氏作。Part27スレより。







−Little Gift−


時間を持て余し、思慮深げに考え込むその騎士は、とうに初老を迎えて久しいものの、
その肉体は未だ衰えを知らず、周りの者をも寄せ付けぬ近寄り難い程の荘厳なオーラを放っていた。
しかしながら、今はそれが逆に邪魔なのだと云わんばかりに使い古された襤褸布で全身を覆い、
見るからに浮浪者の彷徨いを呈していた、それも仕方は無い、彼は既に表舞台では亡き者とされている為であった…
(銃弾を避ける術は無いものか… 如何せんあれだけは目にも止まらぬ速さゆえ
わしとて、避ける事すらままならぬ… …剣も、無敵では無いと言った所か……うむ……)


「義父上!!」いかにも聡明な顔つきの青年はゼルテニアの城下町にて彼の姿を発見し声を掛ける。
「義父上、ご無事でしたかッ!!」占星術士オーランは、予期せぬ早期の再会に心を躍らせた。


「うむ。お前も無事で何よりだ… ラムザがな、決戦を控えて男共に暇を与えた格好という訳だ。
今さら訓練など必要も無いのでな、お前に会いに来たのだよ…」


城下町の酒場で軽い談笑を行いながら親子の絆を確認し合う二人、たとえ血の繋がりが無かったとしても
ときにその絆は実の父子を超える深いお互いの愛情によって真の親子関係が育まれていくものである…


「私はいままで、幾多の死闘を繰り広げ武人として名を上げた。
ありとあらゆる剣技に魔法、色仕掛けや、風水術、果ては得体の知れない不可思議な術をも見てきたが、
お前ほどの美麗で優雅な技 星天停止 は、一度たりとも無かったな… きっとお前が私の相手であれば、
技に見惚れているうちにやられていただろうな… 流石は私の息子だ、わしも鼻が高いよ。ハッハッハッ…。」
「義父上にその様にお褒め頂けるとは誠光栄であります… 義父上は世界に二人と存在しない剣聖ではないですか。
なにせ、私には唯一あの技しか御座いませんので…」こうして久々の再会によって、ひとときの親子の会話が
二人を癒した…





〜ゴーグ機工都市、ムスタディオ宅〜


「どうもな、ゼルテニア城の方でな、大きな山崩れが有ったらしいんだが、噂話で耳にしなかったか?
災害処理の最中にどでかい洞窟が見つかったらしいんだよ、随分と広く広大らしい…地殻変動でもあったのだろうか、
山崩れから洞窟の入り口が発見されるなんてな… 中に何か有るかも知れないしな、ここみたいに… 
お前の闘いが終わったら、一緒に行って見ないか?今まででも随分とトレジャーハンティングして来たんだろ?
私はきっと何か出てくると思っているよ。」
「面白そうだな…」 銃口を覗き込み、時間も無くそのままにしていた、或る戦い 以来気になっていた照準のずれを補正するムスタディオ。
「行くにしても、最後の決戦も近いんだろう?生きて帰って来てくれない事には話しにならんぞ?」
「大丈夫だって、勝算はあるからさ。俺の実力は親父なんだから解っているだろ?」
「分かるからこそ言ってるんだよ。」
「おいおい… そりゃぁないぜ、親父…」
「そう言えば、お前がくれた貴重な宝らしい 四神バッチ な、おれはどうもあのバッチに隠されたであろう
壮大な物語が気になってね、少し調べてみようかと思うんだが…」
「まぁ、俺には関係の無い話…だな。」 
スタディオはいつからかこの言葉を話す時は何故か周囲を気にしながら話す様になっていた… 
アグリアスの鉄拳を喰らわない様にと… 彼女とて普段は暴力など決して振るう事は無い騎士道精神に溢れた
戦士であり常識人である。一度言っても分からない、その言葉の意味を汲み取れない彼への言わば、愛の鞭なのだ。
彼はある意味幸せである、それがどの様な種類であれ彼女の 愛 を体感できる数少ない一人なのだから…


何気ない会話でさり気なくお互いを擁護し、褒め称え、元気付ける…
これもきっとその簡単には辿り着く事の出来ない、常に言葉の裏に潜み
根底で理解する者を待ち続けている 人間愛 が織り成す素敵な
アルペジオなのであろう…なかなか面と向かっては照れくさくて言い辛い家族の愛、父は子に対して、
自分の分身が自分の死後も一日でも長く生きて欲しいという何物にも変え難い深い愛情から子を愛でる−
その呼吸ひとつひとつがささやかな父への贈り物なのだよ、と言わんばかりに…





