氏作。Part27スレより。




生命。生命とは何か? 何よりも尊きものと人は言う。真実か否か?
知らぬ。人はまだ、それを知るに値する存在にまで上り詰めてはおらず、弱く儚い。
家族の悲報は悲哀を呼び絶望へと陥れる。
陥れられた少女は甘美なる果実に手を伸ばした。
果実の名は……“復讐”……。おお、人の子よ。禁断の果実ほど甘い物はないと知れ。


   Chapter3.1
   復讐する者される者
   中編【生命の価値は】


ゼイレキレの滝と呼ばれる、巨大な滝と河に両断された地。つなぐはつり橋。
そこを渡る瞬間こそが狙い目とエレーヌは考える。狭く身動き取れぬその場ならその時なら!
ラムザ一行が橋を渡る。崖の上から見下ろす復讐の果実を口にせし姉妹。
「準備はいい? ジョアン」
「……うん、いいよ、お姉ちゃん」
「全てが神の作りたもうたありのままであることを祈る……信祈仰祷!」
岩陰に隠れて陰陽士エレーヌは自身に補助魔法をかけフェイス状態になる。
何よりも神を信じ、奇跡の光を最大限に発揮する力。
「エレーヌ姉さん。アイテム袋を持ってるのは中列の銃使いと後列のナイトよ」
「範囲内?」
「ええ。お姉ちゃん、がんばって」
「肉体の棺に宿りし病める魂を、永劫の闇へ還したまえ……」
詠唱の最中、橋上の隊列が一時停止した。殺気に勘付かれたのだ。
だが今更止められるものでもない。やる!
「碑封印!」
「敵襲! 前後に別れよ!」
エレーヌが早い! 碑封印の光がムスタディオとアリシアを包み石化させる。
男二人が前へ、女二人が後ろへ逃れた。姉妹は前側の崖から攻撃を仕掛けていた。


「上だ! ラッドは僕を援護しろ!」
「ラヴィアン、崖を駆け上がるぞ!」
崖を登って来たのは女騎士二人。うち一人はチョコボに乗っているため素早かった。
チョコボに乗っているのは仇の女、アグリアス
「させない!」
姉から譲り受けた形見、ロマンダ銃を抜いたジョアンは、アグリアス目掛けて発砲した。
銃弾がチョコボの足をかすめ、バランスを崩させ足止めに成功する。
「やった!」
「そこか!」
銃声を頼りにラッドがライトニングボウの矢を放った。
しかし崖上には届かないただの威嚇。無視していい攻撃だったが、
これが初めての戦場であるジョアンには効果十分、岩陰に退避させた。
ラヴィアンが疾駆し、剣を鞘におさめたまま滝越しに拳を振るう。
「咆哮の臨界! 波動撃!」
衝撃がジョアンの隠れる岩を震わせた。
「キャーン!」
猫のような悲鳴を上げてジョアンは身をすくませる。
「心無となり、うつろう風の真相、不変なる律を聞け……不変不動!」
さらに陰陽術で攻撃すエレーヌにより、ラヴィアンの手から力が抜ける。
「うっ、しまった……」
ラヴィアンは後退し、アグリアスチョコボのボコから降りてラヴィアンの横を駆け抜けた。
滝の合間にある岩を飛び移って対岸に向かう気だ。
「目立ちすぎなんだよ! 陰陽士さん!」
同様にラッドも崖を駆け上っていた。
同時にラムザが魔法の詠唱を終えていた。
「暗雲に迷える光よ、我に集いその力解き放て! サンダラ!」
痛撃なる雷撃が陰陽士の身体を閃光に包み、ラッドのライトニングボウが追撃をかける。
悲鳴すら無く陰陽士は電撃に動きを止めさせられた。恐らくは生命すらも。


