氏作。Part22スレより。


7



こうして──とりあえず寒中水泳大会を襲った事件は解決したのだった。
チョコボとカインとゴンザレスとの戦いは終結した!
負傷者の手当ても、戻ってきたザルバッグ率いる北天騎士団所属白魔道士の方々が加わって、
順調にケアルやらチャクラやらポーションやらがあちらこちらで使いまくられる。


こうして──真冬のフィナス河寒中水泳大会は無事再開となった。
そしてようやくこの物語も終結しそうである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ドキッ!
   真冬のフィナス河寒中水泳大会。
     ポロリ(とチョコメテオ)もあるよ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
主催者:アグスーレ・ニジュイ・クササン男爵
協力 :北天騎士団団長ザルバッグ・ベオルブ聖将軍
    :南天騎士団団長シドルファス・オルランドゥ


優勝賞金
1位……50万ギル
2位……20万ギル
3位……10万ギル
審査員特別賞……エクスカリパーオルランドゥ伯からのご提供)




「はっ! 俺はいったい……こ、この惨状は何だ? 何があった!?」
医務室で目覚めたカインの第一声は、事情を知る幾人かの負傷者の血圧を上げさせた。
セリス、マッシュ、ファリスの見舞いをしていたアグリアスも、ちょっと握り拳を握る。
ここは主に参加選手が集められた医務室で、メリアドールなども治療を受けていた。
ならウィー殿もと思ってアグリアスとマッシュは恩人の姿を探したが見当たらず、
捜索を頼んだところ、河の側で黄チョコボにチョコケアルをかけてもらっていたらしい。
後でお礼を言いに行こうと、アグリアスはマッシュと約束した。
同様に、マインドフレイアから助けてくれた少年も探すようアグリアスは運営委員会に頼んでいた。
墨のせいで顔が分からず似顔絵も作れなかったが、貴族特有の金髪でありながら平民の服を着ていたため、
それを手がかりにするよう言ったのだが、果たして見つかるかどうか。
恩人だというのに、胸を事故で触れられたがために、アグリアスは少年のテンプルに鉄拳をぶち込んでしまった。
今は深く反省している。
一般客の負傷者は簡易テントの中で治療をおり、その数はかなりの物らしいので、探すのには少々時間がかかるだろう。


ちなみにオヴェリア達は、観覧席の貴族用の医務室にいるとエドガーが伝えに来てくれた。
オヴェリアは幸い無傷で、ラヴィアンは軽い打撲、アリシアはケアルをかけたおかげでだいぶ回復したらしい。
南天騎士団の能力が高かったのだろう、来賓席連中の避難 だ け は素早かったし、
 最初に落ちた数個のチョコメテオを除けば、来賓席から出た負傷者はほぼゼロに等しい」
エドガーは付け加え、アグリアスとマッシュにねぎらいの言葉をかけた後、
アリシアの容態が気になるからと戻って行った。




一方、貴族用の医務室。
アリシアのベッドの横にオヴェリアとラヴィアンがいた。
オヴェリアはアリシアの身を心配して、まだオロオロしている。
そのため──ほぼ反対側のベッドで横になるラムザと、その看病をしているアルマの姿には気づけなかった。
「災難というか幸運というか……」
ティータから女性のおっぱいモミモミテンプルツッコミ事件を聞かされたアルマは呆れ返っていた。
「仕方ないだろう、墨のせいで目が見えなかったんだから……」
「だからってさぁ、普通触った瞬間に気づかない? 声で相手が女性だって分かってたんでしょ?
 もしかして兄さん、むっつりスケベってやつじゃないの?」
それを聞いてディリータはニヤニヤと微笑んで、
「まっ、確かに宿舎のラムザのベッドの下には……」
ディリータ! それは君も同じだろう!?」
「ばっ……馬鹿ッ! こんな所で……あっ」
アルマとティータから冷たい目線を向けられるラムザディリータ
2組の兄と妹の間に不動無明剣より強力な氷壁が立った。
「兄さん、ディリータさんに『おまじない』でもしてもらっててね。私、ザルバッグ兄さんの所に行ってくるから。
 ほら、ティータも行こ。こぉんなむっつりスケベ達と一緒にいる事ないわよ」
「でもっ、あ……それじゃ兄さん、ラムザさんをお願いします」
こうしてアルマは医務室を後にし、結局オヴェリアとの再会は実現しなかった。