〜町外れの教会&ベッド砂漠〜(−或る戦い−)


まさに外道!」町外れの教会にて異端審問官ザルモゥはラムザに向かいこう言い放った。
「この際”神”の話はどうでもいい!”真実を”見て欲しい!」説得には全く耳を貸さなかった、
彼自身では何の能力も権力すらも持ち合わせていない、肩書きだけに縋りつく自身の利己的な
都合のみによって異端者認定を行ってきた彼は、力の無い者達からは、理不尽な異端者狩りを行うと言われる恐怖の僧侶であった。


しかし、そのザルモゥは今まで無実の罪で殺されて来た者達の仇を打つべく一撃の下にラムザに惨殺され、
屍は内臓が引き千切られ体液とも血液とも区別の付かない蠢きの滴りと共に弾け出す血飛沫が収まる頃には既にその機能を失い、
本来収まるべき砕け散った肋骨からは程遠い体外へと露出し、一刀両断にされ脳髄が露呈した頭部からは目玉が
上下あさっての方向へと飛び出して、もはや人間の本来有るべき姿形を成してはいなかった…


なぜここまでに成敗するのか−それは、信念の為には殺人をも止むを得ないと考える強い気概を持った、
真実を追い求め、その名のもとに正義をかざす苦悩の葛藤に満ちた青年、ラムザの物語 である他ならないからだ。


かつてザルモゥであったであろう、その眼も背けたくなる様な内臓が激しく露呈し、しかしながら静寂の訪れた筈の
亡骸には僅かながらに右手の人差し指のみが小刻みな痙攣を残していた。


この世に対しての未練か神への願いを伝える為か… 彼の体を動かす最期の原動力となっている彼の意思とは裏腹に、
無残にもムスタディオの蹴りによってそれは終焉を迎えた… (口程にもねぇ…)更に追い討ちを掛けるかの様に、
屍に対して神の遣いの名を語る愚鈍な堕落者に対して、神からの制裁を下すべくムスタディオは唾を吐きかけた…
不意に、亡骸の目玉がムスタディオを見つめている気がして踵の裏で踏み潰した。(チッ、嫌な感触だ…)


足早に教会を後にした彼らはここ、ベッド砂漠の忘却の廃墟前に足を止め、メンバー全員、体中に毒素が充満していくのを感じていた……


「粉末状の毒を北天騎士団の陣地に風に乗せて散布したのさ…………!!……小僧……お前か………
まさかこんな所で再会するとはな……運命も酷い悪戯をするもんだな…… なぁ!小僧!!」


スタディオは(有り得ない…ッ!!)といった驚愕の表情でバルクを見据える。
「どうしてこんな事するんだ! 兄さん!! 無駄な争いはしたくない!! 今からでも考え直してくれよ!!」
ラムザ!奴は俺に任せろ…)と言わんばかりに、ラムザの前に体を入れて狙撃の準備に入るムスタディオ。


今ここに、幼かった少年の面影を残したムスタディオを迎え撃つ、全てが謎に包まれた神殿騎士バルクの、
一対一の銃撃戦が繰り広げられようとしていた……






〜機工都市ゴーグ 射撃訓練場での出会い〜


ちりちりとこめかみを襲う焦燥感が照準の焦点を徐々に
ターゲットへと近づける… 銃使い達は、この緊張感が醍醐味であると口々に語る…


「チッ… おっかしいなぁ… 俺の目が悪いのかなァ…」
彼の放つ銃弾は何故か、一向にターゲットへは当たらず、
まるで、動く事の無いターゲットにすんでのところで全てをかわされ、
銃弾は嘲笑うかの様に枠外のあさっての方向で勢いを止め、弾痕がこの世の終わり
とも思える沈黙を守り仄かな硝煙が重力に従い天へ召される…


「…小僧……これはな、照準がずれてるんだよ。お前はまだ幼いから、きっと生意気な奴だと思われて
クラブの奴らから嫌がらせでもされているんだろうな。俺のを使って撃ってみろ、
お前のやり方は変えずにな。それで当たれば照準だ、おかしいのは。」


