氏作。Part16スレより。



 しとしとと雨が降っている。じめじめとした、気分の悪い雨。
イヴァリース南端の町ゴーグ、その町の宿屋の一角で私たちは雨宿りをしていた。
「雨、いつやむんだろ…」
 ぼんやりと窓の外を眺めていると、隣に座ったラッドが呟いた。彼の顔色は暗い。
 宿の奥では、ムスタディオとラヴィアンが深刻な顔で話し合っている。
ラムザさんの具合は?」
 ムスタディオは首を横に振っている。
アグリアスこそ、まだ目を覚まさないのか?」
「うん…」
 彼の問いに、ラヴィアンが頷いた。


 5日ほど前。
 オヴェリア様を追って、ドラクロワ枢機卿の居城ライオネル城へと乗り込んだ私たちは、
そこで初めて『化け物』に出会った。
 以前、初めてモルボルを見たときも、化け物だ、って思ったけれど、その自らをルカヴィと称し、
不浄王キュクレインと名乗ったその化け物は、まったく別次元の存在に思えた。その姿と、
その禍禍しい雰囲気…少なくとも、私はその息苦しい空気に窒息してしまわないよう踏ん張ることしか
出来なかった。
 けれど、ラムザさんとアグリアス隊長──今はもう隊長ではないけれど──は違っていた。
あの二人は、いつも私たちの前に立って、剣となり盾となって私たちを率いてくれていた。


 今、ラムザさんは深手を負っている。
 私たちが軒並みナイトで魔法を不得手としていたことから、ラムザさんは率先して魔法で
私たちを援護してくれていた。そのために、剣の修行が疎かになってしまったせいだと思っている。
 そしてアグリアス隊長はルカヴィの邪法を再三受け、その後遺症だろうか、あの戦いが終わってから
ずっと意識不明のまま。うわごとのように、オヴェリア様の名を呼び続けている。
 そして昨日、ようやくゴーグに逢着した私たちは、あれからずっと二人を看病しているんだけれど、
一向に回復の兆しは見えていない。
 ぼんやりと窓の外を眺めながら、私はこれからのことを考えていた。



 …しとしとと雨音が外から聞こえる。
 ランプの明かりによってほのかに照らされた室内は、みっともなくよだれをたらしていた私と、
うとうとしているラッドだけだった。
「いけない」
 眠るつもりはないのに眠ってしまった不覚。口元をぬぐいながら思わずもらした私の声は、
一緒にラッドも夢の世界から引き戻したようだった。
「ん…う、ん、危ない危ない」
 ぴしゃぴしゃ、とラッドが自分の頬を叩く。
 そんな時、不意に窓の外から閃光が部屋に飛び込んできた。…雷だ。遅れて、ゴロゴロと轟音が響く。
「…近いね」
「うん」
 町灯りが消えて真っ暗闇の市街地に、また一本の稲妻がひらめいた。だんだん近づいているようだ。
「やな雷だなぁ…俺、サンダー嫌いなんだよね…」
 雨音と轟音。交互に聞こえてくる音とは別に、どんどんという、何かを叩くような音が聞こえてきた。
「…ねぇ。何か聞こえない?」
「なにって?」
 ラッドは気付かないようだけど、確かに聞こえる。…二階の、隊長の寝てる部屋から。



 ばぁんっ!



 その隊長のいる部屋のドアが勢い良く開かれると同時に、ラヴィアンが飛び出してきた。
「ひ、ひぃぃっ!!」
 まるでなにかものすごく恐ろしいもの──例えばルカヴィのような…そういえば、彼女は
ルカヴィとは戦わなかったんだっけ──に追われているかのような必死の形相で、
ラヴィアンが逃げ惑っている。
 その彼女の視線には…アグリアス隊長がいた。頭を抱え、抜き身の剣を杖代わりに、よろよろと
重い足取りで、ゆっくりと廊下を歩いている。隊長は頭が痛むのか、時々うずくまっては頭を振って
立ち上がり、また歩き出そうとしていた。



