氏作。Part27スレより。




手を伸ばした、けれど届かない。背伸びをした、でも届かない。
棒切れを拾って振り上げた、でも届かない。屋根に登った、でも届かない。
お姉ちゃんに訊いてみた。「どうやったら雲を掴めるの?」無邪気な笑顔で。
お姉ちゃんは訊いてきた。「どうしてそんな事を訊くの?」曖昧な微笑みで。
少女は答えた。お姉ちゃんはクスクスと笑って「いつか掴めたらいいわね」と言ってくれた。


   Chapter3.2
   復讐する者される者
   蛇足【今日も雲は流れていた】


とある街の教会の近くの広場での出来事。
石ころを拾って空に投げる少女に、青年が理由を問う。
「雲にぶつけてやろうと思って」
冗談めかして言われたので少年も笑った。
「曇って何でできてるんだろうね。柔らかそうだから、お布団にしようと思って昔、掴み取ろうとしたの」
「雲の布団か、ロマンチックだな」
「姉妹みんなで寄り添って一枚の毛布で眠っていたから、暖かくして上げたら喜ぶと思って」
「君は優しい娘なんだね」
「優しくなんかないよ、人を殺そうとしたもの」
「人を?」
「だから優しくなんかないよ」
「そうなんだ。でも、素朴な笑顔は、優しそうに見えるよ」
「えへへ、ありがとうお兄さん」
「お……! あ、ああ。ありがとう」
「どうしてお兄さんが『ありがとう』だなんて言うの?」
「それは君が知らない間に、俺が幸せな気持ちになれる言葉を言ってくれたからさ」
「そうなんだ。えへへ、私、偉い!」


どこか遠い所で鷹が鳴いた。
少女と青年は鷹の鳴き声に導かれるよう天を仰ぐ。


「あの鷹は雲に触れる事ができるのかな?」
「さあ、どうだろうな」
「分不相応って言葉があって、人は生まれた時から得られるものが決まってるんだって」
「へえ、そうなんだ」
「だから私は雲を掴めないし、人の命も奪えなかったの」
「でも、それであきらめるのも癪だよな」
青年はぎゅっと拳を握って眼を細めた、空の彼方を見据えるように。
「お兄さんは何を掴みたいの?」
玉座。王様になってこの国を変えたいな」
冗談めかして言われたので少女も笑った。
「あははっ、大きな夢。がんばってね」
「ああ。お嬢ちゃんも元気でな」
青年は背中を向けて教会に歩いて行った。金の鎧はとても綺麗で、王様に似合いそうだった。
少女は空に手を上げて「わーっ!」と叫んだ。少しスッキリした。
そしていつも通り、あるがままの日常がそこにはあって、今日も雲は流れていた。


   おしまい