少年の一挙一動作を横で傍観していたその男は、堪り兼ねたのかさり気無く少年に声をかけた…


彼から手渡された銀無垢の輝き眩しいブレイズガンを使って狙いを定める…


「あ! 当たるじゃねえかぁ!!」初めてのクリーンヒットに思わず感嘆
の声を上げる若い少年は、初めて声を交わすその青年に向けて瞳を輝かせ充実感に溢れた満面の笑みをこぼす。


「だろ? 銃はな、銃口のゆがみが自身の根性までをも歪めてしまう代物だ。
こんなクラブの借り物の銃なんかじゃなく、小僧も早く自分の銃を手に入れることだな…
愛器ってのはなかなかいいもんだぜ、特にこの ベスロディオ・ブナンザ ブランドのブレイズガンはな…。」


「ありがとう… オレはムスタディオ・ブナンザってぇんだ。
兄さんは… クラブで良く見るけど… 名前教えてくれないか?」


「オレが名前なんて名乗ったとこで何の意味も持たないのさ… この戦乱の世の中ではな。
名など無くとも、顔を見ればオレだって事が分かるだろう…?ここに来ればまた会えるだろうしな… それで良いだろ?フッ…」


スタディオは、その後度々その名の知れぬ男との出会いも期待して、射撃場へ足を運んだ…


「俺が、名高い名工の息子に銃について語るのも気が引けるけどな… 親父に聞けば何でも解ることだろ?」
「反抗期って言うのかな… だから俺は跡目を継ぐ気も無いし、今は鉱山で働いてるんだ。」
「いいか、ライフルってのはな、銃身内に彫られた溝を意味するんだ、これは螺旋状になっていて、銃身内部で加速される弾丸が
旋回運動を行う事で弾道の安定化に一役買ってる。で、更に直進性をも高めるって訳だ。俺達が使ってるのは
スナイパーライフルって類だが、どうも他にもまだあるらしい。奥深いよな…
小僧も随分と腕を上げて来たが、まだまだ照準合わせとテイクバックが甘いな、俺が教えてやる事なんぞ滅多に無いんだぞ?
だから小僧はさっさと上達しなけりゃならないって事、覚えておけよ?」


「兄さんはやっぱり、実践で腕を上げてるんだろうね。」


「400フィートも離れていれば、銃声よりも着弾の方が遥かに早い、戦場では自分に何が起きたかも分からないうちに
倒れてるだろうよ… 小僧も戦場へ出向けば解るさ… あれは地獄だ… こんな世の中だ、仕方ねぇと言えばそれまでだがな。
俺はいずれこの腐敗しきった世の中を変える為に勝負をかけるつもりだけどな… 小僧には関係の無い話だな…」


戦争は人の知覚、感覚を研ぎ澄ませ、意思を刺激し、肉体を鍛え上げ、極限状態に置かれたお互いを人間として見極める事が
出来る−或る異国の哲学者であり詩人は戦争の良い部分をこう語る。反貴族運動を掲げる彼の、
暗雲に立ち込めた人生での苦悩を計り知る事は、幼いムスタディオでは理解すらままならなかった…











−Hard-boiled Sniper


(メンバー達が他の敵を抑えてくれる筈だッ!)という深い信頼と安心感から
二人は回りの敵味方を気にする事無く、素早く廃墟内に身を隠した。お互いがその
能力の高さを熟知していた為、きっと一撃で決着が付くと確信し、先にそれを叩き込まなければ
確実に死へと追いやられてしまう事をムスタディオは小刻みに震えてしまう指先の身震いが、
バルクは全身に湧き上がる武者震いがそれを痛感させていたからだ…


形勢は若干ムスタディオの不利であった、全身を蝕む毒を回復する事も無く戦闘に入ってしまった為だ。
「クソッ! 手が震えるうえに、気分が優れねぇ… 一撃で、殺れるのか…?」
辺りに響き渡る轟音と共に、時折見せる稲光の閃光が忘却の廃墟内に二人の影を大きく映し出した…


今や、完全に二人だけの空気すら間には存在しないかの真空の空間に閉じ込められ、
身動きすら全く取れない緊張感に張り詰めた世界で、
お互いの出方を伺う。壁際に身を潜め首飾りの十字架をしっかりと右手に掴み、
ゆっくりと持ち上げ祈りと共にくちづけるバルク、(神よ、かつての幼い少年を殺める事を…
どうかお許し下され… そして、勝利の栄光を我が手に!!)
やがて覚悟を決め、虚空へと叫び出す。
「貴様も立派になったな、小僧!!」ムスタディオはかつてのバルクからの教えを回想しながらこう答える。
「兄さんのやり方は間違っているッ!! どうして俺と殺し合うんだ? これが兄さんの言ってた勝負なのかッ!」
「ああ、そうだ。 神の力あれば敵無し という言葉を知らんのか!貴様はここで死ぬのだ!こんな事になって残念だなッ!!」