「なっ…何やってんだよラヴィアン!」
 病人から逃げ惑うという理解できない状況に、私よりも早くラッドが口を開いた。
「だっ、だってぇ!」
 涙目になってかぶりを振るラヴィアン。決して弱気とはいえない性格の彼女が、あんなふうに
取り乱すところを、少なくとも私は見たことが無い。
 私は、テーブルに立てかけた剣を取り、階段の踊場にへたり込むラヴィアンの元へ駆け寄った。
「ねぇラヴィアン、一体なにがあったの?」
「なにっておかしいの! …隊長が、おかしいのよ!」
「おちつけって! とにかく姐御が目を覚ましたんだろ? それから?」
 ラッドが隣から口をはさむ。
「う、うん、目を覚ましたと思ったら『オヴェリア様はどこ』って…でも、
 まだ安静にしてないと、って言ったら、今度は胸倉を捕まれて壁に投げつけられて…」
 ラヴィアンが、私とラッドと、アグリアス隊長を交互に見ながら、怯えた様子で話を続ける。
「それで、また『オヴェリア様はどこだ』って言われて、ここにはいませんって答えたら、
 けっ、剣を、あたし、あたしに…っ」
 そこまで聞いて隊長の方を見る私の腕を、ラヴィアンが掴んだ。
「駄目、駄目よ! おかしいの! 目! 目が、目がおかしかったもの! 普通じゃないわ!
 やめて、行っちゃ駄目! お願い! 行かないで!」
 がたがたと震えるラヴィアンが、瞳に涙をためて私に訴える。けれど…。
「ごめん、ラヴィアン。ここでちょっと待ってて?」
 しがみつくラヴィアンの腕をゆっくりと外して、ここにとどまるよう手で制止して、
私たちは階段を上っていった。



 二階。
 ゆっくりと歩を進めるアグリアス隊長の前には、その隣の部屋でラムザさんの看病をしていた
スタディオがいた。
「…おいアグリアス、顔色が悪いぞ。まだ休んでたほうが…」
 ムスタディオは今さっき部屋から様子見に出てきたようで、ラムザさんの部屋のドアが開きっぱなしに
している。一方のアグリアス隊長は頭痛がひどいのだろうか、つらそうに頭を押さえている。
「…オ…リア…まは…」
「…何?」
 よく聞き取れない。
「…オヴェ…リ…ア…様は」
「オヴェ…もしかして、あのお姫様か…?」
「どこ、だ…」
「他人の心配する前に、自分の心配しろって! そんな身体で助けに行っても返り討ちにあうぜ」
 口こそ悪いけど、間違いじゃない。いつもの隊長なら、歯噛みしながらももう少し考えたはず。
「オヴェリア様を…どこへやった…ッ!」
「ぐえっ!?」
 だけど、ラヴィアンの言ったとおりだった。その言葉に、隊長は鬼の形相でムスタディオの首を掴む。
「私は…オヴェリア様のためならば…!」
「なっ…なに…すんだよ…アグリアス…ッ!」
「命など…惜しいとも思わん…ッ!!」
 隊長はそれだけ言うと、ムスタディオを部屋の中に叩き付けるように投げ捨てる。
 そのとき、私は初めて隊長の顔を正視できた。
 いつも真正面を見据えて凛と輝いていた青い瞳は、光を飲み込む深い深い深淵のような、闇のようだった。
「…姐御の目じゃねえ」
 ラッドが呟く。私もそう思う。あんな隊長は見たことない。
 隊長はあれからずっとうなされていた…もしかして、ルカヴィの…呪い?
「おい、姐御がラムザの部屋に入ってったぞ!」
 ラッドが隊長を追って部屋に入る。私はその馬鹿な考えをかき消して、ラッドに遅れて部屋に飛び込んだ。




