氏作。Part20スレより。


──僕の名はラット。ジョブは一応話術士やってます。
「粘り強く『勧誘』せよ!」が口癖、そうやって仲間を増やしてきましたから。
その日も獲物を見つけて襲撃しました。敵の大将に見覚えがある気がしますが思い出せません。
その一味はみんなすごい腕前で、勧誘魂にも熱がこもるというものです。
しかし相手は思ったより強く、仲間は次々と倒されていきました。
そんな中、一人の女性が熱心にペットの羅刹丸を勧誘しております。羅刹丸はポーキーです。
話術をもちいている女性は話術士の服を着ておらず、騎士の鎧に剣を持っています。
時々剣を振るってはビカビカーと稲妻が落ち、仲間が数人やられました。
これは相手の主戦力に違いないと見た僕は、さっそく彼女の勧誘に向かいます。
しかし彼女は頑として僕の言葉に耳を貸さず、熱心に羅刹丸の勧誘を続けます。
しかし羅刹丸はブヒブヒ鳴きながら彼女に攻撃を仕掛けていました。
アグリアスさん! どうやらそのポーキーとは相性が悪いみたいです!」
「分かっている! しかしだからといってあきらめられるものではない!」
そりゃそうでしょう、ポーキー系のモンスターって何気にレアですから。
彼らの狙いは養豚して密漁して毛皮骨肉店でウッハウハに違いありません。
なぜなら僕達もやってますから、養豚。
羅刹丸は繁殖用に残してある一匹です。野生の羅刹丸を勧誘したのも僕です。
ちなみに僕と羅刹丸の相性はいい方です。その事を知ってか知らずか、敵大将が言いました。
アグリアスさん! その話術士を勧誘してください、そうすれば勧誘要員がもう一人増えます!」
ああ、僕を勧誘するおつもりで? いい度胸です、勧誘のスペシャリストの実力見せて上げましょう。



アグリアスと呼ばれた女性と真正面から向かい合い、僕らは凄まじい勧誘合戦を始めます。
僕はアグリアスを誘い、アグリアスは僕を誘い、仲間になってくれと勧誘勧誘また勧誘。
小一時間ほど経ったでしょうか……粘り強く『勧誘』せよ! を自論とする僕も疲れてきました。
そしてアグリアスは半泣きになりながら勧誘を続けていました。
しだいに彼女の勧誘は愚痴へと変わります。
どうも自分は口調がきつく真面目すぎるせいで仲間と打ち解けず、
話術士になってそれを改善しようと頑張っているのに、勧誘が成功した事は一度も無いのだと。
ああ……何だか親近感が湧いてきました。僕も初めての勧誘は三時間くらいかかりました。
ちなみに相手は可愛らしい風水士のお嬢さんでした。
名はクラウディアといい、先日「好きな人がいるの、でも、どう告白していいか…?」 と相談を受けました。
今は向こうでクリスタルになってます。あ、銃を持ったデコの広いが拾った。アビリティ習得したみたい。
ちなみに彼女が好きな男性というのはやはり向こうでクリスタルに……以下略。
それはそれとして、勧誘合戦はなおも続きます。
僕達のかたわらで羅刹丸がグースカいびきをかいていました。
ラッドと呼ばれている陰陽士が夢邪睡符を何度もかけている。ラット、ラッド、名前そっくりですね。
それはそれとして、勧誘合戦はそろそろ終わりを迎えようとしていました。
だってアグリアスという女性がいい加減可哀想なんですもの。
例え僕の勧誘が成功したとしても、こっちはもう僕と羅刹丸しか残ってないし、勝ち目ありません。
僕はもうあきらめ、両手を上げて降参しました。ええ、なりますよあなたの仲間に。
ええ、あなたの粘り強い勧誘に心打たれたんです。
決してあなたのお仲間が痺れを切らして武器を構えクリスタルの相談をし始めたからではありませんとも!
投石で起こされた羅刹丸は僕が二度ほど勧誘すると、快く仲間になってくれました。めでたしめでたし。



仲間になって驚きました、見覚えのある顔だと思ったら、ここの大将は異端者ラムザ・ベオルブ!
あの名門ベオルブ家の末弟で異端者になってるという超・有名人。
ドラクロワ枢機卿を暗殺して聖石を盗んだ極悪人じゃありませんか。
と思っていたら、死んだはずの雷神シドやら、神殿騎士団団長ヴォルマルフの娘さんまでいる始末。
いったい何なんですかこのパーティー。え、ルカヴィと戦ってる? ハハハ、そんなご冗談を……。
僕に色々説明してくれたのは、僕を勧誘したアグリアスさんだった。
彼女の話してくれた事が真実だとしたら、こりゃもうイヴァリースが引っくり返る大事件!
どうやら本当っぽいが、こんな大きな話を国のお偉いさんに言っても信用されそうにないですね。
アグリアスさんから一通り説明を受けた僕は、今度はポーキーの世話の仕方を彼女に教えました。
羅刹丸の好きな餌、元気な子供を生むために必要な環境などなど。
それからの数日間はなかなか楽しい日々でした。
僕もアグリアスさんとだんだん打ち解け、羅刹丸アグリアスさんに懐きつつあります。
このまま異端者ラムザと一緒に歴史の裏側で活躍するのも悪くないかんぁ、なんて思ったんです。
でもある日、突然僕の装備がはずされました。
ええ、知っています。僕も昔やった事があります。
いちいちシーフに相手の装備を盗ませるのが面倒な場合、まず勧誘して、裸にして、ポイッ。
ああ、僕は解雇されるのですね? いえ、いいんです。
みなさんに比べたら僕なんて貧弱ッ貧弱ゥッと、どこぞの吸血鬼が言いそうなもんですから。
さあ、僕のハートが深く傷つく事など気にせずクビを言い渡しちゃってくださ……え、出撃?
ええ、知っています。僕も昔やろうとしましたが良心の呵責により断念しました。
クリスタルにしてアビリティ習得する気ですねあなた方。ああ、さすが異端者一味です、鬼畜外道。



