないんだ。どっちかっつーと可愛い系というか、もうちょい幼い感じが」
ラッド 「お前、ラファには手を出すなよ」
ラク「出すかボケ」
ラッド 「ところでムスタディオ、何の相談も無くバニーか?」
ムスタ「いいじゃないか。前回はマラークの大好きな猫耳、その前はラッドの愛する犬耳だったんだぞ。次は俺の番だ」
ラッド 「俺は耳の話題を振られたから犬耳っつっただけで、一番好きなのは人魚なんだが」
ラク「俺も耳の話題を振られたから猫耳って答えただけで、一番好きなのはカエルなんだが」
ムスタ「人魚はともかく、カエルかよマラーク」
ラッド 「まあ本人がカエルなんだし」
ラク「裏大虚空蔵」
ムスタ「ミスったぞ」
ラッド 「同じく」
ラク「ゲコッ」
ムスタ「うっかり自分も範囲内に入って、かつターゲットには一発も当たらず、自分だけ食らうとは器用なやっちゃなー」
ラッド 「しかもピンポイントでカエルかよ、さすがだな」
ラク「ゲローッ!」
ムスタ「話を戻そう。お前達の言い分は分かったが、俺が一番好きなのはバニーなんだ。今回はバニーにしてくれよ」
ラッド 「いいよ。そんかし次は人魚ちゃんで頼む」
ムスタ「分かった。反対意見も無いようだし決定な」
ラク「ゲコ〜ッ! ゲコゲコ!」


ラッド 「で、バニーはいいとして……うさ耳だけ着けるのかバニースーツを着せるのか、どっちだ?」
ムスタ「バニースーツ」
ラッド 「どうやって着せるんだよ? あのアグリアスが着るとは思えねーぞ」
ムスタ「ここで今バニーちゃんの募集してる」
ラッド 「ここ……って、なるほど、酒場ならバニーだな。あそこに募集のチラシも貼ってあるし」
ラク「ゲロ〜」
ラッド 「報酬も結構高いな、さすがバニー。でも軍資金のためとはいえアグリアスがバニーなんかやるか?」
ムスタ「アグリアスならその辺の盗賊をしばいて金を巻き上げたりするから、ここでバイトなんかせんな」
ラッド 「じゃ、どーすんの?」
ムスタ「金が駄目なら物で釣る。財宝で釣る」
ラッド 「具体的には?」
ムスタ「エナビア記」
ラッド 「それで釣れるのか?」
ムスタ「読みたい読みたいって日記に書いてあった」
ラッド 「そうか。なぜアグリアスの日記の内容をお前が知っているのかは置いといて、エナビア記持ってるのか?」
ムスタ「ホレ」
ラッド 「うわっ、マジで持ってやがる。ちょっと見せてくれ。ほ〜、これがあの有名なエナビア……ん? エナ『ピ』ア記?」
ムスタ「おっ、気づいたか」
ラッド 「エクスカリバーに対するエクスカリパーラグナロクに対するナグラロクみたいなもんか」
ムスタ「パチモンっす」
ラッド 「これでアグリアスを釣るのか。まあ釣れると思うけど、バレた後が恐いぞ」
ムスタ「安心しろ。店主を買収して、チラシをアグリアスに見せて、それで終わりだ。俺達が罠を張った事などバレまい」
ラッド 「アグリアスが勝手に勘違いして後で気づいて泣きを見るって筋書きか」
ラク「……ゲロゲ〜ロ」


ムスタ「という訳で酒場の店主を買収してきた」
ラッド 「軍資金集めのための仕事のチラシに例のチラシも入れておいた、今ラムザアグリアスが一緒に確認してる」
ムスタ「後はアグリアスがそれに気づき、酒場にバイトしに行くのを待つだけ」
ラッド 「ラムザはもちろん、他の仲間にも内緒で行くんだろうな」
ムスタ「まあエナビア記を読みたいってのはみんなに内緒にしているからな。ラヴィアンやアリシアに頼む訳にもいかんさ」
ラッド 「後は俺達が偶然を装って酒場に行くだけ。いや、それとも変装して行くか?」
ラク「ゲ〜ロゲェロ!」
ムスタ「何だ、まだカエルのままだったのか」
ラッド 「カエルの姿のままでいたいって気持ちを否定はせんが、人と話す時くらい人間に戻れ」
ラク「ゲロロ〜!」
ムスタ「ええいうっとうしい。気孔術!」
ラク「てめえらっ! 俺が好き好んでカエルでいるとかって変な勘違いしてんじゃねぇ! 殺すぞ!」
ラッド 「秘孔拳」
ラク「うわらば! なっ、何すんだ!」
ムスタ「いきなりうるさいんだよお前」
ラッド 「後で蘇生してやるからおとなしくしてろ」
ラク「ざけんな! 昨日の晩から言いたい事が山ほどあ……あ……あべし!」
ムスタ「じゃ、今晩酒場に行ってみるか」
ラッド 「アグリアスのバニー姿をじっくり堪能しよう。で、その次は人魚な」
ムスタ「おうっ。さらにその次はカエル以外の何かで」
ラッド 「異議無し」
ラク「ピクピク……」



