氏作。Part24スレより。
ポーション風呂という名前を聞いたのは、まさにポーションの買い出しに行った先だった。
「何だそれ? ポーションを風呂にいっぱいに入れるのか? すっげぇ無駄遣い」
「いやいや、何もポーションだけで満たす訳じゃないよ。いつも通りお湯を入れて、そこにポーションを混ぜるのさ」
「へえ、それで、身体にいいのか?」
「そりゃもちろん。疲労回復に効果があってよ、肩こりも擦り傷も骨折も何でも治るってよ」
「やった事あんのか?」
「俺じゃねぇけどよ、俺のダチがやったらしいぜ。風呂にポーションを2〜3本ばかし入れてさ」
「俺もやってみようかな……?」
そんな話を聞きながら、ラムザは買い物かごにエーテル5本とポーションを10本入れてカウンターに向かい、
立ち止まり、しばし考え、後戻りし、ポーションをさらに3本買い物かごに入れた。
ポーション風呂という名前を聞いたのは、まさに風呂に水を入れている最中だった。
「何だそれは?」
「アグリアス様、知らないんですか? 巷で流行しているんですが、湯船にポーションを入れるんです」
「入浴剤のようなものか? しかし、ポーションとは何とも珍妙な」
「飲むだけで元気になるポーションですからね、お風呂に入れても効果抜群だそうですよ」
「具体的には?」
「お肌スベスベ」
「……ラヴィアンはやった事があるのか?」
「ありませんよ。でもやってみたいなーとは思ってます」
「無駄遣いはよくない。こうして客である我々が、井戸から組んだ水を宿の風呂桶に入れている理由を思い出せ」
「だからこうしてお手伝いをして割引してもらって浮いたお金で、ちょっとくらい贅沢しても」
「まったく……とにかく駄目だからな」
そんな話をしながら、アグリアスとラヴィアンはお風呂の準備を進めていた。
水を入れたら、後は火を点けて沸かすだけだ。
ラムザが宿に戻った頃には、すでにお風呂は沸いていた。
丁度いい湯加減だったため、さっそくポーションを3本ほど開けてお風呂に注ぐ。
貧乏生活で疲れが溜まっているラムザとしては、ポーション3本で元気になれるなら試す価値はあると考えたのだ。
ポーションを入れてかき混ぜて、いい感じに混ざったので、脱衣所に行き衣服をかごに入れる。
ポーションの青に染まった湯船につかると、ジンジンチクチクとむず痒いような気持ちいいような感触が肌を覆った。
「くぅ〜っ、これは効きそうだ」
ポーション風呂を堪能し、天井を仰ぐラムザ。うっとりと緩んだ頬が可愛らしかった。
そして軽く息を吸って、チャプンと湯船に潜る。
特に意味のある行動ではない。何となく、気持ちよさそうだからやっただけだ。
カラリ。
青く染まったお湯の中で、ラムザはお風呂の戸が開く音を聞いた。
ふと顔を出してみると、開いたお風呂の戸を閉めようとするアグリアスさんの背中とお尻があった。
風呂が沸いた頃合だろうと思って、アグリアスは一番風呂目当てで風呂場へ向かった。
この安宿は風呂がひとつしかなく、男女に分かれてなどいないが、混浴でもない。
故に風呂を使う時は、入口に使用中の札をかける決まりだ。札はかかっていなかった。
だからアグリアスは札を『使用中』にして、脱衣所に入った。
誰もいないだろうと思い込んでいたため、すぐ傍らにあるラムザの服に気づかず通り過ぎて、
ラムザが脱いだ場所より奥の位置で衣服を脱ぎかごに入れた。
カラリ。
戸を開けると白い湯気が広がっていた。
開けた戸は当然閉めるもので、アグリアスは身体を反転させて戸を静かに閉じた。
もしここで身体を反転させず、前を向けたまま後ろ手に戸を閉めていれば、
間違いなく水面から顔を出したラムザに気づけていただろうが、
その代償として白い双丘と金の茂みを見られてしまっていたに違いない。
白桃のようなお尻をバッチリ目撃したラムザは、慌てて湯に潜った。
(なっ、何でアグリアスさんが!? ……あっ! 使用中の札、かけてなかった!?)
披露が溜まっていた事と、風呂が沸いているのか確認するだけのつもりだった事から、
つい札をかけ忘れてしまっていた。もし風呂が沸いていると最初から知っていたならば、札をちゃんとかけていた。
(ど、どうしよう? 僕に気づいたかな? 今、出て行ったら……どうなる?)
