氏作。Part23スレより。




「ん……ああ、おはようラムザ。今日も寒いな。朝食はパンと豆のスープだが、なかなか美味いぞ。
 どうだ? いい宿を見つけてくれたラヴィアンに感謝せねばな……。
 ラヴィアンか? まだ寝ているはずだ、後一時間もすれば起きるだろう。買い物に行きたがってたしな。
 ……私か? そうだな、特に予定は無いが……連日連戦だったからな、のんびり休もうと思うよ。
 何、買い物? それならラヴィアンが行く予定だし、ラヴィアンと一緒に行けばいいだろう。
 私は宿でのんびりするよ。ココアが美味しいんだ、ほら、いい香りだろう?
 ……それは、そうさ。私だって女だ、甘い物はな。無論糖分の取りすぎには注意しているよ。
 ん? ああ、口の中で甘味が広がって、とろけるようで……解説させるな、何か照れる。
 ……で、何だ? 何か言いたい事があるならハッキリ言え。
 今日か? 貴公は私を何だと思ってるんだ、今日が何の日なのかくらい重々承知している。



    聖バレンタイン司教の命日だ。



 本来なら教会へ行き祈りを捧げるところだが、異端者の身ではな……残念だがあきらめるしかなかろう。
 何だその目は。ラムザ? とりあえずココアでも飲め……馬鹿ッ! 熱いから火傷……ああ、もう。
 舌の火傷にケアルは効くのか? とりあえずチャクラで癒せ。
 何? チョコレート? そういう風習は知っているがな、シモン先生から聞いたが、どうも好かん。
 バレンタインとは元来、男女を問わず、好いた相手にバレンタインカードや花束、お菓子を贈る日だ。
 なのにお菓子会社がなぜか、女性から男性にチョコレートを贈る日などにしおって。けしからん。
 確かにチョコレートを贈るのも一般的だったがな、女性から男性に限定され、贈る品もチョコレートだけとは。
 ホワイトデーというのも、チョコレートのお返しというのは分かるが、
 チョコレートをもらっていない男性は何を贈ればいいというのだ?
 まったく、変な行事にしおって。伝統を重んじる精神というものをもっと……。
 クリスマスだって、何で聖アジョラが赤い服を着てプレゼントを配るんだ。なぜ赤い服に限定するんだ。
 これだってどこぞのジュースだか何だかの会社が勝手に作ったイメージが一般に普及したんだろ?」


「……とにかく、私はそんな馬鹿げたイベントに乗る気は無い。チョコレートが食べたいなら、自分で買え。
 ごちそうさま、私は行くからな? ラムザも早く朝食を食べて、日頃の疲れを癒せ。休むのも任務のうちだ。
 …………まったく、たかがチョコレートであれほどショックを受けんでもな。
 だいたい教会から派遣された我々のような騎士は、バレンタインなどと言っても浮かれたりは……。
 む、ラッドか? まさかお前もチョコレートをねだる気じゃなかろうな。
 いや、決してお前を馬鹿にした訳ではない。さっきラムザにねだられて、断ったら、落ち込んでしまったようでな。
 ……そうか? それほどショックな事だろうか……ラッド、それはもしやチョコレートか?
 意外だな、お前が……誰からだ? ……浮ついたイベントに乗りおって、それでも私の部下か、恥ずかしい。
 ……一言注意する程度にするから安心しろ、善意の行為を叱るほど狭量ではない。ではな。
 まったく。たかがチョコレート、されどチョコレートか。普段は甘い物より肉や酒を欲しがるくせにな。
 さて、とりあえず部屋でのんびり読書と洒落込もうか。
 ……ん? ラファか? ああ、寒いがいい天気だ。……買い物ならラヴィアンが行くから、一緒に行くといい。
 何を買いに……あ、そうか。堅物と言われたはいるがな、一般常識くらいは知っているぞ。
 相手は……いや、不躾な質問だったな、すまん。……ふむ、そうか? マラークもきっと喜ぶだろう、安心しろ。
 では私は部屋で本を読もうと思っているから……ああ、ついでにラヴィアンを起こすよ。
 ……やれやれ、バレンタインはチョコレート一色だな。おいラヴィアン、起きろ。ラヴィアン!
 ……………………天の願いを胸に……むっ、起きたか。軽い冗談だ、本気じゃない。
 実はラファが買い物に行きたがっていてな、すまんが後で一緒に行ってやってくれ。
 ……鈍いな。それとも寝惚けているせいか? 今日はバレンタインだろう、買う物といえば……。
 あのな、私はそんなくだらん事をする気は無いぞ。聖バレンタイン司教の命日に……。
 いいから行け、私はのんびり読書がしたいのだ。まったく……。さて、どこまで読んだのだったか」


「……クスッ……。……むぅ、ん……。……ふふっ、ふふふ……。……ん、もうこんな時間か?
 さて、昼食は……と。ら、ラムザ……まだ食堂で固まっているのか。
 う〜……会いにくいな、喫茶店にでも行って何か食べるか。
 ……あ? メリアドール……それは何だ。チョコレート?
 神殿騎士が聖バレンタイン司教の……お堅いって、お前が柔らかすぎるんじゃないのか?
 ええい、もう好きにしろ。私は喫茶店に昼食を食べに行く!
 まったく、メリアドールめ……。あれでも神殿騎士か、まったく。
 さて、喫茶店に……あ、先客がいたか。ベイオウーフにレーゼ、デート中か?
 まあ、この二人はな……他の店にするとしよう。確かあそこのレストランもなかなか。
 平和だな……。戦時中とは思えん、しかしこの町は活気にあふれている。バレンタインという理由もあろうが。
 ふう、腹は膨れたが……味はいまいちだな。おや? あれはオルランドゥ伯……何やら荷物を抱えておいでだが。
 オルランドゥ伯、大変な荷物のようですが、よろしければ半分お持ちします。
 いったい何ですか、これ? …………これ、全部ですか? だ、誰から……ですか、こんなに。
 ……は、はあ。いつの間にそんな……さすが雷神と申しますか、その、ご達者な事で。
 ……伯、殿方というのは、そんなにチョコレートを嬉しく思うものなのでしょうか?
 私とて、ただチョコレートを喜んでいるというのではないと分かっております。
 大切なのは贈り物に込められた心でしょうに。
 なのに男はチョコ、チョコ、チョコと。心と物の価値が逆転しているようにも思えます。
 男の見栄などと、そのようなもののために物を贈るというのはどうかと。
 私は……聖なる日に、何でこんな事をと。…………幸せ、ですか?
 ……そうですね、幸せを感じられるのなら、聖なる日としても……ええ。
 不幸せというのは、よくないですね。伯、申し訳ありませんが、そこの菓子店に立ち寄ってよろしいか?
 ……あれで一応、我らのリーダーですからね。落ち込んだままでは士気にも関わりましょう。
 では、買ってまいります。ええ、私とてあの者を信頼しておりますし、悪くは思っていません。
 心は、ちゃんと込めて贈りますよ」