氏作。Part20スレより。


 アグリアスは大変だ。

 

 アグリアスの苦労は早朝から始まる。


「起きんか貴様らぁぁぁーー!!」
 ラムザ隊の面々はひとりの例外も無く朝に弱い。
 ジジイのくせにオルランドゥ伯すら。
 早朝にひとり目覚めた彼女が片っ端から起こして回るのは大変なことなのだ。
アリシア、起きろ!」
「うーん、あと五分……」
「ムスタディオ、起きろ!」
「うーん、あと二日……」
「マラーク、起きろ!」
「ゲコ」
「伯、起きろ!」
「むぅ、オーラン……それはわしの肉だと何度言えば……」
「貴様ら、そのまま永眠したいかあぁーーーっ!」


 とにもかくにも彼女の朝は大変なのだ。




 もちろん日中も楽じゃあない。


「よーし、こっちだ!」
 なにぶんお尋ね者の身分だから、おおっぴらに街道なんて歩けないラムザ達。
川を越え,森を越え、道無き道を進むことなんて日常茶飯事なわけだが、地図も
ろくにない時代のことだから、迷わずに目的地へ進むのは大変なことなのである。
 そこを鋭い観察力と経験で補うのが先導者たる能力の見せ所である。
「ギャアーーーー……」
「わあ、マラークが落ちたー」
「ちょっ、アグリアスさんストップ、ストップ!」
「うるさいぞ!! ええっと、太陽があっちだから、よし今度はこっちだ!」
「あのー、アグリアスさん…」
「なんだラムザ! 私は忙しい!」
「ここさっき通りましたけど……」
「な、なにぃ!?」


 まったくもって楽じゃない。





 なんとか街についてもまだまだ気は抜けない。


 行軍で野宿続きの生活を送っていると、どうしてもにぎやかな街についた途端
気が緩んでしまいがちだ。
 そんな時に規律の重要さを叩き込むのも、彼女の大事な仕事だ。
「よし、みんな集まったな。これから手分けして物資の補給に向かうぞ」
「はい」
「いつどこで追っ手の目が光ってるとも分からん。くれぐれも軽率な振る舞いは
控えるようにしてくれ!」
「はい」
「では、小遣いはひとり500ギルだ。無駄遣いをしないように」
「はい」
「決して知らない人にはついていかないように」
「はい」
「馬車は左、歩行者は右だ」
「はい」
「夜寝る前にはおしっこを」
「はーい」
 副隊長たる彼女はいつだって気など抜けるはずも無いのだ。





 新人の育成にしたって苦労はつきものだ。


 強大な戦力を持つ巨悪を矛先に戦う彼らにとって、仲間は貴重だ。例えそれが
敵であろうと、なんとか分かり合えないものかと説得をすることは珍しくない。
同じ人間同士である、隊の中の誰だって、無駄な殺生など望みはしないのだ。
 もちろんもともとは敵であった彼らがすぐに隊に馴染めるはずも無い。そんな
彼らを導くのも彼女の役目だ。導くとはいえ、もちろんそれは対等な立場での話。
誰が相手だろうと、深い器量で接することの出来る、心優しいアグリアスにしか
できない芸当だ。
「よし、いいかよく聞け貴様ら。我が隊に入ったからにはいっさい反抗は許さん。
どのみちこうなったからには貴様らも同じ穴のムジナだ。今さら隊を抜けた所で
お前達もお尋ね者なのだから、その点は覚悟しておくがいい。ではさしあたって、
私のことはアグリアス副隊長と呼べ。わかったか!」
「ふ、ふざけんなこのアマ! 話がちが」
「聖光爆裂波ー」
「おわー」
「他に文句のあるやつはいるか?」
「よ、よろしくお願いします、アグリアス隊長!」
「副隊長だ。おい、そっちの黄色いの! わかったのかっ!!」
「ク、クエー……」


 いやはや、ルカヴィも舌を巻くような働き者である。





 そんなこんなで夜が訪れるが、ここでも彼女の仕事は絶えない。


 小規模とはいえ、一個の隊ともなれば大人数である。少ない食糧をやりくりし、
しかも不公平のないように配分するのは、想像を絶する作業である。
「ようし揃ったようだな。では全員手を合わせろ、そしていただきますと言え!」
「いただきまーす」
「むがー」
「あー、アグリアス様それ私の」
「むがー」
「あぁっ、俺の葡萄酒!」
「むがー」
アグリアスさん、そのチョコボ仲間! 仲間!」


 ……実に、なんというか、想像を絶する。





 このように、まこと聖騎士アグリアスという女性は毎日毎日が苦労続き。


 アグリアスは大変なのだ。



 アグリアスさん、本当にお疲れ様。





 

 
 ・
 ・

「うむ、ありがとうラムザ
 ふぁ……そろそろ寝ようか?」
「そうですね」
「じゃあ、おやすみラムザ
「…………お、おやすみなさい」



 でも、なぜだかいっつもアグリアスに隣で一緒に寝られるもんだから


 毎晩一睡も出来ないラムザは、もっと大変だ。




 終