そんなこんなで負傷者の手当ては進み──優先的に回復魔法などをかけてもらえた第4・5レースの参加者達は、
全員レースに参加出来るコンディションにまで回復した。




ザルバッグ達主催者から事件の顛末……あまりにも大勢の人間が集まったがために、
驚き興奮したチョコボの暴走は無事鎮圧したとの解説の後、第4レースが再開された。
所々壊れた来賓席や、河岸、橋に再び観客が詰め寄る。
そんな中、事件の真相を知るアグリアス、マッシュ、ファリスは苦笑するのだった。
まさか参加選手でもある竜騎士団隊長カイン・ハイウインドが、マインドフレイアにマインドブラストされて、
脳みそ変色した挙句逆恨み大暴走しちゃいました、だなんて言えるはずがない。カインだけでなく騎士全員が恥をかく。
バロン男爵は主催者に平謝りし、いくらかの賠償と引き換えに事の真相は秘密にしてもらったのだった。


「それでは第4レース参加選手は入場してください!」
中断された第4レース、今度こそと意気込んで入場する9人の選手。
「なお──神殿騎士団所属メリアドール選手は負傷のため棄権するとの事です」


来賓席の隅、フードを被って顔を隠したメリアドールは、弟イズルードと一緒に会場を見下ろしていた。
「……本当によかったの? 姉さん。ケアル連発とエクスポーションがぶ飲みで怪我は治ったんだろ」
「いいの……あの怪我は天罰なのよ、ズルイ事を考えた私への……」
「でも……情けない結果を出した俺のために、姉さんは……」
「だからってあんな事をしてまで勝っても、真の名誉など得られないわ」
この後メリアドールとイズルードはさらなる修練を積み、心身ともに騎士として成長する事となる。
特にメリアドールは、イズルードが誇れる姉になろうと、その精神を練磨し高潔なものへと昇華させていった。


来賓席の隅、フードを被って顔を隠したオヴェリアは、回復したラヴィアンとアリシア
そしてエドガーとマッシュの2人も加えて観戦していた。
「おっ、アグリアスが入ってきたぞ」
マッシュの言葉に誘導されるよう、みんなでアグリアスを見て、マッシュ以外全員驚いた。
「あっ、あれは!? なぜアグリアスがあんな格好を!?」
興奮をあらわに目をひん剥くエドガーのあごに、マッシュの華麗なショートアッパーが決まった。
オヴェリアは首を傾げ、ラヴィアンは面白そうに口笛を吹き、アリシアはまだ残る頭痛に眉をしかめていた。




「ううっ……は、恥ずかしい……」
「そう言うなアグリアス殿、せっかくのご厚意だろう?」
セリスに笑われながら、アグリアスはスタート地点へ向かっていた。
好奇の視線を敏感に察知し、水着姿を見られた時以上の羞恥にアグリアスは体温を上げた。
アグリアスが着ている物、それは水着ではなく、赤ふん+さらし。
水着の肩紐が両方とも切れ、サイズの合う新しい水着が無く、どうしたものかと困っていたアグリアスに、
ファリスが「貸してやる」と渡してくれたのだ。
赤ふんとさらしなら、巻き加減次第でどんな体形にも対応出来る。
こうしてアグリアスは、ファリスに手伝ってもらって赤ふんとさらしを装着したのだった。


豊かなバストの形が潰れないよう脇の肉を寄せるように巻いたさらしによって、
アグリアスの鎖骨の下には立派な谷間が出来上がっていた。
しっかりと身体にフィットする水着と違い、巻いてあるだけどいうさらしは何かの拍子で解けてしまう気がして、
アグリアスは不安に思い鼓動を早めてしまう。しかもその不安は2倍に跳ね上がった。
さらしはみぞおち辺りまで巻かれており、その下には剥き出しのおへそがあって、さらに下には、これまた頼りない赤ふん。
布を股間に巻いて、腰部分を細い紐でキュッと結んだだけというふんどしの頼りなさは、明らかにさらし以上だった。
水着と違い肌に密着しないため冷気がお尻の隙間に入り込んできて、まるでお尻丸出しのような錯覚さえ覚え、
ついお尻をキュッと引き締めてしまうのだった。
果たしてこんなコンディションで実力を出し切れるのか。不安は尽きないが、やるしかない。
何としても上位3位に食い込み、一般参加者による表彰台独占を阻止せねばならぬ。騎士として。


