氏作。Part16スレより。
今日はクリスマス、イヴァリースの子供達は誰もが落ち着かない。
そしてこの宿の旅人達も、いい感じにはしゃいでいた。
「ホー、ホー、ホーゥ! 悪い子はいねがぁ?」
「は、伯。それ、違います!」
「おう、そうじゃったな。さてさて、今年はみな良い子達だったかな?」
クリスマスということで、ラムザ達も毎年ちょっとしたおふざけに興ずるわけだが、
真っ赤な服に身を包み、無理して赤い靴まではいて完全に役に入っているのは鬼のオルランドゥ伯。
サンタ役なんて頼めるものじゃないと思われがちでしたが、実はこういうのは大好きだそうで。
「オーランはノリが悪くてのう」
などとひとりぶつぶつ。楽しそうである。
「それではトナカイ達よ、入って来なさい!」
伯、改めサンタが指を鳴らすとドカドカと入って来たのは牛鬼とミノタウロス。
それぞれ全身を茶色に塗りたくられ、鼻にはトマト、背中には巨大な袋。かなり不機嫌なようだ。
しかしサンタはそんなことは気にしない。
「さあてさて! みんな一列に並ぶのじゃ、プレゼントを配るとしよう!」
クスクス笑いながらも、お酒とクリスマスの勢いか、みな大人気なく順を争い並びだしていた。
「初めは…ほう! ムスタディオくんかね、今年は良い子だったかのう?」
「ええ、そりゃあもう! 女性に親切にをモットーに!」
「多少過剰な親切が見受けられたようじゃがのう…さて、贈り物じゃ」
「おお、グレイシャルガン!」
「次は誰かの、おやラファか」
「今晩はサンタさん!」
「ほぅ、元気がいいのう! ラファには来年の抱負はあるのかな?」
「あります! レーゼさんみたいな大人の女の人になることです!」
「わっはっは、おぬしはもう充分魅力的な女性だが。しかし、小さな手助けをさせて頂こう」
「わあ、セッティエムソン! ありがとうサンタさん!」
「ほっほっ、さてさて次は…おや、マラーク。元気がないのう、今年は良い年だったかね?」
「どうも……いえ、全然。俺なんか二軍ですし、もてないし…散々です」
「ふむういかんのう、若い者がそれでは。よいかな、わしは君の数倍の年月を生きとるがの、しかしまだ、
今日のような楽しみに出会えとる。何事もな、心次第じゃよ。これを持って死ぬ気で頑張ってみるのじゃ」
「は…、はい! ……って、伯。これ、呪いの指輪……」
「さあて! 次は誰じゃな?」
とまあ、要するに装備の支給なわけだが。こういう茶目っ気を交えると楽しくなるもので。
それから時たまこんなケースも。
「おう、アリシアかね。君には特別なものがあるのじゃよ」
「えー、また呪いの指輪じゃないですよねえ」
「ほほう、惜しいのう。この綺麗な指輪じゃ。送り主はな、わしではないぞ?」
「えっ、……R to A…って」
「……そ、それ……俺。………ごめん」
「ラッド!? …あ、あんた自分で渡しなさいよ!」
「いや……だって、恥ずかしいし……ロマンチックかなあ、と思って…」
「わ、私の方が恥ずかしいわよっ!! 馬鹿!」
「ホー、ホー、ホー! 楽しい夜じゃな!」
騒ぐ一同を眺めながら、牛鬼とミノタウロスは疲れた様子でトマトをかじっていた。
「騒がしいな」
「ええ、まったく」
足下から聴こえる「ホー、ホー、ホー」に苦笑しながら、ラムザとアグリアスはシャンパンを飲み交わしている。
「しかし伯があんなにお茶目だとは思いませんでしたね」
「うむ、心の広い方だ。しかしあんな格好をしていては、向こうもややこしいだろうに」
「えぇ?」
その言い方が可笑しくて、ラムザはすこし吹き出しそうになった。
「アグリアスさん、まるでサンタが来るみたいな言い方をしますね」
「? 来るだろう、当たり前じゃないか」
「えぇっ!?」
もうラムザは思いきり笑った。
「あははははっ、アグリアスさん。サ、サンタを信じてるんですか?」
「それはそうだろう……なんだ、お前は信じていないのか?」
「だ……だってですね」ヒクヒクと笑いを堪えるも、彼女が真剣な顔なので一層可笑しい。
