氏作。Patr21スレより。


よう、あんたら。
揃いも揃って不景気なツラ並べてやがんな。
そんなんじゃあせっかくのツキも逃げちまうぜ?


俺かい? 俺は勝負師、ギャンブラーさ。
このあたりじゃ「プレーン」って名で通ってる。
マンダリアのプレーンっていやあ、ちょいとばかし有名さ。
ま、自慢するようなこっちゃねえがな。
所詮はやくざもんの下っ端。汗水たらしてあくせく働いてるわけでもなし。
おてんとさんに顔向けできねえ、暗がりのドブネズミがせいぜいさ。
しかしそんなこたあ一向構わないね。
命を擦り減らすようなカードのやりとり。
いつ死んじまうかもしれないスリルに満ちたこの生活だけが
勝負に飢える俺の身体を潤わしてくれるのさ。


ここはどこかって? ネズミの巣だよ。俺の部屋さ。
もちっと詳しくいやあ、ガリランドのゴロツキの住処の地下だ。
ここの連中はちっこいが賭博場をやっててな。俺はそこの雇われ人てわけだ。
上の連中が適度に負けといてから、下の俺様のところに客を招き入れるって寸法さ。
あとはわかるだろ? 30分もすりゃあ大抵のやつは丸裸にされて、ポイだ。
俺が言えた義理じゃねえが、まったく救いようのない連中さね。


…おっと、どうやらお客さんが見えたようだ。



「プレーン! 出番だぜ!」


ドアを開けて、馴染みのゴロツキが顔を出してきた。頭の禿げた、くっせェ野郎だ。
今日はまた、いやにニヤニヤしてやがるな。……ははぁん、なるほど。
「女かい?」
「ヘッヘ、うまくやれよ。おめぇにも分けてやるからよ」
やれやれ、かぁわいそうに。
男ならぁ金だけで済んだろうが、女となりゃあ無事には帰してもらえねえだろうな。
ま、それでもここにこなきゃならねえ事情があるんだろうが。
残念ながらプレーン様が相手じゃあ、結果は見えちまってるなあ。
っとと、噂のご夫人のお出ましみたいだ……さて、どんな貧乏娘……


「汚いところだな」


部屋に入ってきた途端、その女は引け目もなくそんなことを言いやがった。
・・いや、参ったね。一瞬ぶったまげちまった。
こいつぁなんだ、まったく、どえらい上玉だなあオイ。
汚え格好してるが、本当に平民か? なんでこんなとこにこんな・・
「おい、勝負をするのか、しないのか?」
「あ? ・・おう、そうだな」
いかんいかん、勝負の前から気をのまれちまっちゃ始まらねえやな。
・・そうだな、ちょっと気分を変えてみるか。
「さて、と。まずは一枚とってみてくれ」
「・・? 何の勝負だ?」
「なに、ちょっとした準備運動だよ。数の大きい方が勝ちだ。俺は・・」
テーブルの中央のトランプに手を伸ばす。
・・悪いなべっぴんさん。今日も俺はツイてるらしい。
「スペードのエースだ」
「私はハートのエースだ」


こりゃあ楽しめそうだ。





・・かれこれ数時間も経ったかな。
タバコの煙が充満する狭い部屋ん中、俺と女はテーブルを囲んでた。
「21だ」
「同じく」
手札を見せあい、またカードを切り直す。
大した女だ。この俺がここまで手こずる相手はそうはいないぜ。
度胸だけじゃねえ。この女、勝負師にもっとも必要なモンをもってやがる。強運だ。
だが・・と。
やれやれ、はげ頭がこっちを睨んでやがるな。
分かってるよ、せっかちな野郎だ。
「なかなか埒があかねえな」
「・・・」
「どうだ、ここいらで一気に勝負をつけないか。そう、ポーカーで一発勝負はどうだ」
「・・いいだろう」
いいだろう、か。シビれるねぇ。
が、こっちも仕事なんでな。
あんたとの勝負は正直楽しいが、そろそろ終わらせてもらうぜ。
カードを配り終わってから、ふと俺は思った。
「なぁ、あんた」
「なんだ」
「名前聞いていいかよ」
「・・アグリアスだ」
アグリアス、か。・・あんた、なかなかいい女だよ。
さぁ勝負だ。アグリアスさんよ。


「エースのフォーカードだ」
男どもが口笛を鳴らす。我ながら完璧な手だ。
ま、俺はちっとも嬉しかあないがね。
このカードが山札から取ったもんで、俺の袖から出てきたものじゃなけりゃあ話も違ったが。
アグリアス嬢は手札を抱えたまま、テーブルを睨みつけている。
無駄だよ、勝負ありさ。観念して手札を見せな。





「・・・・」


みんな黙っちまった。
・・というか、俺も声が出ねえ。
イカサマ? いや、そんなはずはねえ。この俺様が見張ってたんだ。
呆然としながら、俺はもう一度アグリアスの手札を見直してみた。