第4レース再開。
スタート地点に並んだ9人の女性が、急流へと一斉に飛び込んだ。
アグリアスは慣れぬさらしと赤ふんに手間取り出遅れてしまったが、
先頭を泳ぐセリスには例え元の水着を着ていてもかなわなかったろうと思った。
控え室で共闘したミル含め2人の脱落者を生み、計7人が無事ゴールする。
アグリアスは総合順位7位に食い込み、セリスも上位3位を崩すには至らなかった。




 1位 2分08秒 マッシュ
 2位 2分22秒 ファリス・シュルヴィッツ
 3位 2分55秒 ウィー・フラグ
 4位 2分56秒 セリス・シェール
 4位 2分56秒 イジュラン・モートリョシー
 6位 2分58秒 ロギンス・タックラー
 7位 3分13秒 アグリアスオークス
 8位 3分15秒 カーマ・セイヌ
 9位 3分25秒 ヒューゴ・オーツス
10位 3分33秒 シンシア・スール
11位 3分39秒 ガーネット・ミヅキ・ワースレィ
12位 4分05秒 フランソワ・クーロホン・ダーサマレタ
13位 4分09秒 シェリル・シーチャック
14位 4分11秒 キララ・シタドーロ
15位 4分22秒 ニキータ・マナ
16位 4分26秒 トンプソン・ジュシュール
17位 4分29秒 ラッド
18位 4分33秒 モエ・イキトーメ
19位 4分38秒 ロゼ
20位 4分44秒 ドウ・デーモイ
21位 4分59秒 イズルード・ティンジェル
22位 6分10秒 ジャンヌ・イナメラキア





「残念でしたね」
とはオヴェリアの弁。
「お疲れー」
とはラヴィアンの弁。
「ラッキーセブン」
とはアリシアの弁。
「君のさらし&赤ふんに乾杯」
とはエドガーの弁。
メテオストライク!」
とはマッシュのツッコミ。
「ギャフッ!? わ……私のベッドの下にある本は……すべて、燃やして、くれ……」
とはエドガーの遺言。


とまあそんな感じでトップは一般参加者に埋められたままという、貴族や騎士達には屈辱の展開となっていた。
「まぁ最終レースには強豪が揃ってますし、悔しいですが最終レースの騎士を応援しましょう」
アグリアスは冷えた身体に熱い紅茶を流し込んだ。
来賓席でオヴェリアの左隣に座り、さらに左隣にはエドガーではなくマッシュだ。
エドガーはさらにその横隣に追いやられていて寂しそうだ。ちなみにアリシアはオヴェリアの後ろ。
「それにしても3位から6位までダンゴだなー」
1位の余裕か、順位表を見てマッシュは言い、アグリアスはどこか嬉しそうに眉をしかめた。
「確かに3位から6位までたった3秒の差しか無い。4位など2人もいる」
「んで7位からまたちょっと引き離されてるんだよな」
「それは7位に対する私への嫌味か? マッシュ」
「そういう訳じゃないぜ、純粋な感想だよ。やっぱ元々泳いでた連中は速いもんだが、
 それと渡り合える畏国の騎士達もすごいな。士官学校で水泳の授業でもやってるのか?」
「水泳の授業が一応あるが……砂漠生まれの貴公に言われてもな。砂漠はオアシスがいくつもあるのか?」
「わっはっはっ。俺は武者修行しまくってるし、レテ川だって……」
「タコの怪物にのされて流されただけな気がするけどな」
珍しいエドガーのツッコミが入るが、マッシュはわざと聞き逃す。