ムスタ「という訳でバニー会議の翌日の夜になりました」
ラッド 「そんな事より酒場行くぞ酒場。アグリアスはすでに宿を抜けたぞ」
ムスタ「うむ。財宝エナビア記に釣られて酒場のバニーちゃんのバイトにレッツらゴーしたのでいざいざいざ!」

といっても、実際に買収した店主に渡しておいた財宝は『エナビア記』ではなく『エナピア記』なのだが。

ラッド 「説明口調でハイテンションなお前が気持ち悪い」
ラク「そんな事より早く酒場行こうぜ。この街の地酒美味すぎ」
ムスタ「未成年のくせに酒の味が分かるとは嫌味な奴め」
ラッド 「俺は酔えれば何でもいい」
ラク「ええい、大人のくせに酒の味が分からんとは嘆かわしい」
ムスタ「どうでもいいから早く酒場行くぞ」
ラッド 「春は夜桜、夏には星空、秋は満月、冬には雪。しかしいかなる季節も美女がいればそれだけで酒は美味い」
ラク「という訳で酒場へGO」

ムスタ「酒場到着」
ラッド 「早っ。さすがMOVE+3でヘイストかけつつゲルミナスブーツで突っ走ってきただけの事はある」
ムスタ「ん? マラークがいないぞ」
ラッド 「あいつフェイス低いからヘイストかからねーんだよ」
ムスタ「あ、そ。どうでもいいや、早く店入ろう」
ラッド 「変装を忘れるなよ。俺達が来てると知ったら、まぁたアグリアスがキレるぞ」
ムスタ「では変装開始」
ラッド 「開始」


ムスタ「変装完了」
ラッド 「早っ」
ムスタ「汎用の忍者の服を着てみた」
ラッド 「見事に不審者だな」
ムスタ「そういうお前はものまね士の服かよ」
ラッド 「俺も人の事はいえないか」
ムスタ「まあいいや、行こう」
ラッド 「応」
ラク「待て」
ムスタ「よう」
ラッド 「遅かったな」
ラク「俺を置いて行くな」
ムスタ「遅いお前が悪い」
ラッド 「お前もとっとと変装しろ。お前の肌は目立つからカエルな」
ラク「何でだよ。黒魔道士の服着りゃ隠せるだろ」

遠目にも忍者とものまね士と黒魔道士の三人組は目立ち、不審であった。だが三人は気にしない、正体を隠す事が第一だからだ。

ムスタ「という訳で入店」
ラッド 「混んでるな」
ラク「席空いてるのか?」
ムスタ「店主を買収したついでに席を予約してある」
ラッド 「さすがだ」
ムスタ「そこの見通しのいい席だ、行くぞ」


ムスタ「ドキドキ」
ラッド 「注文まだかな?」
ラク「おっ、来たぞ」
アグ 「いっ……いらっしゃい、ませ。ご注文は?」

三人は一斉にアグリアスを見た。
紅潮し緊張をあらわにした顔で、必死に営業スマイルを浮かべている。
三人の視線が下へと移ると、わずかに身をすくませた。
細い首の下、鎖骨が肩に向かってスッと浮かんでいる。その下には黒いレザーのバニースーツに包まれた豊かな双丘。
スーツによって寄席上げられている乳房は瑞々しい張りを見せており、歩くたびに揺れるだろう事が簡単に予想される。
胸下から腰にかけての引き締まったラインは、みっちりと肌に張りついているスーツによって強調されており、
呼吸のたびに上下するのがハッキリと分かる。
くびれた腰から股間にかけて際どいラインは非常に扇情的で、もう数センチずらせば中身が覗けてしまえそうだ。
ムッチリとした太ももを包んでいるのは黒の網タイツで、柔肉への食い込み具合が肉感的で、
足首まで続く見事な曲線は芸術の域に達している。