「むっ……ポーションか、これは?」
アグリアスの声色は、明らかにラムザに気づいていなかった。
「……ラヴィアンが気を利かせたのか?」
何の話だとラムザは思った。
アグリアスは頭の中で筋書きを書く。
ポーション風呂に入りたいラヴィアンだが、自分が反対しているため、
ならば一度入ってみろとポーションを入れたのだろう。
これでもし噂通りの効能があるのなら、真剣にポーション風呂の採用を吟味すべきだ。
ラヴィアンは今までも何度か、アグリアスが反対している事を勝手にやった経験があり、
そのうちの極少数はアグリアスの評価を得た事がある。
「物は試しか……」
アグリアスは桶でお湯をすくい、白い裸身にかけた。柔らかい曲線を、青い水が伝う。
そして、アグリアスは爪先からゆっくりと、青いお湯に身体を沈めた。
グニッ。
弾力のある何かを踏んで、アグリアスは足を上げた。
「……何だ?」
今度は手を突っ込んで、湯船の底を掻き回す。しかし先ほどの弾力性のある何かは見つからなかった。
首を傾げて、アグリアスは再び風呂に入る。
今度は肩までしっかりと。
アグリアスが踏んだのは、ラムザがポーション風呂とは関係なく一番元気になっているものだった。
あまりの苦しさにモノを両手で押さえて歯を食いしばる。
直後、湯に手が突っ込まれたため、ラムザは慌てて風呂の隅に寄った。
湯を掻き回す手がラムザを見つけられなかったため、ホッと一息したのもつかの間、
今度はアグリアスの足が入ってきた。それが足だとは青い水中では判別できず、また手かと勘違いした。
やり過ごそうと思っても息が苦しくなってしまって、このままでは溺れてしまうと、
ラムザはつい顔を水面に出してしまった。
それでも出来るだけ波を立てず、呼吸を小さくして、バレないようにしてしまう自分が情けなく感じた。
いくら何でも、その程度の事で見つからずにすむ訳が無いだろう。
しかし現実としてラムザはアグリアスに見つからず、それどころか青い水に沈む金の茂みの上半分ほどを、見た。
同様にラムザの金の茂みの中にあるモノが、手のひらの中でムクムクと膨れ上がった。
さて、ここで、ラムザのジョブとアビリティを説明しよう。
ジョブ 弓使い
ジョブアビリティ チャージ
アクションアビリティ ガッツ
リアクションアビリティ 潜伏
サポートアビリティ 両手持ち
ムーブアビリティ 水面移動
まず注目してもらいたいのはリアクションアビリティだ。
アグリアスに男の証を踏まれた瞬間、ラムザは潜伏を発動してしまった。
すなわち透明。
周囲の景色に溶け込んだ今、ラムザを見つけるのは至難。
アグリアスの引き締まった下腹部、腰のくびれ、たわわに実った肉果実が青い湯に沈んで行き、
果実の上部分だけがプカプカと浮かんだ。
「ああっ……これはっ、効くな。ジンジンする」
言われて、ラムザは気づいた。ポーションの刺激が肌を刺している今、ちょっとくらい自分が悪戯してもバレないのでは?
はい、ここでムーブアビリティ水面移動の出番です。
水面移動なんて名乗ってますが、実際は水深2でも行動できるというだけのアビリティ。
水深2といえば身体のほとんどが沈んだ状態だ。
風呂は水深1といった程度の深さだが、屈んで肩までつかっている今、水深2と表現してもいいだろう。
故に水面移動の効果により、ラムザは実に鮮やかな行動が出来た。
水の中、手を伸ばし、指を突き出し、狙いを定め、プカプカ浮いているアグリアスさんの胸の先っちょを、ツンッ。
「んうッ……!?」
その刺激にアグリアスは身悶えする。
ラムザが咄嗟に手を引っ込めた刹那、アグリアスは自身の手で自身の胸を覆った。
「……刺激が強いのか? ポーションの入れすぎではなかろうな……」
そう独り言を言った後、ポーション風呂のチクチクする刺激が気になるのか、身を縮ませた。
これは好機と、ラムザは指先でくすぐるようにアグリアスの腰を撫でる。
「ん……はぁっ、くすぐったいな……」
(よっしゃ気づいてない)
会心の笑みを浮かべたラムザ。しかし透明なので気づかれない。
調子に乗って、今度は腹部へと手を伸ばすラムザ。狙いはおへそ。
不透明な水の中、引き締まった腹筋の中に、小さなすぼみを見つけるためには指を這わせるしかなかった。
その感触をアグリアスは、ポーションの刺激だと勘違いする。
