氏作。Part25スレより。


ラム「みんな揃ったかい?」
ムス「見りゃわかんだろ。揃ってるよ」
ラム「そうか。いや、他でもないんだけど、隊の経理係のアグリアスさんが
   みんな顔をそろえてくれって言うんだ」
ラド「ふーん? 何の用だ?」
ラム「いや多分、軍資の積み立て金の催促じゃないかと思うんだけど……」
マラ「積み立て金? 経理係が積み立て金をどうしようってんだ?」
ラム「どうって、だから積み立て金を払えっていう催促だろう」
マラ「積み立て金を払えだと? ずうずうしい経理係だ」
ラム「何もずうずうしいこたないだろう。……というか、アグリアスさんが
   催促するくらいだから、みんなずいぶん払ってないんじゃないの?
   ―――どうだいムスタは?」
ムス「いや面目ねぇ」
ラム「面目ねぇって、そんなに払ってないわけ?」
ムス「いや一つ払ってあるだけに、面目ねぇ」
ラム「それなら何も面目なくないだろ。積み立て金なんて毎月一つなんだし」
ムス「月一で持ってってりゃ面目ながりゃしねぇさ」
ラム「そりゃそうだ。じゃ、いつ持ってったの? 三ヶ月前?」
ムス「三ヶ月前なら大威張りだ」
ラム「じゃ、半年前?」
ムス「半年前ならアグ姐の方から礼にくらぁ」
ラム「じゃ、一体いつ持ってったんだよ?」
ムス「月日の経つのは早ぇもんだ。あれは俺が隊に加入したときだから、
   もう一年以上前になるんだな」
ラム「一年以上前ぇ? そりゃ、アグリアスさん怒るわ。……ラッドは?」
ラド「まことにすまねぇ」
ラム「まことにすまねぇって、一体積み立て金どうしてるのさ?」
ラド「積み立て金てぇと、なんだ?」
ラム「何だよ、積み立て金知らないわけ? ラヴィアンさんは?」
ラヴィ「え? 何が?」
ラム「いや、積み立て金」
ラヴィ「積み立て金? そんなもの、まだ食べたことありません」
ラム「食べ物じゃないよ……アリシアさんはしっかりしてるから、持ってって
   ますよね?」
アリ「そういわれると恥ずかしいですけど、確かに持ってってます」
ラム「さすがですね、いつです?」
アリ「そうですねぇ、あたしがアカデミー時代の……」
ラム「ちょっとちょっと、古すぎますよ……マラークは?」
マラ「積み立て金については涙ぐましい話があるんだ。実はバリンテンの野郎に
   殺された親父の遺言でな、『マラークよ、お前は何をしても良いが、
   積み立て金を払うてぇような、そんな了見だけは起こしてくれるなよ』と
   言い残して、はかなく息は絶えにけり、チャチャンチャン」
ラム「どこの世界にそんな馬鹿な遺言をする父親がいるんだ。……ラファは?」
ラファ「失礼ねラムザ。こう見えてもあたし結構気を使ってるのよ。向こう三軒両隣、
   誰も払ってないのに、あたしが払ってるわけないじゃないの!」
ラム「何を妙な威張り方してるんだ……こうしてみると誰も払ってないわけか。
   こりゃ、下手すると罰として全員キツイ儲け話に派遣かなんかだぞ」


ラム「とにかくアグリアスさんのとこへ行ってみよう。……うわ、難しい顔して
   帳簿とにらめっこしてる。……こりゃいよいよ罰ゲームかな」
ムス「おいおい、脅かすなよ」
ラム「とにかく僕が代表して謝ってみるから……アグリアスさん、みんなを連れて
   きました」
アグ「なんだ、そんな入り口のところに固まって。みんなこっちへ入れ」
ラム「ええと、積み立て金のことでしたら、すみません。近いうちにみんな必ず……」
アグ「積み立て金? 私はそんなことを言った覚えは……ああ、私が呼びにやったんで
   積み立て金の催促かと思ったのか。安心しろ。今日はそのことじゃない」
ラム「じゃ、積み立て金はあきらめましたか?」
アグ「誰があきらめるか」
ラム「割と執念深いですね。物事あきらめが肝心ですよ」
アグ「何を言ってるんだ。皆、苦しいだろうがボツボツ入れてくれなきゃいかん。
   ま、今日はそのことはいい。……ところで、いい陽気になったな」
ラム「ええ、春爛漫ですね」
アグ「で、だ。皆で、花見に行ってみないか」
ラム「え? 花見?」
アグ「そうだ、我々も異端者だの貧乏部隊だのといわれて景気が悪くてしょうがない。
   そこで一つ、陽気に花見にでも行って、気分をリフレッシュしつつ、貧乏神を
   追っ払おうかと思うんだ」