ムスタ「ご、ゴクリ」
ラッド 「……なるほど、悪くない」
ラク「俺はもうちょい肉がついてない方が……」
ムスタ「死ね、お前は死ね」
ラッド 「大人の色気が分からん奴め。ロリコン、シスコン」
ラク「だっ、黙れ!」
アグ 「あっ、あの、ご注文は……」


困り顔のアグリアスに向かって、三人の男は即答する。

ムスタ「ミルク!」
ラッド 「胸を焦がすような熱いやつをビンごと一本」
ラク「地酒とつまみを適当に」
アグ 「かっ……かしこまりました」

ジロジロと肢体を見られながらも、アグリアスは文句一つ言わずにお辞儀をし、カウンターへ向かった。
もちろん彼らに背中を向けるという事は、可愛いお尻を向けるという意味でもある。
バニースーツの背中は大きく開けており肩甲骨などは完全に露出しているのだが、アグリアスの長い金髪によって隠されている。
しかし髪が隠しているのはくびれた腰までで、その下のでん部はしっかりと三匹の雄の目に映されていた。
ハイレグでは安産型の大きなお尻を覆い隠す事は出来ず、白桃の半分ほどは網タイツごしにしっかりと露出している。
さらに食い込みの上、尾てい骨の部分には、白いフサフサの毛玉、うさぎの尻尾がくっついている。
歩くたびにお尻が揺れ、尻尾が揺れる。欲情を駆り立てるフェロモンを発散しながら、男達の視線を釘づけにしていた。

ムスタ「どうだ……これが……うさぎちゃんだッ……!!」
ラッド 「見事……まっこと見事なり……。俺は見誤っていた……。
    チラリズムの美学などと言い、色気を前面に押し出したバニーに興味を持たなかった自分が恥ずかしい……。
    ギリギリまで見せながら、大事な部分はしっかりと隠す。しかしみっちりと張りつき身体のラインを隠せないバニースーツ。
    まっこと……まっこと見事なり。これぞまさに男の浪漫……血肉が踊る……踊る……!!」
ラク「ラッド、洗脳されすぎ」
ムスタ「黙れロリコン、シスコン、カエルフェチ」
ラッド 「ラファには手ぇ出すなよ、俺の尻尾バ○ブより遙かにヤバいからな」
ラク「何でそうなるんだよ。だいたいムスタディオ、何でミルクなんか頼んでんだよ」


ムスタ「うわぁ……」
ラッド 「……マジで言ってんのか?」
ラク「なっ、なんだよ。酒場でミルク頼むなんて、下戸のラムザじゃあるまいし……」
ムスタ「おまえはあのおっぱいを見て何も感じなかったのか」
ラッド 「むしろミルクをぶっかけたいと思わなかったのか」
ラク「待て。とりあえずムスタディオの言ってる事は分かったが、ラッドの方は……」
ムスタ「ミルクをぶっかける? 白い肌に溶けるように、黒いスーツを汚すように、白いミルクが、バニーアグリアスに?」
ラッド 「トロトロとしたミルクを全身に浴びせられ、半泣きになりながら自分で舐め取ったりするのを想像してみろ。クるぞ」
ラク「お前ら、いい加減にしろ。マジで年齢制限ヤバいって。下手したら削除されるから、やめろ」
ムスタ「大丈夫、少年誌でもこれくらい余裕でやってる。例えばチャンピオンのアレとかコレとかソレとか」
ラッド 「その通り。だいたい健全なエロが青少年に与えるのは害ではなく浪漫」
ラク「どこが健全なんだよ! ドラゴンボールのブルマのノーパンとかパフパフとかが健全なエロだろ!?」
ムスタ「そうか、ブルマみたいなのも好きなのか」
ラッド 「しかし悟空少年時代の頃の話だから、ブルマもまだラファより少し年上って程度だな。なるほど」
ラク「何でお前らはそんなに俺をロリコンシスコンにしたがるんだ!」
ムスタ「だって事実だろ。つかあんまり騒ぐな、アグリアスに気づかれたらどうする」
ラッド 「忍者、ものまね士、黒魔道士。顔を隠しているとはいえ、バレる時はバレるんだからな」
ラク「……スマン。でも、でもなぁ」
ムスタ「シッ……アグリアスが来た……。お盆にミルクと酒を乗せてこっちに向かってる」
ラッド 「くっ……もっとじっくり堪能したい。……よし……やってやるか」
ラク「おいラッド、何する気だ?」
ラッド 「決まってんだろ? ナニだよ」

