氏作。Part22スレより。



フィナス河で真冬の寒中水泳なんかやろうってお馬鹿なお祭りやってます!
アグリアスはオヴェリア様の警護とレース参加のためにやって来ました。
そんなアグリアス達を狙う蒼の双眸。
さらにはチョコバナナを目指して旅をするはぐれ者ラムザティータ、
一目惚れしたぬいぐるみを射落とさんと意気込むアルマとなぜか弓矢を持っているディリータ
他にも一癖二癖ありそうな連中がいっぱいおります大レース、
開催時間はもうじきでございます、多分。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ドキッ!
   真冬のフィナス河寒中水泳大会。
     ポロリ(とチョコメテオ)もあるよ
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主催者:アグスーレ・ニジュイ・クササン男爵
協力 :北天騎士団団長ザルバッグ・ベオルブ聖将軍
    :南天騎士団団長シドルファス・オルランドゥ


優勝賞金
1位……50万ギル
2位……20万ギル
3位……10万ギル
審査員特別賞……エクスカリパーオルランドゥ伯からのご提供)




「アカデミーで何を習ってるんですかぁ……」
「ちゃ、ちゃんと当ててるだろ!?」
ディリータは最後の一本の矢を弓にあてがい、力いっぱい引いた。
狙いは悪くない、4本中2本もターゲットに当てている。
(チャージだ……力を溜めて、渾身の一撃をっ!!)
そして5本目を放つ! 先端が丸い布で包まれた矢が弧を描いて飛ぶ!
弓の張りは弱くたいしたスピードが出ず、威力も当然無く、ターゲットにダメージを与えられない。
ターゲットは揺れた。揺れただけだった。棚から落ちない。
「はい残念っ!」
射的屋のおっちゃんが大声で言う。ディリータハイラル、敗北の瞬間。
アルマのハートを盗んだ熊のぬいぐるみは依然として棚の上に座り込んでいた。
「うぅ……ティータは頼れる兄だって自慢してたのにぃ」
「ほ、本物の弓ならあんなの……」
「本物なんか使っちゃ熊さんに穴が空いちゃうでしょ!」
「いや、矢だけおもちゃのままなら……」
愚痴を言いながら2人は射的屋を後にし、ラムザティータ探しを始めていた。


ディリータ・アルマが去って数分後、橋を戻ってきたオヴェリアが、熊のぬいぐるみにハートを奪われた。
「あ、アグリアス。あのぬいぐるみは?」
「ン……何でしょう、射的屋? いったいどういう……どうやらおもちゃの矢で倒した物をもらえるようです」
10歳くらいの少年が、お菓子の入った箱を射倒し、それをもらうのを見てアグリアスは的確な推理をした。
「それじゃあ、あのぬいぐるみを落とせば……アグリアス、やれる?」
「私は剣が専門ですが……弓の心得も一応」
「お願い、あのぬいぐるみすごく可愛いわ」



「とおぉー」
アグリアスの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
「照準がズレる!? ここか!」
アグリアスの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
「見切った、ぬえーい!」
アグリアスの攻撃。熊のぬいぐるみは揺れている。
「今だっ、そこ!」
アグリアスの攻撃。熊のぬいぐるみはぐらついた。
「落ちろ!」
アグリアスの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
アグリアスは熊のぬいぐるみの隣にあった紙風船セットを手に入れた!


「ど、どうでしょう? 膨らませると面白いかもしれませんよ?」
「……幼い頃、よくシモン先生が持ってきてくれました。今でもお部屋に膨らませてない物がいくつか」
「あ……ぐぅ……」
面目が潰れそうなアグリアス! しかしこんな時こそ救世主が現れるものである!
「私に任せたまえ麗しいレディ」
エレガントな男が現れた!
長い金髪を首の後ろでしばった20代の青年。キザったらしい顔は正統派美形。
彼こそ4人の美女を獲物として見つめていた狩猟者の正体、蒼い双眸の青年である!
前回ラストの意味深な描写と打って変わって、ただの変なお兄さんだ。
「き、貴公は何者か?」
「私の名はエドガー、愛の狩人といったところかな。お嬢さんのお名前は?」
「あ……アグリアス
アグリアス、いい名だ。私があの熊のぬいぐるみを取って差し上げよう」
何だこいつ。アグリアスはそう思った。



救世主の登場に瞳を輝かせるオヴェリア。
まあオヴェリア様が喜ぶならと様子を見守っているアグリアス
いい男だけど狙いはアグリアス隊長か残念無念と考えているラヴィアン。
そんな事よりとっとと来賓席に戻ってオヴェリア様の警護をしながらリンゴ飴が舐めたいアリシア


そしてーー弓を構えるエドガー。


「さあ! 科学の力を見せてやる!」
「ちょっとお客さん、その変な道具は何です」
「これこそ私が開発した『オートボウガン』だ! 何とこれは引き金を引くだけで自動的に矢が次々とぉー!」
「このおもちゃの弓使ってくださいね」


エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。


「大将、もう一回!」
「毎度〜」


エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。
エドガーの攻撃。ミス、ダメージを与えられない。


という光景を何度か繰り返すエドガーさん。次第にエレガントさが喪失していきました。



「もうあきらめたらどうだ?」
「くっ……ここであきらめてはレディに失礼というもの」
「かすりもしないが」
「我が友ムスタディオと共同開発したオートボウガンが使えればぁ〜!」
ムキになっているエドガー。
もうあきらめて飽き気味のオヴェリア。
格好いいのは外見だけかと落胆しているラヴィアン。
リンゴ飴〜♪ リンゴ、リンゴ、リンゴ飴〜♪ と頭の中で歌ってるアリシア