激しい死闘が繰り広げられる−


叫び声でお互いの位置を大まかに把握した二人は、廃墟内部で一階と二階部分へ陣取った…
物音一つでも立てれば瞬く間に互いの銃弾が廃墟の床素材であるその煉瓦を粉砕し、やがて訪れた静寂と共に
土煙がゆっくりと立ち上っていく… 勝負は一瞬の予断をも許さない状況であった。


スタディオの耳を支配する辺りの轟音と爆撃音のさなかで、不意に周囲の音が掻き消され、
周りの時の流れが穏やかになって行く様な白昼夢を見せつけられていた… 彼の体に充満した毒素が、
スタディオに一時的なショック状態を引き起こしていたのだ… (音が… 聴こえない…? なんだ…?これ…)


片膝を着いた音に反応して素早くバルクの銃弾が煉瓦越しにムスタディオへと襲い掛かる、連射の勢いが
煉瓦を砕け散らせ床を削り出し、銃弾の一発が勢いを留める事無くムスタディオの腕を貫通する…


(ッ!! 撃たれたかッ!!)白昼夢から正気へと戻ったムスタディオは、利き腕を負傷し狙撃が困難となった…


スコープの照準を絞りながら神への祈りを続けるバルク。「神よ、私に確信をお与え下さい、これが正義なのだとッ!!」


次の瞬間「ぐわぁぁぁぁッ!!」という断末魔の叫びが廃墟内を轟かせていた。
「大丈夫かッ!ムスタディオッ!!」アグリアスラムザと共に敵を殲滅していた。バルクも含めて…
鮮血で滲む腕を抑えながら二階へと駆け上るムスタディオは、神殿騎士バルクの最期を見届けた…


「くそッ! オレは…こんなところで…死ぬ男じゃ…ないはず…だ……小僧…………さら…ば…」
神殿騎士バルクはムスタディオに見取られ絶命した…


「俺一人だって平気だと思ったけどよ、やっぱ持つべきは仲間だよなッ!!」笑顔を見せるムスタディオ。
「何言ってるの!!毒を回復しなきゃ誰だってまともには戦えないのよ?心配させないでよ!!」回復魔法を施すアリシア
軽い冗談を交わした直後に湧き上がる悲哀が、ムスタディオの心に深い影を落とし、これが彼の初めての
精神的外傷として、心の奥底へと刻まれて行くのであった…


(………兄さん………さよなら………)


以来、ムスタディオは未だ燦然と銀無垢の眩い輝きを保ち続けるバルクの遺品、
先の激しい死闘で照準がずれてしまったブレイズガンを使用していた……













−Trigger−


オレは… 思い出したんだ… エアリス… 君の名を…


花売りの少女エアリスの名前をトリガーとして、彼は彼の世界での出来事の断片を
思い出し始めていた。彼女を死なせてしまった喪失感に苛まれ、茫然自失でスラム街を彷徨い歩く…


(オレがもし、オレの居た元の世界へ戻れるなら… エアリスを失わずに済む方法が…
死なせないやり方が有るに違いないッ!!)と、彼の鋭い直感が訴えかけた。ムスタディオが父への土産にするといって
持ち帰ってしまった 四神バッチ を見てからというもの…
(きっと、オレの物語がやり直せるのであれば… 彼女を救済する方法がある筈だッ!!)
最後の決戦を控えているメンバーに気を遣って今までクラウドは、ムスタディオの父、ペスロディオに転移装置の
研究依頼を躊躇っていた… (この物語が終われば、オレはやり直すんだ… エアリスと共に生きる道を探すんだッ!!)