「バレンの滝を飛び降りたり……」
「滝の中を降りた訳でなし、落下しながら魚と空中戦をやるのと泳ぎが、いったいどうつながるのか」
蛇の道を泳ぎきったり」
「潜水ヘルメットをかぶってほとんど流されっぱなしだったとカイエンから聞いたぞ」
「仕返しか兄貴?」
「さあ、どうだかな」
遠慮の無い会話をする二人を見て、アグリアスは兄弟というのはいいものだなと思った。
もし自分に兄弟がいたとしたら、兄、弟、姉、妹、誰がいいだろうか?
ラヴィアンやアリシアの面倒を見る機会が多いので、世話のかかる弟妹というのはうんざりしそうだし、
頼れる兄か姉は……と思ったが、人を頼りにするというのは甘えに思えてしまい、
結局自分に兄弟は向かないのではと思った。
それよりもラヴィアンとアリシアが、いざという時以外もちゃんとしっかりしてくれればと思う。
──と、アグリアスの中で何かが噛み合った。
妹のようなラヴィアン、アリシア
しっかり者。
仮に兄弟が出来るとしたら、しっかり者の弟妹がいいなとアグリアスは思った。


「クシュン」
会場のどこかで金髪坊やがクシャミをした。


そしていよいよ最終レースの選手入場が始まる。
いずれも精鋭揃いのこのメンバー、表彰台のメンバーがガラリと入れ替わる事に期待している人間は多い。




「さあっ! いよいよ最終レースと相成りました。泣いても笑ってもこれでおしまい、勝者の栄冠は誰の手にー!?
 それでは今回も注目の選手をご紹介いたしましょう。その誰もが優勝候補であります!
 まずは髭犬騎士団レオ・クリストフ将軍! 顔は怖いが心は優しい!
 五十年戦争においては鴎国からも聖人君子と尊敬を集めた伝説的人物です!
 純粋な剣術だけなら雷神シドに匹敵するとかしないとかー! 寒中水泳においてはどれほどの力を発揮してくれるのか!?
 勝利の栄光をガストラ閣下に捧げると公言してはばかりません!
 続いて彗星騎士団団長シャア・ララハマミネレコナナクェ!
 赤い鎧がトレードマークの彼より赤ふんの似合う男はいな〜〜〜〜〜〜〜〜いッッ!!
 数々の女性を泣かしたその甘いマスクが氷点下の水流でどう歪むのか!? 色んな意味で楽しみです!
 最後にご紹介するのは脅威のタイムで予選を潜り抜けた謎の老人、ミドルファス・オンラルドゥー!」


ザルバッグ、オヴェリア、他多くの貴族達が、目を丸くした。
何か見覚えがある。
あの爺さんどっかで見たぞ。
そういえば主催者席を一つ空席にしたシドルファス・オルランドゥ伯は風邪で病欠したんだっけ。
あそこのお爺さんは元気そうだなぁ、風邪なんか縁が無さそうだなぁ。
顔も名前も似てるなぁ。
そういえばオルランドゥ伯も寒中水泳に参加したがってたけど、あんま身分高い人が参加すると色々危険だから、
参加は断念してたっけ。やけにあっさりと。


ミドルファス・オンラルドゥは白い髪と髭に似合わぬ肉体美を見せつけるようにポーズを取ったりして、
なぜかその左右を南天騎士団の出の参加者がガッチリ固めてたりして。


「それでは最終レースいよいよスタートの時間と相成りましたぁッ!
 ゴングを聞くのもこれが最後、さあ、行ってみようッ!!」





カーン。10人の猛者が一斉に急流に飛び込み、凄まじい水飛沫を立てまくった。
「速ッ!? ミドルファス選手、何だこのスピードはー!?
 まるでヘイストがかかっているかのような手足の動き! 水飛沫っつーか水柱立っちゃってるよおい!
 圧倒的すぎるぅ〜! 2位と何メートル離れてんのこれ!?
 チョコボより速〜い! チョコボより、チョコボよりも〜〜〜〜ッッ!!」


こうして、ミドルファス・オンラルドゥはぶっちぎりのトップでゴールした。
1分ほど遅れて髭犬騎士団レオ将軍や他強豪達がゴールを果たし、
そのほとんどが上位陣に食い込み順位に大変動を起こした。
が、上位3位に入ったのはミドルファスだけだった。
脱落者は2名で、完走者は8名。
第1〜4レースでゴールした選手が22名のため、合計30名が真冬のフィナス河を泳ぎきった事となる。


