氏作。Part25スレより。


「そうに決まってるじゃないか!マラーク君、何を今更!」
ベイオウーフの旦那、と俺達は呼んでいる。
若い新任教諭だからか、そういう事にはとても寛容で、
生徒に理解がある。言ってみればナイスガイという奴だ。
多少、マイペースすぎて付いていけない事もあるけど・・・。
「げぇっ!なんだよ、じゃあ両思いなのかよ!」
「んも〜、もどかしいわね〜!」
俺とムスタディオ、アリシアにラヴィアンは、休み時間ともなれば
この人の元に集まって馬鹿話をすることが多かった。
旦那もこれまた、他人の色恋沙汰にやたら興味があって、若い俺達とも気が合うのである。
この日俺達は、ラムザアグリアス先生の怪しい関係について、
好き放題の討論を繰り広げていた。


「でも、教師と生徒の禁じられた恋なんて・・・あ〜ん、やらし〜!」
「しかもしかも!アグリアス先生は実習生なわけだから!時限付きの、儚い恋なのよ!」
「キャー!エロい!エローーーい!」
「まさしく、『人』の『夢』と書いて『儚い』ってやつか。ふむふむ」
全く、人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだな。
ちなみに、いいふらした張本人のムスタディオは、
常にどこかばつの悪そうな顔をしているが、それは黙殺だ。


「しかしなぁー、アグリアスくんもなかなかの奥手のようだから。
僕は僕で、前から応援してはいるつもりなんだけどねぇ」
いや、旦那。あんたのは露骨すぎますから。
いくら何でも放課後の黒板に相合い傘を書くって、小学生かあんたは。
おかげであの時は俺とムスタディオがこっぴどく叱られたんだよなぁ。
濡れ衣であやうく死にかけたっていうの。木刀だぜ?木刀。竹刀じゃないのよ?


「それにしても・・・さっきは大変だったみたいじゃないか?ムスタディオ君。
見たところ15周はしていたようだが」
その言葉で先刻の悪夢が蘇ったのか、ムスタディオの顔が苦渋に歪んだ。自業自得だ馬鹿め。
結局、マット運動の授業中、ムスタディオの奴は一度もマットを踏んでいない。
アリシアやラヴィアンの冷やかしを浴びながら、実のところ20周も走っていたのだ。
「うん?はは、そうか。あれはミルウーダ先生の愛のムチ、ってやつだな。
僕ぁてっきり、体育祭に向けて特別メニューを組んでいるのかと思ったが・・・」


体育祭?
そうだ。開催がもう二週間後に迫っている。


「待てよ?・・・先生、競技内容は実行委員会が決めるんでしたよね」
「ああ、そうだとも。僕も携わってはいるが、やはり生徒の自主性を重んじなくてはね。
それに今年の実行委員長はディリータ君が着任しているし、まぁー安心だ」


「それだ!」俺の脳裏に、輝かしいアイディアが閃く。
そう、あの奥手な二人を応援してやる、ちょっとした妙案が。
学校行事といえば、男女が親密になる格好の場じゃないか。


体育祭は苦手だけど、今年は楽しくなりそうだ。











「お邪魔いたします」
そう言って私は、久しぶりにその家のドアを開けた。


大学に入ってから2年間、私はイヴァリース学園理事長のご息女、
オヴェリア嬢の家庭教師をしていた。
そもそもこの縁がきっかけとなって、私の学園への就任も決まったのである。
「入学はぜひ実力で」という彼女の夢に、私も精一杯答え、今では彼女も無事に
異校一年生としての生活を送っている。就任当時、私はその事実を知って喜んだものだ。


「まあ!アグリアス先生、いらっしゃい!今日はどうしたの?」
天真爛漫な笑みをたたえて、オヴェリア嬢は玄関で靴を脱ぐ私を出迎えてくれた。
「いえ、同じ学校におりましたのに、ご挨拶がまだだったので・・・」
「も〜、事前に言ってくれればいいのに!お茶菓子足りるかなぁ」
ふと足下を見ると、私とご家族の靴の他に、可愛らしいローファーが一足。
「ご友人が来られているのですか?」
「ええ、そうよ。アルマちゃん。ほら、ベオルブさんの・・・」


「おっ、お邪魔しました!ご、ご挨拶はまた日を改めますので・・・」
何の因果だ!
どうしてこんな日に限って、・・・あのラムザの妹さんが!
「え!?ちょっとどうしたの?折角だから上がって行ってよ!ねぇ!」
(ああ、袖を引っ張らないでください。もう子供ではないのですから。
申し訳ありませんオヴェリア嬢、今日、今、私はアルマ嬢に合わせる顔などないのです。)
「どうしたの?顔が真っ赤よ?体調が悪いんじゃないかしら・・
ますます返すわけにはいかないわ!」
(なんとお優しいお言葉。それだけで私は十分なのです。だから、
お願いだから今日は帰して・・・・!!)


