氏作。Part22スレより。



前置き長かったけどようやくレーススタートしそうではありますが、
ポロリ(と赤チョコボ)までの道のりを考えるとまだまだ時間がかかりそうです!
まあそれはそれとして第1レースに備えて控え室に集う男達。
見よ、しかと見よ、これぞ男の花道、男の生き様、目に焼きつけておくんなせぇ!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ドキッ!
   真冬のフィナス河寒中水泳大会。
     ポロリ(とチョコメテオ)もあるよ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
主催者:アグスーレ・ニジュイ・クササン男爵
協力 :北天騎士団団長ザルバッグ・ベオルブ聖将軍
    :南天騎士団団長シドルファス・オルランドゥ


優勝賞金
1位……50万ギル
2位……20万ギル
3位……10万ギル
審査員特別賞……エクスカリパーオルランドゥ伯からのご提供)





「ルェディィィィィィッスッ、ェアーン、ジュゥウェエンッットゥルメェンンッ!
(レディース、アンド、ジェントルメン)
 我輩が主催者アグスーレ・ニジュイ・クササン男爵であーる!!
 お集まりいただきあーりーがーとぉー! ありがとうッッ、ありがとおッッ。
 みんなありがとう! 世界中にありがとう! 生まれてきてくれてありがとう!!
 今日はこんな真冬の中、寒中水泳なんて危険極まりない事をやっちゃう猛者の宴ぇ!
 みんな甘いお汁粉や紅茶を飲みながら高見から見物しちゃったりするのかなぁっ!?」


「あっ、お汁粉もあるんだ」
「……お汁粉……」
物欲しそうなティータの顔が可愛らしくて、ラムザはつい微笑んでしまった。
「クスッ、開会式が終わったら頼もうか」



「さー! さぁさぁさぁさぁっ!! みなさんご存知、今日この大会のために、イヴァリース中から猛者がやってきた!
 注目選手が入場するたびガンガン紹介していくよぉん。
 トトカルチョもやってます! まだ受付中ですので、ご希望の方はあちらのカウンターにヒァウィゴー!
 OKOK、OK、長ったるい挨拶は抜きにして……こらそこぉっ! バロン男爵ですな!?
 聞こえましたぞ聞こえましたぞ『あれで本当にわしと同じ男爵か?』だってぇーん? あーん?
 はい、すみません。ハッチャケすぎました。こんな大会開けて興奮しすぎました。
 あー、えー、では、あー、第1レースはこれより10分後に開始いたします。
 第1レースの出場選手は、あー、あちらの控え室にお集まりください。もうすぐ始まりますので。
 それでは、えー、第1レース開始までもうしばらくお待ちください。これにて開会式を終わります」


階段状の来賓席の最上段で、ラムザティータは並んでお汁粉を食べながら、
ディリータとアルマが来賓席の方に来ないかなと周囲を見回していた。
そしてラムザ達から一番離れた席には、オヴェリアとアグリアス達がいた。




「第1レース……カインさんが出場するんでしたね」
「ええ、あなどれない男です。だが第1レースとは不憫な……他者がこの急流をどう泳ぐか観察すれば、
 対策を講じる事も出来ように。しかし、必勝の策とはいったい……」
「隊長ー、あーだーこーだ想像してもどうにもなりませんよ。気軽に見物しましょうよ気軽に」
「ペロペロチュパチュパ」(リンゴ飴美味しい)


割りと平和な雰囲気の中、第1レースの開始時間が迫った。
5分前になると出場選手が河の前に集合する。
「キャッ……!」
オヴェリアは思わず熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「な、何だアレは……まさか説明会の後、男だけ残したのはアレが理由か!」
会場内でざわめきが広がる。
出場選手の男子達。
騎士だったり一般参加の予選通過者だったり、みんな立派な筋肉をしている。
しかし一番の共通点は水着。
いや、それを水着と表現していいのかは分からない。
ただ、それはこう呼ばれるものだった。


「ふんどし! しかも赤い、赤ふんです!
 これこそオルランドゥ伯が東洋から貿易で仕入れた奇跡の下着!
 サムライスピリッツを燃焼させる聖なるコスチュームなのでぇっす!
 ちなみに女性は普通の水着でもOKですから!」