クィーンが4枚。それに・・・・ジョーカー。



「どうやら私の勝ちらしいな」
いつの間にかアグリアスは椅子を立っていた。
「それでは約束のものをもらおうか」
「・・ふ、ふざけんなこのアマ! こんな勝負があるか!」
「そうだ! イカサマにきまってらあ」
馬鹿どもが、ナイフを抜き出した。
やれやれ、女々しいったらありゃしねえ。
「やめろ!!!」
「なっ・・プ、プレーン」
「そいつの勝ちだ! みっともねえ真似はやめな!」
「・・では失礼する」
そういって、来た時と同じようにアグリアスは颯爽と出て行った。
ほんのすこしだけ、女のいい匂いが部屋に残った。
「悪いな、負けちまった」
「・・プレーン、てめえ・・・」
「覚悟は出来てんだろうな」



この後のことはあんまり話したくねえ。





で、俺はいまガリランドの街中をうろついてる。
おてんとさんの顔なんか見るのも久しぶりだ。
体中がズキズキするのはちょいといただけねえが、気分はそう悪くねえ。
あのあと当然俺はよってたかって砂にされて、アジトを放り出された。
そのあと丸二日は痛みで一歩も動けなかったが、今日になってみて、
とくに骨が折れてるわけでもないのはありがてえやな。
笑える話だが、聞いたとこじゃ俺が追い出された次の日にアジトに火事が起きたらしい。
痛快な話だが、一歩違えば俺もそこで死んでたとなるとぞっとしないね。
まぁ、あの女に感謝すべきなのかねえ。


・・アグリアスアグリアスか。
お前さん、今どこにいるんだい?



ポケットをまさぐると、やれやれ、一本だけ残ってた。
大事に吸ってきたタバコに火をつけて、と。
当分はコイツの味も楽しめなくなりそうだなあ。
ところが、せっかくのタバコを俺は口から落っことしちまった。
前から歩いてくる女に見覚えがあったからさ。
「・・よう、アグリアスさん」
声をかけられたアグリアスは目を丸くしたが、すぐに気づいたらしい。
「貴公は・・そうか、あの時の賭け事師か」
「覚えててもらえたとはありがてえな」
アグリアスさん、彼は?」
横から口を出してきた男の顔を見て、俺は変な笑いを抑えられなかったね。
まったくこいつには驚かされっぱなしだ。
「・・参ったね、肝が座ってるわけだ。まさかあの異端者の一味だったとはよ」
「!」


あぁ、そう身構えんなって。
お前らを密告する気なんてさらさらねえんだからよ。
「大丈夫だラムザ。この男はそれなりに筋を通す」
「嬉しいねえ」
ま、あんたらを売って報奨金がもらえるなんてえ話がお偉いさんの嘘っぱちだってことも
知ってるしな。
ところで俺様が知りてえのはそんなことじゃねえのさ。
「なあ、あんたに聞きてえことがあるんだよ」
「なんだ」
「あのファイブカードさ。あれは本物だったのかい?」
長いことあんな世界にいても、あんな手にはそうはお目にかかれねえ。
まともにやったにしても、イカサマにしてもな。
こうなった今となっちゃあ、実際どうでもよかったんだが、
ところがこの女、また俺を驚かせてくれやがった。


「そうか、あれはファイブカードという手だったのか」


・・・なん、だってえ?
「・・・あんた、まさか知りもしねえゲームで勝負に乗ったのか?」
「そういうことだな」
「また・・無茶をしますねアグリアスさんは」
なに呑気なこといってんだこの跳ね毛は。
「無茶どころじゃねえっ! あれで負けたらどうするつもりだったんだ!?」


ところが。
この女ときたら人の気も知らず、相変わらず澄ました顔で言いやがるんだ。



「どうもこうも、博打とはそういうものだろう」




気づけば俺は大笑いしてた。
参った参った、完敗だ。
まさか根っからの勝負人だったとはよ。
イカサマに逃げ込んだ俺ごときが、土台張り合えるような相手じゃあなかったわけだ。
しかしいい気分だよ。
こんな爽やかなのは、生まれて初めてかもしれねえ。
なあおい、本当にありがたいことだぜ。アグリアスさんよ。


・・しかし、俺もマンダリアのプレーンと呼ばれた男よ。
負けっぱなしは癪ってもんじゃねえか。


「なぁ、ラムザさんよ。
 あんたらのことを黙ってる代わりと言っちゃあなんだが、頼みがあるんだよ」
「・・なんだい?」
「俺をあんたらのお仲間に加えてくれよ」
二人は驚いて顔を見合わせた。
そうこなくっちゃ、少しはこっちからも驚かせてくれねえとな。
「お前は博打打ちだろう。武術の心得などあるのか?」
「ないさ、だがなんだってやるぜ! 雑用だって構わねえ、それに、」


それに、俺はマンダリアのプレーン。


足りない実力は、ツキで補ってやるさ。






「いや・・ごめん。悪いけど仲間はいっぱいなんだ」
「・・え?」
「もう16マス埋まっちゃってるし」
「マスってなに!?」
「この間ポーキーを加えてしまったからな」
「ちょっ! 俺よりポーキーの方が役に立つって言うのか!?」
「そういわれてもなあ……あっ、もうこんな時間じゃないか。そろそろ戻らないと!」
「おい、ラムザ! 私の盾を買ってくれる話はどうなった!」
「おい! ちょっとまてお前ら! おい、待ってくれええーーーっ!」





俺はマンダリアのプレーン。



本名はトニーだ。





 終