その圧倒的な結果を目にし、ウィーグラフはため息をつき、ミルウーダに微笑んだ。
「さすがにあんなタイムを出されては太刀打ち出来んな。
 私の順位も3位から落ちた……賞金は望めん。旅団の皆には申し訳ない事をした……」
「兄さん……兄さんは頑張ったじゃない」
「賞金が入らぬとなればもう用は無い、帰ろう。あまり長居をしては正体がバレる可能性もある……。
 それにカインの謀略を秘匿し、責任を逃れる貴族連中をこれ以上見ているのもな」
ウィーグラフは水に落ちてゴンザレスの姿を見ていなかったため、
カインが単にマインドブラストで操られていただけだという真の真実を知らない。
そしてその事も発表されなかったため、ウィーグラフは貴族への敵意を深めてしまった。


「だが……今回の大会、骸旅団にとっても無駄では無かった。心強い仲間が出来た……なぁ?」
「兄さん、この子だけど……ボコっていうのはどう?」
チョコボだからボコか。いいんじゃないか? なぁ、ボコ」
「クエッ!」
一組の兄妹と一羽の黄チョコボは、人知れず会場を去って行った。





真冬のフィナス河寒中水泳大会最終結
 1位 1分00秒 ミドルファス・オンラルドゥ
 2位 2分08秒 マッシュ
 3位 2分22秒 ファリス・シュルヴィッツ
 4位 2分55秒 ウィー・フラグ
 5位 2分56秒 セリス・シェール
 5位 2分56秒 イジュラン・モートリョシー
 7位 2分57秒 アフロ・レイ
 8位 2分58秒 ロギンス・タックラー
 9位 3分03秒 シャア・ララハマミネレコナナクェ
10位 3分07秒 レオ・クリストフ
11位 3分10秒 ハリー・ハンシン
12位 3分13秒 アグリアスオークス
13位 3分14秒 マフティー・オカーユ・リンゴ
14位 3分15秒 カーマ・セイヌ
15位 3分25秒 ヒューゴ・オーツス
16位 3分33秒 シンシア・スール
17位 3分39秒 ガーネット・ミヅキ・ワースレィ
18位 3分47秒 カミーユ・ビタミン
19位 4分05秒 フランソワ・クーロホン・ダーサマレタ
20位 4分09秒 シェリル・シーチャック
21位 4分11秒 キララ・シタドーロ
22位 4分22秒 ニキータ・マナ
23位 4分26秒 トンプソン・ジュシュール
24位 4分29秒 ラッド
25位 4分31秒 バーナード・ミンチ
26位 4分33秒 モエ・イキトーメ
27位 4分38秒 ロゼ
28位 4分44秒 ドウ・デーモイ
29位 4分59秒 イズルード・ティンジェル
30位 6分10秒 ジャンヌ・イナメラキア





表彰式での出来事。
表彰台最上段に立つミドルファスの前に、ザルバッグ・ベオルブが赴き、何か口論を交わした後、
ミドルファスは何故か表彰台から引き摺り下ろされた。
「よいではないか! 賞金は全額民に寄付するつもりだし、1位になったのも純然たる実力だ!」
「そういう問題ではありません! いったい何をお考えになってるのですか!?
 ミドルファス選手は失格! 順位は全員1つずつ繰り上げとする!
 優勝はマッシュ選手! 準優勝はファリス選手! 3位は……ウィー選手だ! ウィー選手、表彰台へ!」
しかし何故かウィー選手の姿は会場のどこにもなく、3位の賞金はセリス選手とイジュラン選手で分けられる事になった。
マッシュ、ファリス、そしてアグリアスは、姿を消したウィーの安否を最後まで気遣っていた。


「えー、次は急遽風邪が治り会場へお越し下さいましたシドルファス・オルランドゥ伯から、
 審査員特別賞の授与を行います。名前を呼ばれた選手は舞台にお上がりください。
 では発表します。審査員特別賞は……アグリアスオークス選手! はい拍手〜。
 さあどうぞ、ええ、アグリアス選手あなたですよ〜。照れてないでどうぞどうぞ。
 えー、アグリアス選手が審査員特別賞に選ばれた理由は……ポロリとか、
 水着姿だけじゃなくさらしと赤ふん姿を見せてくれた事などではなく、
 いや、本当だからそんな顔を赤くしないでください。
 選ばれた理由は、チョコボ暴走の際、群れのリーダーと果敢に戦ってくれた功績です。
 マッシュ選手とファリス選手も類いまれなる活躍をしてくれましたが、
 2人が賞金獲得者である事と、審査員特別賞が騎士剣である事、
 何より2人ももらえる権利があったのに辞退した事などがあります!」


