氏作。Part21スレより。
ラムザ隊の、歩くうわさ話こと、ラヴィアンとアリシア。
ふたりは今日も忙しい。
「アリシア! 新しい情報が入ったわ!」
「流石ラヴィアン! で、重大な情報なんでしょうね?」
「重大も重大! 我らがアグリアス隊長の最新情報よ!」
「すンばらしいわ! とくれば、もちろんラムザさん絡みなんでしょうね!?」
「もちのろんよ! ついにあのじれったい二人の仲を突き止めたのよ!」
「なんですって! 長年私たちが気にかけてたあの二人がとうとう!?
だけどにわかには信じがたいわね! なんたってあのお二人さんだもの!」
「その通りよ、ちゃんと順を追って説明するわ! まず話は三日前に戻るわ!
私はこのところ毎夜おそくに天幕を出ていく隊長のことが気になっていて、
その晩寝たふりをして、信仰心から隊長の後を尾けたの! そしたら!」
「ああ、どうしたの、どうしたの!?」
「なんとひそひそとラムザさんの天幕に入っていったのよ!!」
「きゃあああ! でもそれだけじゃ確証にならないわね!」
「オフコース! そして一昨日、私は更なる事実を発見してしまったのよ!」
「ああ、ああ、お願いじらさないでちょうだいラヴィアン!」
「隊長はラムザさんの所へ、必ず替えのお召し物とお香まで用意していかれるのよ!」
「いやああああああ! 嘘よ嘘よおおお!」
「だめよ、だめだめしっかりしてアリシア! まだ終わりじゃないのよ!」
「まあ、なんですって! まだ続きがあるっていうの!?」
「そうよ、あれは昨日のことだったわ! 私は馬車で寝たふりをしながら、
隊長とラムザさんのヒソヒソ話を聞いてしまったのよ!」
「まあラヴィアン! あなたって寝たふりのエキスパートなのね!」
「そのとき、二人はこんなことを、仲むつまじくしゃべくりあっていたのよ!
『ねえアグリアスさん……、今夜もお願いしていいですか?』
『またなのか? お前もずいぶん疲れてるだろう。私も少しばかり腰が痛い』
『そこをなんとか、お願いします。今日は早めに切り上げますから、ね?』
『ふふ、こないだだってそう言って、結局朝方まで……』
「のおおおおおおおおお!!」
「アリシア、落ち着いて!」
「嘘よ! そんな、そんなふしだらな言葉がアグリアス隊長の口から……!」
「現実を見て! 戦うのよ現実と! ほら、吸って、吸って、吐いて!」
「ひぃ、ひぃ、ふぅ……ひぃ、ふ…うっ、うっ……信じられないわ、あの隊長が…、
逢い引きの、あの字を聞いただけで頬を赤らめてたアグリアス隊長が……」
「…そうね。私も正直ビックリ。こんな事実、知らない方が良かったかもしれない。
でも気持ちをしずめて、よく考えてみてちょうだい」
「考える……って…?」
「なにが……アグリアス隊長にとっての幸せか……!」
「……そう、そうよねラヴィアン! あなたの言う通りだわ!
