氏作。Part22スレより。
「そういえば、もうすぐクリスマスですね。ふふっ、昔は楽しみだったなぁ……。
え? そりゃ今でも楽しみだけど、昔はパーティーもケーキも気軽に用意してたし。
異端者の僕達がクリスマスを祝うなんてのも変な話ですけど、資金に余裕がある訳でなし、
パーティーを開く場所もお金も調達するだけで一苦労するじゃないですか。
もちろんしようとは思いますよ、クリスマスパーティー。みんなもクリスマスくらいは楽しみたいだろうし。
でもね、一番の楽しみばっかりはどうしょうもないのが寂しくて……。
え? もちろんクリスマスプレゼントですよ。こればっかりはもうどうにもならない問題です。
だってそうでしょう? サンタクロースは良い子の所にしか来てくれないんですから。
20歳まではプレゼントをもらえると思って、良い子になろうと頑張ってたんですけどね……。
でも去年のクリスマス、サンタさん、来なくて……。やっぱり駄目ですね、人を殺しちゃうと。
傭兵なんかになってガフガリオンと一緒に色んな戦場で戦ったり、
異端者になって教会から追われたり、去年よりずーっと酷くなってますから、
もう今後クリスマスプレゼントをもらう事は無いんだなぁ……って。
アグリアスさんはきっと20歳まで毎年サンタさんからプレゼントをもらってたんでしょう?
え、そうなんですか? 10歳までだなんて、何か悪い事しちゃったんですか?
あっ、すみません変な事を聞いちゃって。
……え? メリアドールさんはちゃんともらってたんですか、すごいですね。
ムスタディオはどうだい? ……一度も、って、嘘だろう? 赤ん坊の時は悪い事のしようが無いじゃないか。
サンタさんがうっかり忘れただけとか……サンタクロースが本当は何だって?
あっ、アグリアスさん!? メリアドールさん!? ちょっ、ムスタディオに何を!?
わーっ! フェニックスの尾はどこだー! ムスタディオ、死ぬなー!」
クリスマスイブの機工都市ゴーグは、戦時中だというのに街中が浮かれているように見えた。
賑わう町の中、買出しを終えたラッド、ラヴィアン、アリシアがムスタディオ宅に戻る。
そして部屋の飾り付けをしていたラファ、マラークにいくつかの飾りを渡した後、
キッチンで下準備をしていたアグリアスとメリアドールに合流して、晩餐の準備に協力する。
ちなみに一番料理が得意なのはラッドだ。他の四人の女性はちょっと屈辱を感じてたりする。
ラムザはというと、寝室で眠るムスタディオの看病をしてたりする。
先日、ラムザに「サンタクロースなんていねーよ」と言いそうになったところに、
アグリアスとメリアドールの超強烈なツッコミを受けた結果だった。
そしてオルランドゥ伯とベスロディオは、呑気にチェスを打ってたりする。
そんなこんなでパーティーの準備は進むのだった。
『サンタクロースの正体暴露禁止令』が敷かれた中、クリスマスパーティーが始まる。
調査の結果、ラムザ以外にサンタクロースを信じてるピュアな子はいなかった。
そのため『サンタクロースの正体暴露禁止令』を知らないのはラムザだけである。
クリスマスケーキとチョコボの丸焼きをメインとし、様々なご馳走が並び、
ムスタディオが急激な復活劇を見せチョコボに食いついたり、ラヴィアンが酔っ払って歌いだしたり、
ラッドがアリシアに料理の秘訣を語ったり、オルランドゥ伯が隠し芸としてフードからベヒーモスを出したり、
ラファがケーキの甘さに感激しておおはしゃぎしたり、マラークが蛙になったり、
ベスロディオが新作クラッカーでぼやを起こしそうになったり、アグリアスとメリアドールが牽制し合ったり、
ラムザが楽しそうに歳相応の笑顔を見せて一部女性陣を魅了したり、それは楽しいパーティーだったそうな。
だがしかし、サンタクロースを信じているラムザのために、
クリスマスプレゼント交換会みたいなものは開かれなかった。
クリスマスプレゼントはパーティー終了後にそれぞれ勝手にやってくださいという決まりであり、
ラムザに対してはプレゼントを直接渡す事は禁じられ、
アグリアスとメリアドールの魂胆が分かっていた他メンバー全員は、
ラムザにクリスマスプレゼントを上げようとは微塵も思わなかったりする。
──夜。深夜。ホーリーナイト(聖なる騎士にあらず、聖なる夜なり)
闇の中を駆ける忍者二人の手が、ラムザの戸の前で重なった。
「あ」
「あ」
忍者アグリアスと忍者メリアドール。
お互い前衛系ジョブしかやってないので、テレポという便利アビリティは習得していない。
