氏作。Part25スレより。

死の天使・ザルエラを滅したラムザ隊一行は、その疲れを癒す為、ザーギトスに一泊することにした
空には三日月が浮かび、1階の酒場に人が集まり始めた時分
隊の長と副長は部屋にこもり、翌日以降の行軍についてのミーティングを行っていた


ラムザ、イグーロスへ行くのか?」
「ええ、ダイスダーグ兄さんの事ですから大丈夫だとは思うのですが・・・一応、念のためです」
苦笑いを浮かべながら、ラムザはそうアグリアスに告げた
「・・・そうか、緊張するな・・・」
「え?意外だなぁ、アグリアスさんがそんな事言うなんて」
深刻そうな表情でつぶやいたアグリアスに対して、意表をつかれたような表情のラムザがそこにいた
「誰だって、緊張するであろう?こんな状況では」


そう・・・誰だって緊張するはずである
自分が好いている者の身内に初めて会うのだから
ましてや、今、隊にはライバルが二人もいるのだ
ラファとメリアドールだ
ラファは最初からラムザにべたべた
メリアドールはつい先日までラムザの命を狙っていたはずなのに、その誤解が解けるやいなや、
まるで今までの失点を取り返すかのように猛烈なアプローチをラムザにしかけている
この二人と比べるとラムザと最も付き合いが長いのは私であるが、それが何の意味があるのか?
・・・という位、この二人はラムザに近しい者になりつつある
特にメリアドール・・・さすがは元神殿騎士でありその身のこなしの前では、
ラファの様にうっかり水晶漬けにしてやる事もできやしない
なんとも歯がゆい
ともあれ、そんな三人が肉薄している状況だからこそ、このイグーロス行きはチャンスと思わなければ・・・!
ラムザの兄たちに気に入られれば、大きなアドバンテージを得ることができるはず
そうすれば、私だってもう少し積極的にラムザに・・・


口元に薄く笑みを浮かべたアグリアスは納得する様にうなずいてみせた



「そう・・・ですよね、緊張しますよね
兄さんだから大丈夫なんて事はないんですし・・・むしろ、身内の者だからこそ
覚悟を決めておかなければなりませんよね」
ラムザはそう言うと、無意識に楽観視していた自分を戒めた
と共に、アグリアスの騎士として戦士としての心の持ち方に感心した
そのアグリアスラムザの言葉にぴくりと耳を動かし、はっとした


覚悟・・・そう、覚悟しなければ
私が気に入られるという保証はどこにも無いのだ、もしあの二人が気に入られるような
事態になってしまったら・・・
考えるだけで、大きく落ち込みそうになる
そのような最悪とも言える事態を招いた場合も覚悟しておかなければならない
しかし・・・


ラムザ、私は頑張るぞ・・・!」
「え?」
「例え、最悪の事態を招いてしまったとしても、私は諦めない
最後の最後まであがいて、きっと何とかしてみせる」
アグリアスさん・・・ありがとうございます、僕の兄の為にそこまで・・・」
「何を言っている、貴公の兄だからであろう、何者にも代え難い兄ではないか」


ラムザは感動していた
キュクレインを始め、ここまで数々のルカヴィと激戦を繰り広げ、その全てを滅してきた
いや、滅っすることしかできなかったのだ
それなのにこの人は僕の兄の為にここまで・・・


アグリアスさん、僕も頑張ります
ヴォルマルフが何を思って兄さんに聖石を渡したのかは分かりませんし、
兄さんも聖石を何に使うのかは分かりませんが・・・
例え、兄さんが相手でも、手ぶらでイグーロスを出るなんて事しませんよ」


そう言うとラムザは両の手に拳を作り、気合いを入れた


手ぶら・・・その言葉にアグリアスは再びはっとした
そうだ、ラムザの兄に会うのに手ぶらで行くわけにはいかん、何か土産が必要だ
しかし、相手は聖石を受け渡されるほどの者・・・うかつな土産では逆に評価を下げるだけであろう・・・
う〜ん・・・聖石に匹敵するような価値のある物・・・


ええい、こんな事ならザルエラの一部分でも水晶漬けにして、持ってくれば良かったか
世にも珍しいルカヴィの水晶漬け・・・これならきっと喜んでもらえただろうに・・・
・・・ちょっと悪趣味だろうか
いやいや、これくらいのインパクトが無ければアグリアスの名をアピールできん
・・・何か無いものか・・・



そう考え込むとアグリアスは深刻そうな顔でうつむいてしまった
ラムザもそんなアグリアスに気付き、声をかける


「まぁ、イグーロスまではまだしばらくかかりますし、今から考え込んでいては身が持ちませんよね
アグリアスさんもどうか気を楽にして下さい」
笑顔を作りアグリアスをフォローするラムザ


む・・・言われてみればそうだな、今日明日到着するというわけでは無いし
道々、何か探しながら行けば良いか
私の悪いクセだ・・・一つの事を考え込んでしまうのは


「そうだな、貴公の言うとおりだ
こんな事では肝心な時までに疲れ切ってしまうな、すまん」
「いえいえ、そんな所もアグリアスさんの良い所なんですから」
「ふ・・・貴公も言うようになったな」


思わぬ所でラムザに褒められ、内心ドキドキのアグリアスであったが平常心を保つよう自分に言い聞かせた


「もう夜も遅い・・・明日からの予定も決まったことだし、私は部屋に戻るとしよう」
「はい、お疲れ様でした」


そう言い、アグリアスが席を立つと、ラムザも席を立ち見送った


明日からは土産探しに気を入れなければ・・・!
アグリアスのドアノブを握る手に力がこもった




後日、アグリアスはとある物を入手し、隊も無事イグーロスへと到着しするのだが、ここで
思わぬ事態がアグリアスを襲う
イグーロス城の城門前でラムザはピカピカに光った毛づやのチョコボを一匹見つけた


「このチョコボは・・・ザルバック兄さんのチョコボだ・・・ザルバック兄さんも来ているのかな」
「何!?」


そのラムザのつぶやきに過敏に反応したのはアグリアスだった


やばい・・・土産は一人分しか用意していない、まさか一人にしか渡すわけにも行くまいし・・・どうする・・・どうする・・・


親指の先を噛み、必死に考えを巡らすアグリアス
手のひらには汗が溜まっている
そんなアグリアスを最後尾にラムザを始め、他の隊員は皆城門をくぐろうとしている
ふと顔を上げ、隊員達の背中を見ながらとある事を思い付き腰のディフェンダーを抜くアグリアス


「世にも珍しい兄妹の水晶漬け・・・ライバルも減るし、一石二鳥
よしよし、そこを動くなよ・・・!」






おしまい