しかし、記憶の断片が甦った今、最期の決戦を控えて決心し、遂にクラウドはゴーグ地下で発掘された転移装置の研究を
ペスロディオに依頼していた。
「ここに辿り着いたって事はもとの場所へ戻る事だって可能な筈だろ…?」
「理論上ではな… ただこいつがどういう動きをするのかを
見極める必要があるし、最近発掘されたこれの大型のタイプの装置が北東のゼルテニア方面に
あるから、そっちも見てからだな… まぁ、行き着く場所が同じとは限らないが恐らくは、
共通するセオリーが有るだろうからこいつの構造を紐解くとすればまずはそこからだな…


オレはラムザと同じで、何か苦悩の葛藤を抱えていた気がする… オレの心の中……
オレって一体何なんだ… オレは今までずっと一人だったのか…? クラウドの精神世界でのもう一人の少年が
彼に問い掛ける… (寂しいのか…? お前はもう立派な大人なんだぞ…? もう、俺とはさよならだ…
楽しかったよ… たまには俺を思い出してくれ、その時がお前が本当の お前 になった時だ……)


さようなら…… オレはもう行くよ… クラウドは少年に別れを告げ、彼の世界に続く長い回廊を抜け
大人への扉を開けた… 彼の心の中の少年は既に色褪せた記憶となっていた… 













−Melancholic Ravian−


アリシアの攻撃、回復の両方より劣るアイテム士のラヴィアン、決戦では、口で言って分かる様な相手では無いと決め込み、
既に話術師を極めてしまったラッドは、自ら進んで二軍へと名乗りをあげ、決戦前の最後の暇をゴーグの射撃場にて憂さを晴らすかの様な訓練を行っていた。


「まったく… 失礼しちゃうわよッ!! 私とアリシアのどこが違うって言うのよッ!!!」
半ばやけ気味で銃を連射するラヴィアン、銃弾は的を外れあさっての方向へと飛んでいく。


「まぁ、そう言うなって… 彼女は白魔道士として特別な才能を持っているんだ、仕方ないじゃないか。
でもラムザは凄いよな… ガフガリオンに一番近い存在だった。奴には戦闘のセンスが有る… 
今や師と仰いだガフさえもを凌ぐ遥か高みへ行っちまった。
俺達は、多分、居るだけで良いんだよ。仲間達の覇気というか士気を高める為に出来る事をする… それも
ラムザを支える大事な仕事なんじゃないか…? まぁ、お前はラムザの慕う女性の為に動いてるのかも知れないけどな…」
ラムザと同じ元傭兵であるラッドは、自暴自棄気味のラヴィアンを諌めた。


彼女は、アグリアスを慕う一心で、或るイベントを企画していた… 恐らく数日後には、ラムザは女性陣の誰かと
 個別指導 という位置付けのもとに、各メンバーから男性陣も羨むたまらない誘惑を受けるに違いないと
考えていた。これは、ラムザアグリアスを除いたメンバー全員に協力を仰いだアグリアスへのギフトであった…
「最初にレーゼさんって言ってたわよね… で次がメリ姉さん… ラファの次がアリシアで、 取り が隊長と…
確か、ポエスカス湖のほとりに行くんだったわよね…」


(………!!!!!………)


むしゃくしゃした憂鬱な気分を彼方へと吹き飛ばすほどの名案が浮かんでしまった………
「ちょっと、耳貸してよッ!!」ラッドに笑いを堪えながら耳打ちするラヴィアン……
「ちょ…おま……えぇ!?」ラッドは大笑いしている……
やはり、部下にはストレスを与えない様、大切にすべきである……


ラヴィアンの仰天提案に同意したラッドは、早速射撃場を後にし、各地へ散ったメンバーの招集に奔走した……















−Another Separate Ways−


決戦を終え、ゴーグの実家に戻り再び炭鉱での仕事に精を出していた
スタディオは、父に誘われていつかの約束であるゼルテニア城の外れに位置するここ、
広大な洞窟内での発掘作業に訪れていた… ゴーグ機工都市に住む者はその特権として、
遺跡発掘の際に市民証の提示にて発掘現場へのフリーパスが約束されている。
これまでに数々の失われた文明に纏わる遺跡の発掘に多大な貢献を齎した好奇心旺盛な職人気質の市民には
至極当然の権利と言えよう。


「何か有るとは思ってたが、まさか飛空挺の発着所があったとはな…」
広大な敷地内には、燦然と光り輝き未だその力すら失われていないであろう、ゴーグ地下から発掘されたタイプとは
また違った、かなり大規模な物体をも移動させるであろう能力を潜在的に秘めた転移装置らしきものが音も無く
操作主を待ち受けていた…