「むっ、うふぅ……こんなに刺激が強いのでは、少々考え物……あぐぅ……」
おへそを見つけたラムザは、そこから真っ直ぐ下へと指を下ろした。
指先に、水中で揺れる毛先が触れる。
直後、アグリアスはザバッと音を立てて立ち上がった。
その時、ラムザの指が、アグリアスの敏感な部分を擦ってしまった。
先程からポーションの刺激が強く悶えていたアグリアスは、もう我慢出来ないとばかりに立ち上がった。
その瞬間、勢いのせいか、女性の一番敏感な部分が痛いほどの刺激を受けた。
「あグゥッ!?」
金的攻撃を受けた男のように、アグリアスは股間を押さえてうずくまった。
そのせいでラムザはアグリアスの花園を見るには到らなかったが、眼前にアグリアスの白肉がぶら下がった。
アグリアスは目と鼻の先にラムザがいる事に気づいていらず、重力に引かれて揺れる柔肉が、
ラムザの官能を昂ぶらせている事を知る由などない。
そしてラムザはあまりの光景に、爆発寸前の自分のものを両手で押さえた。
ここでサポートアビリティ両手持ちの出番である。
両手持ちとは、両手持ち可能の武器を両手で持つ事により、攻撃力を2倍にするアビリティだ。
男の化身は両手持ち可能だった。
ラムザのそれは攻撃力が2倍になった。
「くっ……うぅ。これは……こんなにきつくては、疲れなど……」
アグリアスはしばしそのまま動きを止め、唇を噛んで身体を襲う刺激に耐えた。
アグリアスの吐息が、ラムザの額を撫でる。
自制心を総動員して、ラムザは堪えた。ここで暴走してしまっては我が身は終わりだ。
しかし、堪えようと身体に力を込めた瞬間、手にも力がこもってしまい、攻撃力2倍の武器が締めつけられた。
さらに、ポーション風呂のジンジンとした刺激が、さらにソレを昂ぶらせる。
プツン。
理性が、切れた、音が、して。
「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
アクションアビリティ、ガッツ。叫ぶ事で己のステータスを上昇させるアビリティである。
そしてその瞬間、『行動』を取ってしまったため、潜伏の効果が切れた。
アグリアスは、あまりにも突飛な事態を理解出来なかった。
突然、ラムザの叫び声が、目の前から聞こえた。
何も無い目の前の空間から――のはずが、なぜか何も無いはずの場所にラムザの姿が突然現れた。
叫びながらラムザは立ち上がり、前屈みになっていたアグリアスの顔は、ラムザの腰あたりの位置にあった。
「え?」
戸惑いながら、ラムザの顔を見上げるアグリアス。
叫び終え、真っ赤な顔でアグリアスの顔を見下ろすラムザ。
視線が正面衝突した。
瞬間、ラムザは一際強く、自分の武器を握って――。
「あうっ」
腰をわずかに引いた。
その動作に釣られて、アグリアスはラムザの下腹部を見た。
『叫ぶ』でパワーアップしたモノが、両手持ちで握り締められ真っ赤に充血していた。
はい、ここでラムザのジョブをおさらいしよう。
彼は今、弓使いだ。
アビリティはチャージ。
まさに、溜めに溜めた力が今、放出された。
アグリアス・オークスの眼前で。
「おっ風呂〜、おっ風呂〜」
歌いながら風呂場へ向かうラヴィアン。
カラッと戸を開けて、脱衣所に入り込む。
と、後からついてきらアリシアが、風呂場の戸にかけられた『使用中』の札に気づく。
「ラヴィアン、誰か入ってる」
「え?」
アリシアの静止は間に合わず、ラヴィアンはさらに奥の戸を開けてしまっていた。
ラヴィアンはポーション風呂のために、服を脱ぐよりも先にまずポーションを風呂に入れようと考えていた。
そして、入れようと思っていたポーションを、ラヴィアンは床に落とした。
何故ならラヴィアンはお風呂の中を見てしまったのだから。
ラヴィアンを止めようとしたアリシアも、同様にお風呂の中を見てしまった。
『キャアァァァァァァッ!!』
彼女達が何を見たのかは不明である。
まさにチャージを発動した瞬間のラムザだったのか、
それとも半殺しになり青いお湯に濃い赤を混ぜたラムザだったのか、
それともラムザの鮮血を浴びて鬼神の如き(しかし官能的な)姿のアグリアスだったのか、
もはや誰もいなくなり、ただ惨劇により青と赤が入り乱れる混沌とした風呂場だったのか。
全ては謎のまま。
おしまい。