ラム「花見にねぇ……で、どこへ行くんです?」
アグ「マンダリア平原の桜が満開だというから、そこへ行こうと思う」
ラム「マンダリア平原ねぇ……するとみんなで出かけて、花を見て、一回りして
   帰ってくるんですか?」
アグ「ただ回ってくるだけなんてそんな間抜けな花見があるか。酒、肴を持ってって
   盛大に騒がなきゃ意味がない」
ラム「酒、肴ねぇ……どこかでかっぱらってきますか?」
アグ「人聞きの悪いことを言うな。……そのほうは私が自腹で用意した」
ラム「え? アグリアスさんが酒、肴を心配してくれたんですか?」
アグ「ああ。ここに一升瓶が五本ある。それに重箱にはテリーヌと玉子焼きが入ってる。
   酒、肴といってもこれだけなんだが……どうだ、行くか?」
ラム「それ全部、アグリアスさんの奢りですか。それだけあれば行きますとも。なあ、
   みんな?」
ムス「おうおう、行くとも!」
ラド「やっぱ、アグ姐は人間が出来てるぜ!」
ラヴィ「隊長、ごちになります〜」
アリ「哀れな親子が助かります」
アグ「乞食芝居みたいな台詞だな……まぁ皆にそこまで感謝されると決まりが悪いから、
   先に種明かしをしておこう」
ラム「種明かし?」
アグ「ああ……実は、この酒は本物じゃない。番茶を煮出して水で割って薄めたんだ。
   どうだ、本物そっくりだろう」
ラム「え? これ、番茶ですか? すると、お酒もりじゃなくてお茶かもりですか?」
ムス「するってぇとアグ姐、テリーヌと玉子焼きは本物なのか?」
アグ「それを本物にするくらいだったら五合でも酒を買うさ……ま、中を見てみろ」
ラム「中を……どれどれ。あ、大根の漬け物とタクアンだ」
アグ「そう。大根は四角に切ってあるからテリーヌ、タクアンは玉子焼きってわけだ」
ラム「こりゃなんとも……貧乏所帯とはいえ情けないなぁ……ガブガブのボリボリか」
アグ「まぁそう言うな。向こうで『テリーヌで一杯やるか』とでも言って、音をさせない
   ように食べて、小さな猪口ででも飲めば、それなりに格好はつくだろ」
ラム「そりゃそうですけど、やってる当人としてはねぇ……どうする、みんな?」
ムス「ガブガブのボリボリだけど、せっかくアグ姐が用意してくれたんだしな」
ラド「その気持ちにすまねぇから、行くとしようや」
ラファ「それに、人が一杯出てるとこ行けば、財布だのアクセサリだの落ちてるかも!」
アリ「まぁ、それを頼りに出かけますか」
アグ「しみったれたことを言うな。じゃ、とにかく行くぞ。……おいムスタディオ、
   向こうで敷くから、後ろにあるカーペットを持っていってくれ」
ムス「カーペット? そんなもんどこにあるんだ? ムシロならあるけど……」
アグ「私がカーペットだと言ったらそれをカーペットだと思えばいいんだ」
ムス「へいへい。……持ったぜ。ムシロのカーペット」
アグ「余計なことを言うな。じゃ、重箱と湯飲みはラヴィアンとアリシアが持て。
   で、カーペットはラッドとムスタディオがかついでいくんだ。いいな」
ラド「ムシロの包みをかつぐのか。花見に行く格好じゃねぇなあ。猫の死骸かなんか
   捨てに行くみてぇだ」
アグ「つまらんことを言うな。じゃ、一つ陽気に出かけよう。それ、花見だ花見だ」
ラヴィ「ほれ、夜逃げだ夜逃げだ」
アグ「誰だ、馬鹿なことを言っとるのは!」
ムス「しっかし、大の男がムシロかついで歩いてるなんていい格好じゃねぇなあ」
ラド「それにしてもお前と俺はなんでこうかつぐのに縁があるんかなぁ」
ムス「そうそう、先月新人君が死んじまった時、二人でかついで捨てに行ったなぁ」
ラド「雨が降ってて陰気だったなぁ。あの死体、もうクリスタルになってるよなぁ」
アグ「貴様らいい加減にしろ! これから花見だというのに、そんな辛気臭い話を
   する奴があるか! ……ほれ、マンダリア平原が見えてきたぞ。桜が満開だ」
ラム「わぁ、桜も綺麗ですけど、ずいぶん人が出てますねぇ」
アグ「そうだな」
ラヴィ「隊長〜、あたし考えたんですけどぉ」
アグ「なんだ?」
ラヴィ「ムシロを敷いて、みんなで一列に並んで、通る人に頭下げて、お金を恵んで
   もらうというのはどうでしょう〜?」
アグ「馬鹿! 物乞いに来たんじゃないんだ! ……そういえばムシロ……じゃない、
   カーペットの係はどうした? 敷かんことには酒盛りが出来んぞ」
