氏作。Part27スレより。






ラムザとラッドはどうした!? 一緒だったろう!」
「部屋にマラーク達がいなかった! それを探して来てみれば、貴様が!」
「誤解だ! ラヴィアンがマラークに追われていたから、敵だと思って――」
「だったらラヴィアンが犯人だろう! お前達二人の剣は血で濡れていた!」


   眠り羊の鎮魂歌
   第二章 呪われし恐怖の虜


ラムザを! ラムザはどこだ!? 話をさせてくれ、冷静に話せば……」
「もはや話す舌など持たぬ! 砕け散れ、強甲破点突き!」
敵意剥き出しの攻撃的オーラが、アグリアスの鎧を粉砕し肉を引き裂く。
「あグッ! やめ……」
「これ以上の殺戮は許さぬ! 無限地獄の百万由旬……冥界恐叫打!」
更なる追撃がアグリアスの剣を砕く。聖剣技を使うホーリーナイトには致命的だ。
このままでは言い訳もできず殺されてしまう、と、アグリアスは反撃にタックルをしかける。
「ぎゃん!」
後退するメリアドールを、アグリアスはさらに押し込み、壁まで叩きつけようとする。
メリアドール越しに感じる壁の感触の上半分は、薄く、脆かった。
兜と鎧が窓ガラスを破り、メリアドールの腰を支点に上下を反転させ、二階の高さから落下する。
「キャアア……グボッ」
悲鳴は、首の骨が折れる音で途切れた。
「あ……」
事故とはいえ、マラークとメリアドールを続け様に殺害してしまった事実は、
アグリアスの精神を泥沼に沈め強烈に圧迫した。
ラヴィアンを追う事も忘れ、割れた窓からそっと顔を出し、もう動かないメリアドールを見下ろす。
廊下に流れ込む外気がやけに冷たかった。
凍えた訳ではない、しかしアグリアスの身体は、震えていた、押し寄せる恐怖に。


「これ以上犠牲者は出させるものか!」と叫んで駆け出してしまったメリアドールを含め、
部屋にいなかったマラークとラファを、ラムザとラッドは探していた。
兄妹がいなかった理由は解らないが、戸を開けた瞬間に感じた霊的な寒気と、
悲鳴にもにた戸の軋みと、どこか遠くから聞こえた気のする薄ら笑いが理由だと察する事ができた。
「ここは邪悪な悪霊に満ちているのかもしれない……早々に荷物をまとめ、外に出ましょう」
「賛成だ。まずはリビングだぜ、アグリアスオルランドゥ伯にも言わねぇと」
しかしリビングは空で、キッチンからの異臭により、二人は肉塊と化したムスタディオを発見した。
「どう見る? ラムザ
「……ただの悪霊がこうまで物理現象を起こせるとは思えない。
 グール化した幽霊でも、ここまでは無理でしょう。つまり『邪悪な何か』が潜んでいる」
「当ても無く仲間探ししても仕方ないだろ? 俺とお前の荷物、
 それに分散して預けてある聖石だけでも回収しておこうぜ」
「賛成だ。どうせ聖石を除けば、装備や食料と多少のギルくらいしか荷物は無い、代えは効く」
「同感。聖石は、今は、どういうんだ?」
「エルムドアから得た『ジェミニ』は僕が持ってます。
 イズルードの遺体とあった『パイシーズ』はアグリアスさんに預けました。
 ベスロディオさんが発見した『タウロス』はムスタディオが。
 マラークを生き返らせた『スコーピオ』はラファとマラークが共同で……」
「『サジタリウス』はメリアドール、『リーブラ』はオルランドゥ伯がそれぞれ持ってたんだったな?」
「ええ。残る白羊宮の『アリエス』はアリシアとラヴィアンの共同管理です」
「改めて考えると俺だけ持ってねーのか」
「面倒くさがったのは君だ」
「よし、俺が『タウロス』を探す……さすがに荷物に入れっぱなしってのはないだろ」
つまり、あの肉塊の中に聖石があるという事だ。
「もし死体にも荷物にも『タウロス』が無かったら、敵の目的は」
「聖石……急がなくては」
急がば回れ、だ。『タウロス』の確認が済むまで俺のガードをしていろ」


聖石『タウロス』はムスタディオが腰に下げていた鞄の中にあったため、すぐに見つかった。
しかしそれでもムスタディオの肉を掻き分ける必要があったため、血みどろの手袋を流し台で軽く洗浄する。
水瓶にはあらかじめ水を汲んであったし、紅茶を淹れるのにも使った物だ。
「さあ、仲間を探しに行こうか」
ラムザもラッドも知らない。探し人の半数が死んでいる事を。


物置らしき場所から物音を感じたオルランドゥは、剣を構えたまま戸を蹴破り即座に獲物を見すえ刃をあてがった。
「……お主だったか。どうした、こんな所で?」
「あっ……伯?」
「気分が悪そうだ、横になった方がいい。さあ、こっちへ来なさい」
「私、仲間を……殺してしまいました」
「……何?」
「事故、だったんです。角から、急に、それで」
「敵と見誤ったか……最大の敵は常に己の心と知れ、恐怖心を我が物とした時、新たな道が開かれる」
「きょ、う、ふ?」
彼女が振り返りギョロリとした眼を向ける


   『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!』


ガバッと立ち上がった彼女は天井を仰ぎ狂ったように笑った。
――危ない。――殺られる前に殺れ。オルランドゥの直感が言う、歴戦の英雄の直感が言う。
「不動無明剣!」
動きを止める氷縛岩による即撃を、彼女は振り上げた拳ひとつで粉砕した。
「貴様ッ、何者だ!?」
確信を持ってオルランドゥは叫ぶ。彼女は彼女じゃない、人外の何かが化けているのか?
『雷神よ……人の身にして絶対の強者よ……』
ソレが語りかける。
『魔道冥府に汝を堕とし、真なる“恐怖”を刻ませてやろう……その鍛え練られた体躯に精神に!』
轟音が古城を震撼させた。