「オヴェリア様…」
 稲妻が窓の外で轟いている。
 その稲光に照らされて、アグリアス隊長はベッドに横たわるラムザさんを見下ろしていた。
スタディオは、ドアの近くに倒れていた。おそらく、隊長に何度か投げ飛ばされたんだろう、
顔のあちこちに痣を作って気を失っている。
「うぅ…アグリアス…さん?」
 異常を察して身を起こそうとするラムザさん。5日経過した今もルカヴィに負わされた傷は
塞がらないようで、身に纏ったシルクのローブは、胸元から流れた血で包帯とともに赤黒く染まっていた。
「これは…一体、何があったんですか」
「…オヴェリア様」
 ラムザさんの問いに、アグリアス隊長は何も答えない。それどころか、心ここにあらずといった
風に、オヴェリア様の名をうわ言のように呟いている。
ラムザ! いいからお前は横になってろ!」
 見かねたラッドがラムザさんに寄り添い、毛布をかけようとしたそのとき、
隊長はラッドの肩を掴んで押さえつけ…彼の腹に、剣を突き立てた。
「な…ッ!」
 誰もが目を疑った。刺されたラッドでさえも、理解できないといった顔で切っ先の見えない
剣を凝視していた。私は、思わず剣を取っていた。そして、アグリアス隊長に構える。
「何故…」
 ラムザさんの問いかけを無視した目の前のアグリアス隊長は、ゆっくりとこちらを向き、ラッドから剣を
引き抜いた。2、3歩後退りして倒れたラッドのお腹の辺りから、じわりと赤いものが流れ出し、
アグリアス隊長の剣の切っ先からも、おなじものが滴り落ちている。
「何故」
「あなたは…誰なのですか」
 私は、ラムザさんの二度目の問いかけを遮って、『彼女』に尋ねた。



「私の…私の名は」
 窓の外で雷光が走る。轟々と鳴り響く雷の音に混じって、ぴし、ぴしと何かに亀裂が走る音が聞こえる。
「私の名はアグリアス。王女であるオヴェリア様に仕える…騎士」
 次の瞬間、私は斬られていた。身体から力が抜け、痛みが走る。私はそのまま、前のめりに倒れこんだ。
アグリアスさんっ! 一体何をしているんですかっ!!」
──ちがいます、ラムザさん。私は見ました…その人は、隊長ではありません…。
 そう伝えようと顔を上げた私の視界に、雷光とは異なる光が入ってきた。ラムザさんのベッドの傍らにあった、
あのルカヴィの石。聖石。その聖石がバチバチと妖しい輝きを放っている。あの、ルカヴィの出現の時と
同じように。
「オヴェリア様…私は、貴方のためならば…!」
 なす術なく倒れている私を尻目に、『彼女』はラムザさんを抱きしめていた。おそらく、『彼女』の
その瞳には、ラムザさんがオヴェリア様に見えているのかも知れない。
「は、放してくださいアグリアスさん…い、痛い…」
 傷が完治していないラムザさんは、苦悶の表情で『彼女』に訴えるが、その抱擁が緩められることは
無く…。


 バチ、バチバチバリバヂバヂッッ!


 いつしかラムザさんの背後に浮かび上がった聖石が輝きを放つと同時に、『彼女』の背に亀裂が走る。
ガラスが砕けるかのようにアグリアス隊長の背の表面が飛び散り、その中から現れたのは、蝶の羽だった。
「あ…ああ……」
 背に入ったひびはそのまま全身へと伝わり、アグリアス隊長の姿をこなごなに崩していく。
 そうして、アグリアス隊長はルカヴィとなった。
 そのルカヴィはかつてのアグリアス隊長の面影を色濃く残し、その美しい顔立ちと金色の剣と鎧、そして
七色に輝く蝶の羽を持って、宙に浮いていた。
 そのルカヴィに抱かれたまま気を失っているラムザさんに、ルカヴィは自らの髪の毛を絡めていく。
しゅるしゅると少しずつラムザさんの全身が巻き取られ、やがて繭のように覆い尽くし、
「オ・ヴェ・リ・ア・サ・マ…」
 ルカヴィはそう呟いて、落雷とともに消え去った。