「やはり長生きはするものだな、ムスタディオ…」父は、私が追い求めていたのはこれだッ!!と言わんばかりに
目を輝かせ、少年の様な面持ちで優しく呟いた…


突然、目前を閃光が襲う。かつて、戦友であったクラウドがこの世界に現れた時と同様に、
漆黒の闇と眩い光が激しく交錯する中でそれは時空の彼方から姿を現した……


ゆっくりとその動作を収束させる転移装置、降って沸いたかの様に現れた 飛空挺 の姿にムスタディオは
腰を抜かした… 事の成り行きを見守るブナンザ親子。やがて、飛空挺のハッチが開き、
注意深げに辺りをゆっくりと見まわしながら男が近寄って来た… 手にはライフルを従えている。


「済まねぇが… ここは何処だか教えてはくれないか…?」



幸いにして同じ言語を話すその男は、きっとイヴァリースの何処からか意図せず飛ばされて来たであろう事は
ペスロディオにとっては、何の矛盾も無かった。


「君の住む世界と同じだよ、イヴァリースの地。ゼルテニア城の外れの洞窟内だ…」
(………?………)どうも合点が行かない様子の男は、視線を逸らし眉間にしわを寄せ少し沈黙した。
(城って言ったか…?)彼は疑問を晴らすべく彼の次の言葉を待つ様に見えたその壮年に話を続けた。


「俺が居る世界には、ゼルテニアン洞窟周辺に城なンざぁ存在しねぇ… あるのは砂漠と、近くに海がある…」
「海はこちらにもあるよ… 私の研究では、ときに、転移装置というものは時間と空間を超越し、またそれを点で繋げる
作用があると認識しているよ…」
「ちょっと良く解らないな… どうやら俺達は時間か何かの違う世界に迷い込んだみたいだな…」
「私は、私達の時代では既に失われた文明と位置付けられている 飛空挺 や 転移装置 を長年研究しているのでな…
君達が元の世界に帰る手助けを出来ると思うんだが…」
「…ありがたい…… これから少しの間、世話になる……」
交わす会話で、お互いの利害関係が一致したペスロディオとバルフレアは これから宜しく と言う確認の意味で握手をした。


自己に置かれている状況を把握した彼は、既に落ち着いた様子で黙ってこちらを見つめる青年に声を掛けた。
「坊や、大丈夫かい…? 何も取って食おうっていうンじゃあない、安心しろって…」安心した様子で立ち上がった息子は
自己紹介を始めた。「お、おう…! 俺は、ムスタディオ… ブナンザ… ってえんだ…」
「………!!……奇遇だな…… 同じファミリーネームとはな。俺は、バルフレア・ファムラン・ブナンザだ。
フッ… 少なくとも、知り合ったって事だけでも、何かの縁 はあるよな…?フフ…」


ブナンザ親子は、初めて目にした飛空挺に乗り込むと、ゴーグの自宅へとバルフレアを先導した。
飛空挺に乗って不意に現れた、若くして既に達観した様な呈そうのバルフレアを、ムスタディオは彼を半ば自分の兄の様に慕った…


「洞窟内は広過ぎたのと、ヤクトがな… いや、ミストの関係で… チッ… 
とにかく俺達の時代での最先端の装置で有る事は間違い無いぜ。で、
まだ帰るまでにはだいぶ時間が有りそうだ。何処かにこいつのいい隠し場所でも提供してもらえれば
有り難いンだがな… これでいくつかの街でも回ってみたいンだがどうも目立ちそうでな…
相棒に付きっきりで監視してもらうのも気が引けるしな、彼女には赤ん坊の面倒もあるからな…」


ここ、ゴーグの街においては、飛空挺ですら珍しくは無いと言った表情でペスロディオは話を続けた。
「あんたが持ってる地図と、こちらの世界で把握出来ている現在での地図とを照合してみると… 
どうも我々が住んでいる土地はあんたの所ではロザリアと呼ばれている気がしてならない… 否、はっきりとは断言出来ないんだけどな、
どうも地殻変動でも起きなければ、地図上での整合性が取れないんだよ… ゼルテニアン洞窟とベルベニア地方、ロザリアではなくルザリア、
地名だけで考えれば間違いは無いと思うんだが。大陸自体が移動でもしているのだろうか…」
「まぁ、1000年近くも経過すればそりゃあ色々有るだろうな…ただ、文明自体が
後退しているってぇのが残念というか、納得が行かないけどな… 何かがあったんだろうな…」