「何やってんだ兄貴?」


ヒーローとは遅れてやってくるものである!
「おおっ、マッシュ! いい所にきてくれた」
マッシュと呼ばれた男にアグリアスは見覚えがあった。
熊のような大男。筋骨隆々のこの姿を大会の説明会の時に見た、つまり彼も出場選手だ。
「マッシュよ、フィガロ家の名誉にかけてあの熊のぬいぐるみを射落としてくれ」
「またナンパかよ」
「もう5回分も負けているんだ、このまま引き下がっては男の面子が!」
「弟に頼ってる時点で面子潰れてるんじゃねーか?」
口では文句を言いながらも、マッシュはおもちゃの弓を構えた。


マッシュの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
たいやき引換券を手に入れた!
マッシュの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
射的屋の親父は額を押さえてうずくまった!
マッシュの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
悪名高き黒本を手に入れた!
マッシュの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
射的屋の親父は鼻を押さえて転げ回った!
マッシュの攻撃。クリティカルヒット! ノックバック発生!
熊のぬいぐるみを手に入れた!



「ほらよお嬢ちゃん」
「貴様、無礼な言葉は慎め!」
熊のぬいぐるみをプレゼントしようとするマッシュに向かって、アグリアスは思わずきつい言葉を言ってしまった。
懐の深いマッシュはその程度の事で怒ったりはしなかったが、アグリアスの態度から、
オヴェリアが身分ある方であり、お忍びでここにいるのだと気づいてしまった。
もっとも王女様とまでは見抜けなかったが。
「そう怒鳴るなよ、お嬢ちゃんが何者かは知らないがあまり騒ぐと注目されるぜ」
「ムッ……すまん、せっかくぬいぐるみを……」
「いいって、ほら」
ニカッと唇の端をつり上げて、マッシュはオヴェリアに熊のぬいぐるみを渡した。
オヴェリアは、赤ん坊より一回り大きな熊のぬいぐるみを抱きしめる。
「ありがとうマッシュさん」
「ワッハッハ。礼なんていいって。でも、そうだな、俺が寒中水泳のレースに出る時は応援してくれよ!」
「まあ、出場選手なのですか?」
「おうっ、第3レースだ。1位は俺がいただくぜ!」
「ぜひ応援させてくださいな。そうそう、アグリアスも第4レースに出るのよ。ね?」
オヴェリアが話題を振ると、マッシュはちょっと意外そうな顔をしつつも嬉しそうにアグリアスに微笑んだ。
「そうか、あんたも出場するのか」
「君の水着に乾杯」
ばくれつけん
「ぎゃひーっ!」
マッシュに殴られるエドガー。マッシュの拳の速さに感心するアグリアス
「むうっ、今の連続拳……ただ者ではないな」
「鍛えてますから。つか、今のばくれつけん
「いやはや、本当素晴らしい連続拳だ」
「いやいや、ばくれつけんだって」


この世にばくれつけんなどという技は無い! 断じて無い!



「しかし、その体躯……さぞ体力には自信があろう。
 見たところ出場選手の中で一番ガタイがいい、一番の強敵はマッシュ殿かもしれんな」
「へへっ、アグリアスも引き締まったいい筋肉してそうじゃねぇか。服の上からでも分かるぜ?」
「そうか? まあ、私も日々鍛錬を重ねているからな……負ける気は無いぞ」
エドガーのそれと違い下心が感じられなかったため、アグリアスは素直に応じた。
と、そこにーー。


「フッ……弱い犬ほどよく吠える」
竜騎士の鎧に身を包んだ男が現れた。アグリアスは眉をしかめて訊ねる。


「何だお前は?」
「俺はバロン男爵にお仕えする竜騎士団隊長カイン・ハイウインド。残念ながら1位は俺のものだ」
「自信だけはあるようだが、それに伴う実力があるのか?」
「必勝の策が俺に勝利を約束してくれている」
「いい度胸だ、貴様には負けん」


マッシュをいいライバルとするならば、カインは嫌なライバルとでも呼ぶべき存在だった。
過剰な自信の中にある秘められた力を薄々感じ取っていたアグリアスとマッシュは、
こいつも強敵だと認め、闘志をメラメラと燃やすのだった。
この闘志こそ! オルランドゥ伯の言っておられた騎士の魂、もののふの魂である!
熱く煮え滾った思惟の力でフィナス河を沸騰させて、アグリアスよ行け! 行けよアグリアス!!




一方その頃。
「ほらティータ、チョコバナナだよぉ」
「わぁい、ありがとうラムザさん。ペロペロ、もぐもぐ」
ディリータ達もいずれ来賓席に来ると思うよ。
 向こうにはアルマもいるんだから、はぐれたらザルバッグ兄さんの所に来るかもしれないし」
「むぐっ、ごっくん。ザルバッグ様に私達がはぐれちゃったってバレる前に合流しないといけませんね」
「クスッ、そうだね──ほっぺにチョコがついてるよ」


一方その頃。
「うぁー!? く、く、熊のぬいぐるみが無い!?」
「誰かに取られたんだろうな……それより早くティータ達を」
「くっ……なぜ、なぜなの!? なぜディリータさんはあの時あの瞬間、熊のぬいぐるみを取ってくれなかったの!?」
「……ラムザ、助けてくれ……」






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