そう言ってニヤリと笑うラッドを見た二人の背中に、ゾクリと冷たいものが走った。




〜兎はうすに馬鹿を入れてペッタンペッタン編〜


バニー姿のアグリアスが、お盆にミルクとお酒を乗せてやって来る。
いつまでも見つめていたい官能的な姿だが、彼女は給仕として働くために動き回らなくてはならない。
それではアグリアスのバニー姿を間近で見れるのは、自分達の席に来た時だけだ。

ラッド 「くっ……もっとじっくり堪能したい。……よし……やってやるか」
ラク「おいラッド、何する気だ?」
ラッド 「決まってんだろ? ナニだよ」
ラク「ナニって何だよ……!」
ラッド 「黙って見てろ……もう喋るな」
アグ 「お待たせ、しました」

スタディオが不安げな眼差しをラッドに向けている。しかしその瞳の奥に、確かな期待の輝きがあった。
ラッドならきっとすごい事をやってくれる。男の信頼が、そこにはあった。
三人の男に視姦されながらも、気丈に振舞うアグリアス。そんなにエナビア記が読みたいかとムスタディオは思った。
アグリアスはまずムスタディオの前にミルクを置き、次にマラークの前に地酒の入った陶器の入れ物とグラスを置いた。
そしてラッドの前に琥珀色の液体の詰まった細長いビンとグラスを置く。おつまみはまだ出来ていないようだ

アグ 「それでは――」
ラッド 「おっと待った、お酌くらいしてくれよ」

ものまね士のマスク越しのくぐもった声でアグリアスを呼び止めると、ラッドはグラスをアグリアスの眼前に持ち上げた。

ラッド 「こういうのも仕事のうちだろ? 最初の一杯くらい、入れてくれてもいいだろう」
アグ 「そっ、そうなのか……ですか?」


ここは普通の酒場なのだから、給仕にそんな事をする義務はない。
お酌をするしないは単なるサービスなのだが、そんな知識はアグリアスには無かった。
波風立てぬよう、アグリアスは素直に酒瓶を開けてラッドのグラスに酒を注いだ。
ちなみにマラークは自分の酒をすでに注ぎ始めていたため、お酌はしてもらえない。
ラッドの手の中に琥珀の酒が満たされる寸前、その重みにバランスを崩したかのようにラッドはグラスを大きく傾けた。
せっかくアグリアスが注いだお酒がテーブルの上にぶちまけられてしまう。
酒は女に注いでもらった方が美味いと以前から言っていたラッドがそんな行為をした事は、ムスタディオを大きく驚かせてた。

ラッド 「っと、すまねぇ。ちょっと右手を怪我しちまっててな、クソ、せっかくお酌してくれたのに悪かった」
アグ 「いっ、いえ、お気になさらずに。ただちに拭く物をお持ちしますっ」

アグリアスが慌ててカウンターに戻るのを見送りながら、ラッドは勝ち誇ったように笑っていた。

ムスタ「おいラッド、いったい……」
ラッド 「まあ見てろって。それよりムスタディオ、お前、俺が合図するまでミルクを飲むな。合図したら、勢い良く飲め」
ムスタ「何でだ?」
ラッド 「飲む時は首をアグリアスの方に向けて固定しろ、絶対だ。あ、もう戻ってきた……いいな」

ナプキンを持って駆け寄ってくるバニーアグリアスを横目で確認しながら、ムスタディオは小さくうなずいた。
ラッドが何を企んでいるのかは分からないが、この猛者がバニーの素晴らしさに気づいたのだから、きっと何かあるはずだ。