辞退という言葉を聞き、アグリアスは耳を疑った。
「ま、真か!? マッシュ、ファリス!」
「いいって。俺達は賞金いただいたし、剣なんかもらったって使わねーしな」
「お前だけ何も無しというのも気が引ける。かばおうとしてくれた恩義もあるしな。
 エクスカリバーは一本しかないんだ、騎士のあんたが受け取った方が有意義に使える」
「マッシュ……ファリス……ありがとう」





感動的な雰囲気が会場に漂う中、オルランドゥ伯が首を傾げて言った。
「待て、審査員特別賞の賞品が一本しかないと誰が言った?
 ほれ、ちゃんと数人分用意しておる。マッシュ選手とファリス選手にも差し上げようぞ」
『へ……?』
会場にいる全員が目を丸くする。
だって、
「え、エクスカリバーといえば雷神シドの愛刀と誉れ高い、畏国に一本しかない伝説の聖剣!
 そ、それが何本もあるなどと……そんな、ありえません!」
エクスカリバー? 何を言っておるのだ、いくら私でもエクスカリバーを賞品にしたりはせん」
「し、しかし……ほら、広告にもこの通り……」
オルランドゥアグリアスが指差した広告を引っぺがして、それをアグリアスの眼前に突きつける。
「よく読みなさい、エクスカリ……の次の文字を」
よく読んだ。


エクスカリ


     \ ○
  /   \   ──────
/      \



【エクスカパー】ブレイブストーリーより
伝説の聖剣『エクスカリバー』をモチーフに作られている。
偽作といえども、その切れ味は素晴らしく、一部の冒険者の間で好んで使われていた。


会場が静まり返った。
一応切れ味が素晴らしい一品であるため、なかなかの賞品と言える。
でも何か釈然としないものがあった。
そしてアグリアス、マッシュ、ファリスの3人は、あまり嬉しくなさそうに審査員特別賞を受け取るのだった。





「それではマッシュ、エドガー殿。お元気で」
国へ帰るという2人と、アグリアス達は順々に握手を交わした。
「じゃあなアグリアス。次会う時はお互いもっと強くなってようぜ」
「もしフィガロに来る事があったら歓迎しよう。最高級の紅茶で乾杯だ」
夕暮れの中で別れを告げ、マッシュとエドガーはチョコボの馬車に乗り込んだ。
馬車の影が小さくなるまで見送ってから、アグリアス達も帰りの馬車に向かう。
「いい方達でしたね」
オヴェリアは、ボロボロになったぬいぐるみを抱いたまま呟く。
マッシュが取ってくれた、エドガーが拾っておいてくれた、大切なぬいぐるみだ。
そのぬいぐるみとオヴェリア、そしてアリシアを馬車に乗せたアグリアスは、
ラヴィアンと一緒に馬車の先頭に乗って手綱を握る。
「さあ、オーボンヌ修道院へ帰りますよ」
チョコボを歩かせ馬車を引かせ、一台の馬車の横を通り過ぎようとした時、
アグリアスは見覚えのあるような金髪を横目に見つけた。
視線を向けると、金髪の少年が黒髪の男女と何かを語らっていた。
もう一人金髪の少女が見えたような気もしたが、黒髪の男女の影に隠れてよく分からない。
目を凝らしてよく確認するよりも早く、
身を乗り出して馬車の後ろを覗き込まないと彼らの姿を確認出来ない位置まで馬車が進んでしまった。
「隊長、どうしました?」
「ん……いや、何でもない。お祭りは家に帰るまでがお祭りだ。ラヴィアン、警護を怠るなよ」
「分かってますよ。アリシアにも少し楽をさせて上げないとね」
治療を終えたとはいえ、一番重い負傷をしたアリシアをラヴィアンは気遣っていた。
何だかんだ言って自分達3人が強い信頼で結ばれている事を実感したアグリアスは、つい微笑むのだった。