「サンタなんて、親がこっそり贈り物を渡してるって、みんな知っていることでしょう」
「いや、それはな、親の思いやりというものだ。サンタクロースは子供の信じる心を目印に訪れるんだ。
だから、疑いを持ってしまった子供の元には訪れない。それを不憫に思って親が贈り物を渡すんだ」
「えー……だけど、そう、どうして一晩で国中の子供に贈り物を渡せるんれすか?」
「簡単なことだ。サンタクロースは神の使いなんだ。神はいつも全ての人の心におられる。
その使いとて、我々が考えるような一人一人の人間らというわけではないんら」
酒が回って来てろれつが回らなくなって来た上に、嫌いな宗教の話なのでラムザは珍しくイライラしてきた。
「……うぅ、だけどれすね。一度だって贈り物をもらえない貧しい子供だっているんれすろ」
「そ………れはな、その子らはサンタの存在をしららいんら。知らぬものは信じられん」
「なんですって!?」
思いよらず頭に来た。なぜなら、今のは彼の親友であるディリータのことだったのだ。
「そんな理不尽な理屈ってありまふか! じゃあアグリアスさんはいつまで贈り物をもらえてましたか!?」
「………私は……、十歳の頃までだ」
「ほら、おかしいじゃないですか! それとも何か理由があるんれすか!?」
「私がその年で人を殺めたからだ」
ふと、いつのまにか自分が立ち上がっていたことに気付いて、ラムザは腰掛けた。
酔いはすっかり覚めてしまった。目の前のアグリアスは机にもたれて、虚ろな目をしている。
…馬鹿なことを! 言い過ぎた…。ラムザは猛省し、努めていつもの声を出した。
「……えっと、……アグリアスさん、今何かもらえるとしたら、何が欲しいですか?」
「…………何もいらん」
うわー、やっぱり怒らせちゃったな。どうしよう…。僕の馬鹿…!
「でもなにか、僕に用意できたら…」
「……今は何もいらん」
「…けど」
「しつこい!」
ビクッとラムザは震え、うなだれた。
せっかくクリスマスなのに…、ぶちこわしにしちゃった。情けない。
その様子をみて、アグリアスは口をもごもごさせて言った。
「……だから、……別に今はいらん。…………お前がいるから」
「へ?」
素頓狂な声をあげると、今度はアグリアスが真っ赤になってうなだれた。
ラムザはしばらくポケーとしていたが、やがて顔をにへら。
「僕は欲しいものあるんですけど」
「は?」
そういうと再び立ち上がる。やはりまだ酔ってたみたいだ…、まあいいか。
ぼんやりしながらラムザはアグリアスに顔を近付け、ささやいた。
「……………」
「…えっ? わっ、ば、やめろラムザ…! あっ……」
ドサッ、と二人分の重みで床が軋み、ランプの灯りが揺れた。
同時にそっとドアが開いたのだが、それには二人とも気付かないようであった。
「おや?」
ホーホー、と階段を上がって来たサンタ伯。下にいなかったラムザとアグリアスに贈り物を持って来たのだが。
そのラムザの部屋のドアがゆっくり開いたかと思うと、また勝手に閉じるではないか。
そしてトテトテという奇妙な足音。気配を察してサンタは目の前の空間を掴んだ。
「キャッ!」
「これ、ラファ!」
途端にスルスルと姿をあらわしたのは、セッティエムソンを使っていたラファだった。
「……えへへへ」
「覗き見は感心せんのう、せっかくのプレゼントであるに」
「ごめんなさーい…。あ、でもサンタさん。あの二人はプレゼントいらないみたいよ」
「なんと! 残念じゃな、せっかく選んだものを…、せめて見せるだけでも」
「あー! まあまあ、いいじゃないの。さ、下に行きましょ!」
「むぅぅ……、いたしかたあるまい。では降りるとするか」
「………ねえ、ところでオルランドゥ様。サンタさんて本当にいると思う?」
「んむ? 妙なことをいうのじゃな。ほれ、目の前にいるではないか!」
「……ぷっ、あははは。……そうね、それでいいわ」
「……さあ、まだ宴はこれからじゃぞ。ホー、ホー、ホーゥ!」
宴はこれから、冬の夜はまだ長い。
おしまい。