 その後、ラヴィアンの回復魔法でなんとか一命を取り留めた私たちは、目的を見失い戦線を離脱。
 戻ったオーボンヌ修道院は酷い有様で、私たちに出来ることはシモン先生の亡骸を弔うことくらいだった。
 だからといって、彼らの無念を晴らすため、意思をついで私たちが剣を振るうなんてこともしなかった。


 というのも、イヴァリースを二分した獅子戦争の最中、聖アジョラが復活した、との噂とともに
イヴァリース各地で天変地異が起こり、戦争どころではない状況になっていたからだ。
 火山の活動、干ばつ、洪水、地震によって農作物は大打撃を受け、各地で一揆が発生。
両軍ともに疲弊しきったところへラーグ公とゴルターナ公暗殺の報が入り、戦況は混乱を極めた。
更には教会からも教皇が暗殺されたとの報が入り、英雄であるはずの聖アジョラが、闇の眷族を率いて
ミュロンドに現れたという噂まで広まった。真相を確かめた者はおらず、国民たちは逃げ惑い、
運良く逃げ延びた難民たちはイヴァリース隣国のオルダリーア国へと流れ込んでいった。
 こうして、イヴァリースという国は、五十年戦争の傷を癒すことなく崩壊していった。


 ラッドとラヴィアンはそれぞれに旅立ち、その後ムスタディオはゴーグからラーナー海峡をこえて
お父さんとともに隣国ロマンダへ渡っている。
 そして私も、崩壊したイヴァリースを回ることにした。あのルカヴィを追うために。私なりの、
けじめをつけるつもりで。



 かつてのイヴァリースの国境近く、オルダリーア国ゼラモニアの、とある一都市。
イヴァリースが崩壊してから、国境に闇の眷属が攻めてくることが多くなったこの国では、
各地から冒険者と呼ばれる力自慢が、今日も酒場を賑わせていた。
「町を一つ魔物から取り返すだけで、とんでもない恩賞金が出るんだとさ」
「ここで活躍すれば英雄になれるぜ」
 そんな希望の絶えない、悪く言えば能天気な話題が絶えない酒場の一角に、ローブを纏った老婆の姿があった。
イヴァリースへ行くのはおやめなさい。闇の眷属がはびこるあの地で、人間に出来ることなど…」
 勿論、そんな老婆の忠告に耳を傾けるものなどいるわけがしない。無謀な若者を諭し、そして
その楽観視する思慮のなさと血気盛んさに嘆くのが、この老婆の日課であった。
 今日もまたそうして太陽が真上に昇ろうとしていた、そのとき。
「…ッ!」
 普段どおり椅子に腰掛けていた老婆が突然立ち上がり、ふらふらと街道に出て行こうとするのだ。
いつも小言をいうだけで、店内を歩き回ることすらしなかった老婆の行動に、心配するもの、冷やかすものと
反応は人それぞれであったが、その酒場の皆の視線は、間違いなくこの老婆に注がれていた。
「あッ、あなたは…ッ!」
 目を見開く老婆。数人がその視線の先を追うが、誰もいない。しかし老婆の双眸には、しかとその姿が、
遥かかなたに堂々と立つ女騎士の姿が映し出されている。
──こんなところにいたのか。
 老婆の耳にその女騎士の声が聞こえる。
「あ、あなたは、まだ戦っているのですか…ッ!」
──勿論だ。王女であらせられるオヴェリア様をお守りすることこそ私の使命…。
「もうおやめください! オヴェリア様も、ラムザ様も、これ以上闇の時代を望んではおられません!」
──何を言っている。天使を名乗る聖アジョラを打ち倒せばアルマ殿を解放できる。ラムザも解ってくれた…。
「そ、そんな…アルマ様まで…うっ…!?」