「当たり前だっ」
主催者の説明にアグリアスは毒づいた。
布で作られた水着など冗談じゃない、水に濡れたら透けてしまう。




「さて第1レース注目の選手は、バロン男爵直属の精鋭、竜騎士団隊長カイン・ハイウインド選手!
 イヴァリース最強の竜騎士と誉れ高い彼の戦績は輝かしいものがあります!
 果たしてその実力を寒中水泳という場で発揮できるのかー!?
 さて、次の注目選手はワーキヤク騎士団のドウ・デーモイ選手!
 彼は〜(中略)〜の戦場を駆け抜け主君の命を守り抜いた騎士なのです!
 そしてもう一人! 一般からのご参加、漁村ドッカ在住の漁師、カーマ・セイヌ選手!
 彼は〜(中略)〜という偉業を成した村の英雄! まさに漁師オブ漁師!」


「何か説明がいい加減じゃありませんでしたか?」
「気のせいですオヴェリア様。ドウ・デーモイ選手やカーマ・セイヌ選手の感動的な過去、胸を打たれました」
「そう、ならいいけれど……」


「お汁粉ってさ、美味しいんだけどこの小豆が苦手なんだよなぁ〜」
好き嫌いをするラムザが幼い子供のように見えて、ティータはついクスクスと微笑んでしまった。
「好き嫌いはいけませんよ。残したらもったいないお化けが出ます」
もったいないお化けか……ディリータはそれ信じてるみたいなんだよね」
「えっ、まだ信じてるんですかディリータ兄さんは?」
「アカデミーの食堂で騒いでたよ。ディリータに話を聞かされた子が泣きながらニンジン食べてた」
「ニンジン……美味しいのに」


盛り上がる会場だが、来賓席の一部はとても平和だった。





「さあ! いよいよ10人の男達が赤ふん一丁で冷たい冷たいフィナス河に飛び込みます!
 えー、ちゃんと準備運動してますので、心臓麻痺を起こす事は多分ありません!
 良い子は真似しないでくださいませ! ええ、絶対真似してはいけません! 我々は責任取りません!
 さて、テンションが上がってきたところで開始といたしましょう。
 時計係、準備万端ですね? それでは選手のみなさん、ゴングが鳴ったら問答無用で飛び込んでください!」


ひゅー。北風が吹き選手の身体を震わせた。
この状態でフィナス河に飛び込むんかい、みんな真っ青になった。
カーン。ゴングが鳴った。みんな飛び込んだ、悲鳴と水を叩く音が上がった。
「ヒギャアアアッ!?」
「冷たっ……いや、痛いッ!? 痛いよコレェッ!!」
「ブリザドよりつらいぃぃぃッ!」
「パトラーッシュ!」


「あーっと、一気に4人もの選手が這い上がりました、失格で……あ、さらに1人流されてます。
 このままでは下流の網に引っかかって失格ですね、もう5人脱落! これが寒中水泳の威力なのかー!?
 ……おっと、これは? カイン選手まだ飛び込んでいません、屈伸していま……ああーっ!! こ、これはー!?」
「フフフ、こんな氷点下以下の水に飛び込むなど愚か者のする事よ。
 見よ我が秘策! 必勝の策をー!! とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁっ」
「ジャンプだーぁー! カイン選手、さすがは竜騎士、ジャンプで一気に河を跳び越すつもりぃー!?
 これはすごい、伸びる伸びる、凄まじい跳躍力だ! げぇー! 何と何と10秒と経たずに対岸へ到着ー!?」
「フフフッ……鎧袖一触とはこの事よ」
「とんでもない記録が出たーと思ったらカイン選手担当の時計係さんが手を振っているぞ? あれは?
 ああーっ、何と失格だぁー! 今私の元にも報告が来ました。
 えー、この大会は寒中水泳をするものであって幅跳びではない、だそうです。残念! カイン選手まさかの失格ゥー!」
「グ……ズ……ギャアアアム!!!!」
「カイン選手、どっかのラスボスチックな悲鳴を上げて倒れました! 失格が余程ショックだったのかぁー!?」




こうして第1レースは散々な幕開けとなり、結局対岸まで泳ぎきったのは3人だけだった。
現在の順位。
1位 3分15秒 カーマ・セイヌ
2位 4分29秒 ラッド
3位 4分44秒 ドウ・デーモイ