マラ「あの二人ならほれ、あそこに突っ立ってるぜ。本物をうまそうにやってるのを
   うらやましそうに見てやがる」
アグ「しょうがないな。おい、とっととカーペット持って来い!」
ラム「そんな言い方じゃだめですよ。当人達はカーペットだなんて思ってませんから。
   ―――おーい、ムシロのカーペット持って来いよ〜!」
アグ「おい、ムシロのカーペットなんてやつがあるか!」
ラム「だってそう言わないと気付きませんから……そら、持ってきた」
ムス「すまねぇ、あそこでうまそうに本物食ったり飲んだりしてるから、つい……」
ラファ「こっちも始めるのよ。ガブガブのボリボリを……」
アグ「そんな嫌そうな顔で言うな。……よし、カーペットを敷いたな。さぁ、今日は
   私の奢りだと思うと気詰まりだろうから、遠慮なくやってくれ」
アリ「―――誰がこんなもの遠慮して食べるってのよ、ばかばかしい……」
アグ「なんだ?」
アリ「おほほほ、いえ別に……」
アグ「よし、今週の食事当番はラヴィアンだな。みんなにお酌してやってくれ」
ラヴィ「はーい。じゃ、ラッド、注いだげるね」
ラド「おう。ほんのおしるしでいいぞ。ほんのおしるしで……おい、こんなに
   注ぐ奴があるかよ。お前俺に恨みでもあんのか!?」
アグ「こらこら、酒を注がれて逆ギレする奴があるか」
ラド「だって最近俺、睡眠不足なのに。またカフェイン取りすぎで眠れなかったり
   したら……」
アグ「これは酒だ! カフェインなど入っとらん! いいから飲め!」
マラ「おい、俺にくれ。―――なるほど、色だけは本物そっくりだな。これで飲んで
   みると違うんだから情けねぇ……なあ、アグ姐。いい酒だな」
アグ「そうか、嬉しいことを言ってくれるな」
マラ「アグ姐はニッポンの宇治に親戚でもあるのか?」
アグ「宇治に? どうして?」
マラ「これだけの酒ならきっと宇治産だろうと―――」
アグ「馬鹿! 酒が宇治から出るか! おいラファ、さっきから全然飲んでないな?」
ラファ「あたし、冷たいの苦手なの」
アグ「ふーん、冷やはだめか」
ラファ「うん、いつも焙じたの飲んでるから……」
アグ「どこの世界に酒を焙じるやつがいるんだ。……ムスタディオ、お前も飲んどらんな」
ムス「俺、下戸だから……」
アグ「お前下戸だったか? 下戸なら下戸で食べるものがあるだろう」
ムス「―――ちっ、一難さってまた一難か」
アグ「何か言ったか?」
ムス「いやいや別に。じゃ、そのテリーヌをもらおうか」
アグ「うむ、遠慮なく食べてくれ」
ムス「こう見えても俺は、このテリーヌは大好きなんだぜ」
アグ「そうか」
ムス「おうよ。千六本にきざんで味噌汁の具にするのがブナンザ家の朝食
   なんだぜ。それから胃の悪いときにはテリーヌおろしにするし……」
アグ「なんだテリーヌおろしとは」
ムス「テリーヌの産地といや、ニッポンの練馬らしいが、最近じゃ練馬も
   開発が進んでテリーヌ畑が少なくなってきたらしいな」
アグ「訳の分からんことを言っとらんでさっさと食べろ! よし、酒が回って
   きたところで、誰か景気よく歌でも歌うんだ」
アリ「―――冗談でしょ。これで歌なんか歌ってたらただの馬鹿じゃない」
アグ「なんだと?」
アリ「いえいえ、別に。おほほほほ―――」
アグ「そうだ、ラヴィアン、お前、侍にジョブチェンジしたときに、俳句の
   練習してたな。花見の句でも、一つ詠んでみろ」
ラヴィ「え? 花見の句ですかぁ? う〜ん……『花散りて死にとうもなき命かな』
   ……なんてどうですかぁ?」
アグ「なんだか寂しいな……他にできないか?」
ラヴィ「え〜と、それじゃぁ……『散る花を南無阿弥陀仏というべかな』」
アグ「やめやめ! 余計陰気になる!」
ラヴィ「だって、ガブガブのボリボリじゃ、陽気な句なんて出来ませんよぉ」
アグ「愚痴を言うんじゃない!」
マラ「よぉ、アグ姐、俺も一句出来たぜ」
アグ「お、そうか。さすがに漢字を多用する裏真言の使い手だな。いい句を頼むぞ」
マラ「これなんだが……」
アグ「おや、貴公矢立てなんぞ持ってきてたのか。意外と風流人だな。……ええ、
   なになに『部隊中……』―――ほう、部隊全員ということで部隊中と始めた
   なんぞは嬉しいな。……『部隊中歯を食いしばる花見かな』……なんだって?