お父さん、お母さん、今日あなた達の所へ行けそうです。
故郷に置いてきた弟よ、お前は農民として真っ当に素朴に幸せに生きてくれ、兄はクリスタルとなって果てる。
故郷に置いてきた妹よ、お前は普通の恋をして普通の結婚をして普通に子供を産んで普通に老いて逝ってくれ。
兄はどうやら結婚どころか恋すらできずクリスタルとなって果ててしまうから。
羅刹丸よ、ワイルドポーが生まれたら多分子供を産む役が取られて密漁されるだろう。
一足先にあの世で待ってるよ、また一緒にお昼寝しようね。
ああ、出撃の時間が迫ってきました。
どうやら話術士のアグリアスさんがアビリティを継承する役の様子です。
そういえばそろそろ話術士をマスターできますね、おめでとうございます。あなたの勧誘に乗った僕が馬鹿でした。
と思っていたらアグリアスさん登場、最後の別れでも言いにきまし……え、逃げろ?
でもラムザさんもラッドさんムスタディオさんも殺る気満々で出撃準備してますよ?
「ラットよ、お前は私が初めて勧誘に成功した相手だ、死なせたくない。
 それに豚の育て方を教えてもらった恩義もある、さあ早く逃げるのだ」
ああ、あなたの慈悲に涙が出そうです。というか出ました。ハンカチどこだっけ?
「ラット、餞別としてこれを持っていけ。これだけあればしばらくは食っていけるだろう」
ああ、優しすぎますアグリアスさん! この僕に生活費までくれるだなんて!! 女神? あなたは女神ですか?
「それからこいつも連れて行ってやれ、こいつが我々の仲間になったのもお前がいたからだ」
羅刹丸! 大切な養豚用の豚ですよ、密漁すれば永久リレイズのシャンタージュとか手に入りますよ!?
ステータス異常防御のリボンや、女性に大人気FSのバッグだって……。
「かまわぬ。昨日産んだ卵がある、そいつを育てて数を増やせばいいさ」
そうですか、羅刹丸の子で再び養豚しますか、つまり羅刹丸は無事ですか、羅刹丸、よかったよゥ。
「そうだラット、羅刹丸の子の名前を考えてくれぬか? どうも良い名が思い浮かばぬのだ」
覇王丸
「……勇ましい名前だな。羅刹丸と名付けたのも貴公だろう」
え、何で分かったんですか?



という訳で僕は異端者ラムザの元から逃げ出し、アグリアスさんからもらったお金を元手に故郷で養豚場を始めました。
羅刹丸は元気に子供を産んでくれています。覇王丸もきっと元気に子供を産んでいる事でしょう。
養豚場も順調で、弟妹も元気にやっています。
どうやら弟妹は最近気になる相手がいる様子。長男なのに恋人のいない自分が情けないが、ここは兄として祝福すべきだ。
今日は弟妹一緒に恋人を連れてくるらしい。
何でも弟妹の恋人は両方とも一緒に旅をしているパーティーらしい。
懐かしいものです、僕も以前は盗賊やったりしてました。一時は異端者の一味に入ってました。
さて、どんな人なのでしょう弟妹の恋人というのは。
ああ、やって来ました。今日のためにワイルドポーの鉄鬼丸を丸焼きにしました。安らかに食されたまえ、フォーラム。
「兄貴、連れてきたぜ!」
「私達の恋人よ!」
はじめまして、二人の兄のラットといい……。
「どうも、妹さんとお付き合いさせていただいているムスタディオです」
「どうも、弟さんとお付き合いさせていただいているラヴィアンです」
……って、えぇっ!? 驚き後ずさる僕を見て、お二方も僕を思い出したようです。
「クリスタルにし損ねた話術士!」と、ムスタディオが叫びました。
「豚泥棒!」と、ラヴィアンさんが誤解を招く事を叫びました。
「騒がしいぞ、いったいどうしたというのだ」と、新たに誰か入ってきました。もうどうにでもしてください。
「お初にお目にかかります、此度は部下があなたの弟妹と……って、アレ?」
……って、アレ? アグリアスさんじゃないですか。


とまあそんな感じで僕の物語はおしまい。
え、オチ? お約束としては僕とアグリアスさんも恋に落ちるんだろうけど、現実はそう甘くない。
ルカヴィ退治が終了したアグリアスさんは、仲間と一緒にラムザさんを探しているそうです。
で、ラムザさんの事が好きだそうです。とりあえず『はげます』やっときました。きっと無事再会できますよ。