「ちょっと他にも前々から依頼を受けている案件があってな… 彼は毎日の様に家へ通うもんだから、
先にそちらを片付けてからという事になるんだが…」


「勿論、それは構わない。俺はあくまで依頼をしている立場だからな… まぁ、気長に待ちますって…」


自宅前でペスロディオの帰りを待ち侘びていたクラウドに気を遣って、積もる話を途中で止めにした…
意図を酌んだバルフレアは、話題を変えるべくムスタディオに話し掛けた。


「なぁ、奇遇にも、同じ ブナンザ で、同じ 機工士 ときてる… 直系では無いにしても遠縁かもしないし、
まぁ、全くの他人かもしれない、だがな、この広い世界で出会ったんだ、信じたいじゃあないか、俺達は親戚だ、ってな。
なぁ、ムスタディオ。でもな、ひとつ言いたいんだがな、同じブナンザを名乗る者として
言わせてもらうンであれば… お前、もう少ししっかりしろよ? な? 俺の子孫が衰退していくのは
見たくも無いぜ…? 頼ンだからな…」


「ああ、平気さッ! 俺達は伊達に機工士を名乗っていないぜ! 親父は銃のブランドだけじゃなく、
機械工学の権威だからな、親父が出来なきゃ、誰も出来ないさ、この世界では…」


(凄いのは親父さんだけだろ… 早く親父さんの技術を習得した方が今後のお前の為じゃないのか…)
クラウドはムスタディオへ言おうと思ったが、言うのを止めた…


「じゃあなんだ、お前さんも… この世界に流れてきたのか…?」


バルフレアはこんな偶然があるのかと驚いた様子で、かたや異次元から召集され、或いは太古の時代からこの場所に
辿り着き漂流しているお互いに、何かそこはかとない親近感を抱いた。
(きっとこいつも、元の世界へ戻れば、俺と同じ様な壮大な物語を抱えているんだろうな…)
「何かの記念だ」先程からお互いが気になっていた それ を外して差し出す…(そうだな…)
クラウドバルフレアは装着していたリボンを交換した。
「安心したよ、男がリボンを着けるのがこの世界ではどうも異質なものらしいからさ…」
「まぁ、その世界によって仕来たりは様々だろうからな…」
「じゃあ、クラウド、また会えるとも限らないからな、先に別れを伝えておく。元気でな。幸運を祈ってるぜ…」
「ありがとう、バルフレアも元気で…」


二人は爽やかな笑顔で互いの前途を祝して固い握手を交わした……


ラファのお見舞いの日、かつての戦友が集まると聞いていたペスロディオはクラウドも来ているだろうと
わざわざ病室へと駆けつけた…


「おお、やはり居たか、クラウド。君の要望が叶いそうだ。早く帰りたいのだろう? 今からでも来てくれ」
彼に依頼をしてから随分と時間が経っていたので、クラウドは突然の吉報に心を震わせた…


(オレの物語が、新たに始まる…)


病室に残っていたメンバー達は、クラウドの見送りの為ムスタディオ宅へと向かう。
動く事が出来ないラファと兄マラークは、病室にて別れの言葉を交わした…


「生まれてくる赤ちゃんが、女の子だったら必ず エアリス にするわ」
ラファは筆談でクラウドへそう告げた。
「君と、ラムザ、生まれてくる子供の幸せを願ってるよ… 早く元気になってくれ」
そう言うと、マラークと固い抱擁を交わし、ムスタディオ宅へと急いだ…


アグリアスアリシア、ラヴィアンにメリアドールが不在の中、彼は転移装置へと足を載せた。
(別れなんて、きっとこんなもんさ… 久し振りにみんなと会えただけでも良かったさ…)


「見送りありがとう。じゃあ、みんな、元気で…」


メンバー達が見守るなかで、クラウドは感涙を堪えながら異次元の世界へと姿を消した…


「行っちゃった…」誰からとも無く、声がした。すすり泣く者、今までの戦闘の旅路を振り返り目頭を熱くする者、
(良かったな…)と感慨深げな者… クラウドが帰郷した後も、皆は暫らくものあいだ、そこから動こうとはしなかった…


スタディオは尋ねた「しかし、どうやって仕組みを突き止めたんだ? 親父は相変わらずすげぇなぁ…」
「いやなに、大型のタイプは構造が把握しやすかったので、 当たり を付けてその回路周辺を探ってみたら、
履歴が残っていてな、方位と時間、空間ベクトルに素粒子サイズ… 最後の履歴がクラウド君の転移操作だっただろうからね…」


