氏作。Part20スレより。

「一つ、聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「なぜ、私にもオーボンヌ修道院に行ってほしいいのだ?」
「オーボンヌでの戦いが僕らの最後の戦いになるでしょう。
 そしてこの戦いこそがイヴァリースの未来を決めるからです。
 それなのにアグリアスさんは迷っている。
 あなたが僕らと一緒に行ってくれなければ、イヴァリースに平和は訪れません」
「私が行けば、皆の足を引っ張るかもしれない」
「そんなことは決して」
「なぜそう言い切れる?」
「僕はオーボンヌで初めてアグリアスさんと会ってから、ずっとあなたを見てきました。
 アグリアスさんは誰よりも信頼できる立派な騎士です」
「・・・違う」
「違いません」
「どうして今さらそんなに卑屈になるんですか?」
「私一人の事ではないからだ。
 私は私一人ならなんとか戦ってみせる。自分一人の身を守ればいいのだからな。
 負けても死ぬのは私だけだ。でももうそうじゃない。私だけが死んで済む事じゃない」
「僕らにはあなたが必要なんです」
「そう。強くて、迅い剣士をね。私がその期待に応えられるとは思わない」
「あなたの聖剣技は神業です。オルランドゥ伯もそう認めてたじゃありませんか」
「本当にそうなら、どうしてライオネル城から逃げ出す羽目になった?
 どうしてライオネル城の城門をもっと早く突破できなかった?
 ホーリーナイトとして、私に膂力と速度が足りなかったからではないか」
「今度は大丈夫です」
「根拠の無い自信は驕りというのだ」
「・・・・・・」
「私は別に卑屈になっているのではないよ。
 根拠の無い不信なら卑屈と誹られようが、私のには根拠が無いわけではない。
 私はオヴェリア様を追ってオーボンヌを出て、あれから本当にたくさんの事を学んだ。
 その最たるものが、私は無能だったという事だ」
アグリアスさん・・・」
「自分を卑下して満足してるわけではない。私は本当に無能だった。
 そうだった自分が分かって、今やっと本当に有能になりたいと思っている。
 これからなんだ、ラムザ
 これから少しずつ努力して、力と知恵を併せ持つ騎士に少しでも近づければと思う。
 その証明が、この生還できない戦いに赴く事なら、そうするのもいいかもしれない。
 でも、それは今ではないと思う。
 もっとずっと先の、せめてもうすこしマシな騎士になってからの事だ」
「・・・アグリアスさんは怖いんですね」
「ああ、怖いよ」
「二度と帰れないかもしれないと思って、それで竦んでいる」
「・・・そうだ」
「・・・・・・・」
「オーボンヌ修道院に行ったら、生きて帰ってこれないだろう。そういう予感があるのだ」
「生きて帰りたいですか?」
「分からない」
「分からないのですか?」
「正直に言うと、ルザリア聖近衛騎士団に所属していた──いや、正式には今も
 所属はしているのだが──頃や、オーボンヌでオヴェリア様の護衛としていた頃が、
 そんなに良かったとは思わない。そしてお前たちと共に戦い、共に畏国中を旅をした
 この数ヶ月も、初めに思っていたほど、悪くはなかった。そう、悪くなかった」
「はい」
「でも、私はライオネル城の決戦からずっと、オヴェリア様の事だけを考えてきた」
「・・・それは、分かります」
「オヴェリア様のお顔も、お声も、片時も忘れた事は無い。
 オヴェリア様と私が本当に良い主従関係だったか、良い信頼関係を築いていたかと
 聞かれると困るが、それはもちろんオヴェリア様の責任では無い。
 私は貧相な人間で、だからオヴェリア様と深い信頼関係を築く事が出来なかった。
 でも、再びオヴェリア様に仕える事が出来たら、もっとちゃんとやれると思う。
 一からやり直して、今度こそあの方のお気持ちを汲んで差し上げる事ができると思う。
 愚かだった自分が本当に悔しいから、もう一度あの方とちゃんとやり直してみたい。
 ・・・たとえやり直せなくても、私が抱くこの気持ちもあの方には何の意味も無くて、
 全て私の身勝手な幻想に過ぎないとしても、それでもやはりあの方が懐かしい。
 私はオヴェリア様にちゃんとお別れを言ってこなかった。
 あの時、ライオネル城から脱出した時も、必ず帰ってくるつもりだった。
 二度と会えなくなるかもしれないなんて思っていなかった。
 絶対に、戻って、助け出すつもりだったのだ。
 前もって心の準備をする暇があったなら、こんなに苦しくなかったかもしれない。
 でも、何の準備もなくて、何もかも中途半端なままで」
「・・・そうですね」
「それでなくても、今日この時までずっと、もう一度オヴェリア様に会うんだって、
 今度こそ絶対にお護りするんだって、ただその想いだけでずっと頑張ってきた事を、
 あきらめるのはとてもつらい・・・」
「はい・・・」
「ここでお前たちと別れたらきっと後悔すると思うが、
 お前たちと一緒に行っても、やはりきっと後悔すると思う。
 どちらを選んでも、絶対に片方が惜しい。どちらも選びたいが、片方しか選べない・・・」
「・・・・・・アグリアスさん。どっちを選んでいいか分からない時は、今自分が目の前で
 やれる事を選んでおけばいいんです。そういう時はどっちを選んでも後で必ず後悔する。
 同じ後悔をするなら少しでも軽いほうがいいでしょ」
「ああ・・・」
「全ての人を援ける事なんてできないんです。今ならガフガリオンの気持ちもよく分かる。
 目の前で自分が出来る事を選んでおけば、目の前の人間を見捨てなかった分だけ、
 後悔も軽くて済みます」
「そうだな・・・」
「それに、まだ帰れないと決まったわけじゃありませんよ。
 この戦いを終わらせて、そして生きて帰ってきて、 
 そしたらオヴェリア様に会いに行けばいいじゃありませんか。
 オヴェリア様もきっとアグリアスさんを待っていますよ」
「・・・ああ、そうだな。ラムザ、ありがとう・・・」