アグ 「今お拭きしますっ」
ラッド 「ああ、よろしく。すまないね」


口で謝りながら、ラッドはポケットから金貨を一枚取り出した。
そして腰を曲げてテーブルを拭いているアグリアスの胸元に、その金貨を差し込む。

アグ 「ヒッ……! なっ、何を……!」
ラッド 「チップと、迷惑料さ」

アグリアスはものまね士の男(ラッド)の下心に勘づいたが、渡された金貨の事を考え、それ以上何も言わなかった。
憤りが無い訳ではない。思わず拳が出そうになったが、『迷惑料』という言葉が彼女を引きとめた。
いくらチップと迷惑料だとはいっても、こんなにお金をくれる事は普通無いだろう。一般的なチップの十倍以上の金額だ。
きっと謝罪の気持ちもあるのだろうと判断した。
豊かな谷間に支えられ、金貨は胸の間で光り輝いている。
自然と、ムスタディオ達の視線はその金貨に向けられた。というか、その金貨が挟まっている白い膨らみに向けられた。
アグリアスが谷間から金貨を取り除いた後も、視線は釘づけのままである。
テーブルの奥まで濡らした酒を拭うため、アグリアスがいっそう前かがみになったからだ。
すると重力に引っ張られた白い果実が、ナプキンを動かす運動の手伝いもあり、今にも零れ落ちんばかりにゆっさゆっさと揺れる。

ムスタ(うおおっ……! ラッド……これが、これが狙いか……!!
     確かに……確かにこれなら、アグリアスを長時間この場に引き止められる。
     しかも……アグリアスのおっぱいが揺れるのを、こんな間近で観賞出来るというオマケつきっ!)
ラク(くっ……貧乳派の俺が、まさかここまで興奮させられるとは……。ラッド、恐ろしい男……!)
ラッド 「ニヤリ」

生真面目にテーブルを拭くアグリアスは、発情した雄達の淫猥な視線に気づかない。
酒を吸って黄色く染まるナプキンを握り締めながら、せっせと身体を動かしている。
その度にアグリアスのおっぱいがこっちへプルプルそっちへポヨポヨ。
もう少しでお酒を拭き終わり、同時に夢の時間も終わろうとした瞬間、ムスタディオの足がテーブルの下でツンツンと突かれた。


ムスタ「……?」
ラッド 「……」

スタディオがいぶかしげにラッドを見ると、彼はほとんど酒が零れてしまったグラスをテーブルから少し浮かし、
小さくゆっくりと上下に振っていた。
それが「ミルクを飲め」という合図だと気づき、ムスタディオはミルクに手をかける。

ムスタ(ええと、首をアグリアスに向けて固定しながら……)

ちょっと胸を見づらくなると残念に思いながらも、言われた通りにミルクを飲むムスタディオ。
信頼に応えてくれた友の行為に、ラッドはニッと笑い、そして、

ラッド 「フトンガ吹ッ飛ンダ」
ムスタ「バフゥッ!」

裏声で駄洒落を言った。ミルクとは何故か、飲んでる最中はつまらないギャグでも笑って吹き出してしまうものだ。
スタディオも例外では無く吹き出していた。駄洒落が面白かったのか、それともあまりに馬鹿馬鹿しすぎたからかは分からない。
確かなのは、ムスタディオの口腔に溜められた白いミルクが盛大にぶちまけられたという事だ。
テーブルを拭いている、アグリアスに向かって。

アグ 「のわぁっ!?」
ムスタ「ゲーッホゲホ!」
ラッド 「ヒャーッハッハァ! 悪い悪い、牛乳飲んでる奴を見ると、つい笑かせちまいたくなるんだよ」
ムスタ「ゲッヘ、ぐへ。ゴホッ。お、お前な〜……」
ラッド 「しかしそこまで盛大に吹くとは思わなかった。お嬢さん、大丈夫かい?」


お嬢さん。それが誰を指す言葉なのかはすぐに分かった。そして何気なく、ムスタディオとマラークは『お嬢さん』を見た。
そこには身をすくませながら、呆然としている、ミルクまみれのアグリアスの姿。
白い頬を、朱色の唇を、金色の髪を、白く濡らしているミルク。
首筋を伝うミルクが鎖骨のくぼみに溜まり、鎖骨に入らなかったミルクは乳房とバニースーツの間に流れ込んでいく。
さらに黒いバニースーツには白い液体が染みのようにしたたっており、胸から腰へ、腰から股間へ、太ももへと流れる。
特に股間から太ももへと伝うミルクは、その位置まで落ちるのにミルクの量を減らし、勢いを失い、ゆっくりと垂れていく。
その様子にムスタディオは震えた、マラークは生唾を飲んだ、アグリアスに見惚れていた他の客達が歓声を上げた。
そしてラッドは一瞬だけ勝利の笑みを浮かべた後、心配するように眉根を寄せる。