  『歯を食いしばる花見かな』?」
マラ「だってそうだろう。あっち見てもこっち見ても、みんないいもの食って
   たらふく飲んでるのに、俺たちゃ番茶に漬物だぜ。ああ情けねぇと、思わず
   歯を食いしばる、という……」
アグ「馬鹿もん! 雰囲気を盛り下げるような句を書くな! 気分なおしに、
   アリシア、景気よく酔っ払え!」
アリ「え? 酔うんですか? 酔ってないふりってのはやったことありますけど、
   酔ったふりなんてのは……」
アグ「頼むよ。お前の世話はルザリア以来よく見てやったじゃないか」
アリ「はあ、隊長にそう言われちゃ、あたしは返す言葉もありません。一宿一飯の
   義理にからまれて、あたしゃあ酔わせていただきます!」
アグ「やくざみたいな台詞だな……まぁ、ひとつ威勢良く酔っ払ってくれ」
アリ「はい、それじゃ、隊長!」
アグ「なんだ?」
アリ「つきましては、あたし、酔いました。あらためて、べらんめぇ!」
アグ「そんな意味不明な酔っ払いがあるか! こうなったらラムザ、貴公だけが
   頼りだ。ひとつ皆の見本になるよう酔っ払ってくれ」
ラム「はぁ……じゃ、その湯飲み貸してください。大きいのでがぶ飲みした気分に
   なってやってみます……うーぃ、さぁ、酔ったぞぉ! ああ、酔ったとも!!」
アグ「いいぞ、その調子」
ラム「うーぃ、僕ぁ、酒飲んで酔ったんだぞぉ! 番茶飲んで酔ったわけじゃ
   ないぞぉ! 見損なうない!!」
アグ「そんなこと断らなくてもいい」
ラム「断らなきゃ気違いと間違われちゃいますから……さぁ、酔った酔った! 
   こうなりゃ地所でも何でも売っぱらってやるぞぉ! ひィっく!」
アグ「威勢がいいな。しかし、地所なんかあるのか?」
ラム「戦争で兄貴が二人ともくたばりゃ、ベオルブの土地は僕のもんだいッ!」
アグ「貴公、意外と腹黒いな……」
ラム「さぁ、いい気持ちになってきたぞ! 教会がなんだ! 神殿騎士団がなんだ! 
   人類みんな友達だ! その気になればルカヴィとだって仲良くできらぁ!!」
アグ「時々すごいこと言うな、貴公は……」
ラム「ラーグ公はどうみてもつぶやきシローだ! ダイスダーグ兄さんは髪の毛より
   根性が曲がってらぁ! 畜生、色っぽいぞ、セリアにレディ!!」
アグ「おい、最後のは聞き捨てならんぞ!」
ラム「みんなして僕のこと甘ちゃんだの女みたいな顔だの馬鹿にしやがって! 
   覚えてろ! ベオルブ家秘伝の108の拷問法で仕返ししてやるからなッ!!」
アグ「そ、そんなものがあるのか?」
ラム「さぁ、こうなりゃ僕だけが酷い目に遭えばいいんだ! 畜生! ラヴィアンさん!
   湯飲みに目一杯注いでください! うわ、ずいぶんこぼれた。こぼしたところで
   ちっとも惜しい酒じゃないけど……あ、アグリアスさん!」
アグ「ん? どうした?」
ラム「ちかぢか、部隊にいいことがありますよ、きっと」
アグ「良いことが? なんで分かる?」
ラム「湯飲みの中を見てください。―――酒柱が立ってます」

                 

                      ―――――劇終