馬車はオーボンヌ修道院目指して進む。平穏のある場所へと。
しかし今日出会ったある少年とそこで再会し、歴史の裏に秘められた戦乱に身を投じる未来をアグリアスは知らない。
もらったエクスカリパーをその戦乱に持っていくのを忘れ、本物のエクスカリバーに出番を奪われる未来も知らない。
ラムザが今晩アグリアスの胸の感触を思い出し悶々として眠れない事とかも当然知らない。





後日、骸旅団秘密基地より。


「大変だウィーグラフ! この新聞を見ろ!」
「何事だギュスタヴ。いったい何があった……何ぃっ!? 寒中水泳大会、順位繰り上げ!? ミドルファス選手失格!?
 3位になるはずのウィー・フラグ選手不在のため、
 賞金は同タイムで5位となっていたセリス選手とイジュラン選手に……」
「せっかくの10万ギルを……この馬鹿団長! 10万ギルあれば豆のスープに肉を、肉を〜!」
「さ、さらに審査員特別賞エクスカリパーも、アグリアス、マッシュ、ファリスだけでなく、
 私にも……受け渡す予定だった、だと……?」
エクスカリパーといえば! エクスカリバーの偽者というイメージが強いが、高級品なんだぞ!
 ああっ! うちの団長は貧乏神に祟られてはるぅ〜〜〜〜!!」
「落ち着けギュスタヴ! キャラクター変わってるぞ!」
「ええい、こうなったらボコを焼き鳥にして骨まで食い尽くす!」
「クエーッ!」
「ボコ!? やめろ、気持ちは分かるがギュスタヴはサブリーダーだぞ! 攻撃するんじゃない!」
「ぎゃあー! 髪を、髪をついばむなー! 抜けるー!」


こうしてギュスタヴはより金に汚くなり、エルムドア侯を誘拐して身代金を要求しようとしたりするのだが、
それはまた別のお話。




後日、魔法都市ガリランドのアカデミーの宿舎にて。


ラムザ、本当に処分していいのか?」
「構わない、僕にはもう必要無いんだ……」
「しかしせっかく集めたコレクションだろう、ベッドの下が寂しくなるぞ」
「いいんだ……あの感触を知ってしまった今、もう本なんかじゃ何の感動も無い」
「あの感触? 何の事だラムザ、いったい何を触った!?」
「嗚呼、そうと知っていればもっと楽しめたけど、そうと知っていれば触ったりは出来なかった……。
 ディリータ。人ってさ、矛盾を抱えて生きる生物なんだね」
ラムザ……ま、まさかお前、俺がいない間にティータに変な事を……」
ティータ? いや、僕が触ったのは……」
「見損なったぞラムザ! お前との友情も今日限りだ、あの世で俺に詫び続けろラムザー!」
「うわぁっ! 宿舎の中で剣を抜くな!」


騒ぎを聞きつけたクラスメイト達が割り込んでくれたため大事には至らなかったが、
ディリータによるラムザ暗殺未遂事件は、容疑が晴れるまで一週間の時を有した。
双方の誤解が解けるまでディリータは反省室に入れられて惨めな思いをし、
一方ラムザは宿舎で普段通りの生活をしていた。そしてディリータはこう思うのだった。
「騒ぎを起こしても悪者にされるのは俺……そりゃ誤解もあったが、やっぱりラムザの方が贔屓されてる気が……。
 ふっ、所詮俺は"持たざる者"という事か……」
こうしてディリータは自分が"持たざる者"だというトラウマを作り、
その後にトラウマ大爆発するような大事件が起きて本当に大爆発に巻き込まれたりするのだが、
それはまた別のお話。


後日、オーボンヌ修道院
「さすがエクスカリパー、素晴らしい威力だ。ラヴィアン、アリシア、今日の訓練は本気でかかってきていいぞ」
「そうですか? それじゃ遠慮しませんよ、とりゃぁ〜!」
「ラヴィアン下手に突っ込まないの! エクスカリパーの攻撃力を封じるために、まずブレイク技を使うのよ!」
「了解! ブレイクで攻撃力を封じるというと……そうか! ウェポンブレイク!」
「違っ、パワーブレイクを……あっ」






   THE END









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