そのため素早く移動すべくMove+2をセットしている二人だった。
そして……。
「貴様、何だその格好は」
「アグリアスこそ何よその格好」
お互いがお互いの格好にツッコミを入れる。
アグリアスは青いサンタ服。白ヒゲ付き。
メリアドールは緑のサンタ服。しかもミニスカサンタ。
「……破廉恥な格好をしおって」
「そっちこそ何よ、付け髭なんて、受け狙い?」
お互い色にはツッコミを入れなかった。イメージカラーみたいなものだからどうしょうもない。
むしろどんなジョブにチェンジしようが、基本ジョブの服装を変えようとしない彼女らにとって、
サンタ服に着替えるだけでも驚嘆すべき事態だ。
「どうやら考える事は同じらしいな」
「フンッ、そういうあんたもね」
剣を抜く。忍者になろうと武器は剣、しかも冬場はつらいアイスブランド。
聖剣技、剛剣を使うために、剣装備可能をセットするのはお約束な二人なのだ。
「アグリアス、この勝負私の勝ちよ」
「何だと?」
「剛剣は対人で最も威力を発揮する。剣装備可能をセットしているお前はメンテナンスセット不能!」
「くっ……だが私は戦技をセットしている! メンテナスを使えないのは貴様も同じ、ウェポンブレイクしてくれる!」
「あいにく私は見切り+エルフのマント(緑色)をセットしているわ。ウェポンブレイクが当たるかしら?」
「うぬぬぬぬ……!」
ちなみにアグリアスのアクセサリはゲルミナスブーツだ。鈍足を気にしている彼女ならではといえよう。
そして青サンタ帽と緑サンタ帽、青サンタ服と緑ミニスカサンタ服で、両者ほぼ共通装備。
装備、アビリティ、総合して考えればアグリアスが圧倒的に不利だ。
「こうなったら先手必勝! ウェポンブレイク!」
「ヒラリ、見切って回避!」
ムスタディオ宅、客室(ラムザの部屋)前の廊下にて二人の壮絶な戦いが始まろうとしていた!
「ふふふ、邪魔な聖剣技を封じさせてもらうわ!
地獄の鬼の首折る刃の空に舞う無間地獄の百万由旬……冥界恐叫打!」
「ウボァー」
アグリアスのアイスブランドが粉砕され、強烈な剛剣の威力がアグリアスの身体を激しく痛みつける。
「オルランドゥ伯さえ上回る我が攻撃力の前に敵は無し! たった一撃で瀕死になったわねアグリアス」
「うっ、ぐぐ……」
「トドメを……はっ!? アグリアスの目が死んでいない!? これは……」
「う、お、お、お、おぉぉぉっ! 肉斬骨断!!」
「キャアアッ! 一撃で瀕死に陥れた冥界恐叫打の威力がそっくりそのまま返ってきたー!
しっ、しかしダメージは同じでも、武器を壊されたあなたの方が不利……」
「即死しろ! 死兆の星の七つの影の経絡を立つ! 北斗骨砕打!」
「なぜ聖剣技を……ウボァー」
「愚か者め、忍者は二刀流! アイスブランドも当然二本用意していたわ!」
「ふ、か、く。ガックーン」
「勝った」
ダラダラと血を流しながら勝利宣言するアグリアス。青いサンタ服が赤い血を吸って赤く染まらず、
赤と青が混じった濃い色になってしまった。
「ふっ、ふふ……今行くぞ、ラムザ。アグサンタからのクリスマースプレゼンッ、受け取ってくれ……」
アグリアスが戸を開けると、ラムザのベッドの前に赤いハイレグを着たムチムチプリンの女性が浮かんでいた。
「なっ……き、貴様何者だ! どこから入った!? ラムザに何を……」
ハイレグの女は背中から灰色の翼を生やしていた。便宜上、ハイレグサンタとでも呼ぼう。
ハイレグサンタは氷のような目線をアグリアスに向け、眉にしわを寄せた。
「……兄サンハ……渡サナイ……。赤イ 赤イ サンタクロース 私ノ役目ダ……」
「何者かは知らんが、黙ってサンタの役目をゆずる訳にはいかん!
天の願いを胸に刻んで心頭滅却! 聖光爆裂破!」
光の柱が降り、ハイレグサンタの身体を焼く。
「ウゴゴゴゴ……ナルホド、ソレナリノ強サダ……ダガ甘イ」
「ぬぅっ! 何だ? この桁違いのパワーは……ひ、光が集まる!?」
「渦なす生命の色、七つの扉開き力の塔の天に到らん! ア ル テ マ!!」
「えええええええっ!? ちょっ、何だその反則的な……ギャアアアアアアッッ!!」
翌朝──ラムザは枕の横に置かれた手編みのマフラーを見て、サンタさんが来てくれたと大喜びした。
そしてなぜかアグリアスとメリアドールは重傷のままムスタディオ宅の庭に放置されていた。
真冬の寒空の下で一晩過ごした二人は熱を四十度くらい出したそうな。
赤い 赤い サンタクロース
お し ま い