アグ 「うっ……あ……」
ラッド 「ああっ、すみません。全身ビショビショだ、しかもミルクで。早く拭かないと」

金貨を取り出したポケットから今度はハンカチを取り出すと、ラッドはアグリアスの髪を拭う。
本当なら胸や太ももを拭いて上げたいが、それはあまりにも露骨すぎる。
しかし髪や頬なら「親切」という言葉で何とかなる領域だ。

ラッド 「本当にすみません、俺が悪ふざけしたばっかりに」
アグ 「いっ、いえ、大丈夫……ですから」

ミルクで濡れている姿がどんなに卑猥なのか分かっていない純真なアグリアスは、心配かけまいと愛想笑いを作る。
アグリアスはただミルクだと匂いが残りかねないと不安になっているが、白いミルクで濡れたという事はそれ以上の意味を持つ。



ムスタ(まさか……まさか本当にミルクぶっかけをやってくれるとは……。ラッド……ラッド! お前って奴は!)
ラッド(フッ、何も言うなムスタディオ。お前のためじゃない、自分のためにやっただけさ……)
ムスタ(それでも、それでも俺はお前にお礼を言いたい。ありがとう。本当にありがとう)
ラッド(よせやい。礼を言う暇があったら、アグリアスのこの姿をしっかり目に焼きつけておきやがれ)
ムスタ(ああ、焼きつけるとも。心に、魂に刻み込むとも。バニーアグリアスミルク濡れという淫靡な姿を)
ラッド(俺達は今、最高に輝いている――)

二人が熱き男の魂で会話しているのを見て、アグリアスは悪寒を感じて背筋を震わせた。
何かがおかしい。ものまね士の男が酒をこぼし、それを自分が拭いていると、忍者の男がミルクを吹き出し、自分にかかった。
それだけの事、単なる偶然が重なっただけだろうこの状況。なのに酒場に広がるピンク色の空気は何なのだろう?
何ともいえない気持ち悪さに、アグリアスはさっと後ずさりしてラッドのハンカチから逃れた。

アグ 「あぁ〜、その、私は戻って着替えてきますので……」
ムスタ「えっ、もう――」
ラッド 「いや本当にすまなかった。お詫びだ、これを受け取ってくれ」

出血大サービス。ラッドは再び金貨を取り出した。しかも、今度は二枚。
これはさすがに悪いと断るアグリアスだが、ラッドは強引にアグリアスに金貨を握らせる。
アグリアスはいぶかしがりながらも、ミルクに濡れた身体でカウンターの裏に消えていった。
その後、ラッド達は店の客から盛大な拍手を受け、酒場で飲み食いした代金をすべておごってもらったのだった――。
しかもアグリアスは最後の最後まで忍者とものまね士と黒魔道士の正体を見抜けなかった。
ラッド達の完全勝利である。





と、その日の夜は思っていた。完全勝利だと思っていた。しかし翌日、意外な落とし穴が待っていたのである。
スタディオ、ラッド、マラークは、三人そろってアグリアスの部屋に呼び出され正座させられた。

アグ 「何だ、これは?」
ムスタ「何だって、何が?」
アグ 「とぼけるな、この本だ」
ラッド 「エナビア記? 確かかなり有名な本だったな。財宝扱いされてたっけ」
アグ 「ああ、そうだ。『エナビア記』は歴史的価値のある一品だ……」
ラク「そりゃすげぇや。昨日持ち帰った大金といい、その本といい、どこで手に入れたんだ?」
アグ 「そっ……れは、この際どうでもいい。ここをよく見ろ」
ムスタ「どれどれ……『エナ"ピ"ア記』……パチモンじゃねーか」
アグ 「さて、問題はここ。作者の名前を見ろ」
ラッド 「え〜と……ムスタディオ=ブナンザ……」
ラク「…………え?」
ムスタ「あっ、しまった、つい本名を……」
ラッド 「自作かよ!」
ムスタ「渾身の力作っす……」