「あ、アグリアス先生だ!いつも兄がお世話になってます!」


見つかってしまった。
ああ、すみませんアルマ嬢。
そのお兄さんの、お世話をするどころか、私と来たら・・・



アルマ嬢の面差しは、やはり兄弟であるゆえか、ラムザにどこかしら似ている。
「びっくりしたわよ、もー・・・どうしたの?アグリアス先生」
「い、いえ・・・。ちょっと急用があったような、なかったような・・・」
何を言っているのだろう私は。いつもの毅然としたアグリアスオークスはどこへ行った。
「んもぅ・・・。先生、ひょっとしてラムザ先輩となにかあったの?」
ひっ!
どうして、こういう時のオヴェリア嬢は勘が鋭いのだろうか。
家庭教師をしていた頃も、その機知の富む様に幾度と無く驚かされたものであった。
しかし今、内心を詮索されるのはたまったものではない。アルマ嬢までいるというのに・・


「まあ、もしかして兄がなにか失礼を!?
すみません先生、問題がおありでしたら何でもおっしゃって下さい!」
アルマ嬢までが私の不甲斐なさに気遣いをくださる。
ああああ。何て言ったらいいんだろう。


「も、問題などありませんよ!彼は・・・その、周りの印象とは違って
とても優秀な、素晴らしい才能の持ち主だと思いますから」
「では、私に何か落ち度があったのでしょうか・・・」
「とんでもない!お二人の仲の良さはうらやましいくらいで・・・ええと、なんだ、
い、一年の担当教員の方々の印象もすこぶる良いようですから、アルマさんに落ち度なんて」
「それじゃあ・・・?」
可愛らしい眼差しで、アルマ嬢は私に疑問符を投げかける。
ああ、オヴェリア嬢、どうか別の話題にすりかえてはもらえないでしょうか!


「ストップ、アルマちゃん」
おお、天の助け!


「ど〜も、先生にはやむにやまれぬ事情があるみたいだから・・・」
あれ?


オヴェリア嬢、なんですかその目は。
どうしてそんな、底意地の悪そうにニヤニヤと笑っておられるのですか。


「ねぇアルマちゃん!前に話したあのCD、今聞いていかない?」
「あ、うん!あれいいよねぇー、切なくって!」
そんなやり取りのあと、オヴェリア嬢は神妙な手つきで本棚から
古びたケースを取り出し、CDをコンポに差し入れる。
やがてかかってきた曲は、


・・・・懐かしいな。


・・・・っていうか。



高校の教師と女子高生の許されぬ恋を描いた、有名なドラマのテーマ曲である。




「オヴェリア嬢!!!私やっぱり帰ります!!!」
何のつもりだ!この子は、ええい、私をおちょくっているんだろうか!?
「え〜?なんで?先生これからなのにぃ〜」
何がこれからなんですか!
「ねー、アルマちゃん!」
と、何かを促すようにウィンクしてみせるオヴェリア嬢。
え?と、首を傾げるアルマ嬢。数刻の後、みるみる目の色が変わっていく。
「え・・・・えっ!?えーーーっ!!うそ、まさか・・・きゃーっ!?」
「ち、違います!誤解です!!私はラムザ君とは何も・・・!」


しまった!


「やーーーーっ!やっぱり!先生ったら就任早々やるぅ〜!!」
「やだっ、すごーい!お兄ちゃん!?お兄ちゃんのどこが気に入ったんですか!?」
「まさかと思ってカマかけてみたら・・・図星とはねぇ〜〜」
カマかけるだなんて、どこでそんな言葉を!神よ、私の教育が至らなかったのでしょうか?
ああ、顔が熱い。真っ赤になってるんだろう。情けない。


どうしてだろう。
どうして、ラムザの事を考えると、こうなってしまうんだろう。






おまけ









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