だが――ラッドが勝利の笑みを浮かべ動きを止めた瞬間、閃光の中からエレーヌが飛び出した。
竹で作られたバトルバンブーがラッドの頭部に振り下ろされ、炸裂する。
「がふっ!」
「フンッ! ハッ!」
さらに棒を鳩尾に一発突き込み、棒を回転させてあごを下から打ち上げる。
強烈な連撃に押しやられたラッドは崖から落とされ、肩を強打した。
「ラバーシューズだって!?」
己の失態をラムザは叫んだ。雷属性の魔法は使い勝手がいい、
だからこそそれを防ぐラバーシューズもまた思わぬ伏兵となるのだ。
サンダラも、ライトニングボウも無効化した陰陽士は叫ぶ。
「撃てぇー!」
ジョアンが銃口アグリアスに向け、発砲した。銃弾は彼女の肩当に当たったが、
問題はアグリアスが今いる場所が滝から突き出した岩の上だという事だ。
バランスを崩し滝壺に落下する。「うわぁー!」という悲鳴が聞こえた。
「や、やった!?」
喜ぶジョアンに向けて、ラッドが矢を放つ。
「お前もラバーシューズ持ちかァ? なぁっ!」
矢が、ジョアンの肩に刺さった。
「ギャイィィィッ!!」
突き刺さった灼熱のような痛みに、電流が流れ込み全身を駆け巡る。
想像を絶する苦痛に喘ぎながらも、倒れて岩陰に隠れたジョアンはポーションを傷口にかけた。
それから矢を引き抜いて、もう一度ポーションをかける。
その間に矢が再び撃ち込まれたが、ラッドの視界に直接は入ってなかったため、
矢はジョアンの眼前に突き刺さるのみに終わった。だが、それが彼女の恐慌を煽る。
「痛ェ……くそっ、おいラムザ! 敵は二人だけか!?」
「そうらしい、何か変だ。何者だ、貴様等!」
「姉さんの仇が何を言うの! 残虐非道なあなた達に生命の価値は! 無い!」
「仇だって!? 何を言っているんだ!」
「汚れ無き天空の光よ」
口論の中、エレーヌは新たな詠唱を始めていた。それは陰陽術ではなかった。
そう、陰陽道を究めるなら白魔法もまた習得せねばならない。
「馬鹿な!? あれだけ魔法を使ってMPが持つのか!?」
エレーヌは使用MP吸収のアビリティによりサンダラの魔法力を吸収していた。
さらに動き回る事でMP回復移動の効果を発動させている。
「血にまみれし不浄を照らし出せ!」
故に白魔法最高峰にして唯一の攻撃魔法を使用に値する力を残していた。
ホーリー!」
白光が天空へと昇る。轟音が天空を震わせる。聖なる光が悪を裁く。
静寂の後、ラムザが地に伏した。
「しまった、くそっ!」
「弓使いなら間合いを詰めればー!」
ホーリーによりほとんどMPを使い果たしたエレーヌは、ラッドに肉薄し多彩な棒術を駆使した。
しかし攻撃を受けつつラッドはハイポーションを使用し、
ダメージを与え、回復され、のいたちごっことなりこう着状態に陥った、かに見えた。
オートポーションで己が身を回復しつつ隙をうかがっていたラッドが、近距離で弓を構える。
「ライトニングボウは無駄だと!」
「戦技って知ってるかい!?」
矢が棒の真ん中を射抜き、真っ二つに割った。
「しまっ……」
ウェポンブレイクならばラバーシューズなど関係無い。
相手は相当の手練れだとエレーヌは臆病風に吹かれる。
これほど絶対的に不利な状況から反撃をし、今もなお切り札を残しているかのような笑み。
それはラッドが心理的効果を狙ってのハッタリだった。その騙す技量も戦士の力だ。
(ヤバいな。戦技で装備を破壊するにも限度があるし、このまま攻められたらやられる。
 武器を失った今、こいつは魔法で対抗しようとするだろう。その隙に何とかできないか?)
ラッドが思案する間に、怯えから後退するエレーヌ。その間にもMP回復移動の効果は発動する。
それを魔法詠唱のために距離を取ったと判断したラッドは、エレーヌに威嚇射撃をする。
雷属性ゆえ効果が無くとも顔の横を矢が飛べば身がすくむというものだ。
「たゆとう光よ、見えざる鎧となりて小さき命を守れ」
(やはりか!)
刹那、ラッドは自問す。
(いや、なぜここでこの魔法を!?)
「プロテス!」
自分に対してではない、もう一人の仲間に対してプロテスを放つエレーヌ。
愛する妹への。
プロテスの光に包まれたジョアンは、ラッドから受けた傷をポーションで癒し、
銃の射程と威力に助けられラヴィアンの接近を許さなかった。
なのになぜ?
「無双稲妻突き!」
滝壺から天空に光が昇り、一瞬にして暗雲を呼び寄せ聖雷を直下させる。
再び電撃がジョアンを焼いた。
「キャアアッ!」
しかしプロテスが生み出す光の膜が、それをわずかにさえぎった。
そのおかげでジョアンは耐える事ができた、アグリアスの反撃に。
「よかっ……」
エレーヌが微笑む。
ラッドが苦笑する。
ラムザが剣を、突き出す。



不運があった。
瀕死のラムザホーリーの轟音に耳をやられ、エレーヌが何を詠唱しているのか解らなかった。
瀕死のラムザホーリーの閃光に眼をやられ、放たれた魔法が何だったのかも解らなかった。
だからただ、劣勢だろうラッドを助けるべく、剣を、突き出した。
殺さぬよう手加減する余裕など無く、ただ精一杯、剣を、突き出した。
「……ゴボッ」
エレーヌの口腔から血があふれる。のどから、剣が、突き出ている。
「お、ね……」
ジョアンがそれを見て、
「エレーヌお姉ちゃぁぁぁん!!」
叫んだ。



   to be continued……