うなだれる三人を見下ろす般若顔の女騎士は、地獄の底から響くような声で言った。

アグ 「実はこの本を手に入れるためにある事をしていた時、不審な三人組がいたのだが――私と少しお話しようか?」

その日、アグリアスはムスタディオ、ラッド、マラークを除名するようラムザに申しつけた。
さすがのラムザやラファも彼等の目に余る行動をかばいきれず、三人の男は部隊を去る事になった。


歴史的ベストセラーとなった『エナピア記』をはじめとする数々の大作をこの世に残した大作家、ムスタディオ=ブナンザ。
後年、彼はこの時の事をこう語る。
「我が人生で一番輝いていた時でもあり、一番どん底に堕とされた時でもあった」
異端者ラムザの元を離れたムスタディオが記したブナンザ白書の一節である。
彼はラムザとの冒険の日々に何を見たのか? それらはすべて一冊の本に記されている。
スタディオの死後、彼の妻と息子夫婦が荷物の整理をしたが、ブナンザ白書だけは見つからなかった。
生前、己の寿命を予期したムスタディオが、何者かにブナンザ白書を送ったという記録が残されている。
だがブナンザ白書の行方はそこで途切れている。いったい誰に渡したのか?
恐らくは輝かしい時間を共に過ごした仲間へだろう……。
彼を直接知る者がいなくなった今、ブナンザ白書は財宝として数多くの人間に捜索されている……。

ラッドは異端者ラムザの元を離れた後、とある貿易都市で自警団を結成。
ラムザとの冒険の日々で得た力で仲間を導き、幾度も街を様々な障害から救った。
彼は海に魅入られており、海を荒らす海賊を決して許さなかった事でも有名である。
後に貿易商も始め、街は大きな発展をし、一つの街を支配するほどの大商人となった。
富と名声を手にしたラッドだが、彼は生涯独身を貫き、残された財産はすべて街に寄付された。
「見果てぬ夢。俺はまだもっとも強く望んだものを、この目に映してはいない」
海を見つめている時、彼は必ずそう言ったらしい。
彼の夢とはいったい何だったのか、彼は死ぬ前にそれを見る事が出来たのか、その記録は残されていない。
しかし一人の男が海に見た壮大な夢の正体は今でも憶測を呼び、それを求めて旅立つ海洋冒険家も少なくはない。


マラーク=ガルテナーハ。彼は異端者ラムザの元を離れた後、一人で世界を放浪する。
黒い肌を持つ彼はどこに行っても目立ち、奇異の目に晒されてきた。
そんな日々に憤りを感じたマラークは、差別を無くす事を誓い、戦い続けた。
数多くの仲間と理解者を得たマラークは、三十歳の夏、ついに『ピョコピョコ教団』を結成。
そこでは誰がカエルの姿をしても咎められる事無く、教団本部の庭のプールは毎日カエルで賑わっていた。
しかし教会から異端者の宣告を受けたマラークは、三年後、火刑に処されてしまう。
「ここで我が身が果てようとも、カエルを愛する心がある限り、我々は戦い続ける。カエルフェチの理想郷建設のために!」
炎に焼かれながら叫んだ彼の言葉は、ピョコピョコ教団員以外の数多くの人々にも感動の涙を流させたという。
奇妙なのは、火刑が終わった後にマラークの遺体を探すと、見つからなかったという事だ。
「アジョラの聖なる炎が、邪悪な異端者の存在を許さず、骨まで焼き尽くしたのだ」
教会はそう発表し公的にもこの時に死んだとされているが、人々はカエルの使徒マラークが炎を脱し、今もどこかで生きていると信じた。
後年、大作家ムスタディオ=ブナンザの墓にて、二人の男が墓参りをしている姿が目撃されている。
その内の一方は、畏国では珍しい黒い肌をしていたらしい。

人は何のために生きるのだろう? そもそも人が生きる事に意味などあるのだろうか?
人生に意味を求めるのは人間だけかもしれない。ありもしない意味を探し続ける迷い子なのかもしれない。
しかしそれを愚かとは言えまい。意味を見つけるために人生を賭けた人々の魂のためにも、決して。
そしていつか人は見つけるだろう、生きる意味を。
否、作り出すだろう。人が生きる意味を。
人は生きる。苦しみ、傷つきながらも、魂が萌えを……ゲフンッ、ゲフン。魂が愛を求める限り。


動物萌えで行く!

                    劇
                    終
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