私たちに出来るのは、部下として、隊長を心から祝福することね!!」
「その通りよアリシア! そうと決まればさっそく確認に行くわよ!」
「ええ! でも私たち仕事もしないでこんなことしてていいのかしらね!」
ラムザとアグリアスは小高い丘に二人すわりこんで、小さな村を見下ろしていた。
豆粒のような人や家畜が道を行ったり来たりしている。
「のどかだな」
「のどかですねー」
なにも知らずにのんびりしている二人。
やがて遠くからどたどたと騒がしい足音が聞こえてきた。
「たいちょおーー!!」
「アグリアス隊長ーーー!!」
「なんだ騒がしい、……ラヴィアンとアリシアではないか」
「あっ」
「こんにちは、二人とも」
「ど、どうしようアリシア。ラムザさんも一緒だわ」
「なななにいってんのよ、今さらあとに引けるもんですか!」
「お前たち、なにか用でもあるのか?」
「えー、その……おほん! じっ、実はすこしお聞きしたいことがあるのですが」
「ええその、たた隊長が、毎夜ラムザさんの天幕に通われているという話を聞きまして!」
「ああ、そうだ。……ん、誰から聞いたんだ?」
「え………、えええ、ええと……」
「ほ……本当なんですね? やっぱり、毎晩ラムザさんと……」
「しつこいな。そうだ」
「……あ、あの、そのですね。それで、お二人で……ええと、なにをなさってるんですか?」
「わざわざ夜中に会ってすることなど、決まってるだろう」
「はっ……あ、そうですよね………え、いや…そうなんですか!?」
「ええええっと……つつつまり、その、お二人は………あの……」
「ちょっと……アグリアスさん」
「どうしたラムザ?」
「……恥ずかしいから、そんなに言わないでくださいよ」
「そんなことはない。お前だって男なんだから、当然のことじゃないか。なあ?」
「はっ……? あ、はい、いやごもっともです!」
「ええ、ええ、健全な男女が集えば……その、つまりアレですよね!」
「そうだ、お前たちも一緒にするか?」
「ぶっっっ!!」
「ほげっ!?」
「ラムザも構わないだろう?」
「まあ僕は別に……アグリアスさんがよろしければ」
「というわけだが……どうだ二人とも?」
「はっひ!? いいいいいいいえ、その、よよよろしく、よろしくお願いいたします!」
「ふふふつつか者ですが、どうぞお手柔らかに!」
「…? そうか、ではまた夜にな」
「……そ、それでは失礼いたひます」
「…あ、あの……お二人とも、ごきげんよう!」
すっかり慌てふためいた様子で、二人は来た時と同じようにドタドタと去っていった。
ラムザとアグリアスはそれをいぶかしげな目で見送る。
「あいつら、なにをあんなに慌てていたんだ?」
「さあ。また誰かのうわさのタネでも探してるんじゃないですか?」
「それにしても、私が夜中にお前に稽古をつけていること、誰に聞いたんだろうな?」
「アグリアスさんが言ったんじゃないですか? ……さっきもあっさり喋っちゃったし」
「…………お前は、私を信じてくれていないのだな」
「あっ、いや、そんな、僕はただ……!」
「冗談だ、冗談。ちょっとからかってみただけ。ふふ、顔が赤いぞラムザ」
「……やめてくださいよ、もう」
「だけどなラムザ、さっき私が言った言葉は、お前自身の言葉だぞ。
お前が私に稽古を頼んできたとき、私は最初、こう言った。
隊の長が必ずしも最も強い者である必要はない。お前のことを信頼している仲間が、
側にいて支えてくれていることを忘れるなと。そうしたらお前は」
「もちろん僕は仲間を心から信じてます。でも、僕はやっぱりみんなの力になりたい。
それから、僕はまがりなりにも剣士で、これでも男なんです。だからできることなら、
もっと強くなりたい、でしょ? ちゃんと覚えてますよ」
「ではそういうことだ。なにも恥じることなんかないだろう」
「そうですけど、でもなんとなく、こっそりと鍛錬しておいてみんなをあっと
驚かせてみたいじゃないですか。そういうの、アグリアスさんわかりません?」
「わかるにはわかるが、子供っぽい理屈だなそれは」
そう言って、クスクスとアグリアスは笑う。
ラムザはなにか言いたげだったが、彼女の笑顔を見てるうちにどうでもよくなったらしく、
自分もにっこりと笑って、また眼下の小さな村を眺めた。アグリアスも同じ。
陽は流れ、あざやかな夕陽が二人のおだやかな時間を彩る。
村の道ばたで、チョコボが一羽、転んでいた。
さて、その夜、ラムザとアグリアスがいつものように待ち合わせていると、やがて
なにをトチ狂ったのか、モルボルやマインドフレイアを同伴させてきたラヴィアンと、
気合い入れまくりの完全装備で、悩ましげな衣装をまとったアリシアがあらわれた。
そのあとふたりが一体なにをしでかしたかはまた別の機会にでも。
終