 突然に老婆が胸を押さえてうずくまる。
──ラッドも、ラヴィアンも一緒だ。さあ、お前も一緒に…!
 老婆の瞳に写った女騎士が、微笑みながら手を差し伸べた。
「ア、アグリアス様…あなたは、なにも、変わらないのですね…!」
 ルカヴィとなった者は、人間のころの感情を捨て、聖アジョラ復活とその闇の勢力の拡大を第一とする。
 しかし彼女は違う。老婆を見抜くその青い瞳は、真正面を見据えて凛と輝いて、彼女の強い意志をそのまま
映し出していた。そう、ルカヴィとなった今でも、アグリアスは主君オヴェリア=アトカーシャのために
剣を振るう、ルカヴィの中の異端者であった。
 きっと、彼女の強い意志があったからこそ、オヴェリアという守るべき大事な人物がいたからこそ、
ルカヴィに支配されることなく、人類を超越した存在となったのだろう。そして彼女が戦っているからこそ、
いまだ闇の眷属が世界を滅ぼすに至っていないのであろう。老婆は、そう考えていた。
 獅子戦争から50年。老いた自分と、何も変わらないアグリアス
──どうした? 私は今もお前を仲間だと思っている…。
 闇に縛り付けられた彼女の姿に、残酷な現実を止めることが出来なかった自分の無力さに、
老婆は大粒の涙を流し続けた。
──さあ、私について来い。アリシア…!
「…ぐぅ…ッ」
 胸だけではなく、全身を握り締められたような圧迫感。老婆は小さくうめいて、そのままどうと倒れた。
「お、おい! ばあさん大丈夫か!?」
「しっかりしろ…っ!?」
 慌てた酒場の冒険者たちが老婆を抱き起こそうとするも、ローブに覆われていたはずの老婆の肉体がない。
着衣だけを残して、アリシアはこの世から姿を消していた。



 ここは、どこ…?
 気が付けば、私は闇の中にいた。そこは、目を開けているのか閉じているのかわからないほど、何も見えない。
それに、何も聞こえない。ものすごく静かなのに、耳を澄ましても、自分の心臓の鼓動すら聞こえない。



 私は、一体どうなったんだろう?
 手も、足も、感覚がまるでない。身体がまったく動かない。それに、寒い。冷たい。まるで冷水の中に
浮かんでいるかのよう。…いや、沈んでいるのかも…。
 なのに、不思議。全然、恐ろしいと思わない。
 …私は、死んだの?
アリシア
 ふと、名前を呼ばれた気がした。そう、私の名前はアリシア…。
「気が付いたか、アリシア
 しっかりとした女性の声。この声は…アグリアス様、そうだ、アグリアス様だ…。
「…そうか、ムスタディオはロマンダに渡ったか…いずれ迎えに行ってやらねばな…」
 なんのこと…ですか…?
「ところでアリシア、戦争中は私たちを探してくれていたと聞いた」
 そういえば、そんなこともあったような…。
「突然姿をくらましたのだから無理もないな。心配をかけてすまなかった」
 なぜ、謝られるんですか…?
「それよりアリシア。これを見ろ」
 ぼんやりとした思考の中、視界に入ってきたのは、うっすらと輝く一枚の大鏡と、それに映る私自身だった。
しわだらけになっていたはずの私の顔、痩せこけて衰えたはずの私の身体はそこにはなく、
獅子戦争当時の私の姿が、鏡に映っていた。
「これで、また一緒に戦えるな」
 ああ…おいたわしや、あなたの獅子戦争は、まだ終わっていなかったのですね…。
 もはや涙を流すことさえ出来なくなった鏡の中の私に、鎧が着せられ、剣が握らされる。
「さあ、行くぞアリシア
「……はい……ご一緒…致します…」
 そう答えた私の躯が、闇の中に溶けていく。



──誰か、私を、そしてアグリアス様を、この闇から救い出してください…。



 そんな私の最後の願いも、今は、誰にも届かぬ、闇の…中…に………。



END