既に転移装置における問題点も収束を見せ、解析は完了、バルフレアは太古の時代へと戻る事も可能となっていたが、
機工士ペスロディオの絶っての要望で、この時代には珍しい完全稼動の飛空挺の構造研究をさせて欲しいとの希望を受け入れた
バルフレアは、およそ二週間の猶予を彼に与えた。
「分析するのは構わねぇが、ぶっ壊さないでくれよな…? あれは俺の大事な愛機だからな…」
彼の相棒、フランはおさなごの面倒で手一杯の様子で、ゴーグの繁華街に様子を見に行かないかという夫の誘いを断った…
「あなた一人で行ってらっしゃい… 私はブナンザさんの家でしばらくお世話になるわ…」
(そうかい…)俯き加減で左手の親指で鼻を軽く二回擦ると、「じゃあ、俺はちょっと行ってくるぜ…
何も無ければすぐ戻るが、遅くとも二週間で戻って来る。もう帰れるンだからな、予期せぬ出来事とはいえ
折角この世界に来れたんだ、見聞を広めるのも職業柄、話の種になるしな…」バルフレアはゴーグ繁華街へと足を向けた…


およそ二週間が経過して、バルフレアアグリアスを連れてゴーグのペスロディオ宅へ再び訪れた……


アグリアス!? どうしたんだ…? みんな随分心配してたんだぜ…?」
「ああ… この前は済まなかったな… 少々取り乱した…」ムスタディオに対して常に厳格な彼女は珍しく俯き加減で応えた…
「なんだ、二人とも知り合いか… このお嬢ちゃんがな、俺の住む世界へ付いて来るって言って聞かないからな… 
まぁ、連れて来たって訳だ。」



咄嗟に身を引くムスタディオ、しかしアグリアスからは何の反応も無かった…
アグリアスをお嬢ちゃんなんて呼んだ日には…)と少し意外な反応に驚いたムスタディオではあった。
アグリアス… 自分が何処へ行こうとしているのか判っているのか…?」ペスロディオは彼女を心配して声をかけた。
「ええ… 新しい人生をやり直そうと思っています…」穏やかな口調でかつ俯きながらも彼女は強い意志を見せた。
「…で、研究の方は済んだのか…?」バルフレアは、期限は過ぎたぞ…?という言葉の代わりにこう尋ねた。
「そうだな… 素晴らしいものを見せて頂いたよ… どうやらお別れの時が来たようだな…」


皆でシュトラールに乗り込み、太古の時代にゼルテニアン洞窟と呼ばれた場所へ向かう機内−


「寂しくなるな… 散々叩かれたけど、俺、アグリアスの事好きだったぜ… 愛の鞭って言うかさ… 
俺が生まれる前に姉さん亡くしてるから、俺は大事に育てられ過ぎてこんな性格なんだけどな、なんか… 
姉さんと重ねてたって言うか…」
アグリアスは、一応の笑顔を見せているものの、その酷く充血した瞳からはとても喜びの表情を感じる事は出来なかった… 
最期の別れに相応しい、歴戦を共にして培われた強固な友情を確かめ合う固い抱擁をする二人には、
その出会いから今までの出来事を振り返り柄にも無く目頭を熱くし、照れ臭さで苦笑いを交えた複雑な心境を表していた…


「これは… 俺の思い出の詰まった、ある人の形見なんだ… バル兄さんなら大事にしてくれるだろ?」
「貴重だな… それは。 俺には少し荷が重い気もするが、お前の好意だ… 有り難く受け取るぜ…
これはお礼ってモンでも無いンだが… 俺の居る世界では一番デキの良い代物だ、交換なら悪くないだろ…?」
バルフレアはバルクの形見である眩い銀無垢のブレイズガンを、ムスタディオはかつて眼にした事の無い見るからに
威力の有りそうなライフル−フォーマルハウトをそれぞれ受け渡し、固い握手を交わした。



シュトラールから降り、大規模転移装置の操作を始めるペスロディオ。シュトラールのエンジン音に呼応して
転移装置が作動音を上げる。漆黒の闇と眩い光が激しく交錯する中で、アグリアスを載せたそれは時空の彼方へと消えた……
薄っすらと涙ぐむムスタディオを父ベスロディオは肩を抱き寄せ、優しく慰めるかの様に呟いた…
「素敵な出会いだったな…」と。
「そろそろ… 俺も親父の技術を学んでも良い頃かな…?」
「……そうだな……お前なら、大丈夫だ。 俺の息子だからな……」






−銃爪(Trigger)−         完