「1位はカーマ・セイヌか……空気抵抗を無くすため潜水して泳ぐとは、さすが漁師。この寒い中よくやる。
 他の2名は流されぬよう必死に斜め前に泳いでいたが、 あれではあまりスピードは出ん……しかし、
 だからこそ泳ぎきれたとも言えよう。他の2人は下流に流され網にかかってしまった」
冷静に分析するアグリアス。ルザリア聖近衛騎士団の名誉にかけて情け無い結果を出す訳にはいかない。
アグリアス、勝てますか?」
「まだ何とも言えません。まだ第1レースが終わったばかりですし、他にどんな参加者がいてどんなタイムを出すか……。
 果たしてあの急流がどれほどの障害になるかも分かりませぬし、氷点下以下の水温、手足の感覚も失いましょう」
「無理に勝つ事はないのよ、つらいようなら棄権しても恥ではないわ」
「恥です。それに完走して敗北するならまだしも、棄権とあっては王家の顔に泥を塗るようなもの」
アグリアス……」
「第2レースは10分後、私と同じ女性が参加します。目を離せません」
「その通り。いったいどんな水着で出場するのか目が離せない」
突如隣からした声に振り向いてみれば、あのキザ男、エドガーがいた。
白い歯をピカッと光らせて微笑んでいる。
「き、貴様なぜ来賓席に!?」
「私も出資しているからな。あの失格者を拾う網、うちの工場で作ったんだ。ベヒーモスでもあれは破れん」
「そうだったのか……マッシュ殿は一緒じゃないのか?」
「あいつはこういう堅苦しい場が苦手でね、多分一般客に混じって見物してると思うが……。
 ところでアグリアス、私もご一緒に観覧してよろしいかな?」
「……嫌だ」





橋の上から第1レースを見物していたディリータとアルマは、たいやきを頬張っていた。
「やっぱり漁師さんだと速いですね。モグモグ」(ラムザ兄さんとティータ、二人きりか……)
「ン……そうだな。それにしても竜騎士のジャンプ失格は笑った」(ティータ大丈夫かなぁ)
「名前何でしたっけ」(これはこれで面白い展開かも。兄さんにもついに春が!?)
「忘れた」(それにしても、女の子なのによく食べるなぁ。ラムザの食は細い方だが、本当にあいつの妹か?)
「カ……カニ太郎」(でもラムザ兄さん頼りないところあるし、ティータとポケポケカップルになっても不安だわぁ)
「カイだった気が」(こんなに食って太らないのか? その点、ティータは甘い物を食べまくったりしないから大丈夫だ)
「もっと男らしい名前じゃ?」(兄さんにもティータにも、年上でキチッとしてる人が似合いそうなのよね)
「カイゾック」(ティータは食べ物ねだったりしないだろうから、ラムザは楽してるだろうな。俺は財布が……)
「カイ……カイソ! 間違いないわカイソよ」(ん、何か微妙に違う気が?)
「そうそう、カイソだ」(カイソだっけ? まぁいいや)
「疑問が解けてスッキリ」(あれ? 合ってるのかな……まぁいいや、次は手羽先屋の方に二人を探しに行こう)
「そりゃよかった」(こんだけ食えばもう腹も膨れたろ。ティータはレース見てたかな?)
この後、二人は手羽先を焼いている屋台に行き、さらにディリータの財布が軽くなった。
ディリータティータの質素さを思い出していた……。


「まるで雲みたい。甘くて……とろけちゃうっ」
わたがしを舐めたり、パクッと食べたり、ティータは幸せな一時を来賓席で過ごしていた。
「僕もわたがしは初めてだなぁ、ペロリ、ん〜……美味しっ」
ラムザラムザで甘いお菓子に舌鼓。
さらに温かい紅茶を飲んだりしながら、来賓席で食べられる甘味を制覇してみようかなんて計画を二人で立てたりしていた。
アルマの期待とは違い、恋人なんてロマンチックな雰囲気じゃなく、甘い物に大喜びする子供のような二人。
ディリータの想いとは違い、今までにない贅沢に大喜びしているティータ。
さあ、お次はクレープだ。トッピングが色々あって制覇は大変だぞ!




カイソは落ち込んでいた。バロン男爵に会わす顔が無く、ちょっと会場から離れた丘の上に逃げてしまった。
「ううっ……『寒中水泳大会で圧勝してローザのハートゲット作戦』もこれで終わりか……。
 今頃ローザはセシルの奴と……ハッ! 俺が大会のためフィナス河に来ている今、バロン城に邪魔者はいない!」
負け犬100%モードのカイソ。暗雲を呼びかねないほどどんよりとしたオーラを漂わせている。
こんなんじゃ愛しい女性を振り向かせられないのも当然かもしれない。
カイソの情けなさは最高潮に達しようとしていた。
「くそっ……俺は竜騎士団隊長のカインだぞ、こんな事で……グスッ」
カイ、ンは涙ぐんでしまい視界がかすれた。そのかすれた視界の中で何かが動いた気がした。
カインは涙を拭う。会場の上流、フィナス河の中、何かがいる。
「何だ? まさかモンスター……」
カインはスピアを構えた。
「マッイ〜〜〜ン!」
水柱が立ち、中から人間より一回り大きい影が飛び出し、カインを襲う。


「そっ! っれではいよいよ第2レースの始まりでぇっす!
 第2レースは美しくも勇ましい10人の美女がこの大河に身を投じるのです。
 鼻の下なんか伸ばしてないでちゃんと応援してくださいねぇ〜」
第2レースの開始時刻となり、実況が始まる。
アグリアスは、左隣にオヴェリア、右隣にエドガーという布陣で観戦していた。
「おおっ……水着9人、赤ふん1人か……」
「何っ、赤ふんの選手がいるのか!?」
エドガーの呟きに困惑するアグリアス。だって赤ふんなんて、そんな、上はどうするのだ。
だが赤ふんを着けている女性を見て、アグリアスはホッと胸を撫でた。
ちゃんとさらしを巻いている、あの厚さのさらしなら濡れても透けないだろう。
だが布で出来ている以上、水を吸って重くならないだろうか?
紫の長髪で、凛々しい印象を持つ美女から、力強い自信をアグリアスは感じていた。




「さあ! では注目選手の紹介いってみましょう!
 右端の金髪の美女が誉れ高い北天騎士団の(以下略)
 続いて中央の黒髪の女性こそ南天騎士団所属(以下略)
 左端から二番目! 一般参加の女傭兵の(以下略)
 いやぁ〜、素晴らしい経歴の持ち主達ですねぇ」


オヴェリアは、ツンツンとアグリアスの腕を突いた。
「ねえ、やっぱり紹介がいい加減なような気がするのだけど……」
「気のせいです。紹介された3人、皆立派な……武人の心がなければあのような活躍は出来ないでしょう」
「…………どういう説明だったか何故か思い出せないわ」
「それより気になるのは赤ふんの女、紹介はされなかったが……あの不適な笑み、自信……何者か」
アグリアスの疑問に、エドガーが微笑み、手帳を取り出す。
「私のデータによると……ファリス・シュルヴィッツという一般参加の選手だ。
 職業は貿易商となっているが……私の情報によると海ぞ、コホン、海賊のように強く勇ましいとか」
「海賊のように? それは褒め言葉ではないぞ」
「例えが不適切だったね。まぁ海の戦士みたいなものだと思えばいいだろう」
「……ところでその手帳は何なんだ」
「今大会の女性選手のデータを記すため新調した手帳だ。君のデータも絶好調更新中!
 アグリアスオークス。アトカーシャ王家直属、ルザリア聖近衛騎士団所属で……」
「どこまで知っているかは知らんが、それ以上言うな、それ以上詮索するな」
アグリアスに睨まれたエドガーは、まるでそう言われるのが分かっていたように苦笑し手帳を閉じた。
「まあ、私とて君のすべてを知っている訳ではないし、誰かにお喋りするつもりも無い、安心したまえ」




果たしてアグリアスの隣にいる女性、念のため防寒用のフードで顔を隠している美女の正体が、
オヴェリア・アトカーシャ王女だと気づいているのだろうか。
「……お前は何者だ?」
「別大陸にある砂漠の国に大きなマーケットを持っていてね、機工都市ゴーグをはじめとし、
 イヴァリース相手にも様々な商売をさせてもらっていて……今回この大会を知り、ちょっと出資しただけの者さ」
「砂漠の国? そういえば貴公……マッシュ殿とフィガロ家がどうとか……」
「おっ、レースが始まるようだ。あのファリスという女性に5万ギル賭けてるから応援しなくては」
トトカルチョを? 祭りとはいえ褒められた行為ではないな」


第2レース開始のゴングが寒空の下に鳴った。
10人の美女が一斉に河に飛び込み、甲高い悲鳴が天まで昇って、いきなり3人ほど岸に戻った。
そして7人の選手は急流に負けじと前へ前へ手足をばたつかせて進む。
「おーっと! 選手が一人、他の6人を引き離して凄まじいスピードで泳いでいるぞぉー!
 しかも、何だぁー!? 全ッ然水しぶきを立てず、頭を出したままススーっと泳いでる、ススーっと!
 ファリス選手です! 下流の方へ微妙に流されてはいますが、急流をものともしていないように見えます!
 まるで河童だぁー! 河童とは東の国に伝わる妖怪で、あっ、
 最後尾の選手が沈んだまま浮かびません、救助班が飛び込んだー! あっ、救助班の一人も浮かんできません!
 おっと流されて網に引っかかった選手もいるぞ失格だぁー! 溺れてた選手と溺れた救護班を救護班が救出ー!」
多少のトラブルがありながらも、第2レースも終了した。
トップのファリスは網の3メートル前まで下流に流されながらも、見事ぶっちぎりのタイムを叩き出した。
下手に流れに逆らってスピードを殺すより、多少流れに身をまかせた方が速く進めるのかもしれない。


現在の順位
1位 2分22秒 ファリス・シュルヴィッツ
2位 3分15秒 カーマ・セイヌ
3位 4分05秒 フランソワ・クーロホン・ダーサマレタ
4位 4分22秒 ニキータ・マナ
5位 4分29秒 ラッド
6位 4分33秒 モエ・イキトーメ
7位 4分44秒 ドウ・デーモイ
8位 6分10秒 ジャンヌ・イナメラキア




第1レースの男子以上の健闘を見せた美女達に拍手が送られる中、エドガーがポツリと呟いた。
「ポロリを期待してたんだながぁ……残念」
「ポロリとは何だ?」
「そりゃ急流の流れで水着がポロリと」
「しんくうは!」
あじゃぱアー!」
橋の上から突如放たれたかまいたちが、エドガーをピンポイントで襲った。
透明の風だったため警備の気づかなかった。意外とザルかもしれないこの警備。
「おおっ、あれに見えるはマッシュ殿。橋の上からかまいたちを放つとは……風水術の心得もあるのか!」
「くっ……来賓席の私にツッコミを入れるとは、テロリストと勘違いされかねないぞ」
額からダラダラと流れる血をハンカチで拭いながら、エドガーは弟を睨みつけた。
エドガー殿、マッシュ殿はどういう方なのだ? あれほどの達人そうはおるまい」
「私の大陸で有名なダンカンという格闘家に弟子入りしていたとかいないとか……あの、ケアルとか使えませんか?」


橋の上からかまいたちを放ったマッシュは、奇妙な違和感を感じていた。
「俺の必殺技『しんくうは』を見て……アグリアスが何か勘違いしてる気がする。なぜだ?」


この世にしんくうはなんていう必殺技は存在しません念のため!
風水士のかまいたちは地形が橋の時に使える風水術です! かまいたちったらかまいたちです!


来賓席に向けて大げさに手を振った熊のような男の隣で、アルマは焼きそばを食べていた。
「兄さんもティータもどこ行っちゃったんだろう。モグモグ」
たこ焼き屋と射的屋とたいやき屋と手羽先屋と輪投げ屋とおでん屋と焼きそば屋にいない事は確かだな」
「ザルバッグ兄さんに探して探してもらおうか? モグモグ」
「怒られそうで嫌だなぁ」
そろそろお腹いっぱいになってきたアルマは、ふと隣にいた熊男を見た。
しかしそこにはもう誰もおらず、アルマはその事を特に気にせず焼きそばに入っていたキャベツを食べた。





第2レース終了にあたり、動き出す人影がいくつかある。
控え室に向かいながら語り合う男女が2組には共通点がいくつかあった。
まず血が繋がっている事、そして、男女ともに出場選手だという事だ。


ミュロンド・グレバドス教会所属の神殿騎士、それが姉弟の背負う看板。
イズルードとメリアドールは、控え室に向かいながら話し合っていた。
「イズルード、いよいよあなたの番ね」
「ああ……。姉さん、俺……勝てるかな?」
「絶対勝てるわ」
「でも姉さんが考えてくれた『ジャンプで河を跳び越しちゃえ大作戦』は使えないよ」
「カインとかいう竜騎士のおかげで命拾いしたわ……つまり天運は我らにあり! きっと上手くいくわ」
「……はぁっ。ちなみに姉さんは何か対策あるの?」
「水中でこっそり強甲破点突きを使って水着を破壊すれば他の選手の動きを止められるわ。うふふ、完璧な作戦!」
「……バレたら失格になると思うよ」
「冗談よ冗談」


骸旅団のリーダーとその妹、という看板を背負っていないのがこの兄妹だ。
「兄さん……がんばってね」
「ああっ、賞金を手に入れて旅団のみんなに肉の入ったスープを食わせてやらねばな」
「もう10日も豆のスープだものね……」
ぐぅ、とミルウーダの腹が鳴った。
「案ずるな……俺達はたこ焼きを1個ずつ食べた、それが力を与えてくれる」
「あのたこ焼き、美味しかったわね。橋の手すりに置き忘れていってくれた人に感謝しないと……」
「そうだな、出会う事はないだろうが、骸旅団としての活動を続けていけばきっと何らかの形で恩を返せるかもしれん。
 そのためにも賞金で旅団の活動費を得ねば……」
骸旅団の活動は、支配者階級の圧政に苦しむ民を解放するためのものだ。
その将来解放されるだろう民の中に、たこ焼き2個を置き忘れて行った誰かが入っていてくれたらと、
